本レポートは、ミキワメが開催したセミナーの要約記事です。株式会社リーディングマーク組織心理研究所の佐藤がお話しした性格適性検査の活用方法について、前編・後編の2回に分けてお届けしています。
前編では、性格適性検査の特徴とパーソナリティの捉え方について紹介しました。後編となるこちらの記事では、性格検査データを実際に採用選考で活用する方法や注意点を解説します。
採用基準と性格
性格を採用基準に活用することの注意点
性格適性検査は良し悪しを判断しづらいものなので、採用基準に活用する際には注意が必要です。
採用基準にすべき候補者の特性には諸説ありますが、以下の項目などが挙げられます。
- ①基礎学力(論理的思考力など)
- ②職務遂行能力:コンピテンシー(目標達成力、問題解決力、対人支援力など)
- ③指向性(やりたいこと、目指していることなど)
- ④パーソナリティ(性格、自分ではコントロールしがたい考え方や価値観の方向性)
①基礎学力、②職務遂行能力はスキルフィットの観点、③指向性、④パーソナリティはカルチャーフィットの観点で見定める必要があります。また、②③は変わりうる特性であるのに対し、①④は変えることが難しい要素です。
変えにくい特性に関しては、採用判断で使うことについて議論があがっています。①の基礎学力は、職務を遂行する上で、とくに難易度の高い業務を行う場合には必然的に考慮する必要があります。しかし、④の性格については優劣の判定ができないため、一歩間違えれば偏見や差別につながりかねません。
性格検査データを採用基準に活用する
では、性格検査データを採用判断に活用するには、どうすれば良いのでしょうか。前編の記事でもお伝えしたように、④性格は、②コンピテンシーや③指向性と密接に関連しています。人は、性格の方向性と重なるコンピテンシーを持っている傾向があります。例えば、自己主張が強い性格の人は、実際に自己主張“できる”能力をもっている可能性が高いです。このように、性格の方向性によって、特定の採用要件となるコンピテンシーを持つ可能性が高い人を見つけ出すことはできます。
一方で、自己主張が控えめの性格であっても、仕事では主張できる人材もいます。「積極的に発言するタイプではないが、仕事上では意識して発言する」というパターンです。性格的には自社が求める人材と方向性が異なるため、多様性を担保するために貴重な人材となるでしょう。このように、性格面での採用基準を定めておくと、同じ方向性の行動ができるかどうかのコンピテンシーを見極める際に役に立ちます。
職種別にフィットする人材の性格傾向を考える
職種によって求められる能力は異なるため、当然、性格の方向性も変わってきます。営業職と事務職では、求められるコンピテンシーも性格も異なるということです。自社の人材を分析し、必要なコンピテンシーと、それに馴染む性格傾向を特定しておくことで、性格適性検査によって面接での注目点を絞り込むことが可能です。ただし、性格の方向性だけで採否判断せず、コンピテンシー面も同時に評価することが肝要です。
性格検査データを用いて採用基準を考える
上記の前提を踏まえて、社内の職種やハイパフォーマーのコンピテンシーにつながりやすい性格傾向を、性格検査データの分析によって明らかにすることで、採用基準として活用できます。
具体的には、職種別でハイパフォーマーの性格傾向を測定し、全社の傾向と比較します。これにより、パフォーマンスに関連するコンピテンシーを持っていそうな性格特性の抽出が可能です。
上のグラフは、職種別に採用したいモデル人材の性格傾向を表したサンプルデータです。赤色が特定の職種Aのモデル人材、青色が別の職種Bのモデル人材、灰色が会社全体の傾向としましょう。職種AとBでは、明らかにフィットする性格傾向が異なります。
とくに差が大きい「感情配慮志向」では、職種Aの平均は30.4とかなり低く、職種Bでは44.8と、平均50に近い数値です。つまり、感情配慮志向が低い性格のほうが、職種Aにフィットするコンピテンシーを持っている可能性があります。感情配慮志向が低い人は、「人の感情に流されにくいと感じている」という性格傾向があり、「感情や雰囲気に流されずにやるべきことを遂行する」というコンピテンシーを持っている可能性が高いでしょう。そこで次のステップでは、面接などでそのコンピテンシーを実際に持つ人物かどうかを評価していきます。
このように、特定の職種の採用モデル人材の性格傾向を特定し、面接で評価していくことで、採用したい人材かどうかを客観的に見極められます。
選考での活用方法
性格検査データを面接で活用する方法
設定された性格傾向とのフィット度(評価)が高い場合と低い場合で、面接での見極め・評価方法はどのように変わるのでしょうか。
ミキワメでは、採用基準としてフィットする9種類の性格特性を抽出し、各特性とのマッチ度をS、A、B、C、D、Eのスコアで評定します。スコアが高い(Sに近い)ほど、モデル人材の性格基準と合致し、スコアが低い(Eに近い)ほど、モデル人材の性格基準と離れている(似ていない)ことを意味します。
これまで説明したとおり、スコアが高い(モデル人材と特徴が似ている)ほうが、その職種に関連するコンピテンシーを持っている可能性が高いです。一方で、スコアが低い(モデル人材と特徴が似ていない)と、その職種に関連するコンピテンシーを身につけるためには、ある程度の経験や意識的努力が必要となるでしょう。そのため、スコアが低い場合は、面接でコンピテンシーをより慎重に評価するべきです。もちろん、スコアが高い場合も、本当にその方向性のコンピテンシーを持っているかを確認する必要があるため、性格でのスコアのみで判断してはいけません。
面接で評価する際は、性格が求める人物像と一致している場合(スコアが高い場合)、同じ方向性の行動ができるか、経験があるかを、過去のエピソードなどから評価・確認することが重要です。性格がモデル人材と似ていない場合(スコアが低い場合)は、方向性の違いや、反対方向のコンピテンシーを意識して実践できる人材かどうかを、より慎重に見極めましょう。
先ほどの例でいえば、モデル人材の性格が「感情配慮志向が低い」場合には、「周囲に流されずにやるべきことを遂行する能力(コンピテンシー)」を求めていることになります。方向性が一致していれば、周囲の感情に流されずに課題を達成したり、むしろ周囲を説得して方向転換させたりした経験や習慣をもつ人材かどうかを、過去のエピソードから評価します。方向性が異なる(感情配慮志向が高い)人材の場合は、人の感情や気持ちに配慮して受容的に接するコンピテンシーをもつ可能性が高いですが、逆方向、つまり流されずに遂行する意識や経験について深堀りすることがポイントです。本人に自覚がなかったり、エピソードが抽象的で曖昧だったりすれば、感情配慮志向が低い場合のコンピテンシーを身につけていない可能性があるため、評価は下がってしまうでしょう。
より高い精度でコンピテンシー評価を行う面接手法として、行動結果面接(BEI:Behavioral Event Interview)というものがありますが、紙面の関係で今回は割愛します。ご関心のある方は、ぜひ調べてみてください。
性格検査データの採用基準をブラッシュアップする方法
モデル人材の性格特性は、社内分析の結果だけではなく、実際の候補者の受検データや、入社後のデータを活用することでブラッシュアップできます。ここでは、いくつかの方法を紹介します。
①候補者評価の分析を行う(バイアスチェック)
選考の序盤で候補者に性格検査を受検してもらっている場合は、その後の選考フローでの合否判定結果に基づいて、合格者と不合格者の結果を比較することで、「合格しやすい候補者の性格特徴」を抽出できます。
このとき、選考段階別(一次選考の合否、二次選考の合否など)で比較したり、担当面接官別(Aさんの合格者・不合格者、Bさんの合格者・不合格者など)で比較したりすると、各選考段階で合格しやすい性格傾向や、特定の面接官が合格を出しやすい性格傾向の特定が可能です。前者の場合は、選考過程で本当に採用したい人材を落としていないかを確認できます。後者の場合は、面接官に自身と似ている候補者を高評価する傾向(類似性バイアス)が出ていないかをチェックできるため、面接官へのフィードバックに有効です。
②活躍社員のさかのぼり分析を行う(要因分析ができるとさらによい)
数年間蓄積したデータを活用して、候補者のポテンシャルを見極めるような性格のチェックポイントを抽出できます。例えば、入社3年目に成果を出している人材が、入社時にどのような性格傾向だったのかをさかのぼって分析する方法です。もちろん、入社3年後の活躍は、入社時の性格傾向だけではなく、入社後の教育や経験など、複数の要因が複雑に絡み合った結果であるため、分析結果の解釈は慎重に行わなければいけません。
場合によっては、所属部署や支店の違い、経験の違いなどを変数化して、「3年目の活躍に影響しているのは、どのような変数か」を分析する回帰分析の手法も取り入れましょう。入社時の性格か、1年目の成果か、2年目の教育経験か等、どの変数が3年目の活躍に最も影響を与えたのかを分析するイメージです。このように、蓄積データをうまく活用することで、入社後に伸びる人材を見極めるためのポイントなどが明確になります。
③ネガティブな離職につながりやすい(ミスマッチ)傾向を分析する
社内受検を定期的に実施し、早期退職が起こってしまった際に(悲しいことですが)、どのような変数がミスマッチに影響していたのかを分析することで、再発防止策を検討できます。
性格的に合わなかったのか、能力が追いついていなかったのか、そもそもやりたいこと(指向性)が合わなかったのかなど、複合的な要素を考えながら、早期退職を防ぐためのアプローチ方法についてデータを読み解いていく視点を得られ
④社内受検により従業員の性格分布を確認し、採用戦略に活かす
性格検査の実施によって人材のタイプ分けが可能な場合は、現在の従業員のタイプ別割合や分布などのポートフォリオを確認しましょう。これにより、組織のフェーズや理想的な展開に応じて、今後はどのような人材タイプをどの年代・レイヤーで増やしていくべきかの採用戦略を立てることができ、採用基準がより明確になります。
例えば、「明るく元気でアグレッシブな若手人材ばかりを採用した結果、軒並み飽きっぽい性格であったために、入社3〜5年以内に多くが離職してしまい、人材の年代構成が空洞化してしまった」ケースの場合、「より長期的に会社を好きになって活躍してくれる人材を採用したい」という方向性に戦略が変わっていく可能性もあります。
おわりに
性格適性検査を採用基準に用いる方法について、パーソナリティ測定の理論から、採用基準として見るべき4つの視点、性格検査結果の捉え方、コンピテンシーとの関係、採用基準をブラッシュアップする方法まで、前編・後編を通して長めに解説させていただきました。
性格検査データを読み解くことは、一見難易度が高く感じるかもしれません。しかし、面接で目線を合わせて評価したり、コンピテンシーとの関連を評価したりするために有効な取り組みです。ぜひ、本記事の内容を参考にして、性格検査から採用基準を考え、運用に乗せることを実現してみてください。
まとめ
性格適性検査のデータを採用選考で有効活用する方法について、前編・後編の2回にわたってお伝えしてきました。
ミキワメは、性格や心の幸福度を可視化し、採用やマネジメントを成功へと導く適性検査・組織サーベイシステムです。採用のミスマッチや早期退職を減らし、チームのウェルビーイングを実現します。学術的な知見に基づいての活用サポートも実施しています。
また、株式会社リーディングマークでは、ほかにも採用や社員のマネジメントに役立つセミナーを定期開催しています。興味がある方は、ぜひ一度お問い合わせください。
ミキワメは、候補者が活躍できる人材かどうかを500円で見極める適性検査です。
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