従業員が会社の人事評価内容に納得していないと、モチベーションやエンゲージメントの低下を招き、離職につながることがあります。株式会社識学が実施した「人事評価の“モヤモヤ”に関する調査」によると、約45%の人が自社の人事評価に不満をもっているという結果でした。
企業は、従業員が人事評価のどこに不満をもっているかを把握、改善していくことで、従業員のモチベーションやエンゲージメントの回復・維持が可能です。
本記事では、従業員が人事評価に納得がいかない理由と改善方法を解説します。現在の人事評価を見直すポイントと改善事例についても紹介するので、自社の人事評価制度を振り返る際の参考にしてみてください。
「人事評価に納得がいかない」6つの理由
株式会社識学が実施した「人事評価の“モヤモヤ”に関する調査」によると、従業員が人事評価に納得がいかない理由は、以下の6つです。
人事評価に納得がいかない理由 | 割合(※) |
---|---|
人事評価の基準が不明確である | 48.3% |
人事評価の結果が報酬に反映されない | 30.9% |
評価者によってバラつきがある | 28.1% |
従業員の仕事ぶりを知らない上司によって評価される | 27.0% |
人事評価結果の活用方法がわからない | 25.8% |
人事評価と自己評価が一致していない | 21.3% |
※複数回答ありの調査であるため、割合の合計は100%ではありません。
従業員が不満をもつポイントを押さえ、従業員が納得できる人事評価制度の構築を目指しましょう。以下の記事では、人事評価制度の適切な運用方法を解説しているので、あわせてご覧ください。
1:人事評価の基準が不明確である
従業員が人事評価に納得がいかない理由の第1位は、48.3%もの割合を占める「人事評価の基準が不明確である」です。
たとえば、評価項目に「協調性」とだけ記載してある場合、従業員は自分のどのような行動が協力的だと評価されたのか、あるいはされなかったのかを判断できません。
以下にあてはまる場合、従業員が人事評価の基準が不明確と感じる可能性があります。
- 評価に値する行動基準が明文化されていない
- なぜそのように評価したのかフィードバックがない
従業員が納得する人事評価を実施するためには、だれもが「なぜその評価になったのか」がわかる仕組みが大切です。
SNSの声
以下の声からは、人事評価の基準が不明確であるため、モチベーションの低下に繋がっていることが分かります。
2:人事評価の結果が報酬に反映されない
人事評価に納得がいかない理由の第2位は「人事評価の結果が報酬に反映されない」ことで30.9%の割合を占めています。人事評価の結果が報酬につながらないのであれば、従業員は評価アップのために努力する必要はないと感じてしまうでしょう。
たとえば以下の場合、従業員は「評価が2つも上がったのだから報酬が上がるだろう」と思うはずです。
人事評価の総合評価が前回はCだったのに対し、今回はAだった。その後、はじめての給与明細を見ても報酬が上がっておらず、昇進の話もない。
評価が昇給や昇進につながらないのであれば、モチベーションが上がりません。
このように、何を頑張れば報酬が上がるのかがわからない状態は、従業員の不満と不安につながります。人事評価は報酬額を決めるためだけに行うわけではありませんが、報酬にまったくつながらないのも問題です。
SNSの声
人事評価の結果が報酬に反映されないため、評価アップのために頑張るのが損だと感じている人もいます。
3:評価者によってバラつきがある
人事評価に納得がいかない理由の第3位は「評価する人によって厳しさに差がある」ことで、28.1%の割合です。
たとえば、年間目標を達成した営業担当者に対する評価として、以下の場合は評価者によってバラつきがあるといえます。
- 上司Aは「前年度よりも頑張っていた」との理由から「A(優秀)」と評価した
- 上司Bは「目標は達成して当たり前」との観点から「B(普通)」と評価した
このようにバラつきが起こるのは、評価基準が曖昧であるためです。年間目標に対する達成率が±3%でA評価というように、明確な評価基準を定めておくことで評価のバラつきは防げるはずです。
評価基準が曖昧だと、評価者の主観や私情が入りやすくなるため、公平性を保つためにも評価基準の明確化が必要となります。
4:従業員の仕事ぶりを知らない上司によって評価される
人事評価に納得がいかない理由の第4位は、27.0%の「現場を知らない上司が評価する」ことです。
上司であるにもかかわらず、現場や従業員の仕事ぶりを知らないケースには、以下の例があります。
営業担当のAさんは、はじめて自分で獲得した顧客であるB社を1人で担当している。人事評価を行う上司はB社に関与したことがなく、営業日報を受け取るだけで特段指示はしない。上司は別の顧客につきっきりで部下の仕事を把握しておらず、部下からの相談を受けてもサポートはできていない状態である。
本例の場合、営業日報の内容や業績だけで人事評価をすることになり、プロセスがないがしろにされるため、従業員が不満に感じやすいといえます。日頃、良好なコミュニケーションを築けていない上司から評価を受けること自体、納得がいかない部下もいるでしょう。
正当な人事評価を行える体制や人員配置を見直すことが大切です。
SNSの声
あまり関わりのない上司から人事評価を受けたことで、評価内容に乖離が見られるケースです。的外れな人事評価は、従業員のエンゲージメントを低下させる恐れがあります。
一方、人事評価を行う側にとっても、仕事ぶりがわからない部下を評価するのは難しいという声も。
評価者と被評価者、どちらにとっても評価者の人選が重要であるといえます。
5:人事評価結果の活用方法がわからない
人事評価に納得がいかない理由の第5位は「人事評価がどう活用されているかわからない」ことで、25.8%の割合です。
人事評価は、従業員の報酬を決定するだけでなく、人材育成や人材配置、昇進の材料となります。
以下は、人事評価結果の活用方法が不明確で、従業員が不満をもちやすい例です。
- 高い評価を受けた従業員がいるにもかかわらず、評価が高くない従業員が昇進した
- フィードバックや研修がなく、低い評価を受けた従業員がそのまま放置されている
- すでにスキルを習得している従業員を含めて、従業員全員に同じ研修やセミナーを受講させている
何のために評価をしているかわからない状態が続くと、従業員のモチベーションやエンゲージメントの低下を招きます。人事評価結果を何に活用するのか、従業員に共有しておくことが大切です。
6:人事評価と自己評価が一致していない
人事評価に納得がいかない理由の第6位は「自己評価と上司の評価に乖離がある」ことで、21.3%を占めています。
たとえば以下は、人事評価と自己評価が一致していない例です。
プロジェクトリーダーは、スケジュール通りにプロジェクトを進行し、成果物を滞りなくクライアントに納品したことで、プロジェクトの成功を感じている。一方、評価者である上司は、クライアントへ提出した成果物のクオリティに疑問を感じており、強い課題感を抱いている。
本例は、プロジェクトリーダーと上司の評価観点が異なっているため、すれ違いが起きています。このままにしておくと、プロジェクトリーダーにとっては納得がいかない評価結果となるでしょう。
従業員が納得のいく人事評価を行うためには、明確な評価基準にもとづいて評価したうえで、丁寧にフィードバックを行い、評価の観点を擦りあわせることが大切です。
以下の記事では、企業で活用する適性検査についてそれぞれ解説しているので、参考にしてみてください。
従業員は納得している?人事評価に対する納得感の調査方法
人事評価に納得がいかない理由について、株式会社識学の「人事評価の“モヤモヤ”に関する調査」をもとに解説しましたが、自社の従業員がどう思っているかは調べてみないことにはわかりません。
従業員の人事評価に対する納得感を調査する方法には、以下があります。
調査方法 | 概要 |
---|---|
社内アンケート | ・従業員の意見を集めるためのアンケート ・人事評価に対する従業員の意見を集め、改善に生かす |
パルスサーベイ | ・組織に対する従業員の満足度や従業員のコンディションを測定する調査 ・高頻度で定期的に実施することで、人事評価だけでなく組織全体の改善を繰り返せるようになる |
人事評価に対する納得感だけを知りたい場合は、社内アンケートが適切です。人事評価を含め組織全体に対する満足度を知りたい場合は、パルスサーベイを活用し、従業員の満足度を高める改善策を実行しましょう。
納得のいかない人事評価を改善する方法
従業員にとって納得のいかない人事評価制度は、以下の方法によって改善できる可能性があります。
自社に適した方法を選び、人事評価制度の改善を進めましょう。
MBO(目標管理制度)を導入する
MBO(Management by Objectives)は、日本語で目標管理制度と呼ばれ、従業員それぞれの目標を定め達成具合を評価する方法です。企業目標に沿って従業員自身が目標を設定し、達成までのプロセスをマネジメントしていきます。
目標の達成具合で評価するため、評価基準が明確になり、従業員も納得して評価を受けることが可能です。
以下の記事でMBOの運用方法を詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
コンピテンシー評価を導入する
コンピテンシー評価とは、従業員の行動特性を評価する方法です。コンピテンシーは、従業員のなかでもハイパフォーマンスを示す人材の行動特性を指します。コンピテンシーをもとに人事評価における評価基準を策定することで、基準の明確化や客観性の担保が可能です。
次にどのような行動をすると評価されるかがわかることは、モチベーションにもつながるでしょう。
以下の記事では、コンピテンシー評価を活用するポイントを解説しているので、参考にしてみてください。
360度評価を導入する
360度評価とは、1人の従業員に対して上司だけでなく同僚やその他関係者など複数で評価する方法です。従業員の特性が多角的な視点から分析されることで、新たな強みや改善点を見つけられます。
360度評価の結果を受けて、従業員自身が客観的に自分を見つめられる目を養うとともに、相互コミュニケーションの活性化を促すことが可能です。
以下の記事では、360度評価のメリットとデメリットを解説しているので、あわせてご覧ください。
ノーレイティングを導入する
ノーレイティングとは、等級制度のように従業員の人事評価結果に等級をつけ報酬をわりあてるのではなく、1対1の対話を通して評価を行う方法です。
ノーレイディング評価では等級がないため、評価者である上司に給与の決定権が与えられます。
対話ごとに評価され、給与が変動していくイメージです。高頻度で対話を繰り返すことで、上司と部下の信頼関係が深まり、納得感の高い評価ができるようになります。
適性検査を活用する
適性検査は、能力や性格の特性を定量的に測定し可視化するテストで、人事評価の目的でもある人材育成や人材管理に活用できます。
適性検査の結果を踏まえながら従業員にフィードバックすることで、長所を生かした人材配置やキャリア開発が可能です。
以下の記事では、適性検査の結果の活用方法を解説しているので、参考にしてみてください。
評価者研修制度を充実させる
評価者の研修制度を充実させることで、評価の質向上を期待できます。評価者研修では、人事評価制度の仕組みや評価方法について学び、公平かつ公正に評価する意識づけを行います。
産労総合研究所が2016年に実施した「評価制度の運用に関する調査」によると、評価者研修制度を実施している割合は71.4%と非常に高い結果でした。
評価者の評価力を標準化して、評価のバラつきを防ぎましょう。
従業員が納得できる人事評価制度への改善事例
従業員が納得できる人事評価制度へ改善した事例を2つ紹介します。
自社の人事評価制度を改善する際の参考にしてみてください。
事例1:評価基準を明確化|HISホールディングス株式会社
HISホールディングス株式会社は、社員の半数以上がテレワークを実施している状況下で、評価制度の改善が必要と考えました。社内アンケートを実施したところ、「評価基準が個人に依存する」という課題が浮き彫りになったわけです。
MBOと評価が連動するように制度を改め、評価基準の統一を進めています。
参考:IT業界の働き方・休み方の推進 事例:HISホールディングス株式会社|厚生労働省
事例2:評価結果が従業員の成長につながる制度設計を構築|アンドールシステムサポート株式会社
アンドールシステムサポート株式会は、テレワークの拡大を受けて、人事評価観点の再考が必要と考えました。そこで、課題を洗い出したところ「評価方法が統一されておらず評価者によって評価が異なる場合がある」といった課題が浮き彫りになったわけです。
さらに、評価結果を従業員の成長につなげられるよう、自己評価と上司の評価を擦りあわせできる仕組みに変更したわけです。今後は、評価結果が等級や報酬に適切に連動できるよう、制度をブラッシュアップしていく予定となっています。
参考:IT業界の働き方・休み方の推進 事例:アンドールシステムサポート株式会社|厚生労働省
納得のいかない人事評価がもたらすリスク
従業員が納得のいかない人事評価をそのままにしておくと、以下のリスクが高まります。
会社全体の不利益につながるため、従業員の意見を聴きながら制度を整備していくことが大切です。
退職者が増加する
人事評価に納得がいかない従業員は、正当に評価してくれる会社を探して離職する可能性があります。人事評価に対する不満をそのままにしておくと、退職者が増加するリスクにつながるわけです。
優秀な人材が長く働きたいと思える企業にするためには、公平かつ正当な人事評価制度の構築が大切です。
従業員のエンゲージメントやモチベーションが低下する
従業員が「正当に評価されていない」あるいは「評価が報酬や希望部署への配置につながらないなら、頑張っても意味がない」と思うようになると、エンゲージメントやモチベーションの低下を招きます。
エンゲージメントの低下は離職へ、モチベーションの低下は生産性の低下につながるため注意が必要です。人事評価が報酬や配置、従業員の成長、キャリアアップにどのように影響しているかを明確にし、周知することが大切です。
モチベーションについては、以下の記事を参考にしてみてください。
従業員からの訴訟を起こされる可能性がある
従業員は、納得がいかない人事評価を受けると、会社相手に損害賠償を求める訴訟を起こす可能性があります。
住友生命保険事件では、既婚であることを理由に女性従業員を低く評価し、昇給させなかったことで、会社側の人事評価は不法行為にあたるとしました。
人事評価は給与を決定するためだけではなく、従業員の成長やキャリアアップをサポートする制度でもあります。従業員が納得できる制度を構築し、運用することが大切です。
納得のいかない人事評価を見直す4つのポイント
納得のいかない人事評価を見直す際は、次の4つのポイントを押さえましょう。
1:評価基準が明確化されているか
人事評価の公平性を保証するためには、評価基準の明確化と開示し、透明性を確保する必要があります。従業員自身が評価基準と結果を照らしあわせることで、納得感を得られる状態にすることが大切です。
2:評価結果の活用方法が明確化されているか
人事評価の結果を何に活用するのかが明文化されているかを確認しましょう。報酬につながる等級制度や、配置、人材育成など、結果の活用方法はさまざまあります。
たとえば、等級に連動した賃金テーブルとともに、等級ごとの評価基準を明文化しておくことで、従業員はモチベーション高く仕事に励むことが可能です。
3:人材育成の観点を忘れていないか
人事評価が報酬を決めるだけのものになっていないかも確認が必要です。
人事評価の目的には、人材育成も含まれます。従業員の成長をサポートせずに評価だけすることのないよう、丁寧なフィードバックと適切な指導を含めて人事評価を行うことが大切です。
4:評価エラーについて理解しているか
評価者は、人事評価エラーについて理解しておくことが大切です。人事評価エラーには、以下があります。
人事評価エラー | 概要 |
---|---|
ハロー効果 | 目立つ特性に引っ張られて、他の項目に影響を与えること |
親近効果 | 評価者と共通点のある人物に親近感がわき、評価に影響を与えること |
アンカリング | 第一印象が評価に影響を与えること |
中心化傾向 | 評価結果が中間の値に集まること |
寛大化傾向 | 評価が全体が甘くなること |
逆算化傾向 | 総合結果にあわせて各評価結果の辻褄をあわせること |
期末効果 | 評価直前の期末時期の業務や業績に評価が引っ張られること |
論理誤差 | 評価者の憶測で評価すること |
対比誤差 | 評価者が自分と対象者を比較して評価すること |
評価エラーは公正かつ正当な評価の妨げとなり、従業員の納得感を低下させます。評価エラーを防ぐためには、評価者を複数人にする、360度評価を取り入れるといった工夫が必要です。
また、評価者研修制度の実施によって、評価者が評価エラーについて理解したうえで、適切に評価できるよう促すことも大切です。
まとめ:納得のいかない人事評価を改善して従業員の満足度を向上させよう
納得のいかない人事評価は、従業員のモチベーションとエンゲージメントの低下を招きます。離職や生産性の低下といった企業の不利益につながるため、改善が必要です。
「人事評価の基準が不明確である」をはじめ、納得がいかない理由はさまざまありますが、自社の従業員がどう思っているかは調べてみなければわかりません。
人事評価制度を改善する前に、社内アンケートで従業員の意見を集め、サーベイを活用して変化を見てみましょう。『ミキワメ ウェルビーイング』を活用すると、従業員の心理状態やエンゲージメントを可視化できます。
人事評価制度の改善前後における従業員の変化は、実施した改善策の効果を判断する材料になります。人事評価制度を改善し、従業員の満足度を向上させたい場合は、ぜひ一度ご相談ください。
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