適性検査

適性検査の有用性と活用方法 ー 人事コンサルティング企業代表 曽和利光氏へのインタビュー

人事担当者にとって、適性検査は候補者の能力や適性を客観的に評価するための貴重なツールです。しかし、その重要性や活かし方に関する情報が少なく、手探りの状態で適性検査を使用している企業も多いのではないでしょうか。

今回は適性検査の有用性と活用方法について、幅広い企業へ人事コンサルティングを提供している株式会社人材研究所代表の曽和利光氏にお話を伺いました。

はじめに

はじめに、自己紹介をお願いします。

曽和:人材研究所の代表、曽和と申します。40歳ぐらいまではずっと人事の実務を担当してきました。15年ほどリクルートで人事や採用を担当し、最終面接などの選考手法や面接官トレーニングなどに携りました。

適性検査の有用性

自己紹介をありがとうございます。それでは、長年にわたり採用活動に関与されてきた経験から、適性検査の有用性についてご意見をいただいてもよろしいでしょうか?

曽和:もともとは面接のほうが適性を判断できると思っていましたが、リクルートで採用の責任者を務めていた際に、入社時の評価と4〜5年後の業績の相関関係を調査したことがあるんです。その結果、面接との相関関係はほとんど見られませんでした。一方、適性検査の場合は、数学や数的能力の得点において高い相関が確認できたんです。

その経験から、適性検査のほうが精度が高く、面接よりも優れている可能性があると考えるようになりました。現在、人事コンサルティングを実施する際は、社員の方々へ適性検査を受けてもらっています。適性検査を通じて、採用側の主観的な意見との裏付けを取るんです。

適性検査の結果が、主観的な意見とズレていることは多々あります。例えば、素直な人材が求める人物像と企業が設定している場合でも、実際には批判的な人材が企業にとって良い結果をもたらす場合があります。

適性検査を活用することで、採用の基準や求める人物像を正しく設定し、適切な評価ができると考えています。適性検査を通じて採用基準を設定していくと、スクリーニングもスムーズです。また、適性検査の結果を分析することで、正確な採用戦略を立てることも可能です。

求める人材がなかなか採用されていないときは、次の3つの可能性を疑いましょう。

  • ①求める人材がそもそも来ていない
  • ②来てはいるけど、逃げてしまった
  • ③来てくれたのに、なぜか面接で落としてしまった

このどれかが原因です。

現状どの点が問題になっているか調べる場合、例えば①の「求める人材がそもそも来ていない」であれば、適性検査を通じてある程度見極められます。ほしいパーソナリティを設定できていれば、適性検査によって該当者がどれくらい入り口まで来てくれたのかが判断できます。採りたい人材が入り口まで来ていないようであれば、改善すべきポイントは集客になりますよね。

②の「来てはいるけど、逃げてしまった」という場合は、説明会や選考に問題があるかもしれません。採用したい人材が自社に興味を持っていたのに、説明会や選考のコンテンツが悪かったために逃げてしまった、という状況です。この場合は、コンテンツの改善や採用プロセスのスピードアップが必要になってくるでしょう。

③の「来てくれたのに、なぜか面接で落としてしまった」に関しては、面接官に問題があると考えられます。そのため、必要な改善策としては、面接官トレーニングなどが挙げられるでしょう。

適性検査を使わずに採用の振り返りをやってみても、今お話しした問題や課題には一切気づけません。単純に「なぜか受験率が低いな」「今年は合格率が低かったな」といった感覚による分析で終わってしまうんです。

以上の理由から、適性検査は採用のターゲット設定や人物評価だけでなく、適切な採用戦略を立てるためにも必要不可欠なツールだと言えます。

適性検査でよくある失敗や課題

適性検査を実施するにあたって、陥りがちな失敗や課題などはありますか?

曽和:採用においてよくある失敗や課題の一つは、求める人物像が単一ではないことです。例えばハイパフォーマーを探す場合、その平均値を出して「これがうちのハイパフォーマーの波形だ」と判断してしまうことがあります。しかし、営業社員と一口に言っても、複数のタイプが存在します。それぞれのタイプが異なるのに平均値を取ると、どの営業社員にも似ていない人物像が平均値として出てしまうことがあります。

このような場合、統計的な処理やクラスター分析などを適切に行うことが重要です。そうしないと、平均値の罠に陥ってしまう可能性があります。求める人物像の多様性を考慮し、適切な分析手法を用いることが重要です。

また、社員に対してデータを取ることは重要ですが、現在社内で活躍している人が最高の人材であるとは限りません。現実のトップパフォーマーの要素に基づいて採用基準を作ることはよいのですが、それを絶対視しすぎると問題が生じます。

適性検査の厳格な使用は、多様性の喪失や他の可能性の捨て去りに繋がる可能性もあるため、柔軟性を持って取り組んだほうがよいでしょう。

ー 一見すると防げそうな課題と思えますが、なぜ解決するのが難しいのでしょうか?

曽和:人事担当者がデータの扱いに慣れていないことが、一番の理由です。かつて、人事の領域は経験や勘に基づいて行われてきました。しかし最近では、パーソナリティやモチベーションなどの見えない要素を数値化し、パフォーマンスと結び付けて分析するピープルアナリティクスの重要性が増してきています。

そうした新しい動きに対して、人事担当者の能力がまだ追いついていない側面があります。例えば平均値の罠に関しても、よく考えたら理解できる話だと思います。まだデータの分析の仕方に慣れていない人が多いため、統計的手法に関するスキルを学ぶのが有効です。

理想を追求するためには、会社内のデータ分析だけに頼らず、一般的な知見やセオリーを活用する必要があります。心理学や組織論、行動科学などの分野から得られる知識を持つことで、限られたデータだけでなく、一般的な傾向や人間の特性を考慮した仮説を立てることが可能になります。

適性検査の力が強力なため、人事担当者はその結果に引き寄せられてしまいがちです。しかし、バランスを保つためにはセオリーを活用することが重要です。ファクト、ロジック、セオリー、これら3つを押さえることが求められます。ファクトとロジックは適性検査や統計分析によって得られる情報を指し、セオリーは心理学や組織論、行動科学の一般的な理論を指します。これらをバランスよく持つことで問題点を解消できると考えています。

人事活動に必要なセオリーの学習方法

ー 心理学や組織論といったセオリーをしっかり学習するとなると、ハードルの高さを感じる方も多そうです。手軽に学んだり、別な方法で知識を身につけていく方法はあるのでしょうか?

曽和:御社のような適性検査の会社や、我々のようなコンサルティング会社に頼るという選択肢も有力だと思います。統計分析やプログラミングの知識がなくても、求めるニーズや要望を固めて伝えるだけで、作業は外部に任せることが可能です。要するに、判断や評価ができれば十分であり、統計分析などの中身はブラックボックスでも問題ないということです。

ただし注意点として、外部へ適性検査や分析を任せる場合においても、最低限の知識は身につける必要があります。知識がなければ「適性検査は使いものにならない」「適性検査の値が少しでも低かったら、採用はやめておこう」といった誤った判断を下す可能性が高まるからです。極端な考えや意見を持たないように、最低限の学習はしておきましょう。

知るという観点では、曽和さんの書籍や弊社のセミナーなどが有効な学習手段になりそうです。

曽和:私の本では適性検査に特化した内容はあまり書かれていません。ただ、記事やセミナーで取り上げることが多いですね。

人事業界では、適性検査について詳しく解説しているセミナーはまだ少ない状況です。御社の「ミキワメ」のような活動は珍しいと思うので、御社のセミナーを聞いてもらえばよいと思います(笑)。

例えば心理学は、人事の応用分野として捉えるべき分野です。しかし、心理学の知識や理論が人事の世界に浸透していないというのが、現状です。これだけ周囲の人たちが勉強していない分野なので、心理学や統計学を勉強しておくだけで、ものすごく有能な人事担当者へとレベルアップできると思います。

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ミキワメラボ編集部
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