従業員の「やる気」を意味するモチベーションは、生産性につながるため重要です。
モチベーションが著しく低下すると、生産性の低下や離職が増加する可能性があります。企業は従業員のモチベーション維持・向上のために、職場環境や制度を整備することが大切です。
- そもそもモチベーションとは何か?
- 維持・向上の重要性と低下する理由
- モチベーションチェックの方法
本記事ではこれらを解説していくので、従業員の状態を確認・改善したい場合は参考にしてみてください。
モチベーションとは?従業員の意欲のこと
モチベーションとは、「やる気・意欲・動機づけ」を意味します。
特定の目的や目標に向かって行動するための原動力ともいえます。モチベーションがあると、目標を達成するために行動しやすくなるイメージです。
動機づけという意味でのモチベーションは、行動を方向づける、あるいは持続させるという意味も含みます。
モチベーションは、心理学や経営学などさまざまな学問の観点からも研究されているテーマです。モチベーションに関する理論を学び、モチベーションについて理解を深めましょう。
モチベーションの2つの種類
アメリカの心理学者エドワード・L・デシの「動機づけ理論」によると、モチベーションには次の2つの種類があります。
モチベーションの2つの種類を理解すると、モチベーションに影響を与える要因がわかります。人によって動機づけの要因が異なるため、従業員の特性を理解して適切な動機づけを選択することが大切です。
外発的動機づけ(extrinsic motivation)
外発的動機づけとは、報酬や賞罰などを得るために行動することを指します。この場合、モチベーションは、与えられる報酬や賞罰によって左右されるわけです。
ただし、外発的動機づけのみで従業員のモチベーションをコントロールしようとするのは危険です。報酬が得られないとモチベーションが低下し、行動につながらなくなるからです。
報酬を与える必要があるため、長期的な視点でどうすべきか考えましょう。
内発的動機づけ(intrinsic motivation)
内発的動機づけとは、喜びや満足感のように実体のない感情を得るために行動することを指します。
たとえば、自分で立てた目標を達成できると嬉しいので、目標達成のために行動するという状態です。内発的動機づけの場合、行動自体が報酬の役割を果たすため、外部から報酬を与える必要はありません。
実体のある報酬にモチベーションが左右されないため、モチベーションが継続しやすい傾向となります。
モチベーションに関する代表的な3つの理論
モチベーションに関する理論にはさまざまありますが、ここでは代表的な3つの理論を紹介します。
モチベーションに関する理論の知識を身につけると、従業員のモチベーションを維持・向上させる施策につなげられます。
1:マズローの欲求階層説
マズローの欲求階層説は、アメリカの心理学者であるマズローが提唱したモチベーション理論です。人間がもつ欲求は次の5段階で構成されており、下の階層が満たされることで次の階層を求めるようになります。
階層 | 欲求 | 内容 |
---|---|---|
第5階層 | 自己実現の欲求 | 目標を達成し自分を高めたいという欲求 |
第4階層 | 承認欲求 | 人から認められたい欲求 |
第3階層 | 社会的欲求 | 集団や社会への帰属・愛情を求める欲求 |
第2階層 | 安全性の欲求 | 危険や脅威から逃れ、安全を求める欲求 |
第1階層 | 生理的欲求 | 食欲、睡眠欲、排せつ欲 |
企業に所属している人は、第3階層の社会的欲求が満たされている状態です。そのため、仕事のモチベーションに関連するのは、第4階層の承認欲求や第5階層の自己実現の欲求だといえます。
目標の達成率に応じて評価し、評価に応じてキャリアアップできるというシステムを構築した場合、従業員Aは欲求を満たすために仕事に励みます。
どの階層の欲求を満たしたいかを把握することで、モチベーション維持や向上の適切なアプローチが可能です。
2:ハーズバーグの二要因説
ハーズバーグのニ要因説は、アメリカの心理学者ハーズバーグが提唱したモチベーション理論です。二要因説では、仕事で満足する要因は動機づけ要因に、満足できない要因は衛生要因にあるとしています。
2つの要因は以下のように分類されます。
要因 | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
動機づけ要因 | ・仕事の満足に関わる要因 ・仕事そのものに矛先が向く ・満たされるとモチベーションにつながる | ・目標の達成 ・上司からの承認・評価 ・責任 ・昇進 ・自己成長 |
衛生要因 | ・仕事の不満足に関わる要因 ・作業環境や制度に矛先が向く ・満たされないとモチベーションが低下する | ・社内制度や管理方法 ・給与 ・対人関係 ・職場環境 ・労働条件 |
2つの要因を両方満たすことで、従業員のモチベーションを向上させることが可能です。
このように二要因説では、2つの要因が相互に関係しあっています。どちらか一方だけではなく、両方をバランスよく満たすことで、従業員のモチベーションを維持・向上させることが可能です。
3:マクレガーのX理論Y理論
マクレガーのX理論Y理論は、アメリカの心理学者マクレガーによって提唱されたモチベーション理論です。マズローの欲求階層説をもとにしており、以下の2つの理論を展開しています。
理論 | 概要 | マネジメント方法 |
---|---|---|
X理論 | 人間は放っておくと怠ける生き物であるため、強制や命令されないと仕事をしない | ・従業員に命令し、仕事を強制する ・目標を達成できなければ罰を与える |
Y理論 | 人間は条件次第で自分から仕事をし、責任を果たそうとする生き物である | ・従業員と一緒に目標を構築する ・従業員の目標を達成するためのアドバイスや機会を与える |
X理論は、マズローの欲求階層説でいうと生理的欲求や安全欲求に該当します。現代社会では、生理的欲求や安全欲求は満たされていることが多いことから、X理論にもとづいたマネジメント方法は古いといえます。これに対しY理論は、マズローの欲求階層説でいうと社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求に該当します。
現代社会では、スタートラインを社会的欲求と捉え、Y理論にもとづきマネジメントする方が従業員のモチベーションの維持・向上に効果的です。
たとえば部下のモチベーションを向上させたい場合、業務の進行を監視するのはX理論にもとづくアプローチであるため、適切ではありません。
ただし、ケースによってはX理論にもとづく懲罰的アプローチも必要です。
社内のパワハラやセクハラといったハラスメント行為に対しては、厳正な処罰が求められます。社内の統制を図るためには、低次欲求に対するアプローチが必要となることもあるわけです。
モチベーションは生産性につながるため重要
従業員のモチベーションは、企業全体の生産性を左右するため重要です。
少子高齢化の煽りを受けて人手不足が際立つ昨今、貴重な人材に社内で活躍してもらうためには、モチベーションの管理も大切な業務といえるでしょう。
従業員のモチベーションが生産性に影響を与えることは、ホーソン研究の結果からもわかっています。
さらに内閣府によると、人手不足の企業は労働生産性の低さゆえに賃金水準も低く、離職率が高いことがわかっています。つまり、労働生産性は離職率に影響を与えると考えられます。
従業員のモチベーションを向上させ生産性が高まると、賃金水準が上がり離職の抑制につながるはずです。そのため、従業員のモチベーションを維持・向上させることは、重要だといえます。
モチベーションが低下する5つの理由
モチベーションが低下する理由には、以下の5つがあります。
モチベーションが低下する理由 | 割合(※) |
---|---|
得られる報酬が少ないから | 46.8% |
人事評価に納得がいかないから | 43.3% |
職場のコミュニケーションがうまくいかないから | 35.6% |
昇進が見えないから | 24.2% |
仕事を通して学べるものが少ないから | 21.1% |
参照:従業員の意識と人材マネジメントの課題に関する調査 第2章 調査結果 P34|労働政策研究・研修機構
※ 複数回答あり
モチベーションの低下理由は、人それぞれで異なります。従業員満足度調査や面談を通して、モチベーションの低下理由を探る際に参考にしてみてください。
1:得られる報酬が少ないから
仕事で得られる報酬が少ないと、従業員は自分の仕事が適切に評価されていないと感じ、モチベーションの低下を招く可能性があります。
とくに金銭的な報酬が低いと、外発的動機づけにもとづいて働く従業員のモチベーションは低下しやすくなります。
従業員の自己評価が社内の評価とズレていることで、報酬が少ないと感じている場合もあるので、認識を擦りあわせるためにも定期的な面談やフィードバックが必要です。
2:人事評価に納得がいかないから
人事評価のプロセスが不透明である、あるいは不公平と感じられる場合、従業員のモチベーションの低下につながることがあります。
評価が報酬や昇進につながるはずだったのにもかかわらず相応の対処がされないと、外発的動機づけが揺らぐためです。
人事評価に納得がいかない状態は、モチベーションの低下だけでなく不満を招くため、改善が必要です。以下の記事で、人事評価に納得がいかない理由や改善策を解説しているので、参考にしてみてください。
3:職場のコミュニケーションがうまくいかないから
職場のコミュニケーションがうまくいかないと、業務を円滑に進められず、モチベーションの低下を招く恐れがあります。職場で良好な人間関係が築けないと、従業員にとってストレスにもなるため注意が必要です。
労働政策研究・研修機構の「従業員の意識と人材マネジメントの課題に関する調査 第2章 調査結果」における「仕事に対する意欲が高まった理由」では、職場の人間関係が良いからという回答が32.8%と高い割合を占めています。
職場の人間関係に問題がないかをチェックするためには、従業員満足度調査を含むサーベイが活用できます。
4:昇進が見えないから
従業員にとって、キャリアアップや昇進の機会が見えないと、自分の将来に対する希望が薄れモチベーション低下につながる恐れがあります。昇進という報酬を得るために外発的動機づけにもとづいて行動する従業員の場合、とくにモチベーションの低下要因となります。
モチベーションの維持・向上のためには、従業員がどのように行動し、成果を出せばキャリアアップや昇進につながるかを明示することが大切です。
5:仕事を通して学べるものが少ないから
仕事を通して学べるものが少ないと、従業員は自己実現の機会を失い、仕事に対するモチベーションが低下する恐れがあります。
労働政策研究・研修機構の「従業員の意識と人材マネジメントの課題に関する調査 第2章 調査結果」における「仕事に対する意欲が高まった理由」では、仕事を通じて学べるものが多いからという回答が57.5%ともっとも高い割合を占めています。
自己実現や成長につながる機会を提供することは、従業員のモチベーションの維持・向上につながるといえるでしょう。
ひとつの手段として、日頃から従業員とのコミュニケーションを深め、目標の設定と達成までサポートすることが挙げられます。
モチベーションをチェックする方法
従業員のモチベーションをチェックする方法には、大きく次の2つがあります。
従業員の実態把握に努めることで、モチベーションの低下につながる課題を発見でき、改善することで企業の生産性を向上させられます。
モチベーションサーベイ
モチベーションサーベイとは、従業員のモチベーションを定量的に測定し、可視化できる調査です。従業員のモチベーションの現状把握が可能で、モチベーションに影響を与える要因の特定に役立ちます。
より詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
モチベーションサーベイには、以下のサービスがあります。
サービス | 概要 |
---|---|
モチベーションサーベイ | ・株式会社トランストラクチャが提供 ・調査要件の設定からできる |
モチベーションクラウド | ・株式会社リンクアンドモチベーションが提供 ・20分程度の短時間の調査で現状と課題を明確化できる |
モチベーションに関する課題を明らかにしたい場合、モチベーションサーベイの活用が適しています。
モチベーショングラフ
モチベーショングラフは、従業員のモチベーションを時系列でグラフに示すことで、モチベーションの変化を可視化する方法です。
グラフの縦軸はモチベーションの数値軸で、中央の0を境に上部がプラス、下部をマイナスに設定します。横軸は、入社してからこれまでの期間や1年間に取り組んだ仕事や経験を設定します。
個々のモチベーション維持・向上をサポートする際に役立ちます。
モチベーションの維持・向上のために見直すべき5つポイント
モチベーションの維持・向上のためには、次の5つのポイントを見直すことが大切です。
各ポイントで改善できる点はないか、自社の状況と照らしあわせながら読んでみてはいかがでしょうか。
モチベーションアップの具体的な方法は以下の記事で解説しているので、参考にしてみてください。
1:報酬制度
報酬制度を見直す際は、以下ができているかをチェックしてみてください。
- 報酬制度と人事評価、あるいは目標達成率などが連動しているか
- 従業員に報酬制度が周知されているか
- 報酬アップにつながる行動が明示されているか
従業員がどのように頑張れば報酬アップにつながるのかが周知されていると、モチベーションを維持して行動できます。そのためには、賃金テーブルで報酬を可視化する、あるいは適切な人事考課制度の設定が必要です。
人事考課制度の適切な運用方法については、以下の記事で解説しているので、あわせてご覧ください。
2:人事評価制度
人事評価制度が、従業員にとって納得のいかないものになっていないか確認しましょう。従業員が現行制度で満足しているかどうかは、社内アンケートで調査できます。
納得いかないという声が多ければ、改善が必要です。人事評価制度を見直す際は、詳しく解説した以下の記事も参考にしてみてください。
3:福利厚生制度
現行の福利厚生制度が、従業員の欲求を満たす制度になっているかどうかも確認するとよいでしょう。
たとえば、仕事を通して学べるものが少ないと感じている従業員が多い場合、資格取得の費用補助制度によって自己実現欲求を満たすことが可能です。
マイナビが発表した「2024年卒大学生活動実態調査 (4月)」によると、企業の福利厚生に対して「勤務地・仕事内容・給料と同程度感心がある」という学生が63.4%もいることがわかっています。
このように、福利厚生制度は若い人材を獲得するうえでも大切であるため、福利厚生制度を見直してみましょう。
以下の記事では、福利厚生制度の具体例を解説しているので、参考にしてみてください。
4:職場の人間関係や職場環境
職場の環境や人間関係が悪いとモチベーションの低下につながるため、見直しが必要です。
内閣府が発表した「平成30年版 子供・若者白書(全体版)特集 就労等に関する若者の意識」によると、初職の離職理由で2番目に割合が高かったのは「人間関係がよくなかったため」です。
従業員満足度調査やサーベイを実施して従業員の心理状態を把握し、人間関係に問題がないか確認してみましょう。
5:キャリアアップ・人材育成システム
現状のキャリアアップや人材教育システムについて見直すことで、モチベーションの維持・向上を狙えます。
厚生労働省の調査によると、「企業が能力開発に積極的になったと感じる労働者」のモチベーションD.I.は13.9とプラスになっており、「企業が能力開発に消極的になったと感じる労働者」は-22.5とマイナスになっていることがわかります。
企業が能力開発に前向きな姿勢が従業員のモチベーションを向上させるといえるでしょう。
以下の記事では人材育成術について詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
まとめ:従業員のモチベーションをチェックして維持・向上を目指そう
モチベーションとは、仕事に対するやる気や意欲、動機づけのことです。ホーソン研究によって、従業員のモチベーションが企業の生産性に影響を与えることがわかっています。
とくに、人手不足が深刻化する現代社会では、個々のモチベーションを向上させることが企業の成長を加速させると考えるためです。
従業員のモチベーションを維持・向上させるためには、以下のポイントを見直すことが大切です。
上記ポイントのどこに課題があるかを見極めるためには、モチベーションサーベイやモチベーショングラフが活用できます。
ミキワメが提供するミキワメ ウェルビーイングサーベイも、従業員のモチベーションチェックに活用可能です。
また、従業員の心理状態を可視化し、適切なサポートに導きます。
モチベーションが低下している従業員を発見し、個別面談やフォローにつなげることで、モチベーションの維持・向上を目指しましょう。
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