講演レポート

最強の人材育成術〜ポストコロナ時代の人材育成を考える〜【サイバーエージェント曽山氏・Almoha /デジタル庁唐澤氏】

本レポートは、2022年1月12日に開催された、「みんなのHR博覧会 byミキワメ」の基調講演の文字起こしです。各テーマに沿って、「はたらく」を「よく」するを徹底的に語り尽くしていただきました。

最強の人材育成術〜ポストコロナ時代の人材育成を考える〜

飯田: 皆さんこんにちは。本日最後の基調講演です。
この時間は「最強の人材育成術〜ポストコロナ時代の人材育成を考える〜」というテーマで、サイバーエージェントから曽山さん、デジタル庁、そしてご自身でもコンサルティングファームを共同経営されている唐澤さんにお越しいただいています。よろしくお願いします。

曽山唐澤:よろしくお願いします。

飯田:これまで3本の基調講演を行なってきたところ、若手の育成をどうすればいいのかという点を別セッションでも重点的に取り上げてきました。
組織の永遠の課題である「若手の育成」について、お二人からの話を通じて勉強していきたいと思います。
私もモデレーターの立場から大変楽しみにしておりました。よろしくお願いします。

すでに曽山さんと唐澤さんのことを知っている視聴者もたくさんいると思うのですが、まずはお二人から簡単に自己紹介していただきます。曽山さんからお願いします。

YouTubeで人事ノウハウを配信中

曽山:ありがとうございます!今日はみなさんよろしくお願いします。
サイバーエージェントで人事責任者をしている曽山と申します。自己紹介で一番お伝えしたいのは、私もYouTubeをやっています、ということです。ぜひチャンネル登録をお願いします(笑)。

コロナで社員と会えない、外の人と会えないことがあったので、YouTubeで人事ノウハウなどを配信しています。育成に関する動画も何本かあるので、ぜひご覧ください。

近況ですと、今サイバーエージェントという会社で15年人事をやっています。最近はHRBP・事業人事の強化に時間を割いており、各部門の事業人事が経営人事になれるようサポートしています。
『若手育成の教科書』という本も出しているので、もしよろしければ読んでみていただければと思います。今日はよろしくお願いします。

デジタル庁の組織づくりに参画

飯田:では続きまして、唐澤さんよろしくお願いします。

唐澤:皆さんこんにちは。唐澤と申します。私はAlmohaという会社を共同創業し、組織コンサルティングやHRテックである組織支援用のプロダクトを作っています。これから世の中にリリースしていきたいと思っています。

周囲を少しでも幸せにできるようなことをやっていきたい想いから、「a little more happy」を企業ミッションに掲げています。社名のAlmohaはこの言葉の頭文字をとっています。
加えて、デジタル庁立ち上げと同時に、人事組織の担当ということで、600名ぐらいの組織づくりを担わせてもらっている状況です。伝統的な日本型組織をどのようにスタートアップっぽいスピード感のある組織にしていくか考えながら業務に取り組んでいます。

過去の経験だと、マクドナルドという大きなマニュアルを重視するタイプの組織にいたり、メルカリや SHOWROOMといったITスタートアップの人事組織を見てきたりしました。幅広い経験を踏まえて皆さんと議論していきたいと思っています。よろしくお願いします。

飯田:唐澤さん自己紹介をありがとうございます。それでは本編に入ります。

育成制度ゼロの環境では、まず何からスタートすればいいか?

飯田:まず若手の人材育成を今回のテーマにしています。人材育成において、まずどこから手をつければいいのかわからないという方も、多いと思います。育成制度がほとんどない会社があったとして、どういうところから手をつければいいでしょうか?

唐澤さんいかがですか?

唐澤:いろいろな考え方があると思いますが、こういう相談や議論をする際、スタートポイントとしては、「ミッション、ビジョン、バリュー」や「理念」、「パーパス」といったように、何を目指すかという基準を示す部分であったり、そもそもの事業特性を踏まえたりすることが起点として大事だと思います。

何を成し遂げたくて、どういう事業を作っていくのかによって組織設計は変わってきますよね。組織としての勝ち筋があるはずなので、その勝ち筋をどこに定めるかによって求める人材像も変えるので、その人材像を目指して育てていくこと。育成に一つの正解があるわけではなく、「ウチの組織においてはこういう人材が理想だよね」ってことが定まれば、その人材を育てていけばいい。まずそこを定めることがスタートポイントだと思っています。

飯田:ビジョナリー・カンパニーである皆さんだとそうしたものがしっかり揃っている場合が多いですけど、意外にアーリーステージの会社や少数精鋭規模でやっている会社だと揃っていないこともあるので、まずそこの部分は大前提になってきますよね。

唐澤:そうですね。著書『カルチャーモデル』では、ビジネスモデルとの両輪として、組織文化や組織の在り方をカルチャーモデルとして書きました。メンバーシップ型かジョブ型か、トップダウンか自律分散型かなどいろいろな議論がありますが、どちらを選ぶかによって作りたい組織は変わってきます。

メンバーシップ型であればジェネラリストを異動させながら会社のプロを育てていく、ジョブ型なら縦のラインで専門家を育てる話になるので、どういう組織にしていくかというコンセンサスをとらないと、結局「総論OK、各論反対」みたいな感じで腹が定まりませんね。

飯田:サイバーエージェントさんも、会社の芯となるミッションもそうですし、最近はパーパスも含めて定めているということで、唐澤さんの指摘する点も重要視しているかと思います。

それ以外の部分で、育成を考えるうえで大事な点はどういうものがあるでしょうか?

OKゴールを作って成果を定義しよう

曽山:まず唐澤さんのおっしゃるように、上流から逆算していくことが大事です。もう少し各論に落とす際にどうするかというと、「育成やりましょう」「新入社員研修やりましょう」と社長から下りてきた時、一個目にすることで分かれるんです。一個目が何かというと、成果の定義が非常に重要です。

新入社員研修をやるとしたら、やることが目的となっていないか?手段か目的かという罠ですよね。やることだけが目的となると、やりたいことだけを人事がやってしまう。これは駄目ですね。「何ができればOKなんだっけ?」というセリフを私よく使うんですが、成果定義をするときに「何ができればOKなんだっけ?」という問いかけを、研修に限らず人事メンバーに投げかけます。この一言がとても大事です。

例えばトレーナーの育成プログラム。去年トレーナーの育成プログラムを作りました。このときのOKゴールが何かというと、一年後に「トレーナーとして自信が持てるようになりました」と、トレーナーがある程度言ってくれたらOK、という目標にしました。自信が持てるって相当ですよね。「だいぶ不安がなくなりました」って声でもいいです。セリフを目標にする形をとるのが、成果定義では一番楽な方法といえます。

対象となる人や指示をした社長から、終わった時にどんなセリフで褒められたり感想を言われたりしたいか?これを一つ決めると、そこへ向かったプログラムを作ればいいので、ぜひ試してみてください。
僕はこうした成果定義を、「OKゴール」と言っています。OKゴール何?みたいな。もしやっていない方がいれば、ぜひOKゴールを設定してみてはいかがでしょうか。

飯田:なるほど、ありがとうございます。どんなセリフを聞ければいいのかって、僕はあまり考えたことがありませんでした。すごくイメージしやすくなりますし、いいですね。
まずお二人からアドバイスいただいたところから着手するということで、今日明日から取り組まれる視聴者の方も多いのではないかと思います。

コロナのビフォー・アフターで人材育成法は変化したか?

最近はオミクロン株が流行っていて、またリモート勤務に戻ったり、ずっとリモート状態だったりという会社も多いかもしれません。「出社していても勤務形態が変わるんじゃないか?」と戦々恐々としている経営者や人事の方も多いように思えます。
Withコロナの時代になって2年近く経つわけですが、コロナのビフォー・アフターで育成方法の変化はありますか?まったく変わらないという話でもいいのですが。唐澤さんいかがでしょうか?

唐澤:はい。先ほどもちょっとお伝えした組織らしさとか、組織の人材像を固めながら、自分たちの会社らしい人を揃えていく。そうすると価値基準が揃うので、いつまでも前提の議論に終始することなく、たとえば「じっくり詰め切るよりスピーディーに進めたほうがいいよね」といったコンセンサスが組織文化として形成されていきます。そうすると組織力全体が強くなり、結果として成果が上がってきます。

コロナの影響でリモートが増えてきて、いま難しいと思うのは雑談できないことですね。ちょっと横の人に聞くとか、周りの人と話すことでなんとなく自分の会社らしさが伝わるんですが、リモートで周りの雑談が聞こえないことって大きいかなと。

リアルだと、どこかで同僚が上司に怒られていることが聞こえるわけですよ。なるほど、こういう行動をしたら怒られる・褒められるということが、オフィス環境の中で自然と聞こえていて、実は他の社員も聞いている。隣の人の行動や褒められているところからロールモデリングがされていき、どういう人材が理想的かわかっていきます。

言葉で定義しても難しいですよね。「仕事スピードの速い人がいい」と言っても、どれだけ速いのがいいのかわかりません。速すぎると怒られたり(笑)。日々の中で「こういう人がいいよね」って感じるのが大事で、リモートになってそれが見えないのが難所というか、変化として大きいかなと思います。

飯田:たしかにそれはありますよね。雑談機会の担保とか、暗黙知を組織の中に行き渡らせていくことは簡単ではありませんよね。ちなみに、具体的に有効な秘策はありますか?

形式知化を意識し、非同期コミュニケーションの質を高める

唐澤:やはり形式知化が必要だと思います。口頭でやってきたことが、どんどんチャットになっています。チャットだと文字がテキスト化しているので、どんどん形式知化が進んでいると思います。

チャットのいいところは非同期によるコミュニケーションです。隣の人が怒られていたり褒められたりするのを聞くのが大事と話しましたが、一方で、会議室にいたらそれって聞こえないんですよ。でもチャットだと、2時間後に見に行けばそれが見えますよね。「○○さんの提案が否定されている、なんでだろう?」とか「通ったのはなぜだろう?」みたいに。

オープンな場でテキストによるコミュニケーションを交わすことで、どういうことが称賛されるかが可視化されます。形式知化で言葉を定義しながら、非同期のテキストコミュニケーションの中で共有化していくことが有効だと思います。

飯田:なるほど。今お話いただいた具体的なアイデアが非常に大事ですよね。

形式化・形式知化・マニュアル化と聞くと「大変そうだ」と身構えてしまうことがあるかと思いますが、まずオープンなカルチャーを作り、チャットでオープンにやっていくだけで大きく差が出るということですね。

唐澤:みんなに見えるところで会話することが大事ですね。

二感と五感を使い分ける

飯田:ちなみに曽山さん、元の質問である「Withコロナでどのように育成が変わったのか?」ということに加え、まさに唐澤さんが言っていた隣のメンバーと上司の会話などのように、コロナになって何が変わったのか、そして見えなくなったものや失われたものをどのようにWithコロナの時代に担保されているのかをぜひ教えてください。

曽山:「情報は見えない」というのはそのとおりですよね。私はよく「二感」「五感」という言葉を使っています。五感はわかりますよね。
リモートだと、今の技術だと目と耳の二感が精一杯なんですよ。匂いも味もわからない、触りもできないから、他の3つの感覚はオンラインでは無いんです。

オンラインの良さは、二感に集中できることといえるでしょう。大人数の会議でも、全員顔出しできるので、それが視覚情報として入ってきます。今までの会議ではできなかった点ですね。以前は50人とかの会議だと、4人1組になったら他の人が見えませんでした。それがオンラインのメリットです。なので、このメリットをフル活用しようじゃないかと。

リアルは五感情報が大事です。例えば食事に行き味覚情報を共有する体験は有益ですし、「あのお店に行ったよね」って感覚はオンラインでは作れません。
現状は二感と五感を使い分けるのが大事なのだと、人材育成や人事面で話しています。

特に「見えない・聞こえない」でいうと、受け身の情報が入らなくなったという唐澤さんのお話が大事なポイントです。「あの先輩は午前中に電話をかけている」といったような受け身の情報が入らない点が、オンラインとオフラインの大きな差です。どちらが良い悪いという話ではありませんが。
リアル中心だった会社からすると、オンライン100%にした瞬間にそれが無くなるのは困る、というのがファクトです。

①高頻度会話 ②相互自己開示 ③期待と抜擢

曽山:具体的なアクションとしては、3つの考え方があります。1つ目は高頻度な会話。例えば面談を1on1でやっている話はよくありますが、特に若年層の育成においては、週1でも実は足りないときがあります。毎日5分とか短い時間で高頻度のほうが、若手からの評判が良いケースがあるのです。

2つ目は、相互の自己開示です。トレーナーとトレーニーが自己開示していきます。
自己開示力って圧倒的に若手のほうが上手なんですよ。具体的にいうと、インスタのストーリーズ。自己開示に積極的な若手も多いのです。たとえばサイバーエージェントでは、「MyIR(私のIR)」という取り組みがあります。3ヶ月に一度、活躍している若手10名が、自分の人生や未来について役員全員へプレゼンします。
「僕はこういう想いで入って、1〜2年間の仕事でこういう大変な経験をしたけれど、これからこれにチャレンジしたい」みたいな。このときの自己開示が鋭く、生々しいんです。家族とのこと、自分の挫折など、そういう話をたくさんしてくれます。

自分だったら昔隠していたな、ということも言えるようになってきたのは、ソーシャルメディアによって自己開示がプラスに捉えられるようになった部分があると思います。この自己開示を、先輩側から後輩へやってあげると非常に共感されるのです。

最後は、期待と抜擢です。今はリモートなどにより、若い人がどれだけできるのかわかりません。今までの会社で起きていた権限移譲や抜擢が、「見えないからやらない」となっているのです。だからこそ意図して期待をかけ、抜擢する流れが非常に重要になっているように思えます。

飯田:的確にポイントを説明いただき、ありがとうございます。ただちに実行しやすいな、と大変参考になりました。ちなみに育成を考えた時に、そもそも育成側であるマネージャーやトレーナーの育成も難しいという話もよくありますよね。力のない人が育成しようとしても、おかしなことになってしまう可能性も。

人材育成する人間を鍛えるチェックリスト

飯田:そもそも人材を育成する人に求められるスキルやマインドはどういうものなのか、そしてそれをどのように醸成していけばいいのかお伺いしたいです。曽山さんいかがですか?

曽山:育成する人の育成は、オンラインやリモート時代の今、ものすごい価値が上がっています。そこで僕らも去年、「トレパス」という育成プログラムを作りました。トレーナーに対して、「トレーナーの講座を毎月1回60分だけワークショップをやるので、よかったら参加してください」と言ったら、大体100〜150人ぐらい参加してくれるプログラムです。

何をやったのかというと、まずチェックリストを作りました。もともと活躍しているトレーナーから、トレーナーとして重要な項目を聞き、それを10か条にまとめました。例えば「週イチ面談」「ほめ>つめ」といったように10か条を作りました。

それを基に、トレーニングプログラムにします。例えば「目標設定のワークショップ。トレーナー自身の目標を書いてもらったり、トレーナー同士でディスカッションしたり、またはやり方のフレームを紹介したりするようなワークショップ内容です。

優秀なトレーナーを評価し、ナレッジの共有化を図る

飯田:ちなみにチェックリストを作ったトレーニングでは、育っているかどうかの評価や測定はどのようにやっていますか?

曽山:けっこう難しいですよね、トレーナーが育ったかどうかは。サイバーエージェントでは半年に一回、全社の表彰式があります。売れている営業のMVPや新人賞など10賞ぐらいあるのですが、この中にベストトレーナー賞を2年前ぐらいに新設しました。育てる人を評価しようということで。

「あのトレーナーはすごい」という評判のあるトレーナーにはどんどん票が集まります。
そのトレーナーのノウハウをシェアできれば、横展開していけますよね。全体の底上げのところまではスコアリングできていませんが、優秀な人に光を当て、社内報などでナレッジを共有するところまで進めています。

飯田:なるほど、ありがとうございます。

自社の人材像を明確にし、トレーナーと共有する

飯田:唐澤さんにもぜひお伺いしたいです。いろいろなカルチャーモデルの会社を経験されてこられたと思うのですが、これがベストプラクティスだとか、こうすればマネージャーやトレーナーを育成できるものってありますか?

唐澤:いろいろな育成がありますよね。結局最初の話に戻ってしまいますが、「組織としてどういう人材を育てたいか」という点を解像度高くトレーナーにちゃんと伝えてあげることが大切です。

そこの部分は、マネージャーやトレーナーに伝える内容が、ディレクター・部長などから同じメッセージを伝えていないと駄目です。「俺はこう言われたよ」とマネージャー同士が横で話したときに、インプットされているものと違うことを言い出されると迷うんですよね。僕たちの組織はこうやってマネジメントするし、育成するよって部分を揃えること。そして、どういう判断が僕たちらしい判断なのか基準を揃えてあげること。

メンバーが質問された時にどっちに答えていいのかわからない場合や、「マネージャーはこう言ったけど、部長はこう言った。どうしたらいいですか?」って聞かれるのが一番ツラい。そうならないように、人事が目線を揃えることに時間を使うべきかなと思っています。マネージャー同士、マネージャーや部長の目線などが揃っているように、目線合わせの場を作ってあげる。部長同士でちょっと意見が違うなというときは、部長を集めてどっちにするかしっかり問うことが、人事だからこそできる役目かなと。

上司やトレーナーってある種ズルいと言いますか、権利として後出しジャンケンをできる権利を持つ存在だと思っています。例えばすごいスピーディーに提案を持っていったら、「もっと詰めてから持ってこい!」と言われて、すごい詰めてみたら、「もっと早く持ってこい!」と言えるわけですよ。

これを言われちゃうと、メンバーはどっちが正しいかわからなくて、常に指摘だけの状態になるんです。教えている側も、基準が無いからわかっていません。「ウチは早ければ早いほどいい」という基準があれば、早いことは咎めない。何が自社の正義かという部分を揃えることが大切です。

意外に揃えないままHowの研修に入っちゃうので、結局個々の判断で迷う・ブレるってことが起こります。そういう理由から、そこの揃えが大事かなと思っています。

飯田:なるほど、ありがとうございます。そこを深堀りしていくと、唐澤さんが触れていた「ミッション、ビジョン、バリュー、行動規範を揃えていくのが大事」という話にも繋がってきますよね。

唐澤:そうですね。やはりいろいろな組織を見ると違うんですよ。マクドナルドみたいなマニュアル現場主義みたいな組織の場合、「自律分散型でどんどん考えて、自由な組織を作ろうぜ」ってなると、ある店長が「トマト好きだからハンバーガーにトマト入れます」となって困るわけですよ(笑)。

やはり組織の作り方が根底から違うので、会社ごとに基準を揃えていくのが大事ですよね。

飯田:なるほど。ありがとうございます。

言葉を定義するために、議論の時間を割く

飯田:曽山さんにお伺いします。今「基準を揃える」というキーワードが出てきましたけど、意外と難しいと思うんです。例えば、「素直な人がいい人」という言葉があったとしても、「じゃあ素直って何?」みたいな解釈のブレも生じると思います。

御社のメンバー採用のタイミングも含めて、基準を揃えることを考えた時に、どういう言葉を作り、どのようにメンバーの目線を合わせているのか、教えてください。

曽山:大事なのは、定義を議論すること自体に意味がある、ということです。例えばサイバーエージェントの採用基準は、「素直でいいやつ」というのが何となくあります。だとしたら、新しく採用チームにメンバーが入った場合、みんなの「素直でいいやつ」がどんなものか出してみます。

基本はどの意見も歓迎するスタンスでいいと思います。その中でも共通したものをシェアしていけば、共通項が理解できたことで不安が減るんです。共通項を見つけてあげたり、みんなで意見を出してみたりと。こうした議論を行なうことで、自分の解釈ができるようになり、文脈を握れるようになります。

先ほど唐澤さんのおっしゃっていた「議論する」「定義をすり合わせる」という点がものすごく大事ですよね。定義を議論すること自体にとても意味があります。
いろいろな議論をして、「なんか噛み合わないな、ウチの組織」と思ったら、噛み合っていない単語をみんなで議論すればいいんです。

具体的なものとしては、ミッション、バリューなど。平易な単語であっても、定義を言い換えて出し合ってみた結果、認識のズレが明らかになった。このようなことはよくある話です。

飯田:議論することは、非常に大事ですよね。ルールを作ったからそれで終わりと満足しがちなので。

どうやって挑戦する若手を増やしていくか?

飯田:講演会が、残り10分ちょっとになりました。Q&Aを皆さんからいただいています。
まず、保守的な人材が多い組織だという方からです。「挑戦する人を増やしていくためにはどうすればいいのか教えていただきたい」。特に若手育成がテーマの講演会なので、挑戦する若手を増やすにはどうすればいいのかを、お伺いしていきたいと思います。

曽山: 人は損得で動きますよね。損得勘定って言葉がありますが、僕は「損得感情」とあえて当て字をして考えており、人は得にならないと動かないというのが大原則なんです。

損得感情で「得にできているんだっけ?」と考える。例えば、新規事業プランコンテストでみんな応募してくれない、なぜかというとスライド40枚位必要で、優勝賞金がなんと500円(笑)。ある会社でリアルにあった話なんですよ。
どうやったって応募が増えるわけないじゃないですか。社員が主体的じゃない、動いてくれないと思っているのだったら、もしかして似たようなことが起きているのではないでしょうか。

飯田:たしかにそうですね。意外とやるのが当たり前だとか、当然だろという気持ちで制度やルールを作ってしまいますが、そもそもメンバーが「なぜやるのか?」という点に腹落ちできていないことはよくありますよね。

初めて人事担当者を採用する際のポイントは?

飯田:次の質問へ移ります。この質問は唐澤さんにお聞きします。
「人事担当が不在です。1人目の人事担当者を採用する際に気をつける点があれば教えてください」。中小・中堅の会社だと、採用担当や人事担当を初めて採用されるところも多いと思いますが、どのようなアドバイスがあるでしょうか?

唐澤:1人目の人事はすごく重要ですよね。面接だけして見抜けますかというと、なかなか難しいのが実態としてあります。今の組織において何を補いたいのか、そこを先に定義しておくのがいいと思います。

人事の専門的なものが必要であれば、ひょっとしたら担当者ではなく人事の専門家のようなアドバイザーのほうが、組織規模によってはいいかもしれません。
外から担当者を入れるときは、スキルを採るならスキルセットがフルである人がもちろんいいですが、その方とセットで会社内部に詳しい人を付けてあげるのが大事です。外部から採るなら内部のいろいろなところに顔が利いて、可愛がられている人を下に付けるなど。

その人は外から採った人から人事を学べるので、将来的にその会社の人事になっていけます。一人で人事業務をやるのはツラいので、中長期的に全体の育成を含めたセットで考えていくことが大切です。僕も他社を支援するとき、なるべく内部の詳しい人にセットで付いてもらい、その方が実際に実行し、動かしていくような組み方をすることが多いので。

なんでもできるスーパーマンはいないよ、ということです。

飯田:いや〜そうですよね。人事が大変だから担当を置けば解決するんじゃないかと、大きな期待をもとにやってみたら意外とうまくやれないな、と私も正直思い当たるふしがあります。

唐澤:曽山さんみたいな経営感覚で話せる人事はなかなかいませんよね。その場合、やはり経営がしっかりと人事担当者に付いてあげて、経営の考えをインストールさせ続けることと、現場側から人を付けるのはセットで必要です。専門家を採ればとるほど専門性は高くなるものの、経営からは遠くなりがちです。ですので、その前提で採用するのがいいと思います。

飯田:ありがとうございます。

性格やタイプによって育成方針は変えるべき?

飯田:では次の質問へ行きたいと思います。
「個々人、性格が違うと思います。性格やマネジメントのやり方によって育成の方針が変わっていくのか、あるいは会社としての一律のルールをしっかり設けていけばいいのか」。これについては、いかがでしょうか?

曽山:まず、人のタイプってそれぞれですよね。バリエーションを増やすためのアクションを提供してあげると、マネージャーは喜ぶと思います。
具体的にサイバーエージェントが2006年ぐらいにマネージャーのみんなでやったものとして、ストレングス・ファインダーがあります。これは本でも売られていますね。ストレングス・ファインダーは「34項目の中から5つあなたの強みが出ます」という話なので、マネージャー200人を集めて強みを出してみて、そのうえでグループワークなどを実施しました。そうすると、人が違うことが理解できるんです。

ストレングス・ファインダー以外だと、エニアグラムもありますね。私はエニアグラムオタクでして、1番は完璧主義者で、3番は目立ちたがり屋といったように…。

唐澤:僕もやっています。

曽山:1番ですか?

唐澤:僕は2番です(笑)。

曽山:2番は博愛主義者で、周りへの配慮ができるタイプです。このように、それぞれ全タイプに強みと弱みがあります。エニアグラム勉強会や60分勉強会を、興味のある部署で実施しています。事業責任者やメンバーを集め、「1番の人はここ、2番はここに座ってください」と並んでもらい、話し合います。

「1番ですが、たしかに合っています!完璧主義で神経質です(笑)」みたいに、みんな言うんです。そうすると、自分と人が違うことが認識できます。とにかく、自分と他人が本当に違うということを認識するために、こうしたツールを使用し、みんなで話す。これも一つの共通言語だと思います。これだけで他者理解が進むので、マネジメントがしやすくなるんです。

飯田:そうですよね。先ほどのお話にもあったように、相互の自己開示が大事ですよね。

曽山:そのヒントにもなりますよね。

飯田:はい。モデレーターを務めていますが、私も実は組織運営にかなり苦労した時期があり、離職率が3割ぐらいまでいった時期がありました。今は離職率が5%ぐらいで、エンゲージメントもグッと上がってきたところですが、やはりお互いのことを知る、そして相互開示をしていくことは、一つキーポイントだったと思っています。

僕らは自社で「ミキワメ」という人の適正やオリジナルの才能を明らかにする技術を自社で提供していますが、エニアグラムでもいいと思います。エニアグラムは簡単に使えるというメリットもありますし、ぜひ皆さんにも試していただければと思います。

若手を抜擢する際の判断基準は?

飯田:では、最後の質問です。若手を抜擢していくお話がありましたが、抜擢するのは勇気がいると思います。抜擢といっても限度があるわけで、どういう人であれば上に上げられるのか、あるいはどういう人はまだなのか、そこの判断基準をお伺いしたいと思います。

唐澤さん、そして曽山さんという順番でお願いします。

唐澤:僕は基本的には抜擢する前提で、どういうポテンシャルがあるのか見ていきながら、「ここならいけそうだ」と思ったらまずやらせてみて、駄目だったら違う道を作ってあげます。
準備を早めにしておくことと、やらせたときにトレーナーがセットで付くことが重要です。育成トレーナーやマネージャーにしっかり責任をもたせるのが大事だと思います。本人だけで可能な努力というのは、すべてじゃないんですよね。僕も28歳の時に、周りに40代しかいない状態でマクドナルドの部長になったことがあります。本当に僕なんかにできるのかと怖かったですし、大きいプロジェクトに失敗した経験もありました。でも、今ではそれがあったから、そのあと頑張れたと思っています。

会社にも迷惑かけましたが、周りもサポートしてくれました。最終的にはいい経験だってことになるので、僕はどんどん抜擢する前提で考えたらいいと思っています。

皆さんの質問を読ませていただきながら、本当に皆さん優しいなと感じました。「どうしてあげたらいいか?」「どう学習を促したらいいのか?」など、いろいろなご意見をいただいているのですが、「突き放してやらせてあげればやりますよ」ということです。
答えを出さずに「どうすればいいのか考えてごらん」というのは、こっちもモヤモヤしてツラいですが、そこを組織として一貫してやり続けることができれば、抜擢して本人が悩むのは当然、うまくいかなくて当然、じゃあ周りがサポートしていきましょうという流れに。そういう意味での突き放しをしっかりやるのがいいと思います。

飯田:突き放しって大事ですよね。社会の動向的にはケアリングな傾向になってきていますが、一方できちんと指摘したり考えさせたりしないと、なかなか成長していきませんよね。

唐澤:サポートとフィードバックがセットですね。環境としては突き放すけど、サポートとフィードバックは徹底する感じです。

飯田:ありがとうございます。曽山さんいかがでしょうか?

抜擢によるプラス・マイナス点を見極めてみよう

曽山:抜擢は難しいポイントですよね。怖いという気持ちもよくわかります。ポイントは、任せたときのプラスと失敗したときのマイナス、これを見ることです。
プラスのほうが大きければ任せたほうが良い。マイナスのほうが大きいようなら、マイナスのセーフティーネットを置いておく。例えば金額だったらキャッシュで上限を設けるとか。

抜擢がなんのためかというと、基本的にはその人の育成目的ではありません。大事なことは、チームと個人が業績を上げることなんです。業績を上げるために抜擢が必要なので、もし抜擢しなくても業績が上がるなら、抜擢しなくてもいいと思います。ただ、そんな時代ではないので、抜擢しなきゃいけないという決断を下す。決断した以上はプラマイで考え、プラスだったら実行します。

飯田:ありがとうございます。本当に金言の数々をいただいたと思います。
早いものでお時間となりました。

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