人手不足が続き、優秀人材の獲得が困難になる現代において、出戻り社員を再雇用する企業が増えています。
出戻り社員とは「何らかの理由により一度退職し、その後再雇用された社員」のことです。出戻り社員は、採用ミスマッチのリスクが低く、即戦力として活躍が期待できるなどのメリットを持つ反面、一部社員のモチベーションを下げるデメリットも併せ持ちます。
そこで本記事では、出戻り社員のメリットやデメリット、再雇用時の注意点、企業の成功事例などを中心に解説します。
出戻り社員とは?
出戻り社員とは「何らかの理由により一度退職し、その後再雇用された社員」のことです。
再雇用の条件は企業によって異なり、「正社員としての勤続年数が◯年以上」「育児や介護、配偶者の転勤による自己都合退職」などが一般的です。
かつては「一度辞めた元社員を再雇用する=裏切り者を再雇用する」として、否定的な見方の多かった出戻り社員ですが、人材の流動化や人手不足などを背景に、現在では「出戻り社員=貴重な人的資源」として認識され始めています。
参考:MS-Japan|増える出戻り社員の採用!採用するメリットや具体的な事例
出戻り社員を歓迎する企業!その理由とは?
エン・ジャパン株式会社の調査「企業の出戻り(再雇用)」では、出戻り社員を再雇用したことがあると回答した企業は72%でした。10社に7社が出戻り社員を受け入れている計算になります。
再雇用する理由としては、「即戦力を求めていた(72%)」「人となりがわかっていて安心(68%)」という意見が大多数でした。
企業は慢性化する人手不足に対応しなければならないものの、優秀人材の獲得が困難であるというジレンマに陥っています。そこで、人となりがわかっている元社員を即戦力として雇用することで、人手不足の解消と採用ミスマッチの防止を図る狙いがあります。
参考:エン・ジャパン|企業の出戻り(再雇用)実態調査2018
出戻り社員とアルムナイ採用・カムバック採用・ブーメラン採用は違う?
「即戦力となる」「採用ミスマッチが少ない」などの理由から、一度退職した元社員を出戻り社員として積極採用する手法が注目されているという話を、先ほど説明してきました。
採用手法の名称は企業によりさまざまで、「アルムナイ採用」「カムバック採用」「ブーメラン採用」などと呼んでいる企業も存在します。各用語の意味は以下のとおりです。
アルムナイ:卒業生・同窓生・校友のことで、転じて「退職・転職したOB・OG」という意
味。退職者との協業や再雇用の形で継続的なつながりを持つこと。
カムバック:退職や転職をした元社員が、元の地位や部署に復帰すること。
ブーメラン:以前働いていた会社にブーメランのように戻って、即戦力として活躍するこ
と。
いずれも出戻り社員を採用する手法を指しており、大きな意味の違いはありません。
参考:産経新聞|(6)「アルムナイ」 同窓生の再雇用にメリット
参考:日経新聞|シャープ、退職社員のカムバック制度 技術者を対象
参考:NIKKEI STYLE|「ブーメラン社員」即戦力に 退職女性を再雇用
出戻り社員を受け入れるメリット
企業が出戻り社員を積極的に採用するのは、以下のメリットが存在するからです。
- 即戦力が手に入る
- 採用のミスマッチが防げる
- 採用コストを削減できる
- 他社のノウハウや知見を自社に取り入れられる
それぞれ詳しく解説していきます。
メリット1.即戦力が手に入る
出戻り社員は、自社で培った知識に加えて、退職後に積み重ねた経験やスキルを兼ね備えた人材です。
自社の社内ルールや業務システムにも慣れているため、新規入社の社員に比べて教育期間を短めに設定でき、雇用後すぐに戦力としての活躍が期待できます。
メリット2.採用のミスマッチが防げる
出戻り社員は、会社のことを十分理解しているため、採用ミスマッチが起こりにくい人材です。
新卒・中途採用では、自社に対する思い込みや理想が先行してしまい、思い描いた会社と違えば離職する可能性も考えられます。
一方で出戻り社員は、強みも弱みも含めて企業を十分理解したうえで再雇用を望んでいるため、「思っていた会社と違う」と早期離職するリスクが低い人材といえるでしょう。
参考:en-gage|出戻り社員とは?今、注目される理由とメリットを解説!
メリット3.採用コストを削減できる
出戻り社員の選考では、採用工数や外部サービスの利用がほとんど必要ないため、採用コストを削減できるメリットがあります。
新卒採用では就活ナビサイトの運営費用がかかり、中途採用では人材紹介会社を介すると、採用人材の年収の20〜30%程度の紹介手数料が発生します。
一方、出戻り社員の選考では「元社員の直接応募」「元上司・同僚からの紹介」などが多いため、外部サービスにコストをかけずに募集・選考・採用を実施できます。
実際にエン・ジャパンによる出戻り社員の調査によると、再雇用のきっかけは「本人からの直接応募(59%)」「元上司からの紹介(31%)」「元同僚からの紹介(25%)」が上位3つを占めています。
メリット4.他社のノウハウや知見を自社に取り入れられる
出戻り社員は、退職後の会社で得たノウハウや知見を持つ貴重な人材です。
他社で蓄積したノウハウや知見、技術などを自社に取り入れられれば、組織の成長に大きく役立つでしょう。
また、出戻り社員は退職や転職を経験しているため、キャリアアップや仕事上の悩みをサポートするメンターとしての活躍も期待できます。
参考:マンパワーグループ|元同僚がターゲット 注目のアルムナイ採用とは
出戻り社員を受け入れるデメリット
多くのメリットを持つ出戻り社員の雇用ですが、受け入れにあたってはデメリットがある点も押さえておきましょう。
ここでは、主なデメリットを2点ご紹介します。
デメリット1.現役社員のモチベーションを下げる
出戻り社員は、退職前の実績や他社の経験を考慮したうえで役職・給与・待遇などが決定されます。ところが、本人の実力やポテンシャルに相応しくない待遇である場合、「一度会社を辞めた人を手厚く迎えるのか」と現役社員のモチベーションを下げる可能性も考えられるでしょう。
出戻り社員を受け入れる場合は、現役社員への配慮を忘れず、公平性を保って再雇用することが重要です。
参考:MS-Japan|増える出戻り社員の採用!採用するメリットや具体的な事例
デメリット2.必ずしも良い結果になるとは限らない
出戻り社員を採用したからといって、必ずしも良い結果になるとは限りません。例えば、次のようなケースでは、出戻り社員の再雇用が裏目に出ると考えられます。
- 他社での経験やノウハウを自社で活かせない
- 以前勤めていた際に使用していたツールやシステムが刷新されているため、現行の方法に順応できない
- 過去の実績や地位に固執して偉そうにする
- 待遇に相応しい働きをせず怠ける→周囲の現役社員から不平不満が出るようになり、社内のモチベーションが低下する
採用ミスマッチや社員間のトラブルを防ぐためにも、退職前と大きく変わった点や配属部署の現状などを選考段階で説明するよう心がけましょう。
出戻り社員を再雇用するための採用手段とは?
出戻り社員の再雇用を円滑に行うためには、以下の2通りの採用手段が考えられます。
- 出戻り社員向けの再雇用制度を構築する
- 出戻り社員のコミュニティを設ける(アルムナイネットワーク)
それぞれみていきましょう。
1.出戻り社員向けの再雇用制度を構築する
1つ目の手段が、出戻り社員向けの再雇用制度の構築です。制度構築にあたっては、中途採用やリファラル採用の制度を流用せず、独立した制度にすることが重要です。
また、再雇用制度では、採用基準や条件、入社後の待遇などを明確に定めておきましょう。具体的な項目例は以下のとおりです。
【採用基準や条件】
- 退職理由(例:自己都合、配偶者の転勤、育児、介護など)
- 退職後の経過年数(例:◯年以内)
- 資格やスキル(例:TOEIC750点以上)
【入社後の待遇】
- 給与
- 役職やポジション
- 仕事内容
- 教育研修の実施有無
2.出戻り社員のコミュニティを設ける(アルムナイネットワーク)
2つ目の手段はアルムナイネットワークの構築です。アルムナイネットワークとは、退職後のOB・OGで形成されるコミュニティを意味します。
例えば、退職後の元社員が定期的にコミュニケーションを交わしたり、現役社員とも意見交換したりするようなコミュニティや交流サイトのことです。
アルムナイネットワークがあることで、退職後の元社員と定期的に交流できるため、企業が必要なタイミングで再雇用を打診できます。
退職後の元社員は「戻る場所がある」と安心感を得られ、現役社員は「退職後も活躍している先輩のように頑張ろう」とモチベーションアップに繋がる点も、アルムナイネットワーク構築の魅力の一つです。
出戻り社員は嫌われる?出戻り社員を受け入れる際の注意点
出戻り社員の調査では、出戻り社員に対するネガティブな反応(「あまり良くない」「とても悪い」)は全体の9%であり、ごく少数でした。
ただし、出戻り社員の再雇用によって、組織やチームに何かしらのマイナス影響が出る可能性はゼロではありません。マイナスの影響を生み出さないためにも、出戻り社員を受け入れる際には以下の2点に注意しましょう。
- 出戻り社員の待遇・給与は公平にする
- 出戻り社員の退職理由や出戻り期限を明確にする
それぞれ解説していきます。
注意点1.出戻り社員の待遇・給与は公平にする
高いスキルを持ち、社外で多くの経験を積んだ出戻り社員だからといって、過度な厚遇は要注意です。現役社員が、出戻り社員の待遇や給与などで不公平感を抱けば、社内全体のモチベーションや士気の低下、またはチームワークの乱れに繋がります。
再雇用制度を入念に設計することで、出戻り社員の待遇や給与について、現役社員や他の出戻り社員とも公平性を保てるように試みましょう。
注意点2.出戻り社員の退職理由や出戻り期限を明確にする
「以前勤めていたから」という理由だけで、誰彼かまわず出戻り社員として歓迎してはいけません。また、曖昧な理由で再雇用を決めてしまうと「簡単に戻れる会社なんだ」と現役社員にネガティブな印象を与えてしまいます。
そのため、再雇用制度を設計できない場合でも、出戻り社員を再雇用する基準として、「退職理由」「出戻り期限(退職後の経過年数)」「求めるスキル・資格」などを明確に定めておきましょう。
一定の基準を設けることで、現役社員への説明材料となり、安心して出戻り社員を迎え入れることが可能です。
出戻り社員を歓迎する企業事例
最後に、出戻り社員を貴重な人的資源として歓迎している企業事例を3つご紹介します。新たに制度設計を検討していたり、制度の見直しを予定していたりする企業は、ぜひ参考にしてみてください。
事例1.コクヨ|自己都合退職者再雇用制度
文房具・事務機器の製造会社であるコクヨでは、自己都合退職者に向けた再雇用制度を設けています。
再雇用の条件は幅広く、「結婚・出産・育児・介護・配偶者の転勤・留学・ボランティア・転職、及びその他会社が認めた事由」により自己都合退職した正社員を対象としています。
制度導入の目的は、元社員がコクヨの外で過ごした間に得たスキルや経験を、コクヨに還元することです。
事例2.KDDI|退職者の再雇用制度
大手通信会社であるKDDIでは、2008年4月から「退職者の再雇用制度」を導入しています。
再雇用の条件は、「正社員としての勤続年数が1年以上であること」「退職事由が結婚、出産、育児、介護、看護、配偶者の転勤」などです。
制度導入の目的は、退職した社員がKDDIで培った知識やスキルを即戦力として生かすことにあります。
事例3.明治|リ・メイジ制度
大手食品会社の明治では、広がるダイバーシティへの取り組みとして、退職後も再就職が可能な「リ・メイジ制度」を2020年4月以降の採用から導入しています。
再雇用の条件は、「正規従業員として3年以上勤務した後に退職した人物であること」です。
同社は、退職後に培った知識や経験を社内の活性化や新たな価値創出に繋げたい理由から、出戻り社員を積極的に採用しています。
参考:株式会社明治|広がるダイバーシティへの取り組み 退職後も再就職可能な「リ・メイジ制度」を導入 2020年4月1日付採用より
まとめ
即戦力としての活躍が期待される出戻り社員は、人手不足や優秀な人材の確保に悩む企業にとって大きな助けとなります。
ただし、実績に見合わない待遇や給与で出戻り社員を受け入れることは、現役社員のモチベーションを低下させる一因となるため、出戻り社員を雇用する際は、入念な再雇用制度の設計が求められます。
出戻り社員を適切に再雇用し、企業のさらなる成長へと繋げていきましょう。
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