報酬制度の決め方は、従業員のモチベーションや定着に大きく関わるため、企業経営の持続や発展にとって重要なものです。報酬制度に関する基本的な知識を身につけたうえで、適切に決めていきましょう。
この記事では、報酬制度の決め方について、報酬制度を設ける目的や種類、運用する際の注意点も含めて解説します。
報酬制度とは?
報酬制度とは、人事評価や等級、貢献度をもとに、従業員に支払う報酬を決定する制度です。
報酬とは主に以下のものを指します。
- 給与
- 賞与
- 退職金
- 福利厚生
報酬制度は企業の成長に大きく関わるものであるため、従業員の働きや成果に見合うように設定することが重要です。
また、業界や地域の水準と照らし合わせても、適正になるようにしなければなりません。定期的に制度が適正かどうかを見直して、改善していきましょう。
報酬制度を設ける目的
報酬制度を設ける主な目的は以下の3つです。
- 従業員のモチベーションを高める
- 人件費を適切に管理する
- 人材を定着させる
それぞれについて解説します。
従業員のモチベーションを高める
報酬制度を設けると、どのような働きをすれば高い報酬を得られるかを、従業員が理解できます。そのため「仕事を頑張って給料を上げよう」と考えるようになり、従業員のモチベーションが高まるでしょう。
企業としては、目標を達成できるように報酬制度を設計すれば、従業員に期待どおりに行動してもらえます。
人件費を適切に管理する
報酬制度を設けることで、人件費を適切に管理できます。例えば、かつては一般的だった年功主義に基づく報酬制度では、働きぶりや成果とは関係なく、年齢や勤続年数に応じて報酬が決められていました。
一方、適切な報酬制度のもとでは、生産性の高い従業員に対する報酬を上げつつ、報酬を人件費の予算内に収めるようにコントロールできるでしょう。
人材を定着させる
報酬制度があると、将来の給料を予測でき、人生設計を立てやすくなるため、人材の定着につながります。従業員が報酬の決め方に納得感を得られれば、いまの企業で長く働きたいと考えるようになるでしょう。
また、新規採用時にも、適切な報酬制度があることを伝えれば、優秀な人材が集まる可能性があります。
報酬制度の種類
報酬制度の種類は、以下の4つです。
- 給与
- 賞与
- インセンティブ
- 諸手当
それぞれについて解説します。
給与
給与には大きく分けて以下の3種類があります。
- 基本給:基本となる報酬で、残業代、賞与、退職金を算出する際のベースともなります。年齢、勤続年数、学歴、能力、業績などから決定されることが一般的です。
- 能力給:知識、スキル、経験などに応じて、基本給に上乗せする形で支給されます。
- 職務給:役職、専門職などの価値に応じて支給されます。
賞与
ボーナスとも呼ばれ、毎月の給料とは別に支払われます。企業の業績、基本給、個人の評価などによって決定される報酬です。
夏と冬の年2回に「基本給の⚪︎か月分」として支給されるのが一般的です。ただし、賞与の支給がない企業や、利益によって金額が変動する企業など、さまざまなケースがあります。
インセンティブ
インセンティブは、給与や賞与とは別に、個人が上げた成果に応じて支給される報酬です。インセンティブがあると、モチベーション向上の原動力となります。
給与や賞与は金銭的報酬であることが一般的ですが、インセンティブは、表彰やストックオプション、休暇や海外研修などの非金銭的報酬とする企業もあります。
諸手当
諸手当には、基本となる報酬を補完する役割を持つ、次のようなものが該当します。
- 交通費
- 住宅手当
- 家族手当
- 残業代
- 休日出勤手当
- 退職金
このうち、交通費、住宅手当、家族手当などは福利厚生の一環でもあります。
報酬制度の決め方
報酬制度は、以下の7ステップで決めていきましょう。
- 現状を把握する
- 報酬制度と評価制度の整合性を確認する
- 報酬体系を設計する
- 基本給を設定する
- 報酬・賞与テーブルを設計する
- 運用できるかシミュレーションする
- 従業員に理解してもらう
それぞれについて解説します。
1. 現状を把握する
報酬制度を設計しなおす場合は、現状を把握することから始めましょう。
現在の報酬制度がどのようなものなのか、どのような課題を抱えているのか、今後どのような報酬制度を目指すのかを明確にします。
経営層や人事部で分析と把握を行いますが、報酬を受け取る当事者である従業員の意見も集めたほうがよいでしょう。
報酬制度について思うことや、モチベーションを上げるための報酬制度について、匿名のアンケートを実施するのが効果的です。
2. 報酬制度と評価制度の整合性を確認する
報酬制度の現状を把握できたら、報酬制度と評価制度の整合性を確認しましょう。
報酬制度と評価制度が見合っていない場合、従業員の努力や成果が報酬に反映されておらず、従業員が不満を抱いているおそれがあります。
例えば、年功主義に基づいた報酬制度では、優秀な中途採用者であったとしても、勤続年数の短さを理由に報酬が低くなってしまうでしょう。
3. 報酬体系を設計する
次に、報酬体系を設計していきます。公平性が高く、企業の目標に沿った基準を作成しましょう。根拠となるのは、内部要因と外部要因です。
内部要因では、企業が重視することに基づいて報酬体系を決めていきます。例えば、成果を求める企業であれば、成果を上げた従業員を評価できるように、インセンティブやボーナスの水準を上げましょう。
従業員の定着を目指すには、勤続年数に応じて報酬を上げる方法が考えられます。
一方、外部要因では、地域や同業他社との比較が基準となります。例えば、周辺地域や、同業他社の水準よりも自社の報酬設定が低ければ、優秀な人材は獲得できません。外部の水準とのバランスを考慮した報酬体系を設計することが重要です。
4. 基本給を設定する
報酬体系を設計したら、基本給を設定しましょう。基本給は、等級制度と連動させると公平性が保たれ、従業員からの不満が出にくくなります。
基本給は、残業代、賞与、退職金などを算出する際のベースにもなるため、等級に応じてほかの報酬も決まります。
等級制度と連動した基本給のもとでは、従業員は等級を上げるために努力するようになるでしょう。
5. 報酬・賞与テーブルを設計する
報酬テーブルは、基本給、能力給、職務給などについて、具体的な支給額を決定して一覧表にしたものです。
昇格による給与変動、年齢構成や組織体制が変更した場合などについてもシミュレーションしたうえで、人件費への影響も考慮して設計します。
賞与テーブルも基本給と同じく、等級に応じて設計するとよいでしょう。ただし、基本給とは異なり業績に応じて変動する可能性があるため、ある程度の幅を持たせて設計してください。
6. 運用できるかシミュレーションする
報酬制度が決まったら、金銭的に無理なく、中長期的に運用できるのかをシミュレーションしましょう。
確認すべきポイントは以下のとおりです。
- 業績・組織構造の変化に応じて報酬水準が保てるか
- 評価制度・就業規則・福利厚生などの関連する制度との整合性があるか
7. 従業員に理解してもらう
報酬制度が完成したら、実際に運用を始める前に、従業員への周知を図り、理解してもらわなければなりません。
報酬制度は、従業員の生活に大きく影響するもので、モチベーションも左右します。文書での通知だけではなく、説明会を開催して、報酬制度を変更する目的や将来への影響などを伝えましょう。
報酬制度を運用する際の注意点
報酬制度を運用する際の注意点は、以下の3つです。
- 自社にふさわしい報酬制度を導入する
- 報酬制度を評価制度と連動させる
- 公平なインセンティブを設定する
それぞれについて解説します。
自社にふさわしい報酬制度を導入する
報酬制度を運用する際には、自社にふさわしい報酬制度を導入することが重要です。
年功主義や成果主義など、さまざまな考え方に基づいた報酬制度がありますが、他社のまねをしてもうまくいかないでしょう。
例えば、社内での競争よりも団結力を重視する中小企業においては、突然、成果主義を導入しても企業文化に合わず、退職などの問題が引き起こされてしまうかもしれません。
必ず自社の規模、文化、風土に合った報酬制度を導入しましょう。
報酬制度を評価制度と連動させる
評価をもとにして報酬が決定されれば、従業員のモチベーションは向上し、自ら努力するようになります。
反対に、報酬制度と評価制度が連動していない場合、頑張っても報酬は上がらないと認識され、従業員のモチベーションは低下してしまいます。報酬制度は必ず評価制度と連動させましょう。
公平なインセンティブを設定する
インセンティブは、どの従業員にとっても公平なものを設定しましょう。
具体的には、以下の点に注意が必要です。
- 特定の部署のみにインセンティブを設定しない
- インセンティブが発生する根拠を明らかにする
公平なインセンティブを設定することで、従業員からの理解を得られるでしょう。
報酬制度の決め方を理解して従業員の納得感を高めよう!
報酬制度の目的には、従業員のモチベーションを高める、人件費を適切に管理する、人材を定着させるなどがあります。報酬制度を適切に決めるためには、従業員の現状を正確に把握する必要があります。
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