トラブルを起こした社員がいた際、企業は懲戒処分を検討する必要があります。
しかし、明確なルールがないと、社員を罰する根拠がなく、思い通りの対処が難しくなることをご存知でしょうか。
いざというときの対応に困らないためにも、指標となる「就業規則」について深く理解しておく必要があります。
そこで当記事では、就業規則の意味やその目的について徹底解説しました。就業規則を正しく理解したい方は、ぜひ参考にしてみてください。
就業規則とは?
就業規則とは、社員の労働条件や服務規律などを定めた経営規則です。
社員一人ひとりに個別の労働条件を定めることは非効率であるため、画一的な規則として就業規則は重要といえます。
かつては50人以上の労働者を雇用する企業に対してのみ、就業規則の作成義務がありました。
しかし、現在では常時10人以上の社員を持つ企業に、就業規則の作成義務があります。
もちろん、10人未満の労働者しかいない場合でも、就業規則を作成した方がトラブルに対して明確な対応が取れるため、就業規則の作成が推奨されています。
就業規則が必要な理由
就業規則が必要な理由は、主に以下の4点です。
- 企業の秩序維持のため
- 問題をスムーズに解決するため
- 企業の責任を果たすため
- 企業の利益を守るため
それぞれ解説していきます。
企業の秩序維持のため
就業規則は、企業の秩序を守るために必要なものです。
規則がなければ、社員が好き勝手な行動をとる可能性があるためです。
あらかじめどのような条件で雇用するのか、どのようなルールで業務にあたるのかを決めておくことで、企業内の秩序を守れます。
実際に就業規則違反で処分された事例をご紹介します。
下記ニュースをご覧ください。
「つくばエクスプレス(TX)」の運行を監視する総合指令所の副所長が勤務中に業務外の動画サイトなどを会社のパソコンで閲覧したとして、減給1カ月の処分を受けていたことが、「首都圏新都市鉄道」(東京都千代田区)などへの取材で分かった。
上記は、企業内の就業規則に定めていた職務専念義務に違反とした社員が、就業規則に従って処分された事例です。
問題をスムーズに解決するため
問題が生じた際、スムーズな対応を図るために就業規則は重要です。
就業規則が無い場合、社員が不適切な行動をした場合、どのような行動が不適切だったか企業側は明確に提示できません。
違反行為を違反とみなすために、就業規則は設けるべきなのです。
上記の理由から、就業規則は本来常時10人以上の場合に作成義務が生じますが、10人未満の場合でも作成が推奨されています。
トラブルが起きてしまってからでは対応が難しくなるので、リスク管理の一部として就業規則の作成は重要といえるでしょう。
企業の責任を果たすため
企業の責任を果たすためにも就業規則は重要です。
企業には、そもそも法的に果たすべき責任が課されています。
企業が就業規則の中に法で定められている事柄を含めることは、そのまま企業の責任を果たすことにつながるのです。
企業の利益を守るため
企業の利益を守るためにも、就業規則は機能します。
たとえば、機密情報の漏洩を禁じる内容や、ダブルワークの禁止などを就業規則に盛り込んでいれば、社員の行動をある程度制限でき、企業の利益を守れます。
もちろん、賃金の支払いや社員の休職など、柔軟な対応ができるように就業規則を作っておくことも重要です。
社員が満足して働ける環境を整えることは、そのまま企業の利益向上に寄与するでしょう。
就業規則を作成しないことで生じるデメリット
ここまでは就業規則の必要性について紹介してきましたが、実際、就業規則が無いとどのようなデメリットが生じるのでしょうか。
先に結論を申し上げると、以下の3点のデメリットが考えられます。
トラブル発生時に解決が困難になる
問題を起こした社員への懲戒が困難になる
遅刻・早退に対する賃金控除ができない
それぞれ詳しく解説していきます。
トラブル発生時に解決が困難になる
トラブルが発生した際に明確なルールが存在しないと、解決が困難になります。
就業規則にて、「〜については禁止とする」「〜をした場合にはこのような対処をする」と明記しておくことが重要です。
また、就業規則を周知しておくことで社員の行動を制限でき、トラブル発生も最小限に抑えられるでしょう。
問題を起こした社員への懲戒が困難になる
問題を起こした社員への懲戒も、就業規則がないと難しくなります。
社員への懲戒は特にデリケートな問題です。
明確な基準がなければ、社員も「なぜ自分が処罰を受けたのか?」と納得しないでしょう。就業規則で懲戒の基準を定めておけば、問題発生時の対応にも困りません。
就業規則をきちんと作成し、周知しておくことで、もしものときの懲戒処分を適切に行うことが可能になるのです。
遅刻・早退に対する賃金控除ができない
また、就業規則が無いと、労働時間の明確な決まりがないため、遅刻や早退によって労働時間が短くなった際に控除ができません。
要するに、賃金を正当に支払うためにも就業規則は必要というわけです。
参考:社労士が解説! 就業規則とは?就業規則の基礎知識 – 名古屋の社労士 社会保険労務士法人とうかい(就業規則・各種手続)
就業規則に記載する事柄
就業規則の中身は企業によって様々ですが、記載する項目はほとんど同じです。記載項目は大きく以下の2つに分かれています。
- 絶対的必要記載事項
- 相対的必要記載事項
ここからは、それぞれの特徴について解説していきます。
絶対的必要記載事項
絶対的必要記載事項とは、就業規則に必ず記載しなくてはならない項目を指します。具体的には、
始業及び終業の時刻
休憩時間
賃金の決定や計算方法
賃金の支払い方法
退職に関する事項
昇給に関する事項
といった項目が該当します。
相対的必要記載事項
一方、相対的必要記載事項は、決まりを作る場合に企業が記載しなくてはならない項目のことです。
具体的な項目としては、
退職手当に関する事項
臨時の賃金(賞与)について
最低賃金に関する事項
食費・作業用品などの負担に関する事項
安全及び衛生に関すること
表彰
制裁
職業訓練に関する事項
などが該当します。
就業規則において絶対的な記載義務はなくとも、企業側と労働者の認識を統一しておくべき事柄は、相対的必要記載事項となりえるのです。
参考:労基法89条
就業規則の作成方法
就業規則の作成方法については、以下の3種類が存在します。
- モデル就業規則を使用する
- 社内で作成する
- 社労士・弁護士に作成してもらう
1つずつ説明していきます。
モデル就業規則を使用する
まずは、モデル就業規則を利用する方法です。
モデル就業規則とは、厚生労働省労働基準監督課が作成している就業規則のモデルのことです。
モデル就業規則をアウトラインにしながら、内容を自社に適用させていくことで、就業規則を作成できます。
興味のある方は、厚生労働省のホームページからモデルをチェックしてみてください。
参考:モデル就業規則
社内で作成する
社内で独自に就業規則を作成する方法も存在します。
その際は、社内の人事・総務などが就業規則を作成することになるでしょう。
もともと就業規則があり、新しく作成する場合は、過去の就業規則の問題点を洗い出し、すべての問題点を改善した就業規則を作る必要があります。
その際は、経営陣と共に就業規則の内容に見解の違いがないか確認する必要もあるため、ご注意ください。
社労士・弁護士に作成してもらう
最後の方法としては、社外の社労士・弁護士に依頼して、就業規則を作成してもらうという方法です。
ただし、依頼する場合は別途費用が必要になります。
報酬相場としては、20万円以上を見ておいた方がいいでしょう。
どうしても費用を割けない場合は、モデル就業規則の利用か、社内で作成することをおすすめします。
就業規則の作成における注意点
就業規則の作成に失敗しないために、注意すべき3つの点について紹介していきます。
法律で決まっている基準を下回る規則は作れない
まず、前提として法律で決まっている基準を下回る規則は作れません。
最低賃金がわかりやすい例でしょう。もし、最低賃金以下の条件で雇用し、その条件に労働者が同意したとしても、その就業規則は法律違反として無効にされます。
就業規則を作成する際は、現在の法律と照らし合わせながら作成する必要があることを覚えておきましょう。
安全や衛生に関して注意する
労災事故の発生しやすい職場においては、安全や衛生に関する事項に注意が必要です。
労働者の不注意で事故が起きた場合でも、就業規則が定まっていない場合は損害賠償請求されるケースがあるため、あらゆる場面を想定して規則を作成しなくてはなりません。
外国人の雇用に関する規定を明確にしておく
外国人を雇用する際は、各種確認に関する規定などをしっかり定めておきましょう。
言葉の問題で就業規則をうまく周知できない場合、困るのは企業側です。
外国人を雇用する可能性がある場合は、英語など外国語で翻訳した就業規則の用意を検討してみてください。
就業規則の届出について
作成した就業規則は、労働基準監督署に届け出ます。
届出期限は定められていませんが、作成後遅滞なく届け出ることが必要とされているため、作成後は速やかに提出しましょう。
補足:モデル就業規則を利用する際のポイント
費用を抑えたい場合、モデル就業規則を利用するケースが多く見られます。しかし、使い方を誤れば、無理のある内容や、不適切な就業規則の出来上がる可能性があります。
そのため、正しくモデル就業規則を使用できるように、注意すべきポイントをまとめました。
以下の項目に注意して、モデル就業規則を活用してみましょう。
- 就業規則の適用範囲
- 有給休暇
- 副業
- 懲戒
順を追って説明していきます。
就業規則の適用範囲
就業規則では、就業規則を正社員にのみ適用させるのか、契約社員やパートにも適用するのかを明確にしておく必要があります。
モデル就業規則は、上記の境目が曖昧な状態で設定されているため、モデル就業規則を使用する際は、まず適用範囲の明記を忘れずに行いましょう。
有給休暇
有給休暇の記載も必須です。
特にパートタイマーなどを正社員と同じ有給休暇の規定にするのか、別の規定を適用するのかを明確にしておきましょう。
パートタイマーに対する有給休暇の規定を新たに作成する場合は、正社員と同様、モデル就業規則に照らし合わせて作成してください。
副業
モデル就業規則には、労働者自身が事業を起こし、ダブルワークfすることが想定されていません。
そのため、モデル就業規則を使用する場合は、副業に関する規定を明記しましょう。
具体的には、そもそもどういった行為を副業と定めるのか、副業を認める場合は許可制にするのか、などを記載しておく必要があります。
懲戒
懲戒とは、企業が定めたルール(就業規則)に違反した場合に下される制裁のことです。
懲戒の種類としては、戒告・減給・解雇などがあります。
懲戒を明記しておかないと、社員の犯した違反行為に対する処罰の基準が不明確となるため、のちのち社員とのトラブルが生じてしまいます。
また、モデル就業規則には、現在の社会事情とマッチしていない要素が複数あります。
ハラスメントが一例として挙げられます。セクハラについての記載はモデル就業規則にありますが、パワハラやモラハラなどの他のハラスメントについては、明記されていません。
ハラスメント関係はデリケートで問題に発展しやすいため、各種ハラスメントに対する就業規則は忘れずに作成しておきましょう。
まとめ
就業規則とは、社員の労働条件や服務規律などを定めた経営規則です。 就業規則が必要な理由は以下の4点です。
企業の秩序維持のため
問題をスムーズに解決するため
企業の責任を果たすため
企業の利益を守るため また、就業規則の作成方法としては、以下の3つが挙げられます。
モデル就業規則を使用する
社内で作成する
社労士・弁護士に作成してもらう モデル就業規則を使用する場合は、企業や社会の実状に照らし合わせて自社独自の就業規則を作成するよう心がけてください。
自社に合った就業規則を作成し、健全な企業体制を整えていきましょう。
ミキワメは、候補者が活躍できる人材かどうかを500円で見極める適性検査です。
社員分析もできる30日間無料トライアルを実施中。まずお気軽にお問い合わせください。