雇用保険の加入者であれば失業手当の受給資格があることは広く認知されていますが、育児・介護休業中なども要件を満たせば給付金が受給できるなど、雇用保険には多くのメリットがあります。
しかし、雇用保険の加入条件や給付金制度について把握している人は少なく、もらえるはずの給付金を受け取れていない人も数多く存在します。
そこで本記事では、雇用保険とは何か、加入条件や給付金、メリットや入社・退職時の手続きなどについて詳しく解説します。
雇用保険とは?
雇用保険とは、「失業や雇用継続が困難な状況の労働者に対し、国が必要な給付などを行う保険」を指します。労働者の生活と雇用を支える公的保険ともいえるでしょう。
厚生労働省の定義は以下のとおりです。
労働者の生活及び雇用の安定と就職の促進のために、失業された方や教育訓練を受けられる方等に対して、失業等給付を支給します。また、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進等をはかるための二事業を行っています。
引用元:厚生労働省|雇用保険制度
つまり、雇用保険は、労働者が失業や転職活動・育児・介護休業で収入を得られないときに所得保障や再就職を支援する制度です。
雇用保険の目的とは?
雇用保険の目的は2つあります。1つ目は、失業中や転職活動時に必要な給付を行い、生活を安定させることです。そして2つ目は、失業予防や就職の促進、または労働者の能力開発を図り雇用機会を拡大することです。
具体的には、以下のような場面で労働者に必要な給付や支援、能力開発を行います。
- 失業中で無収入である
- 転職活動で移動交通費や宿泊費がかかる
- 育児や介護による休業で収入が減った
- 定年再雇用で賃金が低下した
- スキルアップを目的とした教育訓練を受けた
参考:ハローワークインターネットサービス|雇用保険制度の概要
雇用保険の加入条件とは?
雇用保険は強制加入保険であるため、加入条件を満たす場合は必ず加入しなければなりません。
加入条件は次の3つです。
1.31日以上継続して雇用される見込みがある
2.1週間の所定労働時間が20時間以上である
3.学生でないこと
それぞれ詳しく解説していきます。
加入条件1.31日以上継続して雇用される見込みがある
同一の事業主から31日以上継続して雇用される見込みがある者は、雇用保険の加入対象です。
具体的には、以下のようなケースが加入対象です。
- 雇用期間が決まっていない
- 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない
- 雇用契約に更新規定はないが、同様の契約で31日以上雇用されたことがある
一方で、「31日以上雇用が継続しないこと」が明らかな場合は、雇用保険の加入対象とはなりません。
参考:厚生労働省|雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!
加入条件2.1週間の所定労働時間が20時間以上である
1週間の所定労働時間が20時間以上である人は、加入対象者です。
ただし、突発的な残業によって、一時的に週20時間以上働いた場合は、加入条件には当てはまりません。
また、雇用契約や労働契約上の所定労働時間が週20時間を下回る場合も、加入条件からは除外されます。
加入条件3.学生でないこと
学生は原則、雇用保険には加入できません。つまり、「学生でないこと」が加入条件の一つといえるでしょう。
ただし例外もあります。雇用保険法施行規則第3条の2によると、学生であって次の条件を満たす場合は、雇用保険の加入対象者となりえます。
- 学校卒業後も同じ職場で働く見込みがある
- 夜間部や定時制、通信課程に在籍している
- 休学中である
参考:e-Gov法令検索|雇用保険法施行規則第3条の2
65歳以上は加入対象となるか?
平成29年の雇用保険の適用範囲拡大に伴い、65歳以上は「高年齢被保険者」として雇用保険の加入対象となりました。
これまで、65歳を過ぎている労働者は雇用保険に加入できませんでした。しかし、労働人口の減少や希望者の65歳雇用義務化といった状況から、高齢者でも雇用保険に加入できるよう、法律が改正されました。
この改正に伴い、高年齢求職者給付金の新設、教育訓練給付金や育児休業給付金・介護休業給付金の受給資格獲得など、65歳以上の労働者にとって働きやすい環境が整えられました。
パートやアルバイトは加入対象か?
雇用形態がパートやアルバイトであっても、雇用保険の加入条件である「週20時間以上」「31日以上の継続雇用見込み」「学生でないこと」を満たせば、雇用保険の加入対象です。
「週20時間以上」とは所定労働時間を指すため、普段は週12時間労働で、繁忙期だけ週20時間以上働いている場合は対象外になります。
パートやアルバイトで働く人の中には「雇用保険には加入できないだろう」と思い込んでいる人も少なくありません。今の労働状況が加入条件を満たすかどうか、雇用契約書や労働条件通知書などで確認しておきましょう。
参考:北海道ハローワーク|アルバイトやパートタイム労働者は雇用保険の被保険者となりますか
雇用保険に加入するメリットとは?
雇用保険に加入するメリットは、失業や転職活動、休業や賃金低下などさまざまな場面で給付金を受けられる点です。
以下のような場面で、受給資格を満たしていれば給付金を受け取れます。
- 失業中や転職活動中:基本手当(失業保険)
- 60歳以上65歳未満で賃金が低下したとき:高年齢雇用継続給付
- 厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・修了したとき:教育訓練給付
- 育児や介護休業で一定期間収入がなくなったとき:育児休業給付・介護休業給付
雇用保険に加入することで、将来的な失業や休業、賃金低下などに備えられる点は大きなメリットといえるでしょう。
雇用保険の給付金とは?主要5つの給付金を紹介
雇用保険と聞くと、失業中に支給される失業保険を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、育児や介護により休業する人、キャリア形成やスキルアップを目指す人なども、一定条件を満たせば給付金が支給されます。
ここでは、雇用保険の中でも利用頻度の高い5つの給付金について解説していきます。
参考:ハローワークインターネットサービス|雇用保険制度の概要
1.基本手当(失業保険)
基本手当は、就職活動や再就職に注力できるよう、失業中の所得保障を目的に支給されます。一般的には「失業保険(失業手当)」として認識されています。
離職前の被保険者期間(雇用保険加入期間)や離職理由などにもよりますが、給付日数は90〜360日間です。
ただし、就職活動や再就職支援を目的とする制度なので、「就職する意思があり、求職に向けて活動している」「ハローワークによる認定を受けている」といった点を満たす必要があることを覚えておきましょう。
2.教育訓練給付
教育訓練給付では、在職中のスキルアップやキャリア形成のために必要な講座受講など、一定の教育訓練受講にかかった費用の一部が支給されます。一定要件を満たせば、離職者も支給対象です。
「一般教育訓練給付金」「専門実践教育訓練給付金」「教育訓練支援給付金」「特定一般教育訓練給付金」の4つがあり、それぞれで支給対象となる教育訓練や給付額が異なります。
なお、教育訓練給付の対象講座は厚生労働大臣により指定されているため、受講講座を検討したい場合は厚生労働省のサイトを参考にしてみてください。
参考:ハローワークインターネットサービス|教育訓練給付制度
参考:教育訓練給付制度検索システム
3.高年齢雇用継続給付
高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の一般被保険者が対象です。60歳時点に比べて75%未満の賃金で60歳以降も働き続ける人に支給されます。
60歳時点よりも賃金が上がったり、あまり変わらない賃金で働き続けていたりする場合は、支給対象外です。
高年齢雇用継続給付制度には、基本手当などを受給していない人を対象とする「高年齢雇用継続基本給付金」と、基本手当を受給して60歳以降に再就職した人を対象とする「高年齢再就職給付金」の2種類が存在します。
参考:厚生労働省|高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について
4.介護休業給付
介護休業給付は、家族の介護によって休業する一般被保険者に支給されます。同一家族につき通算93日分を最大3回に分けて受給できます。
家族として認められるのは「配偶者(事実婚含む)」「父母」「子」「配偶者の父母」「祖父母」「兄弟姉妹」「孫」です。父母・配偶者の父母は養父母、子は養子を含みます。
支給額は、休業開始時の賃金日額の67%相当であり、休業日数分支給されます。
5.育児休業給付
育児休業給付は、1歳未満の子を世話するために育児休業を取得する一般被保険者に支給されます。「パパ・ママ育休プラス」制度を活用すれば1歳2か月未満、保育所への入園が認められないなどの理由で延長する場合は最大2歳未満まで認められます。
支給額は、休業期間中に会社から賃金が支給されない場合、休業開始前の賃金の67%(育休開始から6か月経過後は50%)相当額です。
雇用保険料の計算方法とは?
雇用保険料は、労働者と事業主が負担しています。
計算方法はとても簡単です。労働者の賃金総額に対して、事業種ごとに決められた雇用保険料率を乗じれば算出できます。
一般の事業なら、雇用保険料率は労働者が0.3%、事業主が0.6%です。労働者の賃金総額が20万円の場合、労働者負担は600円(20万円×0.3%)となります。
ただし、雇用保険は財源不足が課題であり、2022年10月から雇用保険料のうち、労働者負担分が約1.7倍増加する予定となっているため、今後も動向には目を向けておく必要があるでしょう。
参考:厚生労働省|令和3年度の雇用保険料率について
参考:読売新聞オンライン|「失業等給付」保険料率、来年10月から0・6%に引き上げへ
雇用保険の手続きは何をすればいい?
雇用保険の手続きは、多くの会社では、事業主もしくは人事総務担当部門が行います。
社員の入社時と退職時にどのような手続きが必要となるか、詳しくみていきましょう。
雇用保険の手続き|入社編
労働者が入社するときは、雇用保険の加入手続きに必要な以下の書類を揃えます。
- 雇用保険被保険者資格取得届
- 雇用保険被保険者証
新たに労働者を雇用した場合、その労働者の入社した月の翌月10日までに、雇用保険被保険者資格取得届を所轄の公共職業安定所(ハローワーク)へ提出します。
その際、労働者が雇用保険被保険者証を持っていれば、被保険者番号を事前に確認すると手続きが円滑に進められます。
なお、初めて労働者を雇い入れることになった場合は、「保険関係成立届」を労働基準監督署へ、「事業所設置届」をハローワークへ届け出なければいけません。
雇用保険の手続き|退職編
労働者が退職するときは、雇用保険の資格喪失手続きに以下の書類が必要です。
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険被保険者離職証明書
労働者が退職した日の翌日から10日以内に、雇用保険被保険者資格喪失届をハローワークへ提出する必要があります。
また、労働者が離職日に59歳以上である場合や労働者から発行を求められた場合は、雇用保険被保険者離職票(離職票)を交付しなければなりません。離職票は、退職前の賃金や退職理由などを証明する書類で、離職者が失業給付を受給する際に必要です。
まとめ
労働者の失業や雇用を支える雇用保険は、育児・介護休業や労働者の能力開発などに対して必要な給付を行うことから、労働者の強い味方といえます。
「31日以上の継続雇用見込み」「週20時間以上の所定労働時間」「学生以外」という加入条件を満たす場合、アルバイトやパートであっても加入できる制度です。
手続きには資格取得届や資格喪失届、離職証明書といった複数書類の提出が求められます。適切に対応するため、事業主や担当者は雇用保険の概要や手続きについて正しい知識を身につけるよう心がけましょう。
本記事がみなさまのお役に立てば幸いです。
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