休職中の従業員への給与支払いは原則不要です。しかし、労務担当者は休職中の従業員に対し、休職ルールの説明や各種手続きに加え、復帰のための支援をする必要があります。
対応を誤ると労使トラブルや離職に発展するおそれがあるため、従業員の悩みや体調を考慮し、細やかなサポートを行わなければなりません。
今回の記事では、休職中の従業員に対する給与や賞与、各種保険料について紹介し、あわせて労務担当者が注意すべきポイントを解説します。
休職とは
休職とは、会社が従業員に対して与える長期休暇のことです。休職の期間や理由は会社の裁量によって決定され、社内規程や就業規則に明記されます。
休職の主な理由
先述のとおり、休職事由は会社が自由に決定できます。一般的なものとしては、以下があげられます。
傷病休職 | 業務外でのケガや病気による休職※業務中・通勤中のケガは労災扱いになり「休業」とみなされる |
自己都合休職 | 従業員の自己都合による休職例)ボランティア、業務と無関係な資格取得 |
留学休職 | 従業員自身の希望による留学のための休職 |
公職就任休職 | 従業員が地方議員や市区町村首長などの公職に就いた場合、公務に専念するために取得する休職 |
事故欠勤休職 | どの理由にも当てはまらない休職例)刑事事件による逮捕や交流 |
組合専従休職 | 労働組合の業務に専念するための休職 |
休業・欠勤との違い
休職と混同されやすい用語に「休業」と「欠勤」があります。いずれも従業員が指定された休日以外の日に休む(就業しない)ことですが、事由や給料の有無で区別されます。
休業
休業とは、会社都合や法令に基づき、会社が従業員に対して労働提供義務を免除することです。
会社都合の休業である場合、従業員に対して平均賃金の60%以上を「休業手当」として支給しなくてはなりません。
主な休業事由と休業手当支払いの義務を以下の表にまとめました。
事由 | 休業手当支払いの義務 |
---|---|
労働災害による負傷・病気・障害 | 「休業補償」として、労災保険より平均賃金の80%が支給される |
産前休業・産後休業・育児休業・介護休暇 | 法令義務なし |
資材不足や業績不振などの会社都合による休業 | 休業手当の支払いが必要 |
行政勧告による操業停止 | 休業手当の支払いが必要 |
台風や地震などの災害 | 法令義務なし |
なお、法令義務のない事由であっても、就業規則に記載がある場合は、定められたルールに沿った手当を支給しなくてはなりません。
欠勤
欠勤とは、従業員が本人の事情で突発的に仕事を休むことです。休職と異なる点としては、事前の申請がないこと、1〜数日程度の短期であることがあげられます。
欠勤した従業員に対して、給与を支払う必要はありません。
また、欠勤を繰り返したり、長期的に欠勤したりする従業員に対し、企業は解雇を言い渡せます。
休職中の給与・ボーナス(賞与)は原則支払い不要
休職中の従業員に対し、企業は給与を支払う必要はありません。給与は労働の対価として支払われるためです。
このような考え方を「ノーワーク・ノーペイ」といい、その根拠は民法第624条にある「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」(※)であると考えられています。
ただし、条件によっては給与・賞与の支払いが必要になるケースもあります。以下で詳しく見ていきましょう。
給与支払いが必要になるケース
休職中であっても給与を支払わなければならないケースは、以下のとおりです。
従業員が年次有給休暇を取得した
従業員が年次有給休暇を取得した場合、給与を支払う必要があります。
ただし、有給休暇の取得は就業中に限られており、休職後には取得できません。従業員が休職を希望した場合は、有給休暇も利用できることを事前に伝えておきましょう。
会社規程により有給の休職制度が定められている
会社が有給の休職制度を定めている場合は、規程にのっとり給与を支給しなければなりません。
具体例として、ボランティアや資格取得により従業員が休職する場合に一定期間内は有給とする制度があげられます。
ボーナス(賞与)の査定法
ボーナス(賞与)に関しては、就業中の従業員と同じく、勤務実績と就業規則にのっとり査定を行います。
一般的に、ボーナスの額は会社への貢献度によって決定されます。そのため、休職中の従業員は支給額が低くなる、もしくは支給されないケースがほとんどです。
しかし、とくに優秀な従業員に対しては、あえて就業時と同額のボーナスを支給することでモチベーションをアップさせ、離職防止につなげるのも一つの選択肢です。
ボーナスの支給額は会社の裁量で決定できます。決まりにこだわりすぎず、費用対効果を考えながら支給額を決めるとよいでしょう。
休職中の社会保険料は支払いが必要
休職中であっても、社会保険料は支払わなくてはなりません。会社に在籍している以上、被保険者資格は継続するためです。
通常、社会保険料の従業員負担分は給与から天引きされます。給与が生じない休職期間中に社会保険料をどのように支払うか、あらかじめ従業員と取り決めておきましょう。
雇用保険料の支払いは不要
一方、雇用保険料は給与に対してかかるため、休職中の場合は支払う必要がありません。
傷病手当について
傷病手当とは、健康保険加入者が病気やけがで休職し、事業主より十分な報酬を受け取れない状況にあるときに、健康保険から支給される手当金です。
基本的に従業員が手続きを行いますが、会社としても従業員がスムーズに手当を受け取れるよう、証明書の発行や手続きのサポートなどを行わなければなりません。
傷病手当の給付条件や手続き方法を紹介します。
給付の要件
傷病手当の給付要件は以下のとおりです。
- 健康保険の被保険者であること(任意継続被保険者は原則除く)
- 業務外のケガや病気による休職であること
- 就労不能と判断されていること
- 連続する3日を含み、4日以上仕事に就けなかったこと
- 休職期間について給与の支払いがないこと
また、以下の5つのケースでは、傷病手当金の一部もしくは全額が支給されない場合があります。
- 給与の支払いがあった場合
- 障害厚生年金または障害手当金を受けている場合
- 老齢退職年金を受けている場合
- 労災保険から休業補償給付を受けていた(受けている)場合
- 出産手当金を同時に受ける場合
ただし、上記の給与や年金の額が休業手当の補償額を下回っている場合は、その差額が支給されます。
給付額
傷病手当金の給付額は以下の計算式で算出されます。
1日あたりの傷病手当金=【支給開始日の以前12カ月の標準報酬月額を平均した金額※】÷30×2/3
該当従業員の勤務期間が12カ月に満たない場合は、以下のいずれかのうち低い方を※に算入します。
- 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額
例)支給開始日が平成31年4月1日以降の場合は30万円
手続き方法
傷病手当を申請するには、傷病手当金支給申請書に必要事項を記入し、必要書類とあわせて提出する必要があります。申請書は健康保険証に記載されている保険者(保険組合や協会けんぽ)から取り寄せる、もしくはサイトからのダウンロードも可能です。
申請書には、事業主が労務に服することができなかった期間(申請期間)の勤務状況および賃金支払い状況を記入する欄もあります。従業員に記入を依頼されたら、速やかに、また正確に記入しましょう。
申請書の提出先は、保険組合の被保険者の場合、原則会社の担当部署です。協会けんぽの被保険者である場合は、本人もしくは会社経由で加入している都道府県支部あてに郵送します。
休業手当の申請では、支給要件の把握や必要書類の準備など、手続きが複雑になる場合があります。とくに、復帰直後の従業員には負担が大きいかもしれません。従業員から相談があった際には、適切なサポートをすることも重要です。
休職する社員への対応において労務担当者が注意すべきポイント
休職する従業員に対して、労務担当者は適切な説明やサポートを行う必要があります。
対応を誤ると労使トラブルに発展したり、休職からそのまま退職してしまったりすることがあるためです。
休職する従業員への対応において、とくに注意すべきポイントを紹介します。
休職について説明を行う
従業員に対して、休職についての説明を事前にしておきましょう。会社によって休職のルールは異なるため、従業員は前職のルールや、他社の知り合いに聞いたことを鵜呑みにしている可能性があります。
認識違いを放置したままでいると、トラブルに発展しかねません。とくに、以下の点は正確に伝えておきましょう。
- 社内規程における休職のルール
- 休職中、給与は出ないこと
- 賞与が下がる、もしくは支給されない場合があること
- 昇進や昇給に影響が出ること
- 職場復帰しない場合は退職の可能性があること
- 利用できる手当や休暇について
また、 説明は口頭のみで行わないようにしてください。「話が違う」「そんな話は聞いていない」など、従業員との間で水掛け論になってしまうおそれがあるためです。必ず書面に残しておきましょう。
連絡手段を確保する
休職する従業員との連絡手段を決めておくことも重要です。
たとえ休職していても、各種手続きの申請や安否確認、復帰時期の相談など、従業員に連絡する機会が数多くあるためです。
音信不通になった場合に備えて、緊急連絡先も聞いておくとよいでしょう。
しかし、休職中の従業員にとって、会社からの連絡はストレスとなるかもしれません。連絡頻度や連絡可能な時間帯についても確認し、従業員の負担にならないよう配慮することも重要です。
職場復帰の支援を行う
職場復帰の支援も労務担当者の重要な役目です。
多くの従業員は、休職後の職場復帰に不安を抱いています。まずは休職中に従業員と相談し、職場復帰が可能であるかを十分に検討しなくてはなりません。
病気やケガが原因で休職している場合は、担当医に相談し、無理のない範囲から業務を再開するよう指導しましょう。
復帰後も、短時間勤務や休暇の取得を活用してもらうなど、体力的な負担がかかりすぎないようにサポートしてください。従業員の上司に、体調や業務内に問題はないかを確認することも重要です。
職場復帰しない場合の対応
定められた休職期間が過ぎても職場復帰しない場合は、就業規則にのっとり、退職や解雇の検討が必要です。
たとえば、傷病休暇を3カ月と定めて休職したものの、3カ月を過ぎても回復せずに休職期間が満了した場合、退職もしくは解雇となる可能性があります。
休職中は給与の支払いは不要だが、従業員に対するサポートは必要
休職する従業員に対する給与の支払いや、労務担当者がすべきことについて解説しました。休職中は給与の支払いこそ不要なものの、従業員への説明や復帰支援といった対応は必要です。
休職は従業員にとって大きなストレスとなります。心身の不調、仕事に穴を開けてしまうことへの申し訳なさ、復帰後の業務に対する不安など、さまざまな悩みも生じるでしょう。
従業員の安心して休職し、無事に復帰できるよう、不安や悩みに寄り添った対応を行うことで、労使トラブルや離職を防げます。
個々の従業員に適したサポートをするためには、従業員の状態や個性を把握することが重要です。
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