「ナラティブ」は、心理学やマーケティングなどで使われる用語です。本記事では、ナラティブの意味や活用方法をわかりやすく解説し、ビジネスでの活用事例もご紹介します。
ナラティブとは?
「ナラティブ(narrative)」とは、直訳すると「物語」という意味で、1960年代に定着した文芸理論の用語です。
「ストーリー(story)」は内容や筋書きを指す言葉で、主人公や登場人物によって起承転結が展開されます。一方のナラティブは、語り手が紡いでいく物語を指し、語り手=主人公です。
ナラティブはどんなシーンで使われている?
現在、ナラティブは、文芸理論だけでなく、医療・看護や心理学、キャリアコンサルティング、マーケティングなどのシーンでも使われます。
ナラティブ・ベイスト・メディスン
「ナラティブ・ベイスト・メディスン」、略してNBM(Narrative Based Medicine)とは、
「物語と対話に基づいた医療」という意味で、医療・看護の用語です。
発端は、「科学的根拠(エビデンス)に基づく治療や診断を施しても、患者の満足度は上がらない」という考えです。科学的な医療と人間コミュニケーションのギャップを埋めることで、医療の質向上を促進します。
ナラティブ・ベイスト・メディスンの進め方やポイント
NBMは、エビデンスよりも、病気発祥の理由や経緯、症状など、患者の経験談を聞くところからはじまります。抱えている身体面・精神面の問題を把握してから、治療方法を考えるのです。
患者と医療従事者が対話をし、良好な関係を構築することで、双方が満足できる治療の実施を目指します。
ナラティブアプローチ
ナラティブアプローチとは、相談者を支援する際、物語をとおして解決策を見つけ出すアプローチ方法のことです。
元々臨床心理学で使われていましたが、現在では医療やキャリアコンサルティングなど幅広い領域で実践されています。
ナラティブアプローチでは、相談者の物語や言葉に耳を傾け、相談者の解釈を理解した上で、思い込みを紐解きます。
ナラティブアプローチの進め方やポイント
基本的には以下の順序で進めます。
- ①「ドミナントストーリー」を聞く
- ②「問題を外在化」し、「反省的な質問」を行う
- ③「例外的な結果」を見つけ出す
- ④「オルタナティブストーリー」を構築する
例えば「上司に嫌われて悩んでいる若手社員」で、ナラティブアプローチを実践してみましょう。
①「ドミナントストーリー」を聞く
「ドミナントストーリー」とは、思い込みの物語を意味する言葉です。悩みを抱えている人の多くは、思い込みに支配されています。若手社員の例だと「上司に嫌われている」との思い込みがドミナントストーリーです。
これを全く異なる別の物語「オルタナティブストーリー」に置き換えることを目標にして、アプローチを進めます。
この若手社員であれば、ナラティブアプローチのなかで、自分が嫌われている理由を語るでしょう。聞き手はアドバイスなどを一切せずに相談者の物語を聞くことが大切です。それによってドミナントストーリーが明確になり、問題点を見つけやすくなります。
②「問題を外在化」し、「反省的な質問」を行う
ドミナントストーリーを聞いたら、問題を外在化します。外在化とは、本人が客観視できるように問題を引き離すことです。その後、聞き手が「反省的な質問」をします。
「反省的な質問」とは、相談者の抱える問題対して「誰が」「どんな出来事が」「どんな経験が」あったのかを質問し、一緒に考える行為を指します。
例えば以下の「反省的な質問」をし、「例外的な結果」を見つけます。
- 「具体的にあなたを嫌っているのは誰ですか?」
- 「上司に嫌われる原因になる出来事はありましたか?」
- 「上司に嫌われるとは、具体的にどのような出来事で感じたのですか?」
③「例外的な結果」を見つけ出す
「反省的な質問」に相談者が答えるなかで、ドミナントストーリーの答えとして「例外的」なものが見つかることがあります。
例えば若手社員が「上司は若手である自分の意見も尊重してくれる」と証言した場合、嫌われているは思えない「例外的な結果」が得られたことになります。
「オルタナティブストーリー」を構築する
「例外的な結果」が確認できたら、思い込みをなくすための気づきを与えます。
「若手の意見も尊重してくれるなら、上司はあなたを頼っているのではないですか?」
聞き手から相談者に繰り返し質問します。結果的に「上司に嫌われていると思っていたけど、実は頼られていた」という物語ができます。このように、聞き手と相談者によって、当初とは全く異なるオルタナティブストーリーが作られるのです。
ナラティブアプローチのメリット
一般的なカウンセリングの場合、聞き手側が一方的にアドバイスを行います。しかしそれでは本質的な問題解決ができるとは限りません。また、専門家と相談者は対等な立場ではないことから、相談者の本心を引き出せないままの可能性もあります。
ナラティブアプローチのメリットは、相談者と聞き手が同じ目線で対話することで、思い込みや悩みを引き出し、問題解決へと導ける点です。
ナラティブマーケティング
「ナラティブマーケティング」とは、企業の商品ではなくユーザーを主人公とするマーケティング手法で、近年注目を集めています。
これまでは一方的に語りかけるストーリーテリング型のマーケティング手法が用いられてきました。これはナラティブマーケティングとは違い、ユーザーが主人公ではありません。
ナラティブマーケティングでは、企業側が示した選択肢のなかからユーザー自らが選ぶことで、その人オリジナルの結果に帰着します。一方的に押し付けられた答えではないため、愛着がわくのです。
ナラティブマーケティングのメリット
ナラティブマーケティングには以下のメリットがあります。
- ユーザーからの信頼と好感を得られる
- 商品の位置づけが明確になる
ユーザーからの信頼と好感を得られる
ナラティブマーケティングを用いた商品を販売すると、手にしたユーザーは主体的にオリジナルの物語を紡ぎます。ストーリーテリング型マーケティングのような一方通行さはありません。ユーザーは商品そのものに対して容易に信頼や好感を覚えるため、購買のリピート率が上がる可能性が高いです。
商品やサービスの位置づけが明確になる
ナラティブマーケティングの施策を考えることで、販売する商品の位置づけが明確になります。欲しているユーザーにより刺さりやすいものになるのです。
ナラティブマーケティングの施策では、「誰がどのタイミングで利用するのか」「使うことでユーザーがどう変化するか」を考えなくてはなりません。使用後のストーリーが明確な商品は、市場での位置取りもしやすくなるため、販売戦略も立てやすいです。
ナラティブマーケティングの手法
ナラティブマーケティングの実施方法として以下の3つの手法が挙げられます。
- 商品体験イベントを開催する
- 商品の利用ユーザーを調査・理解する
- SNSを活用する
商品体験イベントを開催する
ユーザーが商品を使い、素直に意見する場が必要です。
体験型のイベントは語れる場として活用できます。発売前の商品を体験してもらうイベントなら、利用者が感想(使い心地など)をSNSで発信するため、口コミ効果を狙えます。
商品の利用ユーザーを調査・理解する
ナラティブマーケティングはユーザーが主人公であるため、ユーザーが物語を創造しやすくするためのアプローチが大切です。そのため、ターゲットユーザーの調査・理解を深め、明確なペルソナを作りましょう。
SNSを活用する
ユーザーが商品やサービスを利用している場合、TwitterやInstagramなどのSNSを通じて、インタラクティブなコミュニケーションをとることも大切です。双方向性コミュニケーションによって、顧客の満足度が上がり、リピーター増加に繋がります。
ナラティブマーケティングの活用事例
ナラティブマーケティングの活用事例をご紹介します。
有名なのは、自動車メーカーである「SUBARU(スバル)」の事例です。
SUBARUは、テレビCM「Your story with」においてナラティブマーケティングを活用しました。キャッチコピーは「あなたとクルマの物語」です。「あなたとクルマ、どんな物語がありますか?」とのナレーションからスタートし、見ているユーザー自身が主役となって、考えさせる手法がとられています。
CMは複数パターンがあり、さまざまな年代、家庭状況が描かれ、思い出や物語がよみがえる仕掛けも施されています。CMの主人公に自分自身を重ねる視聴者が多く、強い共感を得ることに成功しました。
参考:あなたとクルマの物語:Your story with|SUBARU
ナラティブの意味や活用方法を理解しよう
ナラティブは文芸理論の用語として使われてきましたが、現在では医療・看護や心理学、キャリアコンサルティング、マーケティングでも使われています。ナラティブの言葉の意味やポイントを理解し、活用しましょう。
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