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メンタルモデルとは?人材育成における重要性や拡張・統一させるポイントを解説

メンタルモデルとは、人が経験により得た「思い込み」や「固定観念」を指す言葉です。人は無意識のうちにメンタルモデルによって行動しており、同じ状況においても捉え方や判断が異なります。

経営活動を行う企業においては、社員のメンタルモデルを拡張し、統一させることが重要です。社員に自らの思い込みのクセを把握してもらい、メンタルモデルを企業のビジョンと合致させることで、相互理解の促進や信頼関係の構築が可能となります。

今回の記事では、メンタルモデルの基礎知識や、メンタルモデルを拡張・統一する方法について解説します。

メンタルモデルとは

メンタルモデルとは、人が無意識に持っている思い込みや価値観のことです。人はメンタルモデルに基づき、生活や仕事における行動や思考を決定します。

メンタルモデルは、過去の経験や育った環境・文化に強い影響を受けます。個々人によって異なるため、同じ状況下でも違う行動を取ることがあります。

メンタルモデルの例は以下のとおりです。

メンタルモデルの例:「犬が怖い」(経験に基づくメンタルモデル)

子供のときに犬に追いかけられて怖い思いをした経験のある人や、犬と接した経験がなく犬のことがよくわからない人は、犬を怖がることがあります。逆に、犬を飼った経験のある人や、犬の映画や番組を見て犬を好きになった人は怖がりません。

このように、同じ「犬」という対象物であっても、怖がる人と怖がらない人がいます。経験によってメンタルモデルに差が生まれることの一例です。

メンタルモデルの例:「食べるときに食器を持つ」(文化に基づくメンタルモデル)

日本人は食べるときに食器を持つのがマナーです。しかし、食器を持つのが非常識とされる国も少なくありません。たとえば、韓国やタイでは、食器を持つことは行儀の悪いことだと見なされます。

日本人にとって「食べるときに食器を持つ」というのは文化に基づいたメンタルモデルといえます。

メンタルモデルの例:「仕事は精度よりスピードを重視する」(ビジネスにおけるメンタルモデル)

成人し、就職してからも経験や周囲の環境から影響を受け、メンタルモデルが形成されます。

たとえば、最初の上司に「仕事はスピード第一で、精度は6割で構わない」と指導を受けると、スピードを最優先して仕事をするメンタルモデルが形成される場合があります。

その後、完成度を重視する部署や上司に変わったとき、新しい状況になじめないケースも少なくありません。「スピード第一」というメンタルモデル(固定観念)が、その社員のなかに定着してしまっているためです。

メンタルモデルと間違われやすい用語

メンタルモデルと混同されやすい用語に「マインドセット」「パラダイム」「ヒューリスティック」があります。それぞれの用語の意味と、メンタルモデルとの違いをご紹介します。

マインドセット

マインドセットとは、教育や先入観によって培われた価値観のことです。

価値観という点ではメンタルモデルと同義ですが、メンタルモデルは過去の経験や生まれ育った環境がベースとなっているのに対し、マインドセットは本人の生まれもった気質が含まれることもあります。

パラダイム

パラダイムとは、特定の時代や分野における一般常識です。時代の流れや技術革新によって、ダイナミックな変化を遂げることもあります。この変化は「パラダイムシフト」と呼ばれます。

たとえば、以前は打ち合わせをする際、対面で話をするのが常識でした。しかし現代では、インターネットの普及やリモートワークの浸透により、オンラインでの打ち合わせも一般的になりつつあります。

パラダイムシフトに順応できない場合、社会の変化に取り残され、ビジネスチャンスを逃してしまうおそれがあります。

ヒューリスティック

ヒューリスティックは「発見的手法」という意味の心理学用語で、複雑な問題に経験則を持って意思決定するプロセスです。ヒューリスティックの例としては、以下が挙げられます。

  • 金髪の高校生を見て「不良だ」と判断する
  • 飛行機事故のニュースを見て「飛行機は電車より危険だ」と判断する
  • 8時に家を出たら出社に間に合ったので、毎日8時に家を出るようにする
  • 新商品の企画案が通らなかった場合「上司はこのような商品は好まないのだ」と判断する

ヒューリスティックは迅速な意思決定ができる半面、考えの偏りによる判断ミスを招くケースもあります。ヒューリスティックに頼り過ぎず、普段から論理的に思考する習慣をつけることが重要です。

メンタルモデルの活用シーン

メンタルモデルはビジネスにおいて、以下のようなシーンで活用できます。

  • 商品やサービスの開発
  • マーケティング
  • 社内の人材育成

各シーンでの活用法を詳しくご紹介します。

商品やサービスの開発

メンタルモデルは、商品やサービスを開発する際に有用です。ターゲットとなる顧客のメンタルモデルに合わせた商品やサービスの提供は、顧客満足度や購買意欲の向上につながります。

また、自分と異なるメンタルモデルを持つ顧客の行動や考え方から、自身の固定観念では思いつかない新たな発想が得られます。革新的な商品やサービスの開発は、新たな顧客獲得にもつながるでしょう。

マーケティング

ターゲットのメンタルモデルへの理解と活用により、効果的なマーケティングが可能となります。

ターゲットとなる顧客のメンタルモデルを分析すると、売上アップにつながる戦略が見つかります。プレゼンテーションを行う際にも、聞き手のメンタルモデルに合わせた伝え方を採用できるため、理解度や好感度を高められるでしょう。

社内の人材育成

メンタルモデルは社内の人材育成にも役立ちます。

まずは、社員一人ひとりがメンタルモデルを理解することが重要です。自分が思い込みによって行動していることや、価値観は一人ひとり違うことに気づけば、意識や行動を変えるきっかけを見出しやすくなります。

また、メンタルモデルの考え方は、人材育成やチームマネジメントにも活用可能です。社員のメンタルモデルを自社のビジョンと合致するよう拡張・統一することで、効率的な採用や教育、信頼関係の構築を実現できます。

なお「メンタルモデルを拡張する」とは、自分の心の中の先入観を撤廃し、考え方をアップデートすることを意味します。さまざまな価値観を受け入れ、自己変容を続けるなかで、企業の持続的成長に貢献する人材へ成長できる点が、メンタルモデルを拡張させるメリットです。

人材育成においてメンタルモデルを拡張・統一する重要性

先述のとおり、人材育成においてメンタルモデルを拡張・統一することは非常に重要です。具体的なメリットとしては、チームのパフォーマンス向上と、人材育成・採用の精度向上が挙げられます。

以下で詳しく見ていきましょう。

チームのパフォーマンスが上がる

メンタルモデルが個々で大きく異なる場合、同じ状況下でも考えや行動にズレが生じます。そのため、チームとしての意思決定が進まず、判断が遅れてしまいかねません。相互理解が進まないことで、お互いに不信感を持ってしまう点も問題です。

社員のメンタルモデルを拡張・統一させることにより、チームの意識統一を図れます。一人ひとりが同じ目標に向かって一枚岩となって業務にあたれば、チーム全体のパフォーマンスが向上するでしょう。

人材採用・育成の精度が向上する

人材採用の精度向上が望めることも、メンタルモデルを拡張・統一するメリットです。

自社のメンタルモデルにマッチした価値観や行動原則を持つ人材を採用しやすくなるため、早期離職者が減り、採用コストを削減できる効果もあります。

また、メンタルモデルの拡張・統一は、人材育成において一貫性のある計画を立てることにもつながります。メンタルモデルを理解した担当者同士で人材採用と育成を連携させ、一貫性のある人事戦略を立てられる点も大きなメリットです。

メンタルモデルを拡張・統一させる方法

メンタルモデルを拡張・統一することは、社員の信頼関係構築や定着率アップに欠かせない戦略といえます。とはいえ、個々人の思い込みや先入観を変えることは非常に困難です。

メンタルモデルを拡張・統一させるためには、メンタルモデルについて社員に理解を促し、相互理解や共有の機会を作ることが重要です。

具体的な方法を以下にご紹介します。

メンタルモデルを可視化し共有する

まず行うべきことは、メンタルモデルの可視化と共有です。先述のとおり、メンタルモデルは個々の経験や文化によって異なるため、経営陣や各チームが持つメンタルモデルを共有できていないとスムーズな意思決定ができません。

定期的なミーティングやワークショップなど、社員がメンタルモデルを共有する機会を設けることが有効です。

ここでいうメンタルモデルとは、組織の課題や解決方法、チームメンバーの役割や特性といった、チームが持つべき体系的な知識を指します。

このような知識は共有できているようで、認識のズレや曖昧な部分が残っているケースも少なくありません。そのため、ミーティングやワークショップなどで、すりあわせを行うことが重要です。

また、企業としてのメンタルモデルを設定し、全社全体で共有することも有効な施策です。メンタルモデルの可視化と共有を実現できれば、社員が一枚岩となって同じ目標を目指せます。

セミナーや研修を実施する

メンタルモデルに関するセミナーや研修は、自己の価値観や考え方のクセに気づくきっかけとなります。

自己の行動原理が「思い込み」であると理解することで、固定観念を打ち砕き、幅広い価値観を認められるようになります。企業やチームのメンタルモデルを受け入れ、同じ方向を向いて行動できるようになるでしょう。

また、管理職に対しては、メンタルモデルを意識した対話法を学ぶためのコミュニケーション研修も効果的です。対話スキルを上げることで、1on1や日常の会話から社員の嗜好や特性を把握し、チームマネジメントに活用できます。

対話を通じて社員のメンタルモデルを把握する

研修やセミナーの実施は、全体への周知やチーム内の意識統一には有効ですが、個々の社員のメンタルモデルを把握することには向いていません。社員一人ひとりの特性に合った対話ができないうえ、集団になると緊張してしまう社員がいるためです。

社員一人ひとりのメンタルモデルを深く理解するためには、1on1での対話が効果的です。社員も対話を通じて自身のメンタルモデルに気づき、強みや弱みを知るきっかけをつかめます。

まずは、休日の過ごし方や趣味といったプライベートな話から始めて相手の緊張を解き、感情や価値観を把握しましょう。

メンタルモデルを探るための会話例
①世間話を持ちかける最近、〇〇(自分の趣味)にハマっているんだ
②相手の話を引き出すあなたはハマっている趣味はある?
③詳細を聞くなるほど、△△(相手の趣味)か。どんなことをするの?
④相手の感情を聞く△△の一番楽しいところはどこ?
⑤相手の価値観を聞く・(前の話題を受けて)なぜ楽しいと感じるの?・(話題を変えて)他にはどんなことをしているときが楽しい?

上記のような対話法は日常会話でも役立ちます。リラックスした雰囲気のなかで相手のメンタルモデルを聞き出す機会となるため、適度に雑談の時間を設けましょう。

メンタルモデルに則った行動評価を行う

メンタルモデルの共有だけでは、メンタルモデルに沿った行動を取る動機付けは弱いといえます。社員の意思決定プロセスに反映させるためには、メンタルモデルに則った行動を取った社員を評価する制度の導入が必要です。

たとえば、企業のメンタルモデルを「既存の価値にとらわれない挑戦精神」とする場合、革新的な商品や新事業を提案した社員は、たとえ成果が出なかったとしても評価し、インセンティブを与えるといった方法を取るとよいでしょう。

メンタルモデルを定期的に見直す

メンタルモデルは会社の成長や市場ニーズによって変化します。時代遅れなメンタルモデルに則り経営方針を決めていると、市場での競争力を失いかねません。また、メンタルモデルに共感できない社員から反発され、意思統一を図れなくなる点も問題です。

定期的にメンタルモデルを評価し、現状にそぐわない場合は見直しましょう。また、社内のみで見直しをすると偏りが生じる危険性があるため、外部の意見を取り入れることも重要です。

メンタルモデルの拡張と統一でよりよい組織作りを目指そう

メンタルモデルの基礎知識と、ビジネスに活用する際のポイントについて解説しました。メンタルモデルは個人差があって当然のものですが、あまりにズレが大きいと、組織内での意思決定や信頼関係の構築に支障が出るおそれがあります。

まずはメンタルモデルについて理解し、自身の考え方のクセや弱みを知ることが重要です。さらに、研修やミーティングを通じてメンタルモデルの拡張・統一を進めることで、社員全員が一枚岩となって業務に取り組める、理想の組織作りを実現できます。

また、1on1の対話を通じて、社員のメンタルモデルを理解することも有効です。自分の話をすることで、社員自身も自己のメンタルモデルに気づけるでしょう。

対話から社員のメンタルモデルを知るためには、社員一人ひとりの性格や状態を知り、適切に話を進めなければなりません。

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