自社内やインターネット上などで、「インバスケット思考」という言葉を見たり聞いたりした経験のある人もいるでしょう。
しかし、言葉は知っていても、実際にどのようなもので、どのようなメリットがあるのか説明できない人もいるかも知れません。
そこで本記事では、インバスケット思考のメリットや注意点などを解説していきます。
インバスケット思考とは
インバスケット思考は、業務の生産性を上げるのに役立つ思考法です。
複数あるタスクへ的確な優先順位づけを行う際に、インバスケット思考は効果を発揮します。
もともとは、1950年代にアメリカ空軍の訓練に活用されていました。最近になり、複雑化されたビジネス現場においても有効な思考法であると認識され、多くの企業で導入が進められています。
インバスケット思考を行うメリット
インバスケット思考によるトレーニングには、複数のメリットがあります。代表的なものは以下の3つです。
- 複数の視点から物事を考えられるようになる
- 業務効率が上がる
- 業務に役立つ複数の能力が身につく
ひとつずつ確認していきましょう。
メリット1:複数の視点から物事を考えられるようになる
インバスケット思考では、架空の状況を想定しながら思考力を鍛えていきます。
例えば、複雑な状況で経営判断が求められる社長を想定したインバスケット思考では、社長の立場になりきり、当事者意識を持って思考しなくてはなりません。
このような思考トレーニングを繰り返すことで、自分とは異なる立場での視点が身につきます。
ひとつの出来事を複数の視点から多角的に捉えられるようになり、コミュニケーションの円滑化やミス防止、新しいアイデアを出しやすくなるといった効果が期待できます。
メリット2:業務効率が上がる
インバスケット思考では、限られた時間のなかで多くのタスクと向き合うことになります。すべてのタスクを完璧にこなすことは困難でしょう。そのため、的確な優先順位づけが大切です。
優先順位をつけるといっても、感覚に頼るわけではありません。
「そのタスクに着手するタイミングは今がベストか」「そもそもそのタスクは本当にする必要があるのか」といった問いを立て、論理的に答えを導き出します。
インバスケット思考を用いることで、業務の優先順位が即断できるようになり、無駄が削られることから業務効率の向上が見込めます。
メリット3:業務に役立つ複数の能力が身につく
インバスケット思考を鍛えることで、業務に役立つ複数の能力が身につきます。
代表的な能力は、以下のとおりです。
- 問題発見力
- 問題解決力
- 優先順位をつける思考力
- 判断力・決断力
いずれも、現代のビジネスにおいて重要な能力です。社員一人ひとりがこのような能力を身につければ、企業全体の生産性が高まるでしょう。
それぞれのスキルについて、詳しく解説していきます。
スキル1:問題発見力
インバスケット思考では、限られた時間のなかで多くの成果を出すことが求められます。そのため、トレーニングを通じて、問題の所在を見極める「問題発見力」を効率的に鍛えることが可能です。
インバスケット思考を普段の業務に適用すれば、生産性を下げている問題を発見し、業務効率化へ向けたアクションが素早くとれるでしょう。
スキル2:問題解決力
問題は発見するだけでなく、解決しなくてはなりません。
インバスケット思考では、発見した問題の本質について仮説を立て、検証・施策を通じて解
決を図ります。問題への的確なアプローチには高い分析力と洞察力が重要であり、それらのスキルを身につけられるのがインバスケット思考の強みです。
「何が問題なのかはわかっているけど、具体的な解決策が思い浮かばない…」という場合は、インバスケット思考を身につけるトレーニングを通じて、問題解決力の改善を図ってみるとよいでしょう。
スキル3:優先順位をつける思考力
実際の業務において、限られた時間のなかで複数のタスクに優先順位をつける能力は、特に管理職の人間にとって重要なスキルのひとつです。
優先順位のつけ方や部下への業務配分などが適切であるほど、会社全体の生産性は高まります。
インバスケット思考は、タスク処理能力を高めてくれるものです。限られた時間のなかで高い成果を出す習慣があれば、重要なタスクを取りこぼさず、商機も逃しません。
スキル4:判断力・決断力
インバスケット思考は、限られた時間と情報に基づき、何をすべきかを判断・決断するのに秀でた思考です。
普段は責任の重さから、上司やほかの同僚に判断・決断を委ねてしまう社員も存在するでしょう。そのような判断力・決断力の不足している人材に対して、インバスケット思考トレーニングは有効です。
シミュレーションを通じて多様な立場から物事を見つめることで、社員は当事者意識を持てるようになります。インバスケット思考で判断・決断の練習を積めば、実際の場面での判断・決断への苦手意識も薄れ、消極的であった社員の自主性を引き出せることでしょう。
インバスケット思考によるトレーニング例
続いて、インバスケット思考によるトレーニングの例題を紹介します。
問い:あなたは入社4年目の営業社員で、新入社員の教育も任されています。月の半ばを過ぎましたが、今月の営業目標を達成するのは困難な見込みです。そこに、営業目標の達成に繋がるかもしれない大きな商談のアポイントが入りました。商談は2日後です。以下の8つのタスクをどの順番で処理すべきか考えなさい。
1週間後に営業デビューする新入社員とのロールプレイング
2日後の商談で利用するプレゼンテーション資料の作成
お世話になっている担当顧客からの突然のクレームへの対応
来月以降の新入社員育成スケジュールの作成と、人事部への提出(期限は今夜)
経費精算申請書類の作成と提出(期限は明日)
上司から依頼されたプレゼンテーション資料の作成(上司のプレゼンテーションは3日後の午後)
労働環境に関するオンライン社内アンケートへの回答(期限は昨日だったが失念してしまい、至急行うようにと人事部からメールが届いた)
上司からの呼び出し(依頼したプレゼンテーションの件とは別件で、「手が空いたら話しかけてほしい」と言われた)
インバスケット思考の問いに、絶対的な正解はありません。
「重要度が高いもののうち、緊急性が高いものから着手する」など判断基準を決め、その基準に従って論理的に素早く優先順位をつけるのが望ましいとされています。
インバスケット思考を行う際に注意すべき点
ここからは、インバスケット思考をトレーニングする際に注意しておきたい点を紹介します。
- 期限や重要度を踏まえた優先順位づけ
- 100%正しい答えがないことを前提とする
- 当事者意識を持って考える
それぞれ詳しく解説していきます。
注意点1:期限や重要度を踏まえた優先順位づけ
インバスケット思考では、「期限」「重要度」の2つの視点からタスクの優先順位をつけていきます。
たとえ重要度の高いタスクがあったとしても、期限まで余裕があれば後回しにし、期限の差し迫っているタスクへ集中したほうがよいケースもあるでしょう。反対に、緊急度が高くても成果に直結しないタスクを抱えている場合は、リスケを試みたり、別の人間に依頼したりする選択肢も検討できます。
インバスケット思考を身につけるためには、期限や重要度といった明確な判断軸に基づいた優先順位づけを意識してみましょう。
注意点2:100%正しい答えがないことを前提とする
インバスケット思考にしても実際のビジネスシーンにおいても、100%正しい答えは基本的に存在しません。
どのような視点に立つか、どのような基準で見るかによってタスクの重要度は変わるため、導き出せる回答はさまざまです。
先の例題では「新人教育」「商談準備」「クレーム対応」「社内提出書類の作成」「上司からの依頼」といった複数のタスクがありました。完璧にすべてへ対応するのは、現実的に考えて難しいでしょう。
100%正しい答えが存在しない状況下で、複数ある選択肢のなかから最適と思えるものを見つけ出すのが、インバスケット思考です。
注意点3:問題の当事者になりきって考えること
インバスケット思考では架空の状況をシミュレーションしながら思考力を鍛えます。「現実的には起こりにくい状況だな」と他人事に捉えてトレーニングしてしまうと、期待された効果が得られないため、注意が必要です。
トレーニングの際は、できるだけリアルに問題と向き合い、当事者意識を持って判断・決断することを意識しましょう。
インバスケット思考に役立つフレームワーク
最後に、インバスケット思考に役立つフレームワークを紹介します。フレームワークとは、意志決定の際に役立つ思考の枠組みのことです。
インバスケット思考では、複数のタスクに優先順位をつけていきます。その際、2つの軸を基準にして判断するのが有効です。
以下は、特に用いられることが多いフレームワークと、各フレームワークで基準となる2つの軸です。
- アイゼンハワーマトリクス:軸は重要度・緊急度
- リスク評価ヒートマップ:軸は影響度・発生確率
- ペイオフマトリクス:軸は効果・実現性
それぞれのフレームワークをみていきましょう。
フレームワーク1:アイゼンハワーマトリクス
アイゼンハワーマトリクスは、元アメリカ大統領のアイゼンハワー氏がタスク管理に用いていたフレームワークです。
優先順位を判断する軸は、重要度と緊急度です。この軸に基づき、タスクを以下の4つのカテゴリーに分類します。
【カテゴリー1】 重要かつ緊急 例:クレーム対応 | 【カテゴリー2】 重要だが緊急でない 例:2日後の商談準備 |
【カテゴリー3】 重要ではないが緊急 例:期限の切れた社内アンケートの提出 | 【カテゴリー4】 重要でも緊急でもない 例:来週期限の社員旅行関係の書類提出 |
このなかで真っ先に対処すべきはカテゴリー1ですが、時間が経つとカテゴリー2にあったタスクがカテゴリー1に移動します。
そのため、カテゴリー2のタスクを空にし、カテゴリー1のタスクをできるだけ作らないことがタスク管理のポイントです。
フレームワーク2:リスク評価ヒートマップ
リスク評価ヒートマップは、影響度と発生確率を軸にしたフレームワークです。
このフレームワークは、「すべてのリスクは関連し合っている」という考えを前提にしています。
影響度・発生確率で4つのカテゴリーに分け、影響度の低いリスクから解決することで、影響度の大きいリスクを防ぐ狙いがあります。リスク評価ヒートマップを表したのが、以下の表です。
【カテゴリー1】 影響大・発生しにくい 例:戦争・内乱、火災、爆発 | 【カテゴリー2】 影響大・発生しやすい 例:市場ニーズの変化、税制改革 |
【カテゴリー3】 影響小・発生しにくい 例:盗難、社内の不正 | 【カテゴリー4】 影響小・発生しやすい 例:交通事故、システム障害 |
ポイントは、「ビジネス環境や会社の事業内容により、カテゴリー分類は変動する」ということです。
海外に拠点を置いて事業を展開している場合、日本と比べて戦争リスクや法制度の改正リスクが高まる可能性もあります。また、情報セキュリティサービスを展開している企業にとって、システム障害や情報の流出は他業種より影響の大きいものとなるでしょう。
リスク評価ヒートマップを用いる場合は、自社に合ったカテゴリー分けを意識するよう心がけてください。
フレームワーク3:ペイオフマトリクス
ペイオフマトリクスは、効果と実現性を軸にしたフレームワークで、問題解決用のアイデアを絞り込むのに適しています。
【カテゴリー1】 効果大・実現しにくい 努力が必要 例:全国放送で商品CMを流す | 【カテゴリー2】 効果大・実現しやすい 注力すべき 例:有名人のSNSで商品を紹介してもらう |
【カテゴリー3】 効果小・実現しにくい やらない方がよい 例:海外で販売促進イベントを実施 | 【カテゴリー4】 効果小・実現しやすい 気軽にできる 例:販売店に商品のポスターを配布 |
効果が小さく実現しにくいアイデアへ社内リソースを費やさず、効果が大きく実現しやすいアイデアへ優先的に時間を割くよう心がけましょう。
まとめ
本記事では、インバスケット思考について解説しました。
インバスケット思考は、複数のタスクに優先順位をつけ、限られた時間のなかで処理していく思考方法です。
インバスケット思考を実施すれば、問題を発見・解決するスキルや、優先順位をつける思考力が身につけられます。
現代のビジネスシーンに役立つ能力を身につけ、生産性を上げていくためにも、ぜひインバスケット思考の導入を検討してみましょう。
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