エンゲージメントサーベイの結果は、上司との関係性によって大きく左右されます。職場で上司を「信頼できる」「尊敬できる」と感じている社員は、仕事へのモチベーションが高く、生産性や定着率も向上する傾向があります。
一方で、上司とのコミュニケーション不足や不公平な評価は、エンゲージメントスコアを下げる主な要因の一つです。
本記事では、上司がエンゲージメントサーベイに与える影響や、上司への働きかけによってスコアを改善する方法を解説します。
また、実際にスコア向上に成功した企業事例も紹介し、上司・部下双方の関係性を良好に保つためのポイントを整理します。エンゲージメントサーベイの結果を現場改善につなげたい方は、ぜひ参考にしてください。

エンゲージメントサーベイとは
エンゲージメントサーベイとは、社員のエンゲージメント(会社への愛着・信頼・貢献意欲)を数値化して把握するため、アンケート形式で社員の意識や職場環境への満足度を測定し、組織の現状を客観的に可視化するものです。
この調査結果を分析することで、離職率の抑制・生産性向上・人材定着などの施策に活かせます。
また、2023年から上場企業を中心に「人的資本開示」が義務化され、エンゲージメントスコアは社員のモチベーションや組織の健全性を示す主要指標として注目を集めています。
つまり、エンゲージメントサーベイは、社内の改善(従業員体験の向上)と社外への信頼性向上(投資家・顧客へのアピール)の両面で重要な役割を果たすのです。
上司がエンゲージメントサーベイに与える影響とは?
エンゲージメントサーベイに大きな影響を与える要素の一つに、上司と部下との関係性があります。
上司がそれぞれの部下と築く関係の質を重視する「LMX理論(リーダー・メンバー・エクスチェンジ理論)」からも、上司の働きかけが部下のエンゲージメントに深く関わっていることが示されています。
管理能力の高い上司が部下に与える主な好影響は以下の4点です。
- モチベーションの維持や向上に役立つ
- メンタルヘルスの安定につながる
- キャリアのロールモデルになる
- 評価や報酬に対する納得感を得られる
それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
モチベーションの維持や向上に役立つ
上司の指導力や部下との相性は、部下のモチベーションに直接影響を与えます。指導力の高い上司のもとでは、部下は自らの能力を最大限に発揮しやすく、成長を実感できるため、より高い意欲と向上心を持って業務に取り組むことが可能です。
また「尊敬する上司に認められている」「もっと上司の役に立ちたい」といった意識は、エンゲージメントの向上を促進します。エンゲージメントの向上は、社員の定着率や生産性の改善につながり、企業の持続的な成長に貢献します。
メンタルヘルスの安定につながる
上司の存在は、部下のメンタルヘルスにも大きな影響を与えます。業務上の疑問や悩みを上司に気軽に相談できる環境が整っていれば、部下は精神的な安心感を得られ、業務に集中しやすくなります。
一方で、威圧的な言動をとったり、部下を放置したりする上司のもとでは、部下は孤立感や萎縮を感じやすくなり、やがて心身の不調を招きかねません。
キャリアのロールモデルになる
尊敬できる優秀な上司は、部下にとって理想的なロールモデルとなります。「上司のようになりたい」という思いが内発的動機を生み出し、意欲的に業務へ取り組めるでしょう。
また、将来のキャリアを具体的に描きやすくなる点も、優秀な上司のもとで働くメリットの一つです。上司を手本にキャリアアップの道筋を明確にできるため、目的意識を持ってスキル向上に努めることができます。
評価や報酬に対する納得感を得られる
上司との信頼関係が築かれていれば、評価や報酬への納得感も高まります。たとえば「次はリーダーシップをさらに発揮してほしい」などの具体的なフィードバックがあると、部下は評価の意図を理解しやすくなるでしょう。
さらに、優秀な上司は今後の課題や成長の方向性も具体的に示してくれるため、部下は目標を明確に持てるようになります。結果として、日々の業務やスキル向上へのモチベーションが高まり、主体的に取り組む姿勢が育まれるのです。
上司の管理力向上にエンゲージメントサーベイを活かす方法
上司の管理能力は、部下のエンゲージメントを大きく左右する要素です。そのため、上司のマネジメント力を可視化し、課題を明らかにしたうえで改善策を講じることで、チームや部署全体のエンゲージメントを高められます。
エンゲージメントサーベイを上司の管理力向上に活用する際、とくに意識すべきポイントは以下の4つです。
- 上司にフォーカスした設問を入れる
- 上司にサーベイ結果をフィードバックする
- 改善の手段を提供する
- 改善後に再評価を実施する
それぞれの目的や実施時の注意点を詳しく解説します。
上司にフォーカスした設問を入れる
エンゲージメントサーベイでは、管理職層に特化した設問を設けることで、マネジメントの課題を具体的に把握できます。係長・課長・部長といった役職ごとに、求められる役割やスキルは異なるため、それぞれに応じた設問設計が重要です。
また、同じ役職でも、部門によって求められるマネジメントの方向性が異なる点も見落とせません。たとえば、営業では目標管理が重視される一方、企画部門では創造性を引き出すサポート力が求められることもあります。
このように、役職別・部門別の視点を取り入れることで、より的確な課題把握と改善策の立案が可能です。設問の設定方法や注意点については、のちほど詳しく解説します。
上司にサーベイ結果をフィードバックする
エンゲージメントサーベイで得られた分析結果は、上司本人にフィードバックしましょう。その際には、伝え方に十分な配慮が必要です。
結果を伝える場面で「注意された」「批判された」といったネガティブな印象を与えてしまうと、上司のモチベーションを下げたり、防衛的な態度を引き起こしたりするおそれがあります。
そのため、フィードバックはできる限り1on1の落ち着いた環境で行い、「改善のための前向きな対話」であることを丁寧に伝えましょう。
改善の手段を提供する
サーベイ結果をフィードバックして「改善してください」と伝えるだけでは、上司がどう対応すべきかわからず、かえって戸惑いや悩みを抱えてしまいます。
問題を指摘するだけで終わってしまうと「何をどう変えればよいのか」が不明確なまま、改善が進まないケースも少なくありません。
だからこそ、単なる指摘で終わらせず、上司がスキルを身につけ、行動を変えていくための研修やサポートの機会を提供することが重要です。改善に向けた具体的な支援を通じて、前向きなマネジメントの変化を後押ししましょう。
適切なフィードバックをする
エンゲージメントサーベイを再実施することで、取り組みの成果や変化の有無を客観的に把握できます。
改善が見られた項目については、該当する管理職に対してフィードバックを行い、取り組みの成果をしっかりと伝えて、さらなるモチベーション向上につなげることが大切です。
一方で、大きな変化が見られない場合は、実施している対策の内容や進め方が適切かどうかを再評価し、必要に応じて見直しましょう。効果測定と改善を繰り返すことが、エンゲージメント向上に向けた取り組みを着実に前進させるポイントです。
エンゲージメントサーベイにおける上司に関する設問内容と注意点
エンゲージメントサーベイにおいて上司に関する設問を取り入れる際は、部下への十分な配慮が欠かせません。
直属の上司との関係は、部下の働きやすさや日々の業務に大きな影響を与えるため、関係性が悪化すれば業務効率の低下やメンタルヘルスの不調につながるリスクがあります。
そのため、サーベイに対して本音で答えることが難しくなり、回答の信頼性が下がる可能性も否定できません。
正確で有効な調査結果を得るためには、設問の内容や調査方法を慎重に設計することが重要です。ここでは、部下に負担をかけずに調査の精度を高めるためのポイントを解説します。
設問内容
エンゲージメントサーベイに、上司に関する項目を組み込む際は、設問を率直かつシンプルな内容にすることが重要です。
「非常にそう思う」から「まったくそう思わない」までの5段階評価を用いることで、部下の意識を定量的に把握しやすくなり、調査結果の精度も高まります。
以下に、設問項目と内容例を示します。
| 項目 | 設問内容例 |
|---|---|
| 上司との関係性 | あなたは現在の上司と、信頼関係を築けていると感じますか? |
| コミュニケーションの質 | あなたは上司と円滑なコミュニケーション(相談・意見交換など)が取れていると感じますか? |
| 上司のサポート | 困難に直面した際、上司から適切なサポートやフィードバックを得られていると感じますか? |
| キャリアサポート | 上司はあなたのキャリア形成や成長に対して積極的な関心や支援を示していますか? |
| 期待の明確性 | 上司から業務に対する期待や役割について、明確な説明を受けていると感じますか? |
設問設定や調査時の注意点
次に、設問設定や調査時の注意点をご紹介します。部下の負担を軽減し、安心して回答できるよう配慮しましょう。
設問内容はシンプルにする
シンプルでわかりやすい設問を設定することも、正確なエンゲージメント調査には欠かせません。質問の意図が曖昧だったり、恣意的なニュアンスが含まれていたりすると、部下が混乱し、忖度して回答してしまう可能性があります。
その結果、調査結果にバイアスがかかり、実態を正しく把握できなくなるおそれがあります。
以下に、避けるべき設問の例(NG例)をまとめましたので、設問設計時の参考にしてください。
| NG例 | NGである理由 | 詳細 | 改善例 |
|---|---|---|---|
| あなたは上司に満足していますか? | 設問内容が抽象的 | 上司の何に満足しているかが不明確で、回答者によって解釈にばらつきが生じる | 【設問内容を明確にする】 上司は、業務遂行に必要な支援や指導を適切に行っていると感じますか? |
| 上司は適切に指導し、あなたの話をよく聞いてくれますか? | 1つの設問に2つの要素が含まれている(ダブルバーレル質問) | 片方だけに当てはまる場合(話は聞いてくれるが、適切な指導はないなど)、どちらに回答すればよいか迷う | 【2つの設問に分ける】 上司は適切に指導してくれますか? 上司はあなたの話をよく聞いてくれますか? |
| 上司はあなたに対して不適切な対応をしないと思いますか? | 二重否定 | 文の意味がわかりづらくなり、誤回答を誘発する | 【否定表現を避ける】 上司はあなたに対して適切な対応をしていると思いますか? |
| 当社では1on1による上司と部下のコミュニケーション活性化を行っていますが、上司とのコミュニケーションは円滑であると感じますか? | 誘導的な設問 | ある方向(この場合はコミュニケーションが円滑である)に回答者を誘導する設問となっており、回答に偏りが生じる | 【誘導的な表現を避ける】 上司との1on1や日常的なコミュニケーションは、あなたにとって円滑に行われていると感じますか? |
設問数に留意する
詳細な調査を目的として、設問を過剰に増やすのは避けましょう。
設問数が多すぎると、部下が途中で疲れて集中力を失い、設問の意図を正確に読み取れなくなったり、適当な回答をしてしまう可能性があるためです。その結果、調査の正確性がかえって損なわれてしまう場合があります。
設問数の目安としては、パルスサーベイで5〜15問、センサスサーベイでは20〜50問程度が適切とされています。限られた設問数の中で、正確かつ効率的な調査を行うためには、設問内容を慎重に取捨選択することが重要です。
プライバシーを保護する
とくに上司に関する設問を含める場合、部下が「自分の回答が上司に知られてしまうのではないか」と不安に感じ、本音を答えられないケースがあります。こうした心理的な抵抗があると、調査結果の正確性が損なわれかねません。
そのため、エンゲージメントサーベイでは匿名性が確保されていると、明確に伝えることが重要です。
上司向け研修によるエンゲージメント向上の取り組み事例
最後に、部下のエンゲージメント向上に向けて、上司(管理職)を対象とした研修を実施し、具体的な課題解決につなげた企業の実例をご紹介します。実際の取り組みから、マネジメント改善のヒントを見つけてください。
NTTドコモ
NTTドコモでは、エンゲージメントサーベイの結果から「戦略の浸透」や「経営陣が社員の声を聴いているか」といった項目のスコアが相対的に低いことが課題として浮かび上がっていました。
そこで同社は、組織長層に向けてエグゼクティブコーチングを導入。経営層と現場のつながりを強化し、戦略やビジョンの浸透を図る取り組みを始めました。
具体策として、コーチングの実施による組織長が自らのリーダーシップスタイルを見直し、部下とのコミュニケーションや関係構築を目指したのです。
施策後のアンケートでは「コミュニケーションの向上」「人間関係の改善」を実感する声が多く寄せられるなど、組織風土のポジティブな変化が見られました。
同社では引き続き、トップダウンとボトムアップの両面から対話を促進し、挑戦できる組織づくりを進めています。
株式会社ヤスサキ
株式会社ヤスサキは、福井県を中心に石川県にも店舗を展開する地元密着型の小売企業です。同社では「ヤスサキ的働き方改革」と題し、社員一人ひとりが「働いて良かった」と実感できる職場づくりに取り組んでいます。
その施策の一つが、店長やバイヤーを対象とした研修の実施です。研修では、単に業務知識を深めるだけではなく、部門を超えたコミュニケーションの活性化にもつながっており、風通しの良い職場づくりが進んでいます。
加えて、社員の資格取得支援や、製品の「川上」を知るための現場見学なども行い、現場力の強化と働く意欲の向上を支援しています。こうした取り組みを通じて、社員の成長が企業の継続的な成長につながるという考えのもと、人材育成に力を入れているのです。
株式会社島津アクセス
株式会社株式会社島津アクセスは、分析機器・試験検査機器・環境計測機器に関するトータルサポートを行う会社です。
同社では、若手社員の離職率の高さが課題でした。入社3年までの社員の離職率は12 %であり、これは若手の育成・定着の仕組みが十分に機能していないことを示していました。
そこで同社が実施したのが全方位型の研修プログラムです。
若手社員・メンター・その上司と、各階層に向けた複数の研修を並行して実施することで、若手社員自身の成長を促進。さらに、若手社員育成の重要性への理解を組織全体に行きわたらせ、育成風土の醸成を目指しました。
その結果、離職率は2%台に低下しました。研修により上司やメンターが職場を見るスキルを身につけ、若手社員が意欲的に相談し、学ぶ姿勢を持つようになったことが離職率低下の重要な要因と考えられます。
エンゲージメントサーベイは上司のマネジメント力向上や上下関係の改善に効果的
エンゲージメントサーベイは、職場の状態を可視化するだけではなく、上司と部下の関係性や、上司のマネジメント行動に対する部下の認識を把握する手段としても有効です。
信頼関係やコミュニケーション、サポートの質など、上司の行動は部下のエンゲージメントに大きな影響を与えます。サーベイの結果をもとに、上司自身がマネジメントのあり方を見直すことは、組織改善への第一歩になります。
また、組織全体としても、調査結果を活かして管理職向けの研修やフィードバック制度を整備することで、現場の活性化や社員の定着率向上につなげられるでしょう。
ただし、エンゲージメントサーベイの設問内容や活用方法を誤ると、かえって現場に不信感を与えてしまうおそれがあります。上司を評価・批判するためのものではなく「成長を支援する仕組み」として位置づけることが大切です。
「ミキワメ ウェルビーイングサーベイ」では、設問項目を自由にカスタマイズできるため、上司に関する項目を柔軟に追加することが可能です。
さらに、カスタマーサクセスチームによる結果の読み解き方のレクチャーや、課題解決に向けた具体的な提案などのサポートも充実しており、初めてエンゲージメントサーベイを導入する方でも安心して活用いただけます。
上司と部下の関係性改善や、組織全体のエンゲージメント向上に向けて、ぜひミキワメ ウェルビーイングサーベイの導入をご検討ください。
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