都市部を中心に、事業者や個人が作業スペースを共用する「コワーキングスペース」が増えています。
コミュニケーションツールやテレワークの浸透などを背景に普及したコワーキングスペースは、大都市政策研究機構の調査によると、2021年時点で全国に1,300以上の施設が存在します。
コワーキングスペースは経費削減やビジネスチャンス獲得などのメリットがあることから、今後も拠点数と利用者数が増加していくことでしょう。
本記事ではコワーキングスペースとは何か、メリットや利用方法などを伝えつつ、混同されやすいシェアオフィスなどとの違いについて解説していきます。
参考:一般社団法人大都市政策研究機構|調査研究レポート(第2回)「日本のコワーキングスペースの拡大」(速報版)
コワーキングスペースの意味とは?シェアオフィスやレンタルオフィスとの違いとは?
大都市政策研究機構の調査によると、2021年2月時点で全国のコワーキングスペースは1,379施設存在します。テレワークの浸透に伴い、すでに利用経験のある方も少なくありません。
まだ利用したことがない人も、職場や自宅以外の作業スペースとして利用を検討している方もいらっしゃるでしょう。
目的や用途に適した使い方を知るためにも、混同されやすいシェアオフィスやレンタルオフィスとの違いを見ていきましょう。
参考:総務省|「お試しサテライトオフィス」モデル事業(平成29年度)調査報告書
コワーキングスペースの意味とは?
コワーキングスペースとは、「事業者や個人が作業スペースを共用するオフィスやスペース」のことです。
一般的には「複数の事業者や個人が、作業スペースや会議室、商談スペースなどを共同で使用し、かつ、独立して作業する場所」を意味します。
総務省では、コワーキングスペースを次のように定義しています。
引用元:総務省|「お試しサテライトオフィス」モデル事業(平成29年度)調査報告書
サテライトオフィスの一形態。複数の企業がフリーアドレス形式で利用するオフィス。特に利用者間の連携・交流を促す特徴的な機能・空間等を有するオフィスあるいはスペースを「コワーキングスペース」という。
総務省の定義からもわかるように、コワーキングスペースは「協働(=コワーキング)と交流」を重視しています。
したがって、多くのコワーキングスペースはオープンスペースがメインとなっているのが特徴です。
シェアオフィスとの違いとは?
シェアオフィスはコワーキングスペース同様、「複数の事業者や個人が共用するオフィスや作業スペース」のことです。実は両者には大きな差はありません。
強いて挙げるとすれば、シェアオフィスは”オフィス”としての役割が強く、事業者や個人間の協働と交流を重視しません。
つまり、シェアオフィスは「作業・執務のスペース」、コワーキングスペースは「協働と交流のスペース」としての意味合いが強いといえるでしょう。
参考:Chatwork|コワーキングスペースとシェアオフィスの違いとメリット・デメリット
レンタルオフィスとの違いとは?
レンタルオフィスとは、「ビジネスに必要なデスク、PC、OA機器、インターネット環境などを備えた貸事務所の総称」のことです。サービスオフィスとも呼ばれています。
自社で賃貸借契約を締結して事務所を借りるよりも、低コストかつスムーズにオフィスを構えられる、というメリットがあります。
レンタルオフィスは多くの場合、個室の作業スペースが用意されています。言い換えると、コワーキングスペースと違い、協働と交流は目的としていません。
参考:Regus|コワーキングスペース(コワーキングオフィス)サービス
バーチャルオフィスとの違いとは?
バーチャルオフィスとは、「物理的な場所を持たない、仮想(バーチャル)のオフィス」を指します。
法人登記可能なビジネス用住所の取得、郵便物やFAXの転送、会議室の一時利用などのサービスを受けられる、などのメリットがあります。
コワーキングスペースとの違いは、作業スペースの有無です。
参考:SAISON CARD|バーチャルオフィスとは?サービスの内容やメリット・デメリットについて解説
コワーキングスペースとの違い|まとめ
コワーキングスペースと他のオフィス形態の違いについてまとめると、次の表のとおりになります。
オフィス形態 | 目的 | 特徴 |
コワーキングスペース | 複数の事業者や個人が共用するスペース | 事業者や個人の協働と交流を重視する |
シェアオフィス | 複数の事業者や個人が共用するスペース | 作業・執務スペースとしての役割を重視する |
レンタルオフィス | ビジネスに必要な環境が整備された貸事務所の総称 | 専用の作業スペースがある |
バーチャルオフィス | 物理的な場所を持たない、仮想(バーチャル)のオフィス | 作業スペースは無い |
コワーキングスペースの料金体系|月額とドロップイン
コワーキングスペースの料金体系は、「会員制(月額)」と「ドロップイン(一時利用)」の2つです。
ここからは、会員制とドロップインのそれぞれの特徴について解説していきます。
料金体系を確認し、事業規模や自身の働き方に応じて柔軟にコワーキングスペースを利用していきましょう。
会員制(月額)
「会員制(月額)」は、コワーキングスペースに会員登録(契約)をして月額料金を支払う利用方法です。
会員登録することで、個室や固定デスクを確保できる施設もあります。席を予約できるコワーキングスペースであれば、「急いでいるのに利用できるデスクがない」というトラブルが起こりません。
ドロップイン(一時利用)
一方「ドロップイン(一時利用)」は、コワーキングスペースに会員登録せずに利用し、その都度料金を支払う利用方法です。
会員登録の必要がないため、誰でも気軽に利用できます。1時間単位で利用できる施設も多いため、「仕事帰りにちょっとだけ作業をしたい」「平日は使用しないけど、休日は使ってみたい」という方におすすめの利用方法です。
参考:CO WORK media|料金システム(ドロップイン制・月額制)とは?
コワーキングスペース普及の背景とは?
コワーキングスペースが普及してきた背景には、大きく2つの要素があります。
- コミュニケーションツールの進歩
- テレワークの浸透
それぞれ詳しくみていきましょう。
背景1.コミュニケーションツールの進歩
Web会議やチャット、クラウドサービスなどのコミュニケーションツールが進歩したことで、対面会議や出社の必要性が薄れ、コワーキングスペースの需要が高まりました。
また、コミュニケーションツールの進歩は、フリーランスやスタートアップなど、働く場所に捉われないワークスタイルの普及を大きく後押ししています。なぜなら、クライアントと直接会わなくても仕事を受注したり、業務に取り組めたりできるようになったからです。
現に、ランサーズの「フリーランス実態調査2018」は、日本の総労働人口のうち17%がフリーランスとして働いていると報告しています。
このように、コミュニケーションツールの進歩で、対面会議や直接出社・商談などを介さず顧客獲得やビジネス拡大が可能になったため、「オフィスと同じ感覚で気軽に作業できる」コワーキングスペースが普及しました。
参考:ランサーズ株式会社|進化するフリーランスの未来-フリーランス実態調査2018-
背景2.テレワークの浸透
働き方改革の推進でテレワークが浸透し、自宅で仕事をする人が増えたものの、自宅では生産性を十分に発揮できないという悩みを抱える人も増えました。
実際、ビズヒッツの「リモートワークの悩みに関する意識調査」では、悩みとして「家族がいて集中できない(1位)」「集中力が続かない(3位)」「仕事環境が整っていない(5位)」などの声が寄せられました。
そうした自宅作業の問題点を解決する手段として、オフィスに近い感覚で作業できるコワーキングスペースが注目されていったのです。
コワーキング協同組合の「コワーキングスペースアンケート調査」では、コワーキングスペース利用者の使用目的・動機として最も大きな割合を占めていたのが「ホームオフィスに限界を感じたから(34.1%)」でした。
テレワークする必要があるものの、自宅での作業は難しい、そのような悩みを抱えた方によってコワーキングスペースの普及は拡大していきました。
参考:Biz Hits|リモートワークで困っていることランキング!男女961人アンケート調査
参考:コワーキング協同組合|コワーキングスペースアンケート調査
コワーキングスペースの4つのメリットとは?
ここからは、コワーキングスペースを利用することにどのようなメリットがあるのか解説していきます。
参考:ビジトラ|コワーキングスペースとは?メリットとシェアオフィスとの違いについて
メリット1.経費削減できる
コワーキングスペースは、賃貸オフィスに比べてランニングコストが低いため、経費削減が可能な点がメリットです。
賃貸オフィスを借りるときは、敷金や仲介手数料などの初期費用が発生します。一方、コワーキングスペースは作業スペースとオフィス設備を共有することで、月額数万円程度のコストに抑えられます。ドロップインなら1時間あたり1,000円程度から利用でき、低コストで作業スペースを確保可能です。
メリット2.新たな交流・ビジネスチャンスが期待できる
コワーキングスペースは、他の利用者との交流が可能な共有スペースです。
共有スペースでは、同業者と親睦を深めることも可能ですし、異業種間の交流も期待できます。新たな繋がりにより、ビジネスチャンスが生まれることもあるでしょう。
東京を中心にコワーキングスペースがいくつも設置され、地方都市でもコワーキングスペースが次々と設置されているため、新たな交流・ビジネスチャンスの場として注目を集めています。
参考:東洋経済ONLINE|渋谷駅新ビル、畑違いの男が生んだ「目玉施設」
参考:総務省|平成27年版情報通信白書
メリット3.オフィスに近い感覚で作業に集中できる
コワーキングスペースは仕事に必要な環境が整備されているため、オフィスに近い感覚で作業できます。
施設によって環境は異なりますが、インターネット環境、フリードリンク、個室の会議室などが用意されています。
必要な時間だけ利用できるため、気分転換などを挟みながら、集中して作業に取り組むことが可能です。
メリット4.設備とサービスが充実している
コワーキングスペースでは、作業をサポートするさまざまな設備やサービスが利用できます。
代表的なものは以下のとおりです。
- 無料Wi-Fi
- OA機器(複合機やシュレッダーなど)
- フリードリンク
- 文房具やケーブルなどの貸し出し
- 会議室や応接スペースの提供
- 保管ロッカー
- メールボックス
施設によって異なるため、詳細は施設へ直接確認してみましょう。
コワーキングスペースの利用手順とは?
「コワーキングスペースを利用してみたいけど、どう利用すればいいの?」という方のために、コワーキングスペースの利用手順を紹介していきます。
参考:WORK AND WONDER|【徹底解説】コワーキングスペースとは?シェアオフィスとの違いや利用手順を紹介
1.内覧予約・見学予約をする
まずは、ホームページやSNSから、興味のあるコワーキングスペースに問い合わせします。
「長期的に利用できるか」「集中できるか」など、直接見なければわからない部分を確認するために、内覧や見学がおすすめです。内覧や見学は無料で実施されていることが多いため、気になる施設は積極的に見に行きましょう。
2.内覧・見学をする
実際に内覧や見学をする際の注意点として、訪問する時間帯が挙げられます。
施設によっては、平日の利用客が少なくても、休日は席の予約が困難なほど混む場所もあります。平日だけを見て「ここから快適に作業できそうだ。」と会員登録してみたところ、実際に作業する休日の環境が全く違っていた、という後悔をしないよう気をつけましょう。
内覧や見学は、自分がコアタイムとして利用する曜日や時間帯に合わせて行き、実際に利用する時の環境を確認するよう心がけましょう。
3.利用申込をする
内覧・見学を終えて、環境や設備などに満足できたら、利用登録を行います。可能であれば、登録方法を事前に確認し、必要書類などを用意しておきましょう。
4.利用審査を受ける
利用審査は、通常、コワーキングスペースの運営会社が実施します。
一部のコワーキングスペースでは、利用不可の職種などがあるため、運営会社によっては面談による審査を設けているケースもあります。
5.契約・入金をする
利用審査を無事に通過したら、本契約に進みます。
月額賃料や入会金、保証金などの諸費用を支払えばコワーキングスペースを利用できます。一般的に、初期費用として支払う金額は以下のとおりです。
- 月額賃料:2〜3か月程度
- 入会金 :20,000〜30,000円
- 保証金 :10,000〜100,000円
コワーキングスペースや地域によって、月額賃料や入会金、保証金は異なります。利用を検討している方は、施設ホームページなどで確認してみましょう。
コワーキングスペースの契約に必要なものとは?
コワーキングスペースの月額利用では、契約時に次のような書類が必要です。
【個人の場合】
- 利用申込書
- 印鑑証明書
- 住民票
- 金融機関口座情報(口座振替)またはクレジットカードなど
- 収入証明書(源泉徴収票や納税証明書など)
- 身分証明書
【法人の場合】
法人の場合は、個人が必要な書類に加えて、以下の書類が必要です。
- 代表者の身分確認書類(運転免許証、パスポートなど)
- 登記簿謄本のコピー
- 会社概要(事業内容や株主構成がわかるものなど)
契約時に必要なものはコワーキングスペースによって異なるため、詳しくは運営会社やホームページにてご確認ください。
まとめ
事業者や個人が作業スペースを共用する「コワーキングスペース」には、職場や自宅以外の作業スペースの確保や、利用者との交流といったメリットがあります。
テレワークの浸透やコミュニケーションツールの進歩などの後押しも受けて、今後もコワーキングスペースの需要は高まっていくでしょう。
「自宅での作業に限界を感じている」「ビジネスとプライベートの区別をつけたい」といった悩みをお持ちの方は、快適に仕事をするための選択肢として、コワーキングスペースの利用を検討してみてください。
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