企業成長とは、一般的に利益向上や事業の発展を指します。経済情勢や市場のニーズが目まぐるしく変化し続ける現在において、企業成長による市場シェアの拡大やリスク分散は、企業が生き残るために欠かせない条件となっています。
企業成長のためには自社の抱えている課題を明らかにし、具体的な戦略を練ることが重要です。また、企業の重要な経営資源である「ヒト」の採用やパフォーマンス把握、適切な配置、モチベーション向上のための施策も企業成長に大きく寄与します。企業成長において、人事担当者は大きな役割を担っているといえるでしょう。
本記事では、企業成長の定義や戦略の立て方、具体的な手段について解説します。とくに人事戦略の観点から行うべき施策について重点的にご紹介しますので、企業成長のための人材採用・育成を考えている人事担当の方は、ぜひ最後までお読みください。
企業成長とは
企業成長とは、企業として拡大・発展することを指します。なにをもって成長とするのか、明確な定義はありません。一般的には売上や利益の拡大が成長の指標とされますが、お金は評価基準のひとつに過ぎません。
企業の重要な経営資源であるヒト、モノ、情報、技術などの獲得を通じて、企業の質を向上させることも企業成長と呼べるでしょう。
企業成長により利益を拡大させることで、多少の業績悪化では崩れない、強い経営基盤を確立できます。また、新事業への投資も可能となり、新たな顧客の獲得や、リスク分散ができる点もメリットです。
現状維持だけでは企業の安定性は保てません。市場ニーズの変化や景気の悪化、インフレなど、企業を取り巻く情勢は日々目まぐるしく変化しているためです。成長しない企業はいずれ停滞し、経営難に陥る危険性があります。
企業成長を評価する指標
先述のとおり、企業成長の評価基準としては、お金(売上・利益)に加え、経営資源の増大・獲得が挙げられます。主な指標を以下にご紹介します。
売上・利益の増大
一般的に、企業成長は継続的に売上や利益を増大させているかどうかで判断されます。売上や利益の増加率の計算式は以下のとおりです。
指標 | 計算式 |
---|---|
売上高増加率(%) | {(当期売上高 – 前期売上高)÷ 前期売上高}×100 |
営業利益増加率(%) | {(当期営業利益-前期営業利益)÷前期営業利益}×100 |
経常利益増加率(%) | {(当期経常利益 – 前期経常利益)÷ 前期経常利益}×100 |
総資本増加率(%) | {(当期総資本−前期総資本)÷前期総資本}×100 |
事業拡大
商品やサービスのを拡充することも企業成長の評価基準です。事業の拡大は認知度の向上に影響します。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 店舗やオフィスの増加
- 市場シェアの増加
- SNSのフォロワー増加
社員数の増加
事業拡大や売上向上にともない、社員数も増加します。社員数の増加率は「従業員増加率」として、以下の計算式で算出します。
従業員増加率(%)=(当期従業員数÷前期従業員数−1)×100
従業員増加率は企業の成長性を測る指標のひとつです。ただし、設備投資に注力し、人件費を削減する段階では、従業員の減少と売上高の増加が同時に起こる場合があります。
技術力・販売力の向上
技術力や販売力の向上も企業成長の判断基準となります。企業の利益や価値を創造するためのノウハウは「経営資源」であり、企業成長を促進する要因となるためです。
技術力・販売力向上を示す具体的な例としては、新技術導入や販売チャネルの強化、社外組織とのネットワーク構築などが挙げられます。
企業成長のステージ
人がさまざまな発達段階を経て成長するように、企業にも成長の段階があります。具体的な段階は以下の4つです。
- 創業期
- 成長期
- 安定・拡大期
- 衰退・再成長期
各段階において、生じやすいトラブルや解決策は異なります。ステージの移行にともない、これまで有効であった施策が通用しなくなるおそれがあります。
各段階の特徴や課題、対策について見ていきましょう。
創業期
創業期とは創業間もなく、事業成長を始めたばかりの段階です。明確な定義はありませんが、創業5年以内、社員数は数名程度が目安です。
創業期の主な課題としては、資金不足と社内ルールの未整備が挙げられます。
創業期の課題(1)資金不足
創業期の企業は資金不足に陥ることも少なくありません。事業展開のためには設備投資や商品開発など、多額の資金が必要となるためです。
事業が軌道に乗るまでは安定した利益が望めないため、資金調達に奔走しなければならない場合もあるでしょう。
金融機関から十分な融資を受けることで資金不足は解消されますが、創業期の企業は信頼度が低く、融資審査に通過しないケースが多くあります。綿密な事業計画の作成や誠実な説明により、金融機関の信頼を勝ち取ることが重要です。
創業期の課題(2)社内ルールの未整備
創業期の企業は社内ルールが定められておらず、目的やビジョンが曖昧になっている場合があります。
創業メンバー数名であれば、志を同じくする仲間として、企業理念や目的を自然に共有できる場合が多いでしょう。しかし、事業拡大とともに新たな社員を迎え入れた際に、社内ルールの未整備による方向性のブレが生じることがあります。
社内ルールを言語化し、事業ビジョンやポリシーを浸透させることで、全社員の意識統一が可能です。
成長期
成長期は、事業が軌道に乗り、企業が大きく成長し始める時期です。社員は数十名程度になり、組織化が促進されます。企業の認知度が上がり、商品やサービスに関する問い合わせも増え始めます。
成長期の課題としてよくあるのが、属人化が進むことと、人材確保が難しくなることです。
成長期の課題(1)属人化が進む
各部門に専門家が配置され、業務効率が上がる反面、属人化が進むおそれがあります。担当者一人に負担が偏るだけではなく、担当者の不在時には混乱が生じかねません。
対策としては、人材マネジメントの強化が挙げられます。人員体制を整え、チーム全体のパフォーマンスを把握できる管理者を養成することで、属人化から生じるリスクを回避できます。
成長期の課題(2)人材確保が難しくなる
成長期において、創業時のメンバーは経営幹部となり、各部署に専門スタッフを配置するといった人員体制の大幅な転換が行われます。事業拡大に応じた人員の確保ができないと、人材不足に陥るおそれがあります。
人材不足を解消するためには、綿密な人事戦略を立て、優秀な人材を確保できるよう採用活動を進めなければなりません。また、派遣会社やフリーランスといったアウトソーシングの利用も有効です。
安定・拡大期
安定・拡大期は事業が安定し、黒字を維持できる状態です。社員数は50〜100名程度になり、株式上場やM&Aを検討する段階に入ります。商品やサービスの種類が増え、広告費の比重が大きくなる傾向があります。
安定・拡大期の主な課題は、部署を超えたコミュニケーションが困難になることと、創意工夫がなくなることです。
安定・拡大期の課題(1)部署を超えたコミュニケーションが困難になる
組織が大きくなり部署が細分化されると、部署間の調節に時間がかかり、業務効率が下がる原因となります。
社内チャットやSNSの導入、イベントの実施、共有の休憩場所の設置を通じて、異なる部署の社員が交流する機会を増やすことで、部署間の断絶を防止できます。
安定・拡大期の課題(2)創意工夫がなくなる
社内ルールの確立や業務のルーチン化により業務効率化が加速する反面、社員の行動や発想が定型化して、創意工夫がなされなくなるおそれがあります。
ミーティングやブレインストーミングの時間を設けることで、新たなアイデア創出が期待できます。また、アイデアを出した社員に対して評価や報酬の面でインセンティブを与えることも、発案の動機づけとなるでしょう。
衰退・再成長期
安定期を過ぎ、業績が低下し始める時期です。この段階でイノベーションを起こさない限り、企業は衰退の一途をたどることになるため、事業や組織の再編やM&Aに取り組む企業が増えます。
衰退・再成長期の主な課題は新規事業を始められる人材がいないことと、意思決定が遅れることです。
衰退・再成長期の課題(1):新規事業を始められる人材がいない
衰退・再成長期には、創業時のメンバーがすでにリタイアしていることも少なくありません。新規事業を始めるにも、0から新たな価値を生み出せる能力を持つ人材がいないという問題も起こりえます。
業績が良好な時期に蓄積した資本やコネクションを利用し、外部からアイデアや人材、ビジネスモデルを取り入れることで、自社に新しい風を吹かせられるでしょう。
衰退・再成長期の課題(2)意思決定が遅れる
業績が悪化した時点で、大きな事業転換を検討しなければなりません。しかし、安定・拡大期を経験した経営幹部は、過去の成功体験にとらわれ、事業転換に踏み切れない場合があります。
企業が生き残るためには、市場ニーズの変化やテクノロジーの発達にともない、事業の方向性や目的を弾力的に適応させる必要があります。変化を恐れず、新たな挑戦を続ける姿勢を持つことが重要です。
企業が成長するために行うべき施策
企業が安定して成長するためには、ただやみくもに業務へ取り組むだけでは不十分です。経営ビジョンを明確にし、全社員が意識を統一して目的を達成するための行動を行わなければ、継続的な発展は望めません。
企業が成長するために行うべき対策は次のとおりです。
- 明確な経営ビジョンの設定
- 現状の把握と課題設定
- 課題解決に向いた人材の登用
- コミュニケーションしやすい環境の整備
- 人事評価制度の整備
ここからは注意点とあわせて解説します。
明確な経営ビジョンの設定
経営ビジョンとは、会社経営を通じて達成すべき理想像です。経営理念が企業の根幹をなす考えを示すのに対し、経営ビジョンは具体的な目標や方針を意味します。
経営ビジョンがないと、進むべき方向性が定まらず、一貫性のある事業ができません。その結果、業績や社内の人間関係の悪化につながるおそれがあります。
自社の経営データや市場動向、競合状況などの情報を収集し、自社の業績を伸ばすためにはどのような対策を取ればよいのか分析を行い、経営ビジョンを設定しましょう。
また、明確な経営ビジョンが定まっても、社員に浸透しなければ意味がありません。研修やミーティングを定期的に行い、社員へ経営ビジョンを周知するほか、共感を得られるような工夫が必要です。
現状の把握と課題設定
経営ビジョンの設定と並行して、現状把握と課題設定を行います。現在の売上や利益、組織の状態を洗い出し、急務となる課題を見極めましょう。
経営陣が気づいていない課題が隠れている場合があるため、現場の社員から意見を聞き取ることも重要です。
課題解決に向いた人材の登用
経営ビジョンと課題が定まったら、目標達成と課題解決に適した人材の登用に取りかかります。
人材は社内から発掘する、もしくは社外から採用する方法があります。社外からの採用は、社内の雰囲気を変化させ、新たなアイデアやノウハウを取り込める点が大きなメリットです。
コミュニケーションしやすい環境の整備
企業成長を目指すためには、社内のコミュニケーションの円滑化も重要です。
意見や悩みを話しやすい環境は、社員のエンゲージメントやモチベーションの向上につながります。また、さまざまな立場から新しいアイデアや改善策が出やすくなり、新たな価値の創出が期待できます。
人事評価制度の整備
人事評価制度を見直し、企業成長に貢献した人材を評価する体制を整えることも重要な施策です。正当なインセンティブを与えることで、優秀な人材の流出を防ぎ、生産性の向上につながります。
また、評価対象は結果だけではなくプロセスも考慮しましょう。たとえ成果が出なくても、達成に向けて前向きに取り組んだ人材や、アイデアを出した人材を評価することで、モチベーションの向上やスキルアップが促進されます。
企業成長に必要な要素
企業成長には以下の3つの要素が必要です。
- 人材育成
- 人材開発
- 組織開発
いずれも、経営資本のひとつである「ヒト」の成長や開発を通じて、事業拡大につなげる戦略を指します。3つの要素について、詳細とメリット・デメリットをご紹介します。
人材育成
人材育成とは、企業ビジョンや企業戦略に沿って社員を育成することです。企業が主体となり、業務に必要な技術やスキルを獲得させます。主に入社時、異動時、昇格時といった節目に行われます。
人材開発
人材開発とは、社員が自ら目標を設定し、必要なアプローチの設定を通じてスキルアップを目指すことを指します。
人材育成が企業主体で進められるのに対し、人材開発は社員個人が能動的に取り組むものです。人材育成で獲得したスキルからさらに一歩踏み込んだ、専門的かつ細分化された学習を行い、個々の能力を最大化させます。
組織開発
組織開発とは、組織全体の能力向上や組織構造の変革を通じて、業務効率化や生産性の向上を実現する取り組みです。
状況によっては、新たな社員の雇用やチーム編成の変更など、大幅な変革を行う必要があります。まずは短期的なプランを小規模な範囲から実施し、少しずつ会社全体に広げるというように、段階的に進めることが重要です。
人材育成・人材開発・組織開発のメリットとデメリット
人材育成・人材開発・組織開発に共通するメリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット
人材育成や組織の変革は生産性の向上をもたらし、企業成長に大きく寄与します。また、社員教育に力を入れることで社員の自己実現欲求が満たされ、モチベーションや定着率の向上も期待できるでしょう。
さらに、変革に取り組む企業の姿勢は、社員の行動規範となります。変化を恐れず次々とアイデアを創出する風土が生まれ、企業全体のイノベーションにつながります。
デメリット
育成や開発における最大のデメリットは、一時的な利益や生産性の低下につながる点です。
社員教育には研修やセミナーが有効ですが、開催には費用がかかります。また、教育に時間をかけることで、業務時間が減り、短期的ではあるにせよ生産性が低下します。
育成や開発の方針を決定するための会議にかかる時間や手間、外部のコンサルティングに依頼する費用も、経営を圧迫する要因です。
社員育成や組織開発に取り組む際は、費用対効果についても十分に検討する必要があるでしょう。
企業成長のためには適切な人材採用と育成が重要
企業の持続的成長には、経営ビジョンと課題に沿った戦略の決定が必要です。また、企業を構成する「ヒト」や「組織」のビジョン統一や能力・スキルの向上、モチベーションの維持も重要な施策となります。
人材育成や組織開発のためには社員の状態を把握することと、能力や成果に見合った公正な評価が欠かせません。
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