日本では高齢化が深刻な問題となっております。介護を受ける高齢者の方も増えており、介護離職を余儀なくされている現役世代も多いです。
今回はこの介護離職について、概要やメリット・デメリットなどを詳細に解説していきます。介護離職について知りたい方、介護離職をするか悩んでいる方はぜひ最後まで読んでみてください。
介護離職とは
介護離職とは、家族の介護に専念するために退職・転職することです。配偶者・親が要介護状態になった際、経済的・精神的な理由で在宅介護を選択するケースがあります。この場合、家族が介護をしなければなりません。しかし、不慣れな人にとって、介護と仕事の両立は非常に困難です。そのため、介護に専念するため、仕事を退職・転職するのです。
介護離職者は年間で約10万人
介護離職者は、高齢化の進行に伴い増加傾向にあります。厚生労働省の雇用動向調査によると、2019年に「介護・看護」で離職した人は約10万人です。うち性別割合は男性が約2万人、女性が約8万で、女性の介護離職者の方が多い傾向にあります。
年齢層別では男性は50~54歳、女性は60~64歳で多い傾向です。これを鑑みると、男性は親の介護、女性は配偶者の介護で離職していると推測されるでしょう。
また、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(厚生労働省委託調査)の「平成24(2012)年度仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」では、具体的な離職理由は「仕事と介護の両立が難しい職場だった」「自分の心身の状態が悪化した」が全体の6割を占めていました。
参考:介護離職者はどれくらい? 介護離職をしないための支援制度は?|リスクに備えるための生活設計
介護離職のメリット
介護離職のメリットとして下記の点が挙げられます。
- 介護に集中できる
- 精神的な負担が軽減される
- 介護費用を抑えられる
介護に集中できる
仕事を辞めることで介護に十分な時間・労力を割くことが可能です。慣れればば自分の時間も十分確保できるでしょう。また、介護の経験・スキルが蓄積されやすいです。
精神的な負担が軽減される
精神的な負担が軽減される点も介護離職の大きなメリットです。仕事と並行すると、大きな負担がかかり、気を休める暇がありません。
実際に、「被介護者長時間1人にできない」「付添で仕事を抜けることが増えた」など、
仕事をしたくてもできず、精神的にも追い詰められる事例が発生しています。
介護に専念すれば、少なくとも仕事に追われることはなくなります。この分、精神的な負担は軽減されるといえるでしょう。
参考:介護で仕事の時間ない 足らぬ両立支援 離職ゼロ遠く:朝日新聞デジタル
介護費用を抑えられる
ヘルパーや介護施設に頼らないことで、各種介護費用を抑えられます。
大前提として、介護保険サービスを利用した場合、利用料には介護保険が適用されます。
引用:介護保険サービスを利用した場合の利用者負担は、介護サービスにかかった費用の1割(一定以上所得者の場合は2割又は3割)です。仮に1万円分のサービスを利用した場合に支払う費用は、1千円(2割の場合は2千円)ということです。
引用元:サービスにかかる利用料 | 介護保険の解説 | 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」
しかし、保険が適用されるとはいえ、介護施設・介護サービスの個人負担費用は決して軽くはありません。公益財団法人生命保険文化センターが発表した「生命保険に関する全国実態調査/平成30年度」によると、介護期間中の月々の介護費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は平均7.8万円です。介護用ベッドの購入や住宅改造なども加えると、一時的に必要な費用は平均69万円というデータもあります。
在宅介護だと施設の利用費用は発生しないため、金銭的な負担を極力減らせるでしょう。
参考:月々の介護費平均は7.8万円 〜40・50代の「介護費用準備率」は、1割程度〜
介護離職のデメリット
介護離職をすることで下記に挙げるデメリットが生じてきます。
- 収入が急激に減少する
- 再就職が難しい
- 介護でストレスを抱えてしまう
収入が急激に減少する
仕事を辞めると収入が急激に減少します。もしパート・アルバイトに就いても、社員時代と同じ収入を維持するのは難しいでしょう。また仕事を辞めると、年金の支払い金額が減るため、定年後に受け取る年金額も少なくなります。
再就職が難しい
内閣府の調査に因ると、介護離職者の再就職率は3割に留まるそうです。
理由としては、
- 介護と就職活動の両立が難しい
- 職歴にブランクがあるため採用されにくい
などがあります。
また、再就職できても「以前より給料が下がった」「非正規雇用に就いた」など、
本人の希望通りにならない場合が多いです。
特に現在は、40代以上の方が正社員として再就職するのは非常に困難とも言われています。
介護でストレスを抱えてしまう
生活が介護中心になり、ストレスを感じてしまうケースも多いです。ストレスが悪化すると、介護蜂起などのトラブルに発展しやすいです。
辛いときは、行政機関の窓口や福祉センターに相談しましょう。早い段階で相談して支援を受けることが大切です
行政による介護離職対策
介護離職の問題は深刻な社会問題です。この事態を受けて、政府は2020年に「介護離職ゼロ」を掲げ、「2020年代初頭までに50万人分以上の介護の受け皿を整備する」としました。
具体的には下記施策の実施です。
- 介護休業制度
- 介護休業給付
- 介護休暇
- 所定外労働・時間外労働・深夜労働の短縮・制限
介護休業制度
2週間以上に渡る常時介護を行う人に対して、休暇取得を認める制度です。対象家族を介護する男女の労働者が対象です。家族1人ごとに3回、通算93日まで休暇を取得することが可能です。(有期雇用者は条件つき)
介護休業で対象となる家族範囲は下記の通りです。
- 配偶者(事実婚を含む)
- 父母
- 子
- 配偶者の父母
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- 孫
従業員から介護休業の申出を受けた事業主は、厚生労働省に対して介護休業の開始・終了予定日を申告する必要があります。
介護休業給付
介護休業取得者に対して支給されます。給付金額は介護休業取得前の賃金の67%相当です。
下記を全て満たすことが給付条件です。
- 雇用保険に被保険者であること
- 介護休業終了後の職場復帰が前提であること
- 2週間以上の常時介護が必要であること
正規・非正規関係なく、条件を満たせば受給できます。
介護休業給付を受け取るためには、介護休業終了の翌日から2ヵ月後の月末までに、「介護休業給付金支給申請書」と「雇用保険被保険者休業開始時賃金証明票」をハローワークに提出しなければなりません。
また、下記の場合は受給できませんので注意してください。
- 介護休業中に会社から「賃金の80%以上」の給料を受け取っている
- 入社して間もない
細かい条件や手続きについては会社の人事に確認してください。
介護休暇
家族の介護や病院・介護施設への送迎などに際して、1年で最大5日まで取得できる休暇制度です。要介護の家族が2人以上いる場合は、1年に最大10日の休暇取得が可能です。
介護休業制度と名称が似ていますが、介護休暇はあくまでもスポット的に利用する制度です。例えば通院のや介護サービスの手続代行、ケアマネージャーとの短時間の打ち合わせです。
所定外労働・時間外労働・深夜労働の短縮・制限
介護の時間を確保したい従業員から請求を受けた事業主は、所定外労働・時間外労働・深夜労働の短縮・制限措置を取る必要があります。具体的には、1回の請求に対して「所定外労働・時間外労働で1ヵ月~1年間」「深夜労働で1ヵ月以上~6ヶ月以内」の期間で残業を短縮・制限しなければなりません。
ただし、従業員の請求が100%通る訳ではありません。事業に影響がでる場合は、事業主が短縮・制限措置を拒むことも可能です。
企業による介護離職対策
高齢化が社会問題となっている今、今後も介護離職者は増加すると考えられています。
そのため、企業も積極的に介護離職対策をすることをおすすめします。代表的な施策は下記の通りです。
- 公的制度の周知
- 従業員間での情報共有
- リモートワークの導入
- 勤務時間の柔軟な設定
- 介護などの悩みに関する相談窓口の設置
公的制度の周知
介護休業制度や介護休業給付などの公的制度について、認知していない従業員も一定数存在します。社内の掲示板や会議、ミーティングの場できちんと周知しましょう。
会社側で説明資料を一式作成しておくと良いでしょう。従業員の理解を促進できれば、仕事と介護の両立も実現しやすくなります。
従業員間での情報共有
従業員間の情報共有も、介護離職を防ぐ上で重要です。介護の悩みは当事者が一人で抱え込みやすく、知らず知らずのうちにストレスを溜めてしまいます。周囲が早めに気付ければ、介護休業・休暇の取得を勧める等、介護離職を防ぎやすいでしょう。
社内で定期的にアンケートを取るのも有効です。都度、丁寧にフォローアップをしましょう。
リモートワークの導入
リモートワークの導入も効果的です。在宅で仕事ができるため、介護と仕事の両立がしやすくなります。通勤時間の削減にも繋げられるので、時間を無駄にしません。
コロナウィルスの流行をきっかけにリモートワークを導入した企業も増えてきましたが、介護と仕事の両立を目的とした導入はまだ少数派かもしれません。従業員の介護離職を防ぐためにも、導入できる部分には積極的に取り入れていきましょう。
勤務時間の柔軟な設定
勤務時間の柔軟な設定も必要です。育児・介護休業法では、従業員の勤務時間制度について、下記いずれかの制度の設置を規定しています。
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム制度
- 時差出勤制度
- 労働者が利用する介護サービスの費用の助成その他これに準ずる制度
これらの制度によって、従業員が勤務時間を主体的に調整しやすくなります。
介護などの悩みに関する相談窓口の設置
介護の悩みを相談する窓口も、社内に設けましょう。上司や同僚に相談しづらいことでも、独立した相談窓口であれば相談しやすくなります。
介護サービスを利用する選択肢もある
有料老人ホームなどの介護サービスを利用すれば、離職する必要がなくなるかもしれません。収入を確保しつつ家族の介護を依頼できるので、体力的・精神的にも非常に楽になるでしょう。
介護サービスには、有料老人ホームやデイサービス、訪問入浴など様々な種類があります。要介護のレベルに合わせて使い分けると良いでしょう。
介護離職をする前に、今一度検討してみてください。
介護離職についてはこちらも参考にしてみてください:
介護離職を防ぐための術を知っておこう|介護離職の現状とデメリット
まとめ
日本では高齢化に伴い、年間で約10万人の社会人が介護離職を余儀なくされています。介護離職には介護に専念できる等のメリットもありますが、経済的な困窮・介護ストレスの増加など強いデメリットもあります。
介護離職を防ぐためには、公的制度の利用や勤務時間の柔軟な設定などが有効です。従業員が介護と仕事を両立できる体制を敷いていくことが重要になります。
すべての社会人にとって介護離職は他人事ではありません。親や配偶者が要介護の状態になれば、自身も介護離職をする可能性があります。本記事の内容を参考にしてもらい、介護離職について理解を深めてもらえれば幸いです。
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