ここ10年以上にわたり、日本の企業では「社内失業」が大きな問題となっています。また、2020年からのコロナ禍により、さらに社内失業者の存在が浮き彫りになりました。
この記事では、社内失業とはどのような状態なのか、その実態や問題点・原因・対策方法を紹介します。
社内失業とは
「社内失業」とは文字通り、社内にいながらにして失業している状態のことです。つまり、会社に在籍してはいるものの、実際には社内でおこなうべき業務がない状態を指します。
このような状況にある人を「社内失業者」と呼びます。「社内ニート」と呼ばれることもあり、以前は「窓際族」ともいわれていました。
雇用され、給与も受け取っていますが、社内で任される仕事がないため、勤務時間内は暇を持て余しているケースが多いとされます。
参考: 社内失業とは – コトバンク
社内失業の実態
エン・ジャパン株式会社が2020年2月19日〜3月24日にかけておこなったアンケート調査によると、社内失業者が「いる」と回答した企業が全体の9%、「いる可能性がある」と回答した企業が20%ありました。
合計すると29%となり、約3割の企業が社内失業者を抱えている可能性が明らかになっています。また一方で、「人材不足の部署がある」と回答した企業が83%でした。
このことから、人手が余っている部署(つまり社内失業者を抱えている部署)と人材不足の部署を同時に抱える企業も多いことが予測されます。適材適所に社員をうまく配置することが、多くの企業で大きな課題になっているといえるでしょう。
なお、社内失業者の属性について多かった回答結果は以下の通りです。
- 社内失業者・社内失業の可能性のある社員の年代:50代(61%)
- 社内失業者・社内失業の可能性のある社員の役職・クラス:一般社員(71%)
- 社内失業者・社内失業の可能性のある社員の職種:企画職(46%)、営業職(30%)
参考:第156回 「社内失業について(2020年版)」|人事、採用、労務の情報ならエン人事のミカタ
社内失業の問題点
社内失業者が増えると、以下のような問題が生じるおそれがあります。
- 企業は無駄な人件費を払い続けることになる
- 個人のキャリアに悪影響を及ぼす
- うつ病の原因になることもある
- ほかの社員のモチベーションが下がる
- 業績に悪影響を及ぼす
1つずつ見ていきましょう。
企業は無駄な人件費を払い続けることになる
社内失業者は社内でやるべき仕事がなく、成果を出すことはできません。しかし、日本は簡単に社員を解雇できない環境にあるため、企業側は給与を支払い続けなくてはなりません。仕事をしない人間を雇用し続けることは非常に大きなコストといえるでしょう。
参考: 企業は社員をリストラできない!?その理由と不当解雇にならないポイント | THE OWNER
個人のキャリアに悪影響を及ぼす
社内失業者本人にとっても、社内失業は大きな問題です。なかには、仕事をせずに給与がもらえる社内失業をよしと考える人もいるかもしれません。しかしその状態では、スキルや経験・実績が積み上がりません。
長い期間社内失業状態にあることは、個人のキャリアアップや将来活躍する可能性を閉ざしてしまうリスクがあります。
うつ病の原因になることもある
社内失業者は仕事がないため、「自分は周囲に迷惑な存在」「自分は仕事ができないダメな存在」などと自責の念を強め、うつ病を発症してしまうリスクもあります。
うつ病で働けなくなると、回復までに数ヶ月〜1年以上を要するケースもあり、心身ともに苦しい状況に追い詰められてしまいます。
また、職場復帰できたとしても、社内失業状態が改善されない限り、再発を繰り返してしまうおそれがあるでしょう。うつ病によって休職や復帰を繰り返す状況が生じることは、本人だけでなく、周囲の社員・企業にとっても大きな負担となります。
参考: 【満岡クリニック】うつ病・治療編
ほかの社員のモチベーションが下がる
社内失業は、社内失業者以外の社員にも悪影響を与えます。彼らから見た社内失業者とは「仕事をしていないのに給与をもらっている人」であり、そこに不公平感が生じてしまいます。
なかには「真面目に仕事に打ち込むことがばかばかしい」と感じ、生産性を落としてしまう人もいるでしょう。このような社員が増えていくことで、社員全体のモチベーションが下がってしまうリスクがあります。
モチベーションを上げるための方法は、以下の記事を参考にしてみてください。
業績に悪影響を及ぼす
社員全体のモチベーションが下がり、生産性が低下すれば、企業の業績自体にも悪影響を及ぼしてしまうでしょう。
社内失業は、特定個人だけではなく、企業全体にとっても大きな問題であることがわかります。
社内失業が発生する原因
問題点の多い社内失業ですが、どうしてそのような状況が生まれてしまうのでしょうか。現在考えられている代表的な原因は以下のとおりです。
- 終身雇用・年功序列の雇用システム
- 社員のスキル不足
- スキルのミスマッチ
- 人間関係・パワーハラスメント
- 教育制度がととのっていない
1つずつ解説していきます。
終身雇用・年功序列の雇用システム
終身雇用・年功序列は、日本企業特有の雇用システムとして長い期間採用されてきました。企業にとっては人材をじっくりと育成し、長期間にわたって確保できるという利点があります。
また社員にとっても、長期間の雇用が保障され、賃金が上がっていくのは大きなメリットです。
しかし弊害として、十分なスキルや経験・実績がないまま会社に居続ける人もでてきてしまいます。このような社員には任せられる仕事がなく、社内失業の状態にならざるを得ません。
先に紹介したアンケートによると、社内失業者あるいは社内失業の可能性のある社員の年代は50代という回答がトップでした。
終身雇用・年功序列が保障されることで、スキルアップへの意欲が下がってしまう社員も発生してしまい、そのことが社内失業者の増加につながっていると考えられます。
参考: 終身雇用制度とは?日本における実態・制度のメリット・企業はどうすべきか | BizHint(ビズヒント)- クラウド活用と生産性向上の専門サイト
社員のスキル不足
先のアンケートでは、社内失業の発生、あるいは発生している可能性がある場合の要因について、「該当社員の能力不足」という回答が75%でトップでした。雇用している企業側からしてみると、「スキル不足で任せられる仕事がない」状況といえます。
現在は多くの企業で、デジタル化など新しい技術が急速に取り入れられており、求められるスキルの種類も日々変化しています。かつてはもともと持っていたスキルで活躍できていても、新たな業務に必要なスキルがなければ、仕事を任せてもらえずに社内失業の状態に陥ってしまうのです。
参考:第156回 「社内失業について(2020年版)」|人事、採用、労務の情報ならエン人事のミカタ
スキルのミスマッチ
社内失業者を抱えつつ、同時に人材不足の部署を抱えている企業も多数存在しています。つまり、実際に雇用している社員のスキルと、企業が求めているスキルがミスマッチの状況です。
原因としては、以下のようなことが考えられます。
- 採用段階でのミスマッチ(企業側・求職者双方の情報伝達・理解不足など)
- 採用後に必要とされるスキルが変わってしまった
- 社内で必要なスキルを身につけるための十分な教育がなされなかった,,,等々
このようなミスマッチがある場合、問題解決は簡単ではありません。社内失業者を人手不足の部署に異動させたとしても、異動先でも社内失業状態になってしまう可能性が高いからです。
採用ミスマッチのことを詳しい内容を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
人間関係・パワーハラスメント
人間関係の悪さやパワーハラスメントが社内失業者を生み出してしまうこともあります。社員同士の風通しが悪く、十分なコミュニケーションが取れない場合、行き違いや誤解が生じやすくなり、人間関係が悪化してしまうおそれがあります。
上司・部下の間でこのような人間関係の悪化が起きてしまうと、「嫌いな部下には仕事を与えない」という上司があらわれたり(パワーハラスメントに該当)、先入観があるために部下の能力を正当に評価できない上司があらわれたりします。その結果、仕事のない社員が発生する可能性があるのです。
スキル自体はあるのに、人間関係の悪さや誤解によって社内失業の状態が生まれるのは、個人にとっても企業にとっても非常にもったいないことです。このような状況を防ぐためには、日頃のコミュニケーションのあり方も非常に大切だといえるでしょう。
教育制度がととのっていな
教育制度が十分にととのっていないことも、社内失業が発生する原因の1つになり得ます。既述のとおり、現在は求められるスキルが変化しやすい時代です。必要なスキルを社員が身につけられるよう、教育制度を見直すことも企業にとって重要な責任です。
現場でいま必要なスキルはもちろん、今後求められるスキルを習得させたり、キャリアプランに沿って育成を促したりするなど、社員がやる気を持って成長できる機会をつくるべきでしょう。
社内失業への対策
では、社内失業を未然に防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。また、もし社内失業者が発生した場合にはどう対応するべきでしょうか。ここでは、社内失業を防ぐための3つの対策をご紹介します。
- 雇用システムの見直し
- 教育や研修制度の充実
- 人材配置の見直し
雇用システムの見直し
まずは、雇用システムの見直しが挙げられます。先に紹介したとおり、社内失業が発生する原因の1つは、終身雇用・年功序列の雇用システムです。
昨今はこのような雇用システムを続けることが困難になってきており、成果主義に切り替える企業も増えています。
終身雇用・年功序列の傾向が強い雇用システムを採用している場合には、少しずつ成果主義で評価するシステムへと切り替えることで社員の成長意欲を刺激し、社内失業を防げる可能性があります。
参考: どうなる年功序列?その背景や成果主義への移行について知る:日経ビジネス電子版
教育や研修制度の充実
教育や研修制度を充実させることも重要です。具体的には、以下のような取り組みを行うとよいでしょう。
- 現場で必要な個々のスキルの教育・研修
- マネジメントなど職位ごとに必要なスキルの教育・研修
- メンター制度
- 1on1ミーティング
- キャリア教育・研修
- スキルアップの支援(将来必要となるスキルを社外研修で身につけることを推奨するなど)
- 座談会やサークル活動など、コミュニケーションの機会を増やす,,,等々
このような機会・制度によって、スキル面、人間関係面双方を良好にしていくことができます。
人材配置の見直し
社内の人材配置の見直しも欠かせません。社員が自分のスキルを発揮してやりがいを持って働ける人材配置になっているのか、見直す機会をつくってみましょう。
そのためには、社員それぞれがいま持っているスキルやキャリアプランなどを改めて確認することが大切です。
実際にさまざまな業務を経験するジョブ・ローテーション制度の導入も1つの方法です。業務の適正が判断できるのはもちろん、人事担当者や上司・本人の気がついていなかったスキルを発見でき、よりやりがいを持って働ける職種に出会える可能性もあります。
まとめ
本記事では、社内失業の現状や問題点・起こる原因や対策方法について紹介しました。
社内失業は雇用されて社内にいるにもかかわらず、おこなう仕事がない状態をあらわすことばです。企業の業績に悪影響を及ぼすだけでなく、個人のキャリアにも影響したり、うつ病の原因となったりするおそれもあります。
社内失業を防ぐための主な対策は以下の3つです。
- 雇用システムの見直し
- 教育や研修制度の充実
- 人材配置の見直し
全社員がやりがいを持って活躍でき、業績の上がる環境をととのえるためにも、ぜひ本記事を参考にして社内失業の防止に努めてください。
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