派遣労働者の保護のために制定された「派遣法」は、雇用の安定化を目指し、実態に合わせて改正を繰り返してきました。労働におけるトラブルを避けるためには、派遣会社と労働者・派遣先企業が、派遣法を正しく理解することが大切です。
この記事では、派遣法の概要や仕組み、近年の改正ポイントなどについて、詳しく解説していきます。
派遣法とは
派遣法とは、正しくは「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」と言います。派遣労働者の保護を目的として、1986年に施行されました。
これまで派遣社員は、正社員と比較すると雇用状況も安定しておらず、立場が弱いことから不利な状況で労働させられる傾向がありました。
そうした状況を鑑み、派遣社員の権利を守るために作られた法律が派遣法です。
派遣法があるからこそ、派遣社員は安心して働くことができると言えるでしょう。労働者の派遣実態に合わせ、現在もハイペースに改正されています。
派遣社員とは
派遣社員とは、派遣会社と雇用契約を結び、別の会社で働く労働者のことを言います。雇用契約を結んでいるのは派遣会社ですが、労働力を提供する会社とは、別の派遣先企業です。勤務時間や勤務形態が自分とマッチしている仕事を選択でき、ライフスタイルに合った仕事を選択できるのがメリットです。
しかし、雇用や収入が不安定であることや、責任のある仕事を任されるチャンスが少ない点はデメリットと言えるでしょう。派遣社員になるためには、派遣会社での登録が必要です。
派遣の仕組み
派遣社員の雇用形態は、大きく以下の3つに分けられます。
- 登録型派遣
- 常用型派遣
- 紹介予定派遣
登録型派遣
登録型派遣は「有期雇用派遣」とも呼ばれ、派遣会社と契約を締結して派遣先の企業で働く派遣社員のことを言います。
派遣先での就業が終わるとともに、派遣会社との契約も終了する仕組みです。
従って、派遣先で就業している期間のみ、派遣会社から給料が支払われることになります。
常用型派遣
常用型派遣は「無期雇用派遣」とも呼ばれ、派遣会社と正式に社員としての契約を結び、派遣先で就業する派遣社員のことを言います。
派遣先での就業が終わっても、派遣会社との雇用関係は継続し、また別の派遣先で就業する雇用形態です。
次の仕事が決まらず、待機期間中であっても、派遣会社から給料が支払われます。
紹介予定派遣
紹介予定派遣は、派遣会社と派遣先企業での派遣契約終了後に、派遣されていた社員が派遣先の正社員または契約社員として勤務することを前提とした雇用形態です。
派遣期間は最長6か月までと定められており、労働者と派遣先企業との同意によって社員または契約社員となります。
この6か月は、いわば「お試し期間」であり、派遣労働者にとっては、自分に合った企業かどうかを試せるチャンスです。
また派遣先企業にとっても、即戦力として社風にマッチした人材を獲得できるメリットがあります。
近年の派遣法改正のポイント
派遣法は、1986年に制定した後、実態を鑑みてこれまでに何度も改正を繰り返してきました。
派遣法施行当初は、派遣対象となる業務は16種類に限定されていましたが、改正と共に増加し、派遣できない業務を指定する方式に変化していきました。
ここで、過去10年ほどの派遣法改正を振り返ってみましょう。
労働者派遣法の改正(2012年)
2008年に起こったリーマンショック以降、不景気を原因とした派遣社員の雇止めなど、人材派遣上の違法行為が製造業を中心に起きていました。
そうした違法行為から派遣社員を守るために、派遣法改正が行われています。
派遣元のマージン率公開
派遣元のマージン率の公開が義務付けられました。マージンとは、派遣先の企業が派遣会社に支払う派遣手数料や紹介料のことです。
マージン率は、労働者が登録する派遣会社を選択する上でも、とても参考になる有益な情報です。
なお、マージンが低い方がよい会社なのではないかと考えがちですが、実際にはそうとは限りません。マージンが高くても、そのお金を労働者の福利厚生や教育訓練を充実させ、派遣労働者に還元している場合もあるからです。
離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることの禁止
派遣先企業が、直接雇用で勤務していた社員を、離職後一年間は派遣社員として同じ会社で受け入れることを禁止しました。派遣先の企業が正社員を解雇し、雇用形態を派遣社員に切り替えて、人員にかかる費用を削減している事例が見られたことが原因です。
待遇に関する説明
派遣会社は、派遣労働者と雇用契約を結ぶ前に、昇給や賞与、退職金の有無など、待遇について説明をすることが義務付けられました。
無期雇用派遣への転換
雇用期間が1年以上経過している有期雇用派遣の労働者を、本人の希望があれば、期間を設けない無期雇用派遣へ転換させる努力義務が課せられました。
日雇い派遣の禁止
日雇い雇用労働者の雇用の不安定を解消するため、一部の例外を除いては、30日以内の日雇い派遣の禁止は原則禁止となりました。なお、69歳以上の人、学生、副業としての日雇い派遣への就労、主たる生計者でない場合には、現在も日雇い派遣による労働が可能です。
雇用安定化・派遣期間ルールの見直し(2015年)
2015年の法改正では、雇用の安定化やキャリアアップなど、派遣労働者がより有利となるような権利が盛り込まれました。
労働者派遣事業は全て一般労働者派遣事業(許可制)に変更
これまで、特定労働者派遣事業は届出制、一般労働者派遣事業は許可制と分けられていました。特定労働者派遣事業とは、派遣会社に常時雇用されている派遣社員を他社に派遣することです。特定労働者派遣事業では法定費用がかからないことから、特定の事業所に技術者を派遣する事業者が多く見られました。しかしこの改正をもって、適切な派遣事業が行われるよう、労働者派遣事業は全て許可制へと変更されています。
併せて、特定労働者派遣事業のみ取り扱っていた事業所も、事業許可を取得しなければならなくなりました。派遣事業健全化を目的とした取り組みです。
派遣労働期間の上限見直し
有期雇用派遣の労働者が同一部署で働ける上限期間が3年になりました。
ただし、派遣元との契約で無期雇用となっている派遣労働者、60歳以上の派遣労働者は対象外となります。
派遣社員の雇用安定化
派遣会社は3年間の派遣が見込まれる派遣社員に対し、派遣先の企業に直接雇用を働きかける、新たな派遣先を提供するなどの雇用安定措置が義務付けられました。派遣社員の雇用安定化を目的とした取り組みです。
研修や教育、キャリアコンサルティング窓口の設置義務
全ての派遣社員は、派遣会社で体系的かつ段階的なキャリアップのための研修を受けられるようになりました。派遣社員は、研修や教育訓練を受ける機会が少なく、職業能力を形成するチャンスが少ない現実を踏まえての措置です。
併せて派遣社員のキャリアアップ支援も義務付けられ、派遣労働者が希望すれば、キャリアコンサルティングを受けることも可能となりました。
2018年問題の発生(2018年)
派遣労働者の保護を目的とし、画期的に進められた2015年の派遣法改正でしたが、この改正が原因で、2018年に大きな問題が発生することになります。
無期雇用派遣への転換による有期雇用派遣の雇止め
2015年の派遣法改正では、同一の事業所に同じ派遣社員が労働できるのは3年までという、いわゆる「3年ルール」が設けられています。
それから3年が経過した2018年、現実として派遣会社はその期限を迎えたことになりました。
無期雇用派遣への転換条件を満たした派遣社員が、無期雇用への希望をする場合、派遣会社は受け入れなければなりません。
しかし、長期に渡って同じ派遣社員を雇用することは、派遣先がない場合でも版権会社で賃金を支払い続けることでもあり、コスト増は不可避です。
そのため、有期雇用派遣の契約満了で「雇止め」を選択する派遣会社が増えると懸念されてきました。
待遇の差から起きる問題
また派遣社員も、無期雇用派遣の方がいざと言う時に解雇されにくいとわかれば、無期転換後に仕事に情熱を傾けなくなる可能性も考えられます。
それに加えて、同じ職場に派遣されている従業員間に無期雇用と有期雇用の2つのパターンが混在すれば、待遇の差から派遣社員間の関係が悪くなるかもしれません。
法改正によって、必ずしも良くなるわけではないという一つの例と言えるでしょう。
同一労働同一賃金への動き(2020年)
2020年4月の法改正のポイントは「同一賃金同一労働」です。
同一賃金同一労働
同一労働同一賃金とは、わかりやすく言うと「同じ労働をしている人は、同じ賃金を受け取るべき」という意味です。
日本では、正規雇用と非正規雇用の間の賃金の格差が、以前から問題視されていました。
それに対して従来の派遣法では、派遣社員の待遇を正社員と等しくすることは、あくまで努力義務でしかありませんでした。そのため、正社員と非正規社員の格差が是正されていない状態が続いており、賃金、待遇の格差が埋まらないことが問題となっていたのです。
しかし、2020年の派遣法改正により、正社員との待遇差をつけてはならないことが絶対的な義務となりました。その結果、ボーナスや退職金が出る派遣会社も増え、研修や手当、福利厚生などの面でも正社員と比較して不利にならない配慮がされるようになってきています。
派遣先均等・均衡方式と労使協定方式
派遣会社は、派遣労働者の待遇について、「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の2つの方式から選択し、賃金を決めることが義務化されました。
「派遣先均等・均衡方式」とは、派遣先の正社員と比べ、派遣労働者の賃金が均等・均衡となるように定める方式です。
また、「労使協定方式」とは、派遣会社と労働者の代表が労使協定によって賃金を定める方式のことを言います。
派遣労働者の待遇に関する説明義務
これまでは待遇の差について派遣会社が説明する義務はありませんでしたが、法改正によって義務付けられました。派遣労働者は、賃金や福利厚生、待遇の差やその理由などについて、派遣会社に説明を求めることができます。
2021年1月の改正
2021年1月には、主に労働市場のマッチング適正化や、派遣社員の雇用安定と保護を目的としての法改正が行われました。以下の4つの改正点に注目しておきましょう。
教育訓練計画の説明義務
派遣会社が実施する教育訓練と、キャリアコンサルティングの内容について、派遣労働者を雇い入れる際の説明が義務付けられました。これにより、派遣労働者のキャリア形成支援がより充実します。
派遣契約書の電子記録化
派遣会社と派遣労働者との契約書面である「労働者派遣契約」は、これまで書面での記載が必要でした。しかしこの法改正をもって、書面以外に電磁記録でも作成が可能となります。
派遣労働者からの苦情対応
派遣先で就労している派遣労働者から、労働関係法上の苦情があった時には、派遣先の企業も主体的な対応を義務付けられました。
日雇い派遣の就業機会の維持
日雇い派遣労働者が、派遣労働者の責以外での契約解除をされた場合、雇用機会を確保するため、派遣会社で休業手当などの支払いを対応する責任が明確化されました。
2021年4月の改正
2021年4月には、2つの大きな改正がありました。
参考:厚生労働省 労働者派遣事業関係業務取扱要領 令和3年4月
雇用安定措置のため、派遣労働者の希望を聴取すること
派遣会社は、雇用安定措置のため、派遣労働者の希望する措置を聞き取り、その結果を派遣元管理台帳に記録しておかなければなりません。雇用安定のためには、派遣労働者の意見も非常に大切です。派遣期間の修了後は、派遣労働者の意見を取り入れ、派遣先で直接雇用となるのか、または別の派遣先に行く、それ以外の措置を希望するなど、すり合わせを行う必要があります。
マージン率などのインターネットによる開示原則化
派遣先企業から派遣会社に支払われるマージンなどについて、インターネットでの公開が義務付けられました。
まとめ
法令順守を心がけている派遣会社にとって、派遣法改正があっても特段の影響はないと考えられます。しかし、定期的に見直しがされる法律であることから、派遣会社や派遣先企業に求められることも多くなってきていることも事実です。派遣法を正しく理解しての運用を心がけましょう。
参考:
派遣社員必見!労働法 派遣法をやさしく解説【労働法 派遣法まとめ】 |はたらこねっと
【2022年最新版】派遣法改正をわかりやすく解説!改正による影響や対応内容も伝授
派遣労働者の皆さまへ派遣労働者の保護と雇用の安定を図るため
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