会社経営において、経営の方向性やビジョンを示す経営計画は重要です。
本記事では、中期経営計画とは何か、策定する意義、具体的な策定方法や企業事例を中心にお伝えしていきます。
中期経営計画とは?わかりやすく言えば「中期的なロードマップ」
中期経営計画とは経営計画の一種です。会社があるべき姿になるために3〜5年間で実行すべき計画をまとめたもの、つまり会社の中期的なロードマップです。
例えば鴻海精密工業傘下となったシャープは、2019年度を最終年度とする中期経営計画を発表しました。これは2017年からの3年間で売上高3兆2,500億円、営業利益1,500億円を目指すとして話題になりました。
多くの場合、中期経営計画は、売上目標、利益目標、ROE(自己資本利益率)といった定量的な数値で示され、課題も具体的で明確なことが多いです。
経営計画は3つ存在する
経営計画とは、会社の現状と将来のビジョン(あるべき姿)のギャップを埋めるために策定される計画です。そして、経営計画は計画期間の長さによって以下の3つに分類されます。
長期経営計画:5〜10年間(最終的に会社が目指している、あるべき姿や将来のビジョン)
中期経営計画:3〜5年間(将来のビジョン達成のため、3〜5年で実行すべきことを具体化)
短期経営計画:1年間(直近の具体的な数値目標や行動計画)
長期経営計画は具体的な行動に落とし込むのが難しく、短期経営計画ではビジョンが見えにくいです。そのため、一般的には経営計画=中期経営計画として認識されています。
参考:ビジョン税理士法人|経営計画とは?会社の成長のために不可欠な理由と具体的な作り方
中期経営計画の持つメリット
中期経営計画を策定するメリットを解説します。
メリット1.売上がアップする
経営計画を策定すると、相関的に売上がアップします。
中小企業庁の「2016年版小規模企業白書」によると、経営計画を「策定したことがある」事業者は「策定したことがない」事業者に比べて、売上高が増加傾向にあることがわかりました(相関関係)
「売上100億円を達成するためにはどうすればよいか?」「従業員を何人増やすか?」「コスト削減はいくらを目指せばよいか?」といった具体的な数値目標があるため、行動計画が明確になり、売上アップにつながると考えられます。
参考:中小企業庁|2016年版小規模企業白書(第1-2-39図)
メリット2.自社の現状(経営課題、強みや弱み)が把握できる
中期経営計画策定の過程では、自社の現状、弱みや強みなどが明確になります。
「従業員の年齢構成」「各従業員の得意・不得意」などの内部環境や、「自社と競合他社のシェア比較」「長期的な市場の成長見込み」などの外部環境を数字で把握しましょう。こうすることで、自社の立ち位置を理解し、地に足のついた経営戦略を建てることが可能です。
参考:中小企業庁|2016年版小規模企業白書(第1-2-36図)『経営状態/自社の強みと弱みを知りたかったから』
メリット3.補助金・助成金や融資に役立つ
中期経営計画は、国の補助金や助成金(支援)、銀行の融資を受ける際に役立ちます。特に最近は、金融機関から融資を受ける際も、中期経営計画の提出が求められやすいです。
行き当たりばったりの経営では、国も銀行も支援をしてくれません。
絵に描いた餅で終わらない再現性の高い計画を提出することで、貸したお金と利息を返す計画性を認められ、スムーズに交渉ができます。
参考:中小企業庁|2016年版小規模企業白書(第1-2-36図)『補助金申請で必要となったから』
メリット4.社員の不安解消や士気向上につながる
会社が将来あるべき姿を社員と共有することで、不安解消や士気向上につながります。
先行きが不透明な事業環境でも、経営計画が存在すると組織がまとまりやすいです。
さらに「社員一人ひとりが何をすべきか」「部署の数値目標をどの程度まで求めるか」など具体的な行動を、業務レベルまで落とし込めるため、生産性も向上します。
メリット5.次世代役員層を育成できる
中期経営計画の策定は、経営者視点や戦略企画力を養うことができるため、次世代経営者の育成もできます。
計画は、役員就任が期待される管理職が策定するケースが多いです。現場を熟知し、現場への発信力もある管理職が中心となることで、中期経営計画の実行力や具体性が高まるという効果も期待できます。
中期経営計画で注意すべきこと
中期経営計画の注意点を記載します。
計画年数が短い
まず計画年数が短いことです。日本企業の多くが「3年」計画で策定しています。
企業名 | 中期経営計画の計画年数 |
リコー | 3年 |
コニカミノルタ | 3年 |
三菱重工業 | 3年 |
日立製作所 | 3年 |
シャープ | 3年 |
ソニー | 3年 |
大和ハウス | 3年 |
旭化成 | 3年 |
キリンホールディングス | 3年 |
東レ | 3年(長期ビジョンは10年) |
アサヒグループホールディングス | 3年(長期ビジョンは10年) |
三菱化学ホールディングス | 5年 |
富士重工業 | 6年 |
しかし、計画年数「3年」では、収益向上を目的とした事業の効率化(儲かっている事業を深化させること)ばかりが優先されます。その結果、企業の長期的な成長の機会が奪われ、イノベーション(新たな事業へ挑戦・発展させること)が生まれなくなります(コンピテンシー・トラップ)。
そこで、中期経営計画の策定時には以下の対策が必要です。
- 「10年」「20年」の長期ビジョンを策定する(経営者の夢や理想)
- 長期ビジョンを実現するために、直近3年間実現すべきこと振り返る(夢や理想に近づくための道筋)
- 現場の意見を集約しただけの「目先の計画」にはしない(現場至上主義にならない)
例えばユニ・チャームは「2030年ありたい姿」、LIXILは「住生活産業におけるグローバルリーダーとなる」を掲げており、中期経営計画を「長期ビジョンを実現するためのステップ」と捉えています。
このように中期経営計画とは、10年・20年先のビジョンを実現するためにどうするか考える「振り返り型(バックキャスティング)」であるべきなのです。
策定に工数がかかる
中期系経営計画の一般的な策定期間は、3ヵ月から半年程度です。9カ月要する企業もあります。特に、次世代役員層のプロジェクトチームを組織して策定する場合においては、そのメンバーには長期間負担がかかります。
中期経営計画の7つのステップ
中期経営計画は次の7つのステップで策定しましょう。実効性のある計画を策定するために押さえたいポイントは下記です。
参考:みずほ総合研究所株式会社|「儲かる中期経営計画、儲からない中期経営計画」
ステップ1.長期経営計画を再確認する(経営理念の再確認)
中期経営計画は長期ビジョンと現状のギャップを埋めるために策定します。まずは長期経営計画を再確認して、目指すべきゴールを明確にしなければなりません。目指すべきゴールとは経営理念(企業のビジョン、ミッション、バリュー)です。
ビジョン:企業の目指している姿(「3年で利益を1000億円達成」など具体的な数値)
ミッション:企業が果たす使命、存在意義(企業活動を通じてどのように社会貢献するか)
バリュー:企業の価値観(「お客様ファースト」など社員の行動規範や行動理念)
ステップ2.自社が置かれた環境を理解する(外部環境分析)
自社の周囲を取り巻いている外部環境を理解します。
市場規模、顧客セグメント、競合他社の動向、市場トレンドなどを分析し、自社が置かれた環境、市場の成長性、お客様の傾向を把握しましょう。
ステップ3.自社の業績やシステムを分析する(内部環境分析)
外部環境の分析とあわせて内部環境も分析しましょう。
事業別・製品別の収益構造、マネジメントシステム(業績評価方法など)、ビジネスプロセス(経営機能別の強みや弱み)などを洗い出し、自社内部の現状を把握します。
ステップ4.自社の強みや弱み、経営課題を整理する(経営課題の整理)
外部分析と内部分析の結果を整理します。その際、役立つのがSWOT分析です。
SWOT分析とは、Strength(自社の強み)、Weakness(自社の弱み)、Opportunity(市場の機会)、Threat(脅威)を整理する分析方法です。
Strength(強み):競合他社と比べて自社の強みは何か
Weakness(弱み):競合他社と比べて自社の弱みは何か
Opportunity(市場の機会):市場環境が自社にとってプラスかマイナスか
Threat(脅威):自社にとって外部環境のビジネスリスクは何か
これらを活用し、「強みを伸ばすか」「弱みを改善企業の総合力を底上げするか」などを整理します。
ステップ5.事業ドメインを決定する(基本戦略方針の策定)
次は事業ドメインの決定です。事業ドメインとは、「注力する市場」「展開する事業領域」のことです。
SWOT分析に基づき、「自社の強みを活かせる市場」「弱みを回避できる事業領域」といった観点で事業ドメインを決めれば、中期的な基本戦略方針が策定できます。
事業ドメインをもとに戦略を立てれば、短絡的に流行に乗っただけのビジネスアイディアは出にくくなります。そうすることで、赤字企業にありがちな「経営理念に反する事業に手を出す」リスクが回避できます。
ステップ6.数値目標と行動計画を策定する
中期的な基本戦略方針をもとに、具体的な数値目標と行動計画を策定します。
ゴールから逆算し、「どれくらいの期間で」「どの程度の数値目標を達成するか」を明確にしましょう。次に、数値目標達成に向けて、「どの課題をクリアするか」「どうすれば達成できるか」という行動計画に落とし込みます。
こうすることで、数値と行動が「見える化」され、全社員に中期経営計画が浸透します。
ステップ7.継続的・定期的にレビューする
継続的かつ定期的にレビュー(振り返り)をしましょう。
例えば、以下のようなレビューが効果的とされています。
- PDCA会議を開催する:1か月単位で振り返りを部署単位で行い、普段の業務や行動と経営計画の乖離を防ぐ
- 人事評価制度へ反映する:経営計画の行動プランを実行できる社員にはプラス評価をして、モチベーションを維持・向上させる
中期経営計画の企業事例
中期経営計画の企業事例を2つご紹介します。こちらで取り上げられているユニ・チャームやLIXIL同様、長期的ビジョンに向けたステップとして中期経営計画を捉えています。
1.三菱地所
「長期経営計画2030」を最終目標として、「社会価値向上戦略」と「株主価値向上戦略」を両輪に据えた経営を目指す中期経営計画を策定しています。
三菱地所の中期経営計画はこちらです。
2.森永製菓
「2030年経営計画」のために、「事業ポートフォリオの転換と構造改革による収益力の向上」「事業戦略と連動した経営基盤の構築」「ダイバーシティの推進」という3つの基本方針及び経営計画を策定しています。
同社では2030年にウェルネスカンパニーになることを最終目標として、2021年中期経営計画は1stステージという位置付けです。
森永製菓の中期経営計画はこちらです。
中期経営計画の書式テンプレートとツール
中期経営計画の策定にあたって参考となる書式テンプレートとツールを紹介します。
1.日本政策金融公庫
日本政策金融公庫では、融資検討時に参考となる「資金繰り表」「経営改善計画書」などの書式テンプレートが複数掲載されています。
テンプレートはこちらから取得可能です。
2.経営計画つくるくん
独立行政法人中小企業基盤整備機構は、経営計画書作成ツール「経営計画つくるくん」を提供しています。スムーズに入力すれば最短30分ででき、初めて作る方も安心して利用できるツールです。
テンプレートはこちらから取得可能です。
参考:経営計画つくるくん
まとめ
会社の現状と長期的ビジョン(あるべき姿)のギャップを埋めるために必要な中期経営計画。
策定にあたっては、情報収集、外部環境や内部環境の分析、数値目標や行動計画の設定など、多大な工数がかかります。しかし、十分な時間をかけて策定しなければ、現場の意見を集約しただけの「絵に描いた餅」となってしまいます。
会社の長期的ビジョンを明確にして、直近3〜5年でやるべきことを中期経営計画で実行していきましょう。本記事でみなさんの参考となれば幸いです。
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