「従業員満足度」や「エンゲージメント」は知っていても、「eNPS」という言葉は馴染みがない方もいるのではないでしょうか。
「eNPS」は、社員の組織に対する満足度や愛着から「自分の会社を他者にどのくらい推奨したいか」を数値化したものです。
eNPSを高めることによって、社員の離職率低下や生産性向上に加えて、リファラル採用が促進されるため、企業と社員のミスマッチを防ぐ効果があります。
本記事では、eNPSの概要や導入によるメリットや効果を高める方法をわかりやすく解説しています。
eNPS調査から職場改善までの手順も紹介していますので、人事担当者の方は、社員の意見を吸い上げる仕組み構築の参考にしてみてください。
eNPSの意味とは?
「eNPS」は「employee Net Promoter Score(エンプロイー・ネット・プロモーター・スコア)」の略称で、働いている会社を「どのくらい他者に推奨したいか」を数値化したものです。
eNPSの推奨度から、仕事に対するやりがいや満足度、自社への愛着などを評価する指標となります。
社員のeNPSを高めるためには、組織への貢献意欲をあらわす「従業員エンゲージメント」を把握し、経営層とのつながりの強化が必要不可欠です。
以下の記事では、従業員エンゲージメントの概要や向上によるメリットを解説しています。eNPSを高める施策の参考にしてみてください。
エンゲージメント調査を活用することで、社員のエンゲージメントの現状把握から課題改善まで行えます。
eNPSを導入する3つのメリット・効果
eNPSを導入することによって、以下のようなメリットと効果が得られます。
eNPSを導入し高めることで、組織に対する社員一人ひとりの愛着や貢献意欲も高まり、離職率の低下や業績アップが期待できるでしょう。
以下より、eNPSの導入・向上によるメリットを解説していきます。
社員の離職リスクを軽減できる
eNPSを導入し数値化することによって、スコアが低い社員の傾向を把握し、離職の可能性を察知して適切な対処ができます。
eNPSのスコアが低い人(批判者)は、高い人(推奨者)に比べて離職率が高いこともわかっているため、批判者に分類される社員の不満や問題点を把握することが重要です。
参考:Who’s responsible for employee engagement? – Bain Brief | Bain & Company
具体的な課題が明確になれば、不満に感じている労働環境や人間関係などを改善することで、組織に対する社員の信頼度が高まり、離職リスクを軽減できます。
生産性が向上して業績がアップする
社員一人ひとりのeNPSを高めることで、仕事に対して高いモチベーションを維持し、チーム内の協力関係が強化されます。
その結果、成果を出すために意欲的に働く社員が増え、組織全体の生産性の向上が期待できるでしょう。
顧客への対応やサービスの品質も高まり、顧客満足度にもいい影響を与えることから、自社の業績アップにもつながります。
リファラル採用の効果を高められる
eNPSは、自分の会社を他者に推奨する視点から評価するため、リファラル採用の効果がより高められます。
リファラル採用とは、会社に所属している社員から、自社に合った知人や友人を紹介してもらう採用方法のことです。
eNPSのスコアが高く自社に満足している社員は、働いている環境や待遇などの魅力を自然と他者に紹介する傾向があります。
ミスマッチについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。ミスマッチの発生原因や対策についても解説しています。
eNPSとよく似た用語の違い
eNPSの他にも、同じような意味合いを持つよく似た用語があります。
以下より、それぞれの意味の違いを解説します。
eNPSとNPS(顧客ロイヤルティ)の違い
eNPSとNPSの違いは、以下のように「測定対象」と「評価される内容」に違いがあります。
指標 | 測定対象 | 推奨度から評価される内容 |
---|---|---|
eNPS | 社員 | 働いている会社に対する満足度や愛社精神 |
NPS | 顧客 | 企業の商品やサービスに対する愛着・信頼 |
「NPS」は「Net Promoter Score(ネット・プロモーター・スコア)」の略称で、企業の商品やサービスに対して、他者に推奨したい度合いを数値化したものです。
NPSは、顧客が企業に対して持っている愛着度や信頼度の「顧客ロイヤルティ」を測定する指標として用いられます。
eNPSは、NPSから派生した指標で、測定対象を顧客視点から「社員の自社への愛着」をあらわす推奨度に置き換えたものです。
eNPSとES(従業員満足度)の違い
eNPSとES(従業員満足度)は、以下のように測定する内容そのものに違いがあります。
指標 | 測定する内容 |
---|---|
eNPS | 自分の会社を、他者に対して、どの程度推奨したいかを数値化したもの |
ES | 仕事内容や待遇に対して、どの程度満足しているかを数値化したもの |
eNPSはESに比べて「他者に自社を紹介する視点」であることから、社員がより慎重に自分の会社を評価する傾向があり、本音の部分が聞き出しやすいです。
ESは、eNPSを高めるうえでも重要な指標であり、ESの変化によって離職率や生産性にも大きく影響します。
ES(従業員満足度)についての詳しい内容は、以下の記事で解説しています。ESを高める具体的な取り組みも紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
また、ESを測定する方法では「従業員満足度(ES)アンケート」を活用します。
以下の記事では、ESアンケートの手順をステップごとに詳しく解説していますので、自社の取り組みの参考にしてみてください。
eNPSの分類と計算方法
eNPSは、社員に対して「自社をどのくらい他者に勧めたいと思うか」の質問を行い、0〜10点の11段階で評価します。
その推奨度(点数)に応じて3つのカテゴリーに分類され、それぞれの特徴は以下のとおりです。
カテゴリー | 推奨度(点数) | 特徴 |
---|---|---|
推奨者 | 9〜10点 | エンゲージメントや満足度が高く、自社のよいところを積極的にアピールする |
中立者 | 7〜8点 | 一定の愛社精神を持っているが、推奨者ほど自社に対して満足していない |
批判者 | 0〜6点 | 労働条件や待遇などに不満やネガティブな感情を抱いており、離職する可能性がある |
組織全体のeNPSを計算する方法は、社員一人ひとりの点数を集計して、推奨者と批判者の割合から算出します。
eNPS=「推奨者の割合」ー「批判者の割合」
eNPSは「+100(全社員が推奨者)」〜「ー100(全社員が批判者)」の間のスコアであらわされます。
たとえば200人の社員がいる企業で、カテゴリーごとの割合から算出されるeNPSは、以下のとおりです。
例 | 推奨者 | 中立者 | 批判者 | eNPS |
---|---|---|---|---|
A | 60%(120人) | 20%(40人) | 20%(40人) | 40 |
B | 10%(20人) | 60%(120人) | 30%(60人) | ー20 |
eNPSが、0を超えていれば推奨者が多く、0未満の場合は批判者が多いことを示しています。
eNPSが高い企業の特徴とは?
eNPSが高い企業は、ワークライフバランスを重視した環境が整備されていることや、社員同士が密接にコミュニケーションを取っている特徴があります。
株式会社アスマークが1万人の会社員を対象にした調査によると、eNPSが高い企業の特徴には、以下のような点があるとわかっています。
- 昇給昇格以外でも働く将来像が描きやすい
- 人事制度の仕組みが整備されており納得して働ける
- 仕事の経験や技術、ノウハウが共有されている
- 昇給昇格は相応しい人が選ばれている
- 経営層が社員から信頼されている
また、社員からのフィードバックや意見を受け入れ、改善に活用する企業風土が醸成していることも、eNPSが高い企業の特徴と言えます。
日本企業のeNPS平均スコア【業界別】
前述したように、eNPSは「推奨者・中立者・批判者」の3つに分類され、スコアは「(推奨者の割合)ー(批判者の割合)」で求められます。
株式会社ビービットが行った、社員数100人以上の企業の約5000人を対象にした調査によると、業界別のeNPS平均スコアは以下のように報告されています。
引用:16業界eNPS調査結果(2ページ目)|株式会社ビービット
どの業界においてもeNPSがマイナスのスコアとなっており、組織に対して何らかの不満を持っていることが伺えます。
また、正当な報酬・評価を受けていると感じる社員は、eNPSが高い傾向であることも報告されているため、待遇や評価制度の見直しが重要な施策と言えるでしょう。
eNPSを高める5つの方法
社員のeNPSを高めるための方法として、以下の5つを紹介します。
eNPS向上の方法を理解し、社員の満足度や忠誠心を高める施策の実行により、組織全体の成長につながります。
以下より、eNPSを高める方法について解説していきますので、人事担当者の方は施策を検討する際の参考にしてみてください。
公平な人事評価ができる制度を整備する
公平・公正な人事評価の制度を整備することは、社員のeNPSを高めるために必要な取り組みの一つです。
制度を整備する取り組みとして、以下のような施策例があります。
- 昇給や昇格の基準を明確にして、社内で公開・共有する
- 組織への貢献や業績に応じた報酬を与える
- 上司以外(部下や同僚)からの評価も取り入れる
働いている社員は、自分の仕事に対する評価が公平であると感じることで、不公平感や不満を抱くことなく納得して働くようになるでしょう。
大和ハウス・アセットマネジメント株式会社では、評価基準の明確化と社員の納得感を高めるため「業績評価制度」を導入し、社員との評価確認の面談やフォロー面談を行っています。
参考:資産運用会社の従業員への取り組み|大和ハウスリート投資法人
人事評価について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。具体的な評価制度の策定手順も解説しています。
柔軟性のある労働環境に改善する
eNPSを高める方法の一つとして、柔軟性のある働きやすい労働環境に改善することが挙げられます。
具体的な労働環境の改善には、以下のような取り組み例があります。
- リモートワークの機会を提供し、必要なツールを整備する
- 労働時間を柔軟に決められる、フレックスタイム制度を導入する
- 休暇の利用促進をアナウンスし、取得しやすい環境を作る
仕事とプライベートが両立できる労働環境への改善によって、社員の満足度や心理状態がポジティブになり、eNPSの向上が期待できます。
ワークエンゲージメントの向上施策として、社員のモチベーション向上やストレス軽減を図る「仕事の資源」の充実が、有効な取り組みの一つです。
ワークエンゲージメントについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。向上によるメリットや具体的な取り組み例も解説しています。
社員の性格タイプを考慮して人員配置する
部署やチームへ人員配置をする前に、社員一人ひとりの性格やスキルを把握しておくことが大切です。
性格の類似点がある社員の所属部署に配属させることで、仕事の相談やコミュニケーションが活発になり、業務プロセスがスムーズに進行します。
その結果、良好な人間関係が構築され、ストレスや不満が少ない職場となるため、社員のeNPSが高まりやすくなるでしょう。
サーベイツールの『ミキワメ ウェルビーイング』を活用することで、社員が受検する性格検査の結果を分析して、16個の人物タイプに分類できます。
この相関図でもわかるように、人物タイプを分類することによって、社員一人ひとりの性格を考慮した配属先の選定ができます。
企業の目標・ビジョンを社員に共有する
社員に対して企業の目標やビジョンを共有することも、eNPSを高める重要な取り組みの一つです。
具体的な取り組み事例の一例は、以下のとおりです。
- 社内報やメールを活用し、企業のビジョンを共有する
- 経営層の考えを社員に直接伝える機会を作る
- 社内教育や研修をとおして、企業の目標を伝える
社員自身が「何を目的に働いているのか」を意識して企業と一体感を持って働くことが、仕事へのやりがいやモチベーションの向上につながります。
企業と同じ目標を持ってエンゲージメント高く仕事に取り組めば、組織への貢献意欲も高まり、自然と社員のeNPSも向上していくでしょう。
社員のエンゲージメントを高め、企業・組織と従業員双方に信頼関係を構築する組織づくりをエンゲージメント経営と言います。詳細については以下の記事をご覧ください。
社員の意見・要望を吸い上げる仕組みを作る
eNPSを高めるには、社員のリアルな意見や要望を聞き出し、改善策に反映させることが重要です。
社員の意見を聞き出すために「サーベイ」を活用することで、組織に対する不満や改善点が明確になり、いま必要な施策が検討できます。
サーベイには、目的や用途が異なるさまざまな種類のものが存在します。
以下の記事では、それぞれのサーベイの特徴を詳しく解説していますので、導入時の参考にしてみてください。
eNPSの質問項目・質問例を紹介
eNPSは「自分が働いている会社について、どのくらい親しい友人や知人に紹介したいか」の質問から推奨度を測定します。
しかし、推奨度のスコアだけでは社員の考えや理由がわからないため、組織に対する満足度や忠誠心を測定する他の質問を加えます。
一般的なeNPSの「質問項目」と「質問例」は、以下のとおりです。
質問項目 | 質問例 |
---|---|
労働条件・環境 | ・会社の勤務時間に満足していますか? ・仕事とプライベートのバランスを取りやすい環境ですか? ・成果に見合った報酬を受け取っていますか? ・仕事に必要なツールの提供がありますか? |
やりがい | ・仕事に熱意を持って取り組んでいますか? ・あなたの仕事が会社に貢献していると感じますか? ・長期間この会社で働く意向がありますか? |
キャリア開発 | ・あなたの成長に対して上司はサポートをしていますか? ・研修やキャリア開発の機会が提供されていますか? |
コミュニケーション | ・上司とのコミュニケーションは円滑に行えていますか? ・あなたの意見やアイデアは尊重されていますか? |
会社の目標・将来 | ・会社の目標やビジョンに共感して働いていますか? ・今後、会社が成長していくと感じていますか? |
質問項目は、企業の特性や目的によって構成される質問が異なるため、質問例を参考に検討してみましょう。
eNPSを調査・分析する手順5ステップ
社員のeNPSの調査や分析は、以下の5つのステップで行います。
このような手順でeNPSを調査・分析することで、組織を成長させるための具体的なアクションプランが検討できます。
以下より、それぞれの手順を一つずつ解説していきますので、人事担当者の方は導入前の知識として参考にしてみてください。
1.調査・施策を行う担当者の選定
まず、eNPSの調査や分析、改善施策を検討する担当者の選定を行います。
担当者は、eNPSの調査目的の検討やスケジュール管理、調査ツールの選定を行います。
eNPSの調査は、データの収集や分析が重要な業務となるため、専門知識や経験のある担当者を選定しましょう。
2.eNPS調査の実施
次に、決定したスケジュールをもとに、eNPS調査を実施します。
質問は簡潔でわかりやすいものを選定することで、回答する社員は内容を容易に理解して、正確なフィードバックが得られます。
調査を行う前には、社員に対してアナウンスを行い、理解を得ておくことが大切です。
3.調査結果から状況の把握・分析
eNPS調査の結果からデータを集計して、組織の現状やデータの傾向を把握します。
スコアが低い項目や各部署のスコアをもとに自社の弱みを洗い出し、社員の意見を参考にして背後要因を特定します。
スコアが高く出ている項目は、自社の強みになる部分であるため、eNPSを高く維持できるような施策検討も重要です。
4.職場改善の施策を検討・立案
調査結果から浮かび上がった問題点に対して、社員が満足して働けるような職場改善策を検討します。
施策を検討する際は、具体的な目標を設定し明確に提示することで、施策の効果が評価しやすくなります。
組織全体や職場・チームに合った改善策を検討したうえで、優先順位の高いものを選定し、実行に向けた準備を行いましょう。
5.職場改善の施策を実行・検証
職場改善の施策が決定したら、対象者や期間を決めて実行します。
改善策の実行中は、スケジュールに沿って行われているかを管理し、実行中のデータ変化や進捗状況の把握も行いましょう。
改善後は、eNPSのスコア変化を再調査して効果の検証を行い、効果が不十分だった部分を洗い出して、次の改善策に反映させます。
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費用 | 要問い合わせ ※利用人数によって異なる |
実施頻度(時間) | ・性格検査:年に1回程度(10分/回) ・ウェルビーイング検査:月に1回程度(約2分/回) |
特徴 | ・社員のエンゲージメント・幸福度を向上させる ・ケアが必要な社員を可視化して休職・離職を防ぐ ・社員の性格・心理状態の変化をタイムリーに察知できる |
公式ホームページ | https://mikiwame.com/well-being.html |
提供会社 | 株式会社リーディングマーク |
『ミキワメ ウェルビーイング』は、社員のeNPSに影響する心理状態や、満足度の状況変化を把握するためのサーベイツールです。
社員の状態を可視化して「性格・心理状態に合わせた改善のアドバイス」が提供されるため、社員一人ひとりに寄り添ったサポートが可能です。
高頻度で調査するパルスサーベイ(実名制)の採用により、エンゲージメントや満足度などの状態変化を素早く察知でき、迅速な対応ができます。
まとめ:社員のeNPSを可視化して離職リスクを軽減させよう
今回の記事では、eNPSの概要や重要性、高める方法から調査手順まで詳しく解説しました。
eNPSは、社員の満足度や愛着度を評価する重要な指標であり、組織の信頼性や健全性を証明するために欠かせません。
労働環境や評価制度を見直すことによって、社員の不満が少なくなり、自分の会社を他者に推奨するスコア(eNPS)が向上します。
社員の状態変化やニーズを把握し改善に活かすため、人事担当者の方は、eNPS調査のプロセスにサーベイの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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