本レポートは、2022年9月28,29日に開催された、「ウェルビーイングリーダーズサミット by ミキワメ」の基調講演の文字起こしです。ウェルビーイングを牽引する様々なリーダーにご登壇いただき、組織に関する様々なテーマとウェルビーイングの結びつきについてお話しいただきました。
飯田:今日ご参加いただいている皆さんは、セリグマン先生をご存知であったり、お話を聞くために参加した方もたくさんいらっしゃると思います。私達も人々のウェルビーイングを高めていく志に向けて頑張るなか、社員のほぼ全員がセリグマン先生の大ファンという状況です。本日お会いできたことを大変嬉しく思っております。
これから視聴者の皆さんを代表して、いくつかセリグマン先生に質問していきたいと思います。それでは質問に入ります。
ポジティブ心理学とはどのようなものか?
飯田:セリグマン先生、ポジティブ心理学の創始者と言っていいと思いますが、そもそもポジティブ心理学とはどのようなものなのでしょうか?
セリグマン:心理学とは伝統的に、どうやって人生の惨めさや苦しさを軽減するか、といった点を研究する学問でした。ポジティブ心理学は正反対のもので、人生における生きがい、価値のある人生とはどういったものか、という質問を問いかけ、「精神的に苦しんでいない人は人生に何を求めているのか?」ということを研究しています。
ポジティブ心理学は、ウェルビーイングの基になる5つの異なる要素をどのように測定し、どのように構築するのかを研究する学問です。
1つ目は幸福、ポジティブな感情。2つ目はエンゲージメントで、何かに没入して夢中になれること。3つ目は良好な人間関係。4つ目は意義や目的。5つ目は成功と達成。これら5つの英語の頭文字をとって「PERMA(パーマ)」と呼んでいます。
飯田:ありがとうございます。ポジティブ心理学の基本的な概念についてよく理解できました。
社員の幸福度を高めるために、何をすればいいのか?
飯田:ところで、職場で一人ひとりの幸福度を高めていくために、私達はどのようなことを意識すればよろしいでしょうか?
セリグマン: 幸福度を高めるための方法として、これまで3000年の間に、およそ200の提言がなされてきました。私がやっていることは基本的に、さまざまな提言を検証し、実際に効果があるのはどれか調べることです。
これらを通じて、家庭や職場において確実に幸福度を高める、およそ10の処置があることがわかりました。ここでは2つだけ話しますが、それでも時間をすべて使ってしまうかもしれません。
それはこういうことです。困難な状況に直面した時、他人が自分に言うであろう最悪な言葉を想定すること。そしてもう1つは、あなたの人生を滅茶苦茶にしようとしている他人がそれを言っていると考え、その人にあなたが反論すること。
我々ポジティブ心理学者は、極めて悲観的な思考に対して、合理的かつ現実的に反論することを教えています。これが職場において、また広く人生において、確実にウェルビーイングを向上させるテクニックのひとつです。
飯田:なるほど、ありがとうございます。
パーソナリティーの影響によってウェルビーイングが低い人に対し、どのようなアプローチが有効か?
佐藤:私から1つ質問させていただきます。私の研究で、パーソナリティーとして楽観性が低い人は、エンゲージメントの測定結果も低くなりやすいという結果が出ています。
パーソナリティーの影響で、ウェルビーイングの測定結果やウェルビーイングの体験みたいなものが低くなってしまう方に対して、どのようなアプローチや支援が可能でしょうか?
セリグマン:非常にいい質問ですね。まさにこの質問に対して、膨大な量の新しいデータがあります。幸運なことに私は、100万人の陸軍兵士に対する心理的・身体的な研究の共同管理者でした。私達はアメリカ陸軍において、職務の成功が予測できるか?という問いに関心を持っていました。
2009年から150のさまざまな職務に就く99万人の兵士を調査しました。陸軍といっても歩兵だけでなく、ソフトウェア部隊、プログラミング部隊、IT部隊などさまざまで、彼らを5年間追跡しました。
彼らには陸軍に入ってきた時点で、私が作成した100項目の質問に答えてもらいました。5年間のうちに、彼らの12%が、称えるべき仕事や勇気ある行動により賞をもらいました。入隊した時点の心理状態から、誰が受賞するのか予測できるだろうか?と私達は考えました。
結果は非常に安定性があり、驚くべきものでした。これは日本のビジネスに重要な教訓を与えてくれます。入隊した際に、次の3つの心理的特質を持っていた人は、称えるべき仕事や勇気ある行動によって賞をもらう傾向がかなり強いことがわかりました。
第一に、ポジティブ感情が高く、幸せな人。第二に、ネガティブ感情が低く、不平不満を言ったり、ふさぎこんだりしない人。そして第三には、楽観性の高い人。これらの非常に安定性のある研究結果から、学べることが2つあります。
まず第一に、幸福な人を採用してください。つまり可能なら、幸福度が高く、ネガティブ感情は低く、楽観性の高い人を採用してください。第二に、もしそれができない場合は、ポジティブ感情を高く、ネガティブ感情を低く、楽観性を高めるスキルを教えてください。
この示唆は、仕事での成功の予測に関する最も大規模な研究に基づいています。結果には安定性があります。
ポジティブ感情や楽観性を高めるために、メンバーやチームへどのような働きかけが有効か?
飯田:今おっしゃっていただいた状態を作っていくために、自分の気持ちをコントロールするのが苦手な方も多くいると思います。お話にあったポジティブ感情や楽観性などを高めるために、メンバーやチームに対してできる具体的な働きかけやアクションとして、どのようなものがあるでしょうか。
セリグマン:いい質問ですね。色々言い換えることができますが、つまりこれは
「もしあなたが幸せでないなら、あなたは自分の不幸をコントロールできるでしょうか?」という質問なのです。それについて少しお話しします。
感情は突然起こるのではなく、それに先行する思考があるのです。悲しいと感じる場合、その前にある種の喪失があります。心配だと感じる場合、その前に危険を考えています。怒りを感じる場合、その前に侵害されたという思考があります。
幸福のコントロールのための処置で重要なポイントは、感情ではなく、それに先行する思考にこそあるのです。問題なのは、その思考が非現実的で不合理であることが非常に多いことです。そのため、壊滅的な喪失を考える場合は、それに反論する方法を学ぶことが重要なのです。極度の危険を考える場合は、それに反論し、整合性を見出すことが重要です。侵害されていると考える場合は、その思考が偏っているはずで、不合理であれば、それに対して反論することが重要です。
我々ポジティブ心理学者が教える、幸福をコントロールする最良の方法は、感情に先行する思考を認識し、その思考が現実に合っていない場合には、現実的にそれに反論することなのです。
飯田:ありがとうございます。
ポジティブ心理学を活用して創造力は高められるか?
飯田:少し質問を変えます。私達日本人は、同じことを続けたり、物事を一歩一歩改善するのは得意だと言われています。一方で、クリエイティビティやイノベーティブなアイデアの欠如というのが、日本のビジネス領域の問題となっています。
ポジティブ心理学を通じて、何かクリエイティビティを高めるために私達が意識できることはありますか?
セリグマン:ええ、それは私がこの5年間に研究してきた重要な問題です。私はイノベーションとイマジネーションについて考えてきました。文学では、クリエイティビティは拡散的思考だと言われています。しかし、それはあまり役には立たないと思います。
私は、科学や産業における5つの異なる種類の創造的思考について述べてきました。それぞれについてお話ししましょう。
創造的思考のまず1つ目の種類は「統合」です。これは、アイザック・ニュートンが非常に得意としたものです。あなたが学校で習ったリンゴの話は事実ですが、必ずしもあのストーリーの通りではありません。
22歳のアイザック・ニュートンが畑にいた時、リンゴの木の向こうに月が昇り、リンゴが月を隠しました。リンゴを地球に引き付けているものは、月を軌道に留めているものと同じかもしれない、と。ニュートンが得意だったことは、統合。つまり、見た目は異なる2つのものを、実は同じだと見ることです。
次は創造的思考の2つ目です。私がお話しする間、ご自身で他にどのような種類があるか考えてみてください。2つ目の種類は、1つ目とは反対に「分割」です。これは、同じに見えるものを取りあげ、それらが実は全く異なっているのだと認知することです。
たとえばiPhoneがその例で、1つのものが幅広い用途に分かれています。また、科学において元素周期表は、地球、空気、火、水を分割したものです。
クリエイティビティの3つ目の種類は「図地反転」です。これは、答えを前景にではなく、もっと背景に見出すということです。たとえばポジティブ心理学自体、図地反転的なのです。心理学者はみな、精神的苦痛を感じる人々を対象にしていると言われていますが、その背後には、苦痛を感じず普通に支障なくやっている多くの人々がいるのです。前面に出ている人達だけでなく、背後の彼らに目を向けましょう。
GPSの発明は、図地反転の例です。その歴史はこうです。人工衛星スプートニクが旧ソ連から打ち上げられた時に、アメリカの人々はスプートニクの宇宙での位置を特定しようとして、地上の2地点からその位置を特定しました。そして逆に、宇宙の2地点から地上の物の位置を特定できないかと考えたのです。
クリエイティビティの4つ目の種類は「遠位性」です。時間的、空間的、文化的に全く異なるものについて考える能力です。たとえば、アインシュタインやテスラは、素晴らしい遠位的思考の持ち主でした。アインシュタインは、異なる時間や空間を想定して、物事を考えることができました。テスラは、機械を想像するのが素晴らしく得意でした。
クリエイティビティの最後の種類は、ビジネスでは稀ですが、科学ではよくある「発見」それ自体です。たとえば、ペニシリンは発見の例そのものでした。
先ほどの質問がとても重要である理由はこうです。もし日本のビジネスパーソンに、他人と違う考え方をするだけでなく、もっとクリエイティブになってほしければ、自分が統合者なのか、分割者なのか、遠位性の人なのか、図地反転の人なのかを見極めて、その視点から問題に取り組むことです。
飯田:ありがとうございます。非常に示唆に富むアドバイスをいただいたと思います。日々のビジネスの中で、私達も今の話を意識しながらチャレンジしていきたいと思いました。
測定したウェルビーイングにとらわれ過ぎないよう意識すべきこととは?
佐藤:今日のご講演の中で、日本にとってこれから大事になることが、ウェルビーイングを測定することだとご教授いただきました。ウェルビーイングを測定して可視化することは、逆に可視化することで幸福感が失われてしまったり、可視化した幸福を上げていこうと目的化してしまう可能性があります。そうしたときに、我々はどのように考え、何を目指すことが適切でしょうか?
セリグマン:ビジネスの場面で見ていきましょう。私達の理論の礎となる最も重要な発見のひとつは、「従業員のウェルビーイングが高ければ高いほど、生産性が向上する」ということです。つまり、管理職は生産性の向上だけでなく、ウェルビーイングの向上にも責任があるということです。それが生産性を生むのですから。
思い切った提案をします。「私達の会社では、従業員のウェルビーイングを重視する」と、管理職へ伝えてください。皆さんのチームの人々のことは、私達より皆さんのほうがよくご存じです。皆さんには、ウェルビーイング構築の責任を担っていただきたいと思います。何が彼らのPERMAを上げるか、彼らの幸福度を上げるのは何か、皆さんはご存じです。
私達は、はじめにあなた方のチームの人々のウェルビーイングとPERMAを測定し、その1か月後に再度測定します。自分のチームのウェルビーイングを向上させる管理職こそ、報酬や昇進を与えるべき管理職になるのです。皆さんが、ウェルビーイングを企業内で、また企業そのものの価値として前面に打ち出し、管理職に責任を持たせ、彼らにウェルビーイングを築くテクニックを教えてウェルビーイングを構築するなら、ウェルビーイングの向上だけでなく、より高い生産性も得られるでしょう。
飯田:ありがとうございます。
ウェルビーイングあふれる日本を作るためには、どうすればいいのか?
飯田:では最後の質問です。昨今の政府の指針でも、人のこと、組織のこと、いわゆる人的資本を大切にして経営する必要性が高まったり、全体的にウェルビーイングを高めていくことが日本社会の共通理解になりつつあります。一方で、一人ひとりが幸せな、ウェルビーイングな世の中を作るためにどうすればいいのか、ほとんどの方が具体的なイメージがないと思います。
一人ひとりが幸せに過ごせている日本を目指すために、我々へアドバイスがあれば是非教えていただけると幸いです。
セリグマン:これについては、少し政策的助言をします。精神疾患とウェルビーイングに関する日本の統計は、大変興味深いもので、私の予想とは違いました。精神疾患の割合に関しては、日本は世界で最も低い状態です。ウェルビーイングが、人々を惨めな状態から脱却するものだとすれば、日本はかなり良くできている状態といえます。しかし、日本における幸福度と人生の満足度は、その優れた疾患率を考えると非常に低いのです。
人事の鍵、そして政府や企業の方針の鍵は、精神疾患に対処することではなく、幸福度とウェルビーイングの構築なのです。まさに、それがこのサミットのテーマであり、ポジティブ心理学のテーマでもあります。
もし、幸福を築く10または12のテクニックを検討し、使用するなら、それは日本がすでに非常に得意なことに加え、一方で日本に欠けている人生の満足度の構築に対し、最重要課題として対処することになると思います。
飯田:ありがとうございます。目からウロコのアドバイスでした。本日はご講演、そしてQ&Aセッションと示唆に富むお話をありがとうございました。
セリグマン:お招きいただきありがとうございました。皆さんとお話しできて光栄でした。
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