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管理職のためのメンタルヘルスリテラシーとは?高める方法や対策について解説

近年、職場における従業員のメンタルヘルス不調が深刻な経営課題となりつつあります。

厚生労働省の調査によれば、過去1年間にメンタル不調で休職・退職した従業員がいる事業所の割合は13.5%にものぼり、いまやどの職場でも起こり得るリスクといえるでしょう。

こうした状況のなか、管理職にはメンタルヘルスリテラシーを高め、同僚や部下の不調をいち早く察知し、適切に対応する能力が求められています。

本記事では、管理職がメンタルヘルスリテラシーを高めるメリットや具体的な方法、メンタルヘルスマネジメントに役立つツールについて解説します。職場の離職率の高さにお悩みの方は参考にしてください。

メンタルヘルスリテラシーとは?

メンタルヘルスリテラシーとは、精神疾患や心の健康について正しく理解し、自分自身や周囲の人の不調を早期に発見・対処する力やスキルのことです。

1990年にオーストラリアのAnthony Jorm博士によって提唱され、近年ではカナダのStan Kutcher博士によって次のように再定義されました。

“精神健康の向上、精神疾患の予防、早期発見・診断、治療の継続や回復のそれぞれの土台として必要な力やスキルである”

引用:メンタルヘルスリテラシーについて | 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部

日本では近年、新学習指導要領に「メンタルヘルスリテラシー教育」が盛り込まれるなど、教育現場でも注目が高まっているスキルです。

ビジネスの現場では、メンタルヘルスリテラシーを向上させることで、従業員の離職率・休職率が低下したり、ハラスメントなどのトラブルを回避したりと、さまざまな人的リスクの回避に役立ちます。

メンタルヘルスリテラシーが注目される背景

ビジネスの現場においてメンタルヘルスリテラシーが注目される背景には、ストレスチェックの義務化や離職率の向上などがあります。

2015年、従業員が50名以上の事業所においてストレスチェックの実施が義務化され、従業員のメンタルヘルスの不調を未然に防ぐ取り組みが始まりました。

また、2023年の厚生労働省の実態調査によれば、過去1年間にメンタルヘルス不調によって休業または退職した労働者がいる事業所の割合は13.5%にのぼっています。

出典:令和5年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概要 

つまり、従業員のメンタルヘルスの不調は決して珍しいものではなく、どの職場にも起こり得るリスクです。

だからこそ、管理職がメンタルヘルスリテラシーを高め、従業員のメンタルヘルス不調を早期発見・対応できるようになることが、職場全体の健全性と生産性を守る鍵といえるでしょう。

厚生労働省が推奨するメンタルヘルスケア4つ

厚生労働省が推奨するメンタルヘルスケアとしては次の4つが挙げられます。

  • セルフケア
  • ラインによるケア
  • 事業内産業保健スタッフ等によるケア
  • 事業外資源によるケア

出典:厚生労働省「職場における心の健康づくり〜労働者の心の健康増進のための指針〜」

この4つのケアは、それぞれが独立して機能するのではなく、相互に連携することで初めて真の効果を発揮するものです。

とくに、セルフケアとラインによるケアは日常業務に直結するため、管理職がメンタルヘルスリテラシーを高めて、正しく機能させることが組織全体の健康づくりの要となります。

ここでは、4つのメンタルヘルスケアについて詳しく解説します。

セルフケア

セルフケアとは、従業員自身が自分のストレスや心の状態に気づき、適切に対処する力を身につけ、実行することです。

具体的には、以下に当てはまる状態が好ましいとされます。

  • ストレスやメンタルヘルスに対する正しい知識を身につけている
  • ストレスチェックなどを活用し、自身のストレスに気づくことができる
  • ストレスに対して適切に対処できる

企業や管理職側には、eラーニングの導入や研修の実施を通じて、従業員にセルフケアの意識を持たせることが求められます。

ラインによるケア

ラインケアとは、部長・課長といった管理監督者が主体となって実行していく事業所内のケアです。ラインによるケアには、部下が気づいていない異変にいち早く気づき、適切に対応する目的があります。

具体的には、以下のような対応が求められます。

  • 職場環境などを把握し、改善をおこなう
  • 部下からの相談に対応する
  • 休職中の従業員に対して職場復帰支援をする

厚生労働省は管理職に対して、ラインによるケアの研修やeラーニングの受講を強く推奨しています。

事業内産業保健スタッフ等によるケア

事業内産業保健スタッフ等によるケアでは、セルフケアやラインによるケアが効果的に実施されるために産業医や保健師、衛生管理者といった専門職が職場全体のストレス状況を分析・改善します。

具体的には、ストレスチェックの集団分析結果を活かし、職場環境を整備したり、医療的な視点での対応が必要な従業員に支援をおこなったりします。

管理職は日頃から事業内産業保健スタッフと連携し、助言を仰ぐことが大切です。

事業外資源によるケア

社外の医療機関やカウンセラー、EAP(従業員支援プログラム)といった事業場外資源を活用するケアは、ハラスメントや家庭の事情など、職場内で相談しにくいケースに対して有効です。

企業は外部の第三者に相談できる体制を整えることで、従業員の安心感を高められます。

たとえば、匿名相談窓口の設置やチャット型メンタルサポートの導入など、従業員にとっての利用しやすさにも配慮した施策を展開することが重要です。

管理職がメンタルヘルスリテラシーを高めるメリットや重要性

管理職がメンタルヘルスリテラシーを高めるメリットや重要性としては、次の4つが挙げられます。

  • 同僚・部下のメンタル不調を早期発見できる
  • 退職やハラスメントなどのリスクマネジメントにつながる
  • 従業員のエンゲージメント向上につながる
  • 生産性が高まり利益につながる

それぞれ解説します。

同僚・部下のメンタル不調を早期発見できる

メンタルヘルスリテラシーを身につけた管理職は、部下やチームメンバーのちょっとした変化にも気づきやすくなります。

たとえば「遅刻が増えた」「表情が暗い」「報連相が減った」といったサインは、メンタル不調の兆候である可能性があります。

こうした変化を見逃さず、適切に声をかけることで深刻化する前に対処でき、結果として突然の休職や離職を防げるでしょう。

退職やハラスメントなどのリスクマネジメントにつながる

メンタルケアへの理解が浅い管理職は部下に対して無意識にプレッシャーをかけたり、不適切な言動をとったりすることがあります。

こうした行動がパワハラ・モラハラと受け取られ、組織に大きなリスクをもたらすケースも少なくありません。

一方で、メンタルヘルスリテラシーが高い管理職は、相手の状態を踏まえて指導や対応をおこなえるため、トラブルや誤解を防ぐことが可能です。

結果として、退職率や採用コストの増大といった人的リスクの低減にもつながります。

従業員のエンゲージメント向上につながる

メンタルヘルスケアの実践は、従業員に対する「あなたを気にかけています」という明確なメッセージになります。

従業員のエンゲージメントは、自分の存在を認めてもらい、大切にされていると感じることで大きく向上するものです。

メンタルヘルスケアが充実している職場では従業員のエンゲージメントが高まり、離職率が低下します。

また、職場の人間関係が良好になり、チームの一体感も高まるため、中長期的には安定した人材確保や組織文化の醸成にもつながります。

生産性が高まり利益につながる

メンタルが安定している従業員は仕事へ自律的に取り組めるため、業務効率が高くなります。

また、精神的な余裕がある状態は創造性や柔軟性を生み、チーム全体の成果にも好影響を与えるでしょう。欠勤や休職の減少により、稼働率の向上や生産性の改善、最終的には利益増加へもつながっていきます。

管理職が気づくべき従業員のメンタルヘルス不調のサイン

従業員のメンタルヘルスの不調は行動や見た目にあらわれることがあり、見過ごさないことが深刻化を防ぐ第一歩です。

たとえば、以下のような変化はメンタルヘルス悪化の兆候といえます。

  • 遅刻や早退が増える
  • 以前より業務効率が悪くなる
  • 報告・連絡・相談の頻度が減る
  • 身だしなみが悪化する(スーツがよれよれ、髪型が乱れているなど)
  • 表情が乏しい、声に張りがない

管理職がメンタルヘルスリテラシーを高めておくことで、部下の不調にいち早く気づき、適切な対応につなげられます。

従業員が発するサインを「一時的なもの」と見過ごさず、日頃のコミュニケーションを通じてさりげなく様子をうかがう習慣をつけましょう。

管理職に求められるメンタルヘルスマネジメントやラインケアの具体的内容

管理職が実践すべきメンタルヘルスマネジメントやラインによるケアは次の6つです。

  • 同僚・部下とのコミュニケーションを円滑にする
  • 相談しやすい雰囲気づくりをおこなう
  • ストレス要因を特定し改善する
  • 相談窓口を設置・活用すす
  • 復職支援をおこなう
  • 管理職自身のメンタルケアを実施する

それぞれの具体的な方法を解説します。

同僚・部下とのコミュニケーションを円滑にする

メンタルヘルスの変化を早期に察知するためには、日頃から同僚や部下と円滑なコミュニケーションをとっておくことが不可欠です。

部下の表情や言動の小さな変化に気づけるよう、定期的な1on1や業務外の声かけなどを通じて、信頼関係を構築しておきましょう。

相談しやすい雰囲気づくりをおこなう

管理職の態度や雰囲気は、同僚や部下の「相談しやすさ」に直結します。

頭ごなしな指導や感情的な対応は避け、オープンに話しやすい空気づくりを心がけましょう。

ちょっとした不安や懸念も気軽に打ち明けられる環境が、従業員のメンタル不調の予防や早期発見につながります。

ストレス要因を特定し改善する

業務量の偏りやタスクの不明確さ、人間関係の摩擦など、職場内にはさまざまなストレス要因が存在します。

管理職には職場環境を定期的に見直し、可能な限り従業員のストレスとなる根本要因を特定して改善することが求められます。

必要に応じて、産業医や人事と連携しながら改善策を講じましょう。たとえば、業務負荷の見直しや配置転換、職場環境の整備などが有効です。

相談窓口を設置・活用する

ラインによるケアのためには、ハラスメントや家庭内の問題など、部下が直属の上司に対して相談しにくいトラブルの発生に備え、外部EAP(従業員支援プログラム)を導入したり、社内の第三者相談窓口を整備・周知したりする取り組みが必要です。

従業員に対して「困ったときはここに相談できる」という選択肢を提示することで、安心感が高まり、突然の離職や休職、深刻なトラブルへの発展を防げます。

復職支援をおこなう

管理職には休職中の従業員に対する復帰支援をおこなうことも求められます。

従業員をスムーズに復帰させるためは、業務量や配置に配慮したり、周囲の理解を得たりするなど、さまざまな対策が必要です。

また、医師の意見をもとに無理のない復職プランを作成し、従業員が業務に段階的に慣れていけるよう伴走する姿勢も欠かせません。

管理職自身のメンタルケアを実施する

部下のケアに注力するあまり、自身のストレスケアを後回しにしてしまう管理職は少なくありません。しかし、管理職自身の心身の健康が損なわれれば、組織全体に悪影響を及ぼすおそれがあります。

管理職こそセルフケアを徹底し、相談窓口を利用するなど、自身のメンタルヘルスにも常に目を向けるようにしましょう。

管理職のメンタルヘルスリテラシーを高める方法

管理職がメンタルヘルスリテラシーを高める方法としては次の3つが挙げられます。

  • メンタルヘルスに関する知識を学ぶ
  • ストレスチェック研修を受ける
  • ラインケア・セルフケア研修を受ける

それぞれ解説します。

メンタルヘルスに関する知識を学ぶ

管理職がメンタルヘルスリテラシーを身につけるには、精神疾患やストレス反応、支援の仕方など、基礎的な知識を体系的に学ぶことが第一歩です。

たとえば、株式会社パソナセーフティネットが提供する研修・講演サービスでは、管理職向けに特化したプログラムが用意されており、実践的かつ現場で役立つ内容を学べます。

ストレスチェック研修を受ける

メンタルヘルスリテラシーを高め、実際に現場でスキルを発揮するためには、ストレスチェック制度の基本や活用方法を学ぶことも重要です。

株式会社こどもみらいが提供する「STRESCOPE(ストレスコープ)」は、ストレスの見える化と改善アクションまでを支援する研修を提供しており、組織改善にも役立ちます。

ラインケア・セルフケア研修を受ける

管理職が日々のコミュニケーションを通じて部下の異変に気づき、適切に対応する力を身につけるには、ラインケア・セルフケアに関する研修やeラーニングの受講がおすすめです。

厚生労働省が推奨するeラーニング教材などを活用し、継続的に学ぶことでメンタルヘルスリテラシーを実務に活かせます。

メンタルヘルスリテラシーを高めることは管理職の必須タスク

管理職には、部下のパフォーマンスを最大化するだけではなく、心身の健康を守る責任があります。メンタルヘルスリテラシーを高めることは、単なる個別対応にとどまらず、離職率の低下や生産性の向上といった組織全体への波及効果をもたらす、管理職にとって必須のタスクです。

特に、現在のような売り手市場・人材不足の時代において、従業員のメンタルコンディションを見極め、適切なケアをおこなえる管理職の存在は不可欠といえます。

しかし、管理職が複数の従業員のメンタルヘルスの状況を逐一把握することは簡単ではありません。

そこでおすすめなのが「ミキワメウェルビーイングサーベイ」の導入です。

ミキワメウェルビーイングサーベイは従業員一人ひとりのメンタルヘルスの状態を見える化し、不調の兆候を早期に察知することを可能とします。さらに、不調の原因を分析し、具体的な改善アクションまで提案するため、現場でのメンタルヘルスマネジメントの負担軽減につながります。

管理職がメンタルヘルスリテラシーを高めると同時に、こうしたツールを活用することで従業員の離職・休職リスクを効果的に下げ、職場全体の生産性の維持や向上も期待できるのです。

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