会議は本来、複数の人間が集まり、正しく合意形成するために行われます。
しかし、集団であるからこそ陥ってしまうのが「集団浅慮」という現象です。
この記事では、会社の経営者や人事担当者が押さえておきたい集団浅慮について解説していきます。集団浅慮への対策も併せて紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
集団浅慮とは
集団浅慮とは、集団での合意形成が、かえって不合理な結論を出す現象のことです。グループシンクとも呼ばれています。
集団浅慮は、アメリカの心理学者アービング・ジャニスが提唱した考えです。日本のことわざにある「三人寄れば文殊の知恵」とは真逆の考え方といえるでしょう。
同調圧力の強い組織が陥りやすいため、仲間意識や帰属意識の強い企業ほど、集団浅慮に陥らないよう注意が必要です。
集団浅慮が与えるデメリット
集団浅慮を引き起こす原因は、同調圧力だといわれています。
同調圧力とは、多数派が少数派に意見の賛同を強制することです。「異なる意見を言うと嫌われるのではないか」、「発言すると和を乱すのではないか」と少数派に思わせることで、反対意見を封じ込めようと図るのが同調圧力といえます。
同調圧力の強い社内環境は、組織の視野を狭め、会議を形式化させる原因ともなります。
集団凝集性と集団浅慮の関係
集団凝集性とは、帰属意識の高さを示す言葉です。具体的には、メンバーを組織に留まらせる動機となる「仲の良さ」や「結束力」が集団凝集性に該当します。
「チームでの成功体験がある」「長時間一緒に過ごす」「メンバーの入れ替わりが起こりにくい」といった環境下において、集団凝集性の高い組織が作られます。
集団凝集性の高い組織では、個々人の会社への帰属意識が高まるだけでなく、メンバー同士の連帯感や仲間意識も強まる点が特長です。企業は組織内の集団凝集性を高めることで、離職率の低下や生産性の向上といったメリットを感じられることでしょう。
しかし一方で、集団凝集性が高い組織には、同調圧力が発生しやすいデメリットも存在します。
仲間意識が強いあまりに少数派の意見に過剰反応し、同調を強制する集団心理が働くケースもあります。結果、正常な情報整理や状況判断ができなくなり、集団浅慮を引き起こしてしまうのです。
集団浅慮の発生原因
集団浅慮に陥る原因としては、主に次の6点が挙げられます。
- 能力のあるリーダーがいない
- 組織が閉鎖的である
- 集団凝集性が高い
- 特定人物の権力が強い
- 集団がストレスにさらされている
- 意思決定に利害関係が発生している
それぞれ詳しくみていきましょう。
原因1:能力のあるリーダーがいない
強い組織を目指す場合は、優秀なリーダーが必要です。チームを適切な方向へ導く有能なリーダーがいれば、同調圧力の発生を未然に食い止められるため、集団浅慮も予防できるでしょう。
しかし、リーダーが上層部の言いなりであったり、多数派の意見に迎合したりするようなチームでは、個人の意見が尊重されにくく、集団思考が優先されてしまいます。
原因2:組織が閉鎖的である
閉鎖的な組織や社員の流動性の少ない組織では、外部からのチェックや意見の多様性が期待できないため、バランスに欠いた意思決定を取ってしまう可能性があります。
また、閉鎖的な組織にいる人間は「自分の考えはみんなと同じだから正しい」といったように、組織の意向や判断を盲目的に信じてしまう傾向があります。結果として個人の意見や主張を望まない組織風土が醸成されてしまうと、正確な意思決定が難しくなってしまうでしょう。
原因3:集団凝集性が高い
集団凝集性の高い組織では、グループ内の雰囲気を重視するあまり、率直な意見交換が難しくなっているケースもあります。
反対意見を快く思わない場では、進んで反対意見を述べるのは困難です。
たとえ組織にとってプラスになる意見を持っていたとしても、「○○さんの提案を否定しているように思われたくない」という心理が働くため、有益な意見も埋もれてしまう傾向にあります。
原因4:特定人物の権力が強い
状況判断を求められた際、チーム内にその分野に精通したメンバーがいると「この人の意見なら間違いないだろう」という集団心理が働き、集団浅慮が起こるケースがあります。
専門性の高い分野で特に起こりやすい集団心理のひとつです。「的はずれな意見で恥をかきたくない」といった心理が同時に働くと、意見の多様性も失われてしまうでしょう。
また、組織内にカリスマ型のリーダーがいるケースでも、リーダーの意見が絶対視され、反対意見が生まれにくい場合があります。
リーダーを含む多数派から反発されることがわかっているため、反対意見を述べようという意欲も生まれません。結果的にリーダーの意見ばかりが採用され、誤った意思決定になっていても誰も指摘できなくなってしまうのです。
原因5:集団がストレスにさらされている
「期限内の納品が難しい」「深刻なトラブルへの対応を迫られている」といった事態に直面した場合、ストレスから逃れたいあまりに短絡的な意思決定を下すこともあるでしょう。
本来は意見交換の活発な組織においても、問題やトラブルに直面すると集団浅慮が生じやすいといわれています。
原因6:意思決定に利害関係が発生している
意思決定によって特定の社員やチームに何らかの利害が発生する場合、意図的に結論が誘導されることがあります。
その場合、反対意見を封じ込めようとする同調圧力が働くため、適切な検討を経ずに意思決定に至ることもあるでしょう。
集団浅慮を予防する4つの兆候
集団浅慮が起きる前には、組織にさまざまな兆候が現れます。
次に紹介する4つの兆候が確認された場合、集団浅慮に陥らないよう対策が必要です。
兆候1:自分たちを過大評価する
「自分たちの会社は優秀である」「自分たちの会社は誤った判断をしない」など、自社を過大評価している組織は要注意です。
ライバル企業に負けるはずがないと思い込み、他社の能力を過小評価してしまいます。結果、客観性な状況判断ができなくなり、意思決定の正確さが失われるケースも見受けられます。
兆候2:外部に意見を求めなくなる
自らの組織を過大評価している企業は、外部からのアドバイスを受け入れず、閉鎖的な組織となっていきます。自分たちにとって都合の悪い話や批判が耳に入っても、不要な情報とみなして受け入れません。
集団浅慮は、情報量や情報の多様性が少ない組織において発生するものです。外部との意見交換の場や交流機会が設けられているのか、自社の社外交流体制をチェックしてみましょう。
兆候3:組織内の意見が一致している
組織内で意見が分かれにくい企業体質の場合も、集団浅慮に陥らないよう注意が必要です。
企業によっては、考えや意見が異なっている状態を好まず、同調圧力を介して少数派や反対派を排除している可能性があります。
意見の一致が経営方針やビジョンから来ているものなのか、または同調圧力によって生じているものなのかを見きわめ、後者の場合は集団浅慮に陥らないよう対策しましょう。
兆候4:意見の違うメンバーに圧力がかかる
意見の一致を重視している会社のなかには、反対意見を持つメンバーへ圧力をかけるケースもあります。
「反対意見を言っても耳を貸してくれない」「異議を唱えるとすぐに非難される」といった空気のある職場は要注意です。閉鎖的な職場環境に嫌気がさし、優秀な人材が他社へ流れてしまいかねません。
結果、企業の組織力が落ちるだけでなく、社内の議論の質も低下してしまうでしょう。
集団浅慮の事例
集団浅慮に陥った結果、大きな失敗を経験した組織も少なくありません。
ここでは、集団浅慮の事例として「NASAのチャレンジャー打ち上げ」と「ピッグス湾事件」を紹介していきます。
事例1:NASAのチャレンジャー打ち上げ
1986年1月、アメリカで打ち上げられたスペースシャトル「チャレンジャー号」が、打ち上げ後まもなく空中分解した事故は、多くの人が知るところです。
事故によって、7名の宇宙飛行士の命が失われました。しかし実はこのとき、現場の技術者たちは、低気温や悪天候、部品の欠陥から、チャレンジャー打ち上げの延期を求めていたのです。
ところが、NASAの管理者たちは訴えを耳にしながらも、発射判断を下しました。
本来であれば、危険回避のための合理的な判断を下す必要がありました。しかし、チャレンジャーの開発で何度もトラブルに見舞われてきたことや、プレッシャーによるストレスで正常な判断が困難になった結果、打ち上げ計画の決行を優先してしまったのです。
優秀なスタッフが揃っていたとしても、過度にストレスがかかる環境下では集団浅慮が発生してしまうことを示した事例といえます。
事例2:ピッグス湾事件
1961年、アメリカのケネディ政権の発足当初、革命政権を倒すためにキューバへの侵攻を試みた「ピッグス湾事件」も、集団浅慮による失敗といわれています。
この侵攻作戦は、ケネディの前任者であるアイゼンハワー前大統領がCIAと計画してきた作戦でした。ホワイトハウスやCIAの上層部が練り上げた作戦ということで、ケネディ大統領はGoサインを出して作戦を決行しました。
しかし、結果として作戦は何ひとつ成功せず、歴史的な大失敗に終わってしまいます。
実はピッグス湾上陸作戦に否定的なメンバーも、当時ケネディ大統領の周囲に存在しました。しかし「大統領が決めたのだから、我々はそれをサポートするだけだ」という同調圧力があったことから反対意見は表へ出ず、会議では大統領を支持する意見だけが出ていたようです。
強力なリーダーが存在する組織や同調圧力の発生している組織では、議論を深められず適切な意思決定が困難になることを示した事例といえるでしょう。
集団浅慮を防ぐポイント
集団浅慮に陥ると、正しいプロセスで結論を導き出せないため、企業の損失につながる意思決定を選んでしまう可能性があります。
ここからは、集団浅慮を防ぐために押さえておきたい5つのポイントを解説します。
ポイント1:心理的安全性の高い組織づくり
社員それぞれが異なった意見を持つ環境を容認し、お互いの意見を尊重する「心理的安全性」の高い組織づくりが、集団浅慮対策として有効です。
心理的安全性とは、「組織内で自らの考えや意見を安心して発言できる状態」を指します。
リーダーの反応に怯えることなく自分の意見を発することのできる組織は、心理的安全性の高い組織といえるでしょう。
ポイント2:多様な意見を受け入れる体制づくり
チーム内の人数が多いと、ひとつひとつのアイデアを拾いながら検討するのは困難です。
そのため、結論を急ぐあまりにリーダーが意思決定の方向性を定め、少数派の意見を取り上げないケースも珍しくありません。
集団浅慮に陥らないためにも、意見を幅広く取り入れる体制づくりがリーダーには求められています。結論をひとつの提案に絞るのではなく「Aの案にBの意見を足す」などと、意見を集めて再構成する方法も有効です。
ポイント3:外部の意見を取り入れる
閉鎖的な組織風土とならないよう、組織との利害関係のない第三者や、外部専門家の意見を積極的に取り入れてみましょう。
外部の客観的な意見を広く受け入れることで、状況判断に必要な情報が集まり、適切な意思決定を下しやすくなります。
ポイント4:リーダーは聞き役に徹する
経営者や上層部の人間が最初に発言してしまうと、社員たちは否定的な意見を発言しにくくなるでしょう。しかし「リーダーの意見に従おう」では議論が深まらず、誤った意思決定をそのまま採用してしまう可能性があります。
そのような事態に陥らないためにも、リーダーは積極的な発言を控え、あえて中立の立場に徹するのも集団浅慮の予防に有効です。
リーダーが中立の立場であれば、社員は多数派・少数派などを考えずに発言できます。その結果、社員の発言量が増えていくため、幅広い意見を取り入れながら意思決定を下せるようになります。
ポイント5:批判役を用意して議論する
たとえ批判的な意見への歓迎姿勢を経営者やリーダーが示したとしても、率先して批判的な意見を述べるのは簡単ではありません。そこで、あらかじめ批判的な意見を発する「批判役」を指名しておき、反対意見の出しやすい雰囲気づくりに取り組むのも有効です。
批判役ひとりでは負担が大きく感じられる場合は、批判役グループを用意してみてもよいでしょう。
まとめ
集団浅慮とは、集団での合意形成が、かえって不合理な結論を出す状況を意味しています。
閉鎖的な組織や同調圧力の強い組織では、集団浅慮に陥る可能性が高いことから、対策が必要です。
集団浅慮を防ぐためには、自由な発言を尊重する組織体制づくりや、あらかじめ批判役を会議の場に用意しておくなどの取り組みが有効といわれています。
集団浅慮を防ぎ、適切な意思決定を下せる社内環境を整えていきましょう。
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