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権限委譲とは?メリット・デメリットや実行のポイントを解説

権限委譲は社員の成長や企業の生産性向上など、さまざまな効果が期待できると注目されている方法です。ビジネスにおける多くのメリットを有する一方で、注意が必要なデメリットも存在します。

権限委譲による最大限の効果を得るには、ポイントをおさえた施策展開が大切です。本記事では権限委譲のメリットやデメリット、実行にあたってのポイントなどを解説します。

権限委譲の意味

施策を正しく実行するには、正確な意味の確認・理解が必要不可欠です。はじめに権限委譲の意味について解説します。

上司が持つ権限の一部を部下に分けること

ビジネスシーンにおける権限委譲とは、上司が持つ権限の一部を部下に分けることを意味する用語です。単純に上司から部下へ仕事を指示する方法ではなく、意思決定から管理まで、全体の権限・責任を移します。権限委譲をされた社員は、自身の裁量で業務を行う必要があります。

権限委譲は、人材育成やマネジメントにおいて注目を集めている手法です。

権限委譲の語源・元の意味

権限委譲は、エンパワーメントと呼ばれることもあります。エンパワーメントは日本語で「力を与えること」「能力開花」などを意味する言葉です。

ビジネスシーン以外でも、医療・福祉・教育などさまざまな場面で使われます。これらの場面では、個人の潜在能力や可能性を引き出せるよう、権限の付与や環境改善などを行います。個人が主体的に動ける環境が、能力開花につながるという考え方です。

エンパワーメントはビジネスシーンに限らず、能力開花を主な目的として、多くの場面で実行されている手法・考え方です。


権限委譲を行うメリットとして、大きく以下の3つがあげられます。

  • 社員の成長・モチベーションアップにつながる
  • 上司が重要な業務に集中できる
  • 社員の主体性・責任感が育つ

それぞれのメリットについて詳しく解説します。

社員の成長・モチベーションアップにつながる

権限委譲により移される権限は、元々上司が有していたものです。レベルが高い内容や未経験の業務を任されるケースが多いため、業務を通して大きな成長が期待できます。

また仕事を任されるというのは、相手からの信頼を感じられる場面でもあります。自身の必要性を実感できる可能性が高いです。裁量が大きくなり自由度が高まることも、モチベーションアップにつながる理由といえます。

上司が重要な業務に集中できる

権限委譲では。上司が持つ権限を部下に丸ごと移します。あくまで最終的な責任は上司に残ったままですが、リソースが空き負担が大幅に減るのは事実です。そのため上司は、より高度で重要な業務に集中できるようになります。

コア業務は企業の生産性向上に大きな影響を与える部分です。権限委譲により、上司の業務に余裕が生まれれば、コア業務に割けるリソースが大きくなり、結果として生産性向上につながるでしょう。

社員の主体性・責任感が育つ

権限委譲を受けた部下は、自身の裁量で業務を行う必要があります。すなわち、指示に従う仕事の進め方ができません。自分で意思決定や業務遂行などを行うため、自然と主体性や責任感が育ちます。

主体性・責任感は、受け身の状態ではほとんど育ちません。しかし高度な業務や責任ある立場を任せるには、社員の主体性・責任感が必要不可欠です。社員の成長を自然に促す方法として、権限委譲は効率的といえます。

権限委譲を行うデメリット

権限委譲の実施を検討する際は、デメリットの確認・考慮も必要です。権限委譲の主なデメリットとして以下の3点があげられます。

  • 社員にプレッシャー・負担となる恐れがある
  • 判断ミスやコミュニケーション不足が起きやすい
  • 組織の目標からずれやすい

それぞれ詳しく解説します。

社員にプレッシャー・負担となる恐れがある

権限委譲は社員のモチベーションアップが期待できる手法です。しかし全員に良い効果を与えるとは限らず、人によってはプレッシャーや負担となる恐れがあります。

たとえば人のサポートを好む社員や、ルールに沿った的確な業務に強みのある社員は、指示通りの動きが得意な傾向があります。そのため、自身で考えて動かなければならない場面を苦痛に感じるケースが少なくありません。

また、「挑戦したいけれど自信がない」「自分には難しすぎる」と感じる社員がいる可能性もあります。社員によっては権限委譲がモチベーション低下につながる恐れがある点に注意が必要です。

判断ミスやコミュニケーション不足が起きやすい

権限委譲は社員の成長を促す一方で、判断ミスやコミュニケーション不足を招く恐れも大きい手法です。

権限委譲を受けた社員は、自身の判断で意思決定や業務遂行を進める場面が増えます。しかし上司に比べ知識・経験ともに浅いため、判断ミスを起こす可能性が高いのが事実です。権限委譲後に発生した判断ミスは、業務・事業への悪影響だけでなく、社員のモチベーション低下を招くリスクがあります。

また指示の必要性が小さくなる、自身で判断したうえで業務を進めるようになるため、上司とのコミュニケーションの機会が減りがちです。社員の自立が期待できる一方で、関係性が希薄になる恐れも考えられます。

組織の目標からずれやすい

権限委譲後は注意しないと、組織として目指す目標や経営理念からずれてしまう恐れがあります。

権限委譲により裁量が大きくなったとしても、あくまで組織に属することに変わりはありません。そのため社員には、組織としての考え方や目標を考慮したうえでの意思決定が求められます。

自由に意思決定ができると捉えてしまうと、組織全体が目指す方向を考慮せず、自身の好みだけで判断してしまう恐れがあります。組織としての方向性とずれてしまうと、生産性向上につながるどころか、逆にコストが増えてしまうでしょう。

裁量を与えるとはいえ、あくまで組織の一員であるという意識を社員に持たせる必要があります。

権限委譲を実施する際のポイント

権限委譲で成果を得るには、ポイントをおさえて正しく実行することが大切です。権限委譲を実施する際のポイントとして、以下の3点があげられます。

  • 権限委譲する内容を入念に検討する
  • 放置や失敗を責める行為はしない
  • 組織としての方向性や目標を明確にする

それぞれ詳しく解説します。

権限委譲する内容を入念に検討する

権限委譲による効果を最大にするためには、権限委譲の内容について入念な検討が必要です。

権限委譲はすべての業務に活用できる手法ではありません。大きな責任が求められる業務や、人事・事業戦略のような業務は、上の立場の人が裁量を持つ必要があります。また権限委譲がモチベーションアップにつながるか、プレッシャーとなってしまうかは、社員や状況によって異なります。

権限委譲によるプラスの効果を得るには、仕事内容・任せる社員ともに見極めが必要です。

放置や失敗を責める行為はしない

権限委譲の実施後は、社員の放置・失敗を責めるなどの行為をしないよう注意が必要です。

権限委譲で上司から部下に移るのは、あくまで業務の裁量権です。社員の立場が急に上がる、社員が最終的な責任を負うわけではありません。権限委譲のあとも最終的な責任を負うのは上司であり、上司には部下を監督・指導する義務があります。

権限委譲をしたからといって、部下に丸投げや全責任を押し付けるのは誤りです。干渉し過ぎては権限委譲の意味がありませんが、適度なバランスでサポートを続ける必要があります。

組織としての方向性や目標を明確にする

権限委譲を行う際は、事前に組織としての方向性や目標を明確にすることが大切です。

権限委譲により裁量権が移ったとはいえ、社員が自由に意思決定や判断をしてしまうと、組織が目指すゴールからずれてしまう恐れがあります。しかし単に「自分の裁量で」と指示されただけでは、自由にしてよいと考えてしまうのも当然です。

権限委譲の際には、裁量権を与えるものの、大前提に組織全体の方向性・目標があることをしっかり伝える必要があります。

権限委譲の成功事例

効率的な施策実施には、事例を参考にするのも有用な手段です。今回は権限委譲の成功事例として、以下の3社取り上げました。

  • Google社
  • 株式会社星野リゾート
  • 株式会社小松製作所

それぞれの事例について詳しく解説します。

Google社

Google社は大規模な施策ではなく、必要に応じてスピーディーに権限委譲を行うスタンスです。管理職だけで情報を留めず積極的にオープンし、社員に次々と権限や仕事を与えます。

積極的な権限委譲のため、以下の取り組みを実施しています。

  • 週に1回の全社ミーティングによる進捗報告
  • 創業者やトップ層による直接的な情報共有
  • 質疑応答や意見交換の時間確保

立場を問わない交流が活発なため、権限委譲が進みやすい環境です。

株式会社星野リゾート

株式会社星野リゾートは、かつてトップダウン方式の経営を行なっていた企業です。社員は上司の命令に従う必要があり自由度が低く、ストレスを感じやすい環境でした。その頃は社員の定着率が低く、大きな課題を抱えていた状態です。

これらを解決するため、以下のような方法で権限委譲を進めていきました。

  • 目的や目標を明確にしたうえで社員に仕事を任せる
  • 役職・ポジションなどの立場に関係なく自由に発言できる環境を整える
  • 一般社員が経営の意思決定に参加できる「ユニット・ディレクター(UD)制度」を導入

社員が主体的に働ける環境が整備され、現在は離職率が低下しています。

株式会社小松製作所

株式会社小松製作所は2012年4月から、従業員のエンゲージメント向上の強化に乗り出しました。施策の一環として行われたのが権限委譲です。

同社における権限委譲の大きな目的は、社員が能力を最大限活かせる職場環境の実現でした。自身の権限が増えれば「信頼されている」「必要とされている」と感じられるようになります。同じ仕事内容でも、より主体性を見出だせるようになります。

権限委譲を含むさまざまな取り組みにより、従業員のエンゲージメントは半年で33%から70%になりました。

まとめ

権限委譲は社員の成長や生産性の向上など、組織として好ましい効果が期待できる手法です。一方で注意するべきデメリットも存在し、誤った方法では効果が得られないどころか、トラブルを招く恐れもあります。

権限委譲で最大限の効果を得るには、ポイントをおさえた正しい施策の実施が大切です。成功事例を参考にすると、具体的なイメージを浮かべやすくなります。

権限委譲を上手く行い、組織力の向上を実現しましょう。

参考:
GLOBIS CAREER NOTE│エンパワメント(権限委譲)とは?組織や個人にとって重要な理由と実行プロセス
Weblio辞書│権限委譲
HR NOTE│組織のエンパワーメント(権限委譲s)を成功に導く方法

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