人的資本経営の最前線を紐解く連続オンラインイベント「人材経営ラボ」。記念すべき第1回は、サイバーエージェントの曽山哲人氏をゲストに迎え、「サイバーエージェントの成長を支える若手育成術」をテーマに、ここでしか聞けない貴重なトークが繰り広げられました。
本記事では、当日のイベント内容から、特に重要なポイントをダイジェストでお届けします。
抜擢文化の有効性とリスク
ー 早速ですが、サイバーエージェントさんといえば「抜擢文化」というイメージが定着しています。この「抜擢文化」は、企業にとって一体なぜ重要なのでしょうか?
抜擢の文化は大前提として、業績が右肩上がりで推移している企業には必ずしも必須ではありません。もし、現状の組織体制で業績目標を十分に達成できているのであれば、人材は最大限に活かされていると言えるでしょう。
しかし、多くの企業は常に成長を追求し、変化の激しい市場で生き残るために挑戦を続けています。そのような状況下では、目標達成の手段は大きく2つに分けられます。1つは人材の増強、つまり採用です。そしてもう1つが、既存の人材のパフォーマンスを最大限に引き出すことです。
採用はもちろん重要ですが、既存人材の潜在能力を最大限に引き出す施策として、「抜擢」は非常に有効な手段となるのです。

ー つまり、抜擢は単に短期的な業績向上に貢献するだけでなく、中長期的な視点に立った人材への投資でもあるということですね。
その通りです。私は社内でもよく「もし今、組織に100人の従業員がいるとしたら、彼らの才能は何%くらい活かされていると言えるか?」と問いかけるようにしています。
100%と自信を持って言えるケースは、実際にはほとんどないでしょう。まだ十分に活かしきれていない潜在的な能力があるとしたら、採用活動に注力するだけでなく、既存の人材のパフォーマンスを最大限に引き出すことで、従業員本人と会社双方にとって大きなプラスとなります。
そこに「抜擢」を行う意義、つまり余地があるのです。
ー 曽山さんが考える「抜擢」とは、具体的にどのようなものでしょうか?
私が考える「抜擢」は、単なる肩書きを与えることではありません。「期待をかけて仕事を任せること」、これこそが抜擢の本質です。
今まで経験したことのない仕事に挑戦させるわけですから、当然大きな期待をかけることになります。その期待を明確に伝え、仕事の意義や目的を丁寧に説明することで、社員の主体性を引き出し、成長を力強く後押しします。

ー 抜擢にはリスクも伴うと思いますが、その点についてはどのように考えていますか?
合理的な根拠に基づかない抜擢は、単なるギャンブル、あるいは運任せの賭け事と変わりません。例えば、入社初日の新入社員にいきなり社長を任せるような抜擢は、論理的に説明することが不可能ですよね。
リスクを最小限に抑えるためには、まずは現状の業務範囲内でまだ取り組めていないこと、あるいは改善の余地がある業務を任せることから始めるべきです。そして、徐々に責任範囲を拡大していくステップを踏むことが重要だと思います。
例えば、私が営業部長だったとしましょう。新入社員に「多忙な先輩社員のために、顧客に関連する最新ニュースや業界動向を収集・分析する」という役割を与えるだけでも、十分に意味のある抜擢となります。
この場合、失敗してもリスクはゼロですし、成功すればチーム全体のパフォーマンス向上に大きく貢献します。
若手社員の挑戦を後押しする風土づくり
ー 挑戦に尻込みしてしまう若手社員を後押しするためには、どのような組織風土を醸成していくべきでしょうか?
挑戦的な風土を根付かせるためには「事例」、成功事例と失敗事例の共有が不可欠です。
特に重要なのは「敗者復活」、つまり失敗から学び、再挑戦して成功を掴んだ事例を示すことです。失敗がキャリアの終焉に繋がるというネガティブなイメージが蔓延している環境では、誰もリスクを取ろうとしませんよね。
失敗を許容し、そこから学び、再び挑戦できる環境があることを明確に示すことで、社員は安心して新しいことに挑戦できます。
テレビドラマなどでは失敗した人が左遷されるシーンがよく描かれますが、そういったステレオタイプなイメージを払拭することが重要です。
ー ロールモデルの存在は重要だと言われますが、成功事例だけでなく、失敗から立ち直った事例も必要というのは非常に重要な視点ですね。
そのとおりです。そして、そうした風土づくりは経営陣が継続的にメッセージを発信し続けることから始まります。
具体的な事例が生まれるまでには、ある程度の時間が必要です。しかし、経営陣が諦めずに粘り強くメッセージを伝え続けることで、徐々に社員の意識や行動が変化していきます。
最初は「事例がない」という状態が続くかもしれませんが、それでも発信し続けることが何よりも大切です。
ー その他に、社員が挑戦を躊躇する要因としてどのようなものが考えられますか?
社員が挑戦を躊躇する背景には「損得エモーション」、つまり感情的な損得勘定が存在します。
挑戦によって評価が下がるのではないか、給与が減るのではないか、といった「損」の感情が先行する場合、人はなかなか行動を起こそうとしません。そのため、社員がどのような「損」を感じているのかを丁寧にヒアリングし、その感情を解消していくことが重要です。
例えば、新規事業プランコンテストへの応募をためらう理由を尋ねると、「本業に専念したほうが給料が高いから」といった具体的な「損」の感情が明確になることが多いですね。
抜擢を仕組み化するための具体的なノウハウ
ー 抜擢を継続的に行うための仕組み作りについては、どのようにお考えでしょうか?
抜擢を仕組みとして定着させるためには、「強みを活かす」という視点が非常に重要です。
上司が部下の強みを的確に見抜き、日々のコミュニケーションを通じて共有することで、強みを最大限に活かした業務へのアサインや、より上位のポジションへの抜擢がスムーズに進むようになります。
弊社では、社員一人ひとりの価値観を可視化する「価値観9ブロック」という独自のワークショップを実施し、社員同士や上司と部下の間で価値観を共有する取り組みを推進しています。
具体的には、9つの正方形のブロックを用意し、それぞれのブロックに自分が大切にしている価値観をキーワードとして書き込みます。その後、参加者同士でそれぞれのキーワードについてのエピソードを語り合うことで、相互理解が深まり、個々の強みを活かした人材配置や抜擢に繋がりやすくなるのです。

ー 部下を持つマネジメント層は、どのような点に特に注意すべきでしょうか?
部下の「やりたいこと」を聞くことも重要ですが、それだけでなく、「どのような業務や役割に楽しさややりがいを感じるか」を丁寧に聞き出すことが大切です。
現在の業務の中で、部下の強みを最大限に活かせる方法を上司と部下が一緒に模索し、日々の業務や目標設定などに反映させていくことで、部下のモチベーションとエンゲージメントを高められます。
例えば、「お客様からの『ありがとう』という言葉が嬉しい」という価値観を持っている社員がいれば、「お客様の満足とセットで目標を達成しよう」というように、本人のスイッチが入りやすいように繋げてあげることが重要です。
ー 中長期的な人材育成という視点では、部署を跨いだ異動や抜擢も重要な要素になると思いますが、その点についてはどのように考えていますか?
弊社では、社員が自らの意思でキャリアを選択し、新たな可能性に挑戦できる機会を提供する「キャリチャレ」を導入しています。
具体的には、年に2回、全部署から募集職種の一覧が公開され、現部署で勤続1年以上であれば、役職や年齢に関わらず誰でも自由にエントリーすることが可能です。
この制度を通じて、社員は自らの意思でキャリアを積極的に切り拓くことができ、個人の成長と組織全体の活性化を両立できるようになっています。
最後に
ー 最後に、若手の育成や抜擢に取り組む経営者や人事担当者に向けて、メッセージをお願いします。
抜擢を行うかどうかという議論も重要ですが、それ以上に重要なのは、「企業として若手育成を積極的に推進していくかどうか」という視点です。そのためには、まず若手社員と対話する機会を設けることが大切です。
アンケートツールなども活用しながら、活躍している社員や伸び悩んでいる社員に話を聞き、「損得エモーション」をヒアリングしてみてください。そうすることで、今まで見えなかった課題や、育成のヒントが見つかるはずです。
特に「損」の要素は本人たちしか持っていない考え方であることが多いので、直接聞くことで多くの発見があるでしょう。まずは1人でも良いので、話を聞くことから始めてみてください。


ミキワメは、候補者が活躍できる人材かどうかを550円で見極める適性検査です。
社員分析もできる30日間無料トライアルを実施中。まずお気軽にお問い合わせください。