講演レポート

「メガスタートアップが考える、これからの時代のウェルビーイング」

本レポートは、2022年9月28,29日に開催された、「ウェルビーイングリーダーズサミット by ミキワメ」の基調講演の文字起こしです。ウェルビーイングを牽引する様々なリーダーにご登壇いただき、組織に関する様々なテーマとウェルビーイングの結びつきについてお話しいただきました。

飯田:皆さんお待たせしました。この時間は「メガスタートアップが考える、これからの時代のウェルビーイング」というテーマで、マネーフォワードの辻社長、ユーグレナの出雲社長、そしてラクスルの松本社長にお越しいただいております。お三方、どうぞよろしくお願いいたします。

本編に入る前に、登壇者の皆様から簡単に自己紹介していだきます。

登壇者の自己紹介

マネーフォワードの辻と申します。クラウド会計やバックオフィス向けのクラウドサービスであったり、お金の見える化アプリの「マネーフォワードME」といったサービスを提供しています。今日はよろしくお願いします。

出雲ユーグレナの出雲です。私達は「人と地球を健康にする」仕事を行なっています。2020年から「Doing」ではなく「Being」へと、まさにウェルビーイングを経営の柱に据えています。今日はそんな話も皆さんにシェアしていきたいと思っています。

松本:皆さんこんにちは、ラクスル株式会社の松本です。ラクスルは印刷のプラットフォームを推進しています。日本の印刷会社さんを繋ぎ、空き時間を使って印刷したものをお客様に届ける事業を展開しています。多様な産業で活動されている中小企業の方々を、デジタル化によってエンパワーメントしていく、そうした理念で事業を展開しています。本日はよろしくお願いします。

飯田:お三方は経営者としても親交が深いというところで、本日は楽しく進めていければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

経営者が考えるウェルビーイングとは?

飯田:まずは、ウェルビーイングという言葉について質問です。「聞いたことはあるけど、ウェルビーイングって何?」と思っている人も多いと思います。経営者の皆さんが、ウェルビーイングをどういうものと捉えているのかお聞かせください。

ウェルビーイングを早い段階から経営の柱に据えている、ユーグレナの出雲さんいかがでしょうか?

出雲:我々は2019年からウェルビーイングについて議論を始めました。ウェルビーイングを考える時、欠かせないポイントが3つあります。まず「Having」、自分や会社が持っているもの。次に「Doing」、自分や会社がやっていること。そして「Being」、自分のあり方や会社が目指している姿です。

この「Having」「Doing」「Bing」という3つを意識して、弊社はウェルビーイングに関する議論をスタートしました。なぜウェルビーイングに取り組み始めたかというと、変化の激しい時代に直面し、Doingで会社の仲間を牽引していくことが不可能になったからです。

わかりやすく言うと、「Doing」でゴールを設定する際、To doリストを使いますよね。新型コロナウイルス感染症によって、今までTo doリストに書いてあったことが、突然意味がなくなりました。誰も喜ばないアクションがリストにあると、現場の仲間が混乱します。変化の激しい時代にあっては「Doing」で目標管理するのではなく、「To be」。どういう働き方やあり方でいたいのかを、もう1回みんなで考えてみようと思いました。

新型コロナが流行ってもリーマンショックが起こっても、何があっても変わらないものが「Being」です。我々の場合には、サステナビリティ。持続可能な社会を作るためにユーグレナは存在します。ウェルビーイング=サステナブルな社会を作る、という考えを2019年から議論してきて、これが一番大事だという結論に達しました。

サステナブルな社会の実現に必要なTo doは、会社は作りません。会社の仲間それぞれがTo doを作ります。環境が変化したらTo doは1日で変えてもOK、そういうやり方に変えました。

飯田:なるほど、ありがとうございます。

個人に求められる考え方や行動とは?

飯田:変化が激しい世の中になり、会社が社員へTo doを設定しても意味がなくなってきたということですね。そうしたBeingが重要な時代において、我々個人に求められる考え方や行動とは何でしょうか?

出雲:かつてのTo doの発想はこうです。まず企業が売り上げの目標を作ります。そして、ゴールを達成するためにTo doリストに戦略と戦術を落とし込み、「あなたはこれをやりなさい」と会社がみんなへ指示を出す。これが昔のTo doのやり方でした。

今後は、企業がゴールを設定し、みんなにタスクを配分してやってもらう時代ではありません。特に我々のようなベンチャーやスタートアップの場合には、一人ひとりの能力や主体性、やる気、モチベーション、パッション、こうしたものを全部使い尽くさないと大企業に勝てません。そうした理由からも、会社の仲間それぞれがTo doを自分で設定していくのが大事なんです。

設定できるかな?大丈夫かな?というのは杞憂に過ぎません。スタートアップの人は絶対できます。一番大事なのは、「あり方」ですね。私達の場合はサステナビリティです。ここはみんなで1年ディスカッションして、「これは揺るぎないよね、何があっても変わらないよね」といった核となる考えを整理していきました。

北極星というものは、絶対動きませんよね。「我々の北極星はサステナビリティだ」ということが     社内で腹落ちしたあと、それぞれのTo doをそれぞれが作る。半年に1回上司と面談して目標を確認しますが、何か大きな社会変化があったらTo doを変えてもらっています。それぐらいのフレキシビリティで取り組んでいます。

経営するなかでウェルビーイングを意識するタイミング

飯田:辻さんは、経営するなかでウェルビーイングを意識するタイミングはありますか?

:ウェルビーイングは、当社でも経営合宿などで経営メンバーが議論しています。色々な定義があると思うのですが、我々が思っているのは、個人やグループが身体的・精神的・社会的に良好な状態であるということ。そうすると、会社の場合は健康である、残業が少ない、ハラスメントが無いということが大事になってきます。また、「何のために働いているのか?」という点も欠かせないポイントです。

整理していくなかで、今やっていることに対する誇りと、未来への希望が2つちゃんとセットされていると、何のために働くのか、これからどういう世界を作りたいか、なぜ自分がこの会社にいるのか、といった点が整理されていきます。

社内でよく言っているのが「働きやすさ」です。リモートワークの活用など色々あると思いますが、より難しいのは「働きがい」をどう作るかにあります。マネーフォワードにいるメンバーは、マネーフォワードのビジョンに共感し、人生の大事な時間を使ってくれているわけです。彼らの働きがいを、どのように社会と繋げるか?といった点を意識して経営しています。……全然面白くない話ですみません(笑)。

飯田:いえいえ(笑)、ありがとうございます。

働きがいを担保するうえで人事や経営者が気をつけたいポイント

飯田:誇りや希望を持って働きがいを担保することは、重要なポイントですよね。そういう状況を作るために、人事や経営者が気をつけたほうがよい点はありますか?

:やはり、ビジョンをぶらさないことだと思います。たとえば、売上の話は結果です。売上到達、時価総額などといっても、それってゴールなの?みたいな感じになりますよね。今だとミレニアム世代を代表するように、「お金も大事だけど、もっと大事なものもあるよね」と理解している人も多いわけです。

経営者や人事からは、「何のために働くんだっけ?」といったメッセージを社員へ投げかけます。我々のケースでいえば、ユーザーさんのために事業をやっている。そういうことを言い続けることで、そこからぶらさないようにします。

すべての人事政策は、そこを軸に考えていきます。変に人気取りの施策をしても意味がない。会社としての幹を見つめることが大事だと思っています。

飯田:ありがとうございます。「ビジョンを北極星にして、そこに対して向かっていく」という考えを源泉とする点は、出雲さんも辻さんも似ていますね。

経営するうえでウェルビーイングを意識するタイミングはあるか?

飯田:松本さんはいかがでしょうか?経営するうえでウェルビーイングを意識することはありますか?

松本:実は私自身がウェルビーイングを意識し始めたのは新型コロナウイルス感染症が発生してからなんですよね。ウェルビーイングは「よく生きる」という意味ですが、2020年4月から6月はその逆ですごく不幸を感じていました。なぜだろう?と思い、幸福な状態がどのような状態か調べてみたんです。

結論は、脳内ホルモンのオキシトシン、セロトニン、ドーパミン、この3つの物質がバランスよく脳の中で出ている状態が、人が幸せになれる状態ということです。

セロトニンを出すには、朝日を浴びること。日光を浴びると出てくる物質で、何もしなくても「気持ちいいな」と幸せになれる物質です。オキシトシンは、誰かと繋がっていたり、繋がりを感じたりすることによって出てくる脳内の物質です。

最後のドーパミンは、目標を達成した時に出てくる物質です。実は目標達成しなくても、アルコールを飲めばドーパミンは出てきます。ドーパミンの特徴としては、比較的減衰しやすい点があげられます。一回目標を達成すると、次に同じ目標を達成してもドーパミンは出てきません。たとえば「お金をここまで貯めたい!」と目標設定してそこまで貯めてしまうと、貯めた瞬間にドーパミンが出なくなります。「もっともっと」となっていくんです。お酒も慣れてしまうと、少しの量だと酔えなくなりますよね。ドーパミンは、比較的中毒性の高い物質といえます。でも、ゼロより多少あったほうが良い。

これらのバランスがとれた状態が、幸福な状態です。私の場合、2020年はオキシトシンやドーパミンが圧倒的に欠如していました。人と話すことでアイデアを膨らませる性格なので、オフィスの存在は重要でした。

「人と繋がれない状況だから不幸を感じていたのだな」というところから、このセロトニン、オキシトシン、ドーパミンがバランスよく出るような状態を自分に作りたい、そして会社の中でも作りたいと思うようになりました。

:オキシトシンは人と会わないと出ないんですか?

松本:コロナ発生直後の時期は、日中外出できませんでしたよね?Zoomで人とたくさん話していたと思うのですが、Zoomだと駄目らしいです。私の場合、リアルに出会って話すことで出てくるようでした。

また、オキシトシンはうつ状態など人との関係性が脅かされることでも出なくなってしまうそうです。     

それを振り返り、会社でより良く生きるためには何が必要か?と考えた結果、思い浮かんだことの1つに「信頼」があります。

現在「Be Trusted」というプロジェクトをやっています。Be Trustedというのは、「人から信頼されている状態を感じよう」というプロジェクトです。これが、ラクスルが今やろうとしているウェルビーイングの取り組みです。

たとえば、転職時に新しい会社に入るケースを考えてみましょう。仕事を積み重ねることで自分の能力を証明し、関係性をうまく構築することで初めて信頼される会社も多いかと思います。特に実力主義の会社ですと、その傾向が強い気がします。それを真逆にして、信頼100%からスタートしようというのが「Be Trusted」の取り組みです。

つまり、企業文化として、最初から信じて全部任せてみるということです。証明したから任せるのではなく、初日から100%の信頼を持って接します。まさに辻さんがおっしゃっていた、コミュニケーションの取り方、オンボードの方法、目標設定、評価設定など、色々な方面の多様な要素を加味して信頼から入ります。こうしたものを基軸に、関係性が作りやすく、信頼しやすい制度を作っていこうと考えました。

一番重要なのは、ローコンテクストであるということ。会社のロジックをベテラン社員が理解できていても、新入社員が全くわかっていない、といった状態は避けます。それはやはり、会社のカルチャーが暗黙知になっているからなんです。「ルールで私たちの会社は回っています」と最初から定めるのが大切。人を信頼することが良いことで、能力を証明してから信頼するのは良くないことだ、といったルールを定めておくんです。ルールで信頼から入ることが決まっていると、社員同士が信頼し合えるようになり、オキシトシンが出ます。

オキシトシンを出す場合は、過度な残業をしない、身体への負荷をかけないといった取り組みが有効です。ドーパミンは、目標設定や達成が影響します。セロトニン、オキシトシン、ドーパミンの脳内物質の中でも、特にオキシトシンを中心としたウェルビーイングを作っていきたいと思っています。

飯田:なるほど、ありがとうございます。非常に新しいアイデアだと思いながら聞いていました。たしかにドーパミンはキリがないんですよね。ビジネスの成果でもそうですし、お酒やギャンブルでも出るものですが、「達成した!」と興奮状態になり、その直後に冷めるものです。

いわゆる終身雇用、年功賃金、年功序列が崩壊し、実力主義へ移行しようとする時代の流れがありましたが、それもどうもうまくいかない。「それでは、これからどのような人事ポリシーが必要になるの?」という点は、社会的に求められている視点だと思います。

オキシトシンをベースとした、ウェルビーイングでサステナブルな人事施策を作っていくという試みは、これからの時代におけるヒントになると感じました。

:先ほど、働きやすさ・働きがいと申し上げたのですが、働きがいをどうやったら持てるかというと、当社では3つあると思っています。会社に貢献しているという「貢献実感」、成長しているという「成長実感」、そして「帰属意識」です。その3つを充足し、会社のウェルビーイングと個人のウェルビーイングの方向が合っていくと、良い方向へ向かっていきます。そういった整理がいいと思います。

飯田:たしかにそうですね。

人と人との関係を深めるために取り組んでいること

飯田:オキシトシンが出るように、人と人との繋がりがより深まるようなチーム作りをしていこう、というヒントを先ほどいただきました。ユーグレナさんで、人と人との関係を深めるために取り組んでいることはありますか?

出雲:先ほどから、本当に会社のキャラクターが出るなと思いながら拝聴していました。松本さんや辻さんみたいな頭が良い人は、アプローチが包括的で満点なんですよね。ずっとメモしていました、全部パクろうと思って(笑)。

「こんな難しいやり方はわからない」という人は、私と同じやり方がおすすめです。うちは、先端ピン方式なんです。ウェルビーイングの急所を、人事やCHRO(最高人事責任者)を巻き込んで調べまくりました。その中のひとつで「これをやってみよう」と思ったのが「セキュアード・カルチャー(Secured Culture)」です。論文によると、心理的安全性がしっかりと確保されている会社のメンバーは、ウェルビーイングを感じやすいとのことでした。

心理的安全性が何かというと、この場合は、自分の発言機会が確保されているという安心感がある環境を意味します。これは「なるほど」と思いました。

実は私、話がすごく長いんですよ。

:うんうん。

出雲:そこは頷かなくていいですよ(笑)。とにかく話が長いので、1時間の枠なのに70分私が話して、みんなに迷惑をかけて終わるのが大半だったんです。それは全然セキュアな環境ではなく、ウェルビーイングでもないんです。それに気づいて「なるほどな」と思いました。新しい仲間でも誰であっても、手を挙げたら私が話すのをやめて、彼・彼女にいつでも話してもらえる会社になろうと思うようになりました。

「少し難しいかもしれないけど、自分が変わるだけでいいならでやってみよう」と試してみました。ものすごく良くなりましたよ!変わりました。「モチベーションクラウド(組織状態の可視化ツール)」で定点観測しているのですが、帰属意識の改善に効果的でした。帰属意識が強まると、ペイフォワードの精神や「もっとお礼をしたい」という気持ちが増大し、さらには感謝のメッセージの流通量が爆発的に増えていきました。さまざまな点にプラスの効果があることがわかったので、皆さんにもぜひおすすめです。

私がおしゃべりだということは認識しています。今この場でも。ですが、スタートアップの社長は、皆こういう人ばかりなんです(笑)。社長が必要以上に話さないように努めると、会社のウェルビーイングは10倍良くなります。いい話だと思いませんか?

松本:どうやって全員に話す機会を提供しているのですか?

出雲:話したいことがあったら、必ず手を挙げてくれと言っています。「いつでも自分は中断する」と約束するんです。何度も伝えた結果、今はあんまり誰も私の話を聞いてない状態です。「それくらいで終わりにしてください」という感じ(笑)。ウェルビーイングMAXな状態といえますね。

飯田:なるほど(笑)、ありがとうございます。「セキュアード・カルチャー」、心理的安全性を担保してやっていこうと思った時、出雲さんみたいに「なるほどな」と思って次の日から行動やふるまいを変えられる方ばかりだといいですよね。

たとえば実力主義の時代に結果を出してきた人達が、自分だけ発言してしまったり、何か意見が出た時に「それは違うよ!」とカットインしてしまったりすることがあります。ウェルビーイングや心理的安全性を少し阻害してしまう癖を持っている方も少なくないと思うんですよね。

矯正もなかなか難しいと思うのですが、カルチャーや人の変化を促していく時に何かポイントやコツはありますか?

マネーフォワードの取り組み紹介

:その前に、弊社でやっていることを少しシェアします。出雲さんの話の延長なのですが、うまくいっている取り組みとして、双方向のコミュニケーションの形成があります。先ほどおっしゃっていたように「お前の意見は違う」と誰かが言ったときに「もう少し人の話を聞いたらどうでしょうか?」と横から言ってもらえる環境が大事だと思っています。

そういう意味でZoomはいいですよね、チャットがあるので。話しているときに、チャットでもらったメッセージを見ながら進めていけます。

情報をオープンにすればするほど、不信感は無くなります。弊社では毎週の「朝会」に加えて月に1回「オープンドア」というものをやっています。「オープンドア」では、ランチ時にテーマを設定して雑談を交わします。たとえばデザインがテーマの場合、チーフデザインオフィサーが参加して、「最近デザインでこういうアートに興味があります」とか。さまざまなテーマを取り上げて「今こういうことにこんな想いで取り組んでいます」と話してもらったりしています。

そうした仕事の裏側にある想いや背景というのは、なかなか聞く機会がありませんよね。そうしたものを気軽に聞ける場が「オープンドア」です。自由参加で、ご飯を食べながら聞いてもらってもいいですし、出入りも自由です。

もうひとつは、オンボーディングでの取り組みです。ユーザー・エクスペリエンスを良くしようとしている会社であるため、それなら「エンプロイー・エクスペリエンス」も良くしようと考えました。オンボーディングは全部プログラムされていて、それを見たら全部やることがわかります。これはデザインチームが用意してくれました。

飯田:オンボーディングでは、どのようなことをしているのですか?

:入社初日がどういう時間割になっていて、自分が何をするか、困ったときに相談する人は誰なのかといった情報が、見たら全部わかるようにしています。10〜20年前に入社した人は「見て学べ」などと言われていましたよね。あのようなアプローチは本当に良くないと思いますね、今の時代では。あらかじめ用意してあげるのがポイントです。

ぜひ弊社のサイトでご覧いただきたいものに「産休育休ハンドブック」があります。妊娠はおめでたいことなのに、「仕事に穴を空けて申し訳ない」「営業のKPIがあるのに……」などと思われることがありますよね。そういうのは本当に不幸なことだと思います。そのようなケースでどう対応したらいいのか、報告を受けた上長はどういう回答をすべきなのか、といった点などを細かく記載しているハンドブックを作りました。非常に効果的な取り組みだと思っているので、この場を借りて紹介させていただきました。

飯田:ありがとうございます。

カルチャーや人の変化を促すときのポイント

飯田:それでは、先ほどの質問を出雲さんに回答していただきたいと思います。カルチャーや人の変化を促すときのポイントは、どのようなものでしょうか?

出雲:心理的安全性を組織に浸透させる際、過去に強い成功体験を持っている人が「自分が1時間話したほうがいいんだ」と思ってしまうことが、たしかにあると思うんです。ですが、私は結構簡単に変えられると思っています。今はとにかくVUCAの時代です。今までの延長線上にない社会にあっては、過去の実績と未来の成功は必ずしもリンクしません。そうした現代社会にある前提を、過去に成功した人であれば、しっかり説明すれば理解できると思うんです。

何度も繰り返し若い仲間が先輩に伝えるだけで、改善される問題ではないでしょうか。ユーグレナではあまり問題になっていない点です。

飯田:なるほど。

:意思決定者を「Diversify(多様化)」することですよね。同じ価値観の人しかいなかったら、おかしさに気づきませんよね。性別もそうですし国籍もそうですが、色々な意思決定者を揃えることが組織で準備できることですね。

実力主義の考えを持っている人とのコミュニケーション法

飯田:松本さんは、以前戦略コンサルティングファームにいて、その後起業されたのですよね。まさに実力主義で力を発揮していて、ウェルビーイングとかけ離れた人達と働いた経験があるかと思います。

そういう人達に対して、どのようなコミュニケーションが有効なのでしょうか?

松本:先ほどの「よく話をする人が話をしないよう心がける」という話に関連して、実施して効果的であった取り組みがあります。会議で説明のプレゼンテーションをなくす、ということです。

プレゼンテーターは事前にメモを「Notion」にまとめておきます。そのメモを黙々と、ミーティング開始後の5分間参加者が読み、Q&Aから始まる流れとなっています。こうすると、プレゼンテーターが何も話さないところからミーティングが始まりますよね。

また、先ほど辻さんが紹介していたオンボーディングの話は、ラクスルでも同じことをやって成果が出た部分です。初日に入って次の3か月何をするか、2週間や1日単位で全部マニュアル化されていて「この日はこれをする」「この日はこの人と話をする」みたいなことが全部決まっています。3か月間このマニュアル通りにやるとオンボードが完了し、信頼関係が築ける仕組みとなっています。

あとは、透明性の高さですね。確実にウェルビーイングに繋がっていくので、過去の意思決定が「どの会議体で」「誰が意思決定したか」を明らかにしています。ジョブ・ディスクリプションや会議体の持つ権限、参加者の議事録といった過去の記録は、誰でもアクセスできる形です。こうすると不透明な意思決定が減っていきますし、どこで誰が決めているかが明確になっていきます。

不信感は、誰が決めたのかわからない時に生まれます。「1on1で社長と話して、こういう方針になりました」これもかなり不透明ですよね。どこの場所で誰が決めるのかを考えること。私の場合は、会議体に寄せることが多いんです。なぜなら、会議体に寄せると議事録で全部整理できますし、コンセンサスとして決まっていくからです。

そういう形で透明性を担保していくことが大切です。「会議室以外で意思決定しない」「会議室に行く前に、参加者は全員宿題を済ませる」といったようにルールを決めておきます。会議では、プレゼンテーターが用意したメモに対して参加者が手を挙げて発言する方法でもいいですし、今はZoomが多いのでメモベースで発言してもいいかもしれません。

嫌味ではなく、会議で発言しない場合は議事録だけ見ておけばいいと思います。話さない人は会議に出なくてもいいんです。全部録画されていますし、メモを読めば30分のミーティングを5分でキャッチアップできます。どちらかというと、ドキュメンテーションの残し方や会議体の設計で透明性を担保することで、声の大きい人の声が大きくなり続けないように工夫しています。

飯田:ウェルビーイングへの取り組みというと、働きやすいルールづくりであったり、「何かを従業員に買ってあげよう」といった表面的な施策になりがちですよね。仕組みを根本から変え、コミュニケーションのあり方も変わらざるを得ない状況を作り、全体のウェルビーイングを推進していく。こういった点が皆さんの話に共通しており、大変勉強になりました。

情報開示の弊害や対策

飯田:松本さんや辻さんから「情報の透明性」というテーマが出ました。関連して視聴者の方から質問があります。情報開示とガバナンスを保っていくことは矛盾しないのか?という質問です。

情報公開していくうえで弊害があるのか、あるとしたらどのような対策が望ましいのか、その点をぜひ伺いたいと思います。

松本:検討状態の情報は出さないようにしています。NGアクションとしては、決まっていないプロセスだけを出し、結果を見せないこと。これは混乱が生じてしまいます。結論が出たものに対して、どういう議論がなされたかが伝わるよう意識しています。要するに、ストーリーとして全員に語れる状態になってから、初めて開示していくということです。

飯田:辻さんはいかがですか?

:あまり気をつけている点はありません。人事関連の情報や守秘義務のある情報は取扱い注意ですが、それ以外のことはオープンでいいと思っています。弊社では、「脳内同期」という言葉を社内で使っています。会社が現在どういう状況で、どういう課題を抱えているのかをオープンにしておくと、みんな考えてくれますよね。このように、オープンにして脳内同期を図るのが大事だと思っています。

コロナ発生後、リモートワークに関する議論がたくさんありました。そこで、結論だけでなく、経営会議でどういう検討項目があり、どのような発言があったのかを全部オープンにしたんです。そうすると社員も「ここまで考えて意思決定したのなら、納得だな」と理解を示してくれました。

プロセスを全部開示するのは、メリットのほうが多い気がしますね。

飯田:なるほど、ありがとうございます。

初期の立ち上げ段階でウェルビーイングとどう向き合っていけばいいか?

飯田:少し別のテーマになります。本日のセミナーでは、スタートアップ・ベンチャー企業の方もそうですし、多数の大企業の方もご覧になっている状況です。その中で、スタートアップの方からの質問です。社員が10名前後の、かなりアーリー段階のスタートアップ企業とのことです。

スタートアップの時期において、ウェルビーイングを実現していくうえで大切なことはありますか?という質問です。初期の立ち上げフェーズを思い出した時に、そのタイミングでウェルビーイングについてどう意識すべきか?あるいは意識すべきじゃないという意見もあるかもしれませんが(笑)。出雲さんいかがでしょう?

出雲:会社がスタートした当初は、ウェルビーイングとは対極にいますよね。リソースが何もないので。人もお金も資源も何もなくて、一生懸命営業するしかない状況。私はその反動もあって、今ウェルビーイングを頑張ろうとしています。会社としてもリーダーとしてもフォーカスして取り組んでいます。

情報公開とガバナンスをどうやってバランスさせるのかとか、色々考えるのはいいことです。ただ、考えている暇があったら、両方やる。そのほうが一番よく理解できますよ。失敗せずに、「最高のガバナンスと最高のオープネスの話を聞いたら実現できるか」といったら、そんなうまい話はやはり世の中にはありませんよね。

それよりも、大きな変化が重要です。大きなトレンドをしっかり見ること。たとえば弊社のように「To do」から「To be」への変化、これも本当に大きな根っこの変化なんです。今までは性悪説に立ち、情報も何もかも全部オープンにせずに囲い込み、自前主義で自分たちだけが幸せになっていくのが勝ちパターンでした。しかしこれからは、何が価値なのかがわからない時代です。その変化に対応する場合、性悪説から性善説、クローズドからオープネスといったように、思い切った大転換が必要なんです。

こうした大転換を図る際、今までの勉強や知識はあまり役に立ちません。まず「Just Do It」ですよ。まずやってみて「あぁ、これは失敗するんだ」といったように学ぶことです。ラーニングに勝るものはないと私は思っています。

飯田:ありがとうございます。そうですよね、人事施策をまずやってみることは大事ですし、「失敗しても撤回したり修正すればいい」という共通認識を社内で作っていくのが重要ですよね。それが実現できれば、出雲さんがおっしゃっていたセキュアなコミュニケーションがますます促進されることに繋がると思いました。

視聴者へのメッセージ

飯田:早いもので、残り時間が3分30秒ほどになりました。最後はお越しいただいたお三方に、視聴者の皆さんに対してアドバイスやメッセージをいただきたいと思います。まずは松本さんよろしくお願いします。

松本:本日は本当にありがとうございました。お二方の話を聞いて大変勉強になりました。あまりウェルビーイングについて考えたことがなかったのですが、しっかり考えていこうと思います。

良い会社というのは、今日の話のように働きがいがあってセキュアな状態がある会社ですよね。そういう会社を目指していきたいと思います。

:今日はありがとうございました。私は個人が生き生きと働ける会社にし、会社もそれで成長していけるような世界を作りたいと思っています。今はテクノロジーやチャット、Zoomなどのツールもたくさんあるので、そういったものを活用すれば、仕事とプライベートを両立できる環境が作れると思っています。

そういう会社がどんどん出てきて人材の流動性が高まっていくと、より生産性の高い会社へ人材が集中していきます。結果的に生産性の高い会社が増えて日本のGDPも上がるのではないでしょうか。そういう動きを社会全体で起こしていきたいので、今日のお話が少しでも役に立っていれば幸いです。素晴らしい会社をみんなで作っていきたいと思っているので、ノウハウを皆さんとシェアしていけたら嬉しく思います。

出雲:辻さんがおっしゃってくれたことがすべてですね。ウェルビーイングを達成するためにはシェアが必要なんです。辻さんの会社で育休産休ガイドブックをオープンにされていますよね。「あぁ、こういう方法でやっているんだ」と他社も学べる。お互いオープンに情報共有していく社会になったら、本当に大きな変化だと思うんです。To doからTo be、クローズからオープン、性悪説から性善説といったように、より良い社会を作ろうという人が本日このディスカッションを聞いているのではないでしょうか。

皆で思いっきりシェアしていきましょう。どんどん成功事例や失敗事例を今日みたいにシェアしていき、「我々がウェルビーイング・ソサイエティを作っていくんだ」という意志を持つことが大事だと思います。

飯田:ありがとうございます。お三方から大変貴重なお話をいただきました。本日はラクスルの松本社長、ユーグレナの出雲社長、そしてマネーフォワードの辻社長にお越しいただき、「メガスタートアップが考える、これからの時代のウェルビーイング」というテーマでディスカッションしていただきました。どうもありがとうございました。

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