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キャリアアンカーとは?構成要素やタイプ、人材育成に活用するポイントを解説

キャリアアンカーとは、キャリア形成において軸となる価値観です。キャリアアンカーの把握は個人のキャリアデザインに役立つだけではなく、企業が取り組む人材戦略にも活用できます。

今回の記事では、キャリアアンカーの基礎知識や活用方法、注意点をご紹介します。

キャリアアンカーの導入を検討している人事担当者様は、ぜひ最後までお読みください。

キャリアアンカーとは

キャリアアンカーとは、個人がキャリアを形成するうえで、もっとも重要視する価値観や欲求を指します。

アンカーは「船の錨(いかり)」のことです。錨は海底に沈められ、船が流されるのを防ぎます。

キャリア形成においてもアンカーは重要です。明確なキャリアアンカーがあれば、どのような局面においても自身の望む働き方を選択できるようになります。

また、キャリアアンカーは企業にとっても、社員の価値観や特性を把握するための指標として有益です。キャリアアンカーに基づいた適切な人員配置や人材育成を行うことで、スキルやモチベーション向上を図れます。

キャリアアンカーを構成する3要素 

キャリアアンカーは、以下の3つの要素が重なる部分にあるといわれています。

  • コンピタンス(なにが得意なのか)
  • 動機(なにをしたいのか)
  • 価値観(なにを重視するか)

自身のキャリアアンカーを理解するためには、この3要素について追求する必要があります。各要素について詳しく見ていきましょう。

コンピタンス

コンピタンス(competence)は「能力」「技量」を意味する言葉です。キャリアアンカーにおいては、業務に対するスキルや知識を持ち、それを実践できる能力を指します。

コンピタンスを備えていれば自信と誇りを持って業務を遂行できるため、高いモチベーションを保てます。

動機

動機は、自分がしたいことや興味があることなど、自己実現に向けた欲求を指します。

動機に合っている仕事をすることで、高い満足感や達成感を得られます。

価値観

価値観とは、自身が大切にする信念や判断基準のことです。「自分の判断で自由に仕事をしたい」「仕事を通じて社会の役に立ちたい」「プライベートの時間も大切にしたい」など、仕事に対する価値観は個々人で異なります。

自分の価値観が尊重される環境で働ければ、社員のモチベーションやエンゲージメントは大きく上がるでしょう。

キャリアアンカーの8つのタイプ 

キャリアアンカーには、以下8つのタイプがあります。

  • 専門・職能別能力(Technical/Functional Competence):自身の専門技術を高めたい職人タイプ
  • 経営管理能力(General Managerial Competence):会社経営に関わるマネージャータイプ
  • 自律・独立(Autonomy/Independence):自身のワークスタイルを貫きたい自由人タイプ
  • 保障・安定(Security/Stability):安定して長く働きたいと考えるタイプ
  • 起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity):新しい価値を創出したいと考える起業家タイプ
  • 奉仕・社会貢献(Service/Dedication to a Cause):社会に役立つことに喜びを感じるタイプ
  • 純粋な挑戦(Pure Challenge):困難を克服すること自体にやりがいを感じる挑戦者タイプ
  • 生活様式(Lifestyle):ワークライフバランスを重視するタイプ

ここからは各タイプの詳細や、能力を発揮できる条件をご紹介します。

専門・職能別能力(Technical/Functional Competence)

自身の専門技術を活かして、特定の分野のエキスパートになることにやりがいを見出す職人タイプです。

専門知識を深められる環境や切磋琢磨できる同僚がいる組織で、高い能力を発揮します。

現場で働き続けることを望み、管理職への昇進や他部署への異動によりモチベーションが低下する傾向があります。

経営管理能力(General Managerial Competence)

責任ある立場で組織を束ねることを目指す、上昇志向の高いタイプです。

業績や能力に基づいて正当に評価され、重要度の高いポジションに昇進できる環境でパフォーマンスを最大化できます。

多くの部署を経験してスキルや人脈を獲得したいという意欲が強いため、異動にも前向きです。

自律・独立(Autonomy/Independence)

組織のルールよりも、自身のペースややり方を重視する自由人タイプです。

監視や制約の多い企業やチームで動く部署での仕事は、ストレスとなる可能性があります。自分の裁量で自由に働ける環境で、能力を最大限に発揮できるでしょう。

保障・安定(Security/Stability)

将来にわたり社会的、経済的安定が確保されることを優先します。職種やキャリアよりも給与や福利厚生を重視する傾向があります。

変化を好まないため定着率は高めですが、仕事内容が大きく変わる異動にはストレスを感じやすいでしょう。

起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity)

新しい価値を創出したいと考えるタイプで、起業家や発明家、芸術家に向いています。

リスクを恐れずクリエイティブな挑戦を続け、自身のアイデアで社会的、経済的に成功することにやりがいを感じます。

一方で、刺激が足りないと独立や転職により離職してしまうことがあるため注意が必要です。

起業家的創造性タイプの定着率をあげるためには、新規プロジェクトを任せるなど、モチベーションを保てる環境を提供する必要があるでしょう。

奉仕・社会貢献(Service/Dedication to a Cause)

仕事を通じて社会貢献をしたいと考えるタイプです。自身のやりたいことや出世よりも、社会の役に立つことを重視します。

社会貢献度の高い仕事や、組織をサポートする役割を好みます。

純粋な挑戦(Pure Challenge)

困難を克服すること自体にやりがいを感じる挑戦者タイプです。

このタイプにとって「挑戦」は、結果を得るための手段ではなく、目的そのものです。困難と思われる状況に好んで飛び込む傾向があり、異動も挑戦の一つと捉えます。

一方でルーチンワークはあまり得意ではありません。

生活様式(Lifestyle)

仕事とプライベートの両立を重視するタイプです。柔軟な働き方や休暇制度が充実している組織で能力を発揮します。

仕事を時間内に処理するため、効率的な働き方をします。また、予定にない残業は毅然と断る傾向があり、オーバーワークになりづらい点もこのタイプの強みです。

キャリアアンカーの8つのタイプに向いている職種・職業例 

キャリアアンカーを明確にすることで、自身に向いている職種や職業の傾向がわかります。

各タイプに適性のある職種・ポジションや職業は以下のとおりです。

キャリアアンカーのタイプ適性のある職種・ポジション適性のある職業
専門・職能別能力・研究
・商品・サービス開発
・現場仕事
・研究職
・エンジニア
・弁護士
・アスリート
経営管理能力・管理職
・経営企画
・店舗管理
・コンサルタント
・投資ファンド
・小売業界
自律・独立・営業
・研究
・研究職
・士業
・クリエイティブ職
・芸術家
・コンサルタント
・フレックスやテレワークを導入している企業
保障・安定・総務
・経理
・公務員
・団体職員
・大企業
起業家的創造性・企画
・営業
・商品・サービス開発
・宣伝
・起業家
・芸術家
・広告業界
・コンサルタント
奉仕・社会貢献・人事
・総務
・秘書
・カスタマーサポート
・商品・サービス開発
・監査部門
・福利厚生部門
・医療関係
・介護関係
・教育関係
・公務員
・サービス業
純粋な挑戦・営業
・企画
・管理職
・コンサルタント
・スポーツ選手
・パイロット
・エンジニア
生活様式・総務
・人事
・事務職
・フレックスやテレワークを導入している企業

キャリアアンカーの診断法 

キャリアアンカーの主な診断法は以下の2種類です。

  • 診断ツール
  • フレームワークによる自己分析

それぞれの方法についてご紹介します。

診断ツールを利用する

キャリアアンカーは、インターネット上の診断ツールで容易に診断可能です。

40個の質問に対し「非常にそう思う」から「まったくそう思わない」の6段階で回答するだけで、自分のキャリアアンカーがわかります。

質問例
  • 常に自分の事業を起こすことができそうなアイデアを探している。
  • 将来が安定していて安心感のもてる会社での仕事を求めている。
  • 複雑な組織を率い、大勢の人びとを左右する意思決定を自分で下すような立場をめざす。

気軽に診断できる反面、気分により回答内容が変わる場合があります。精度の高い結果を得るためには、複数回診断することが重要です。

フレームワークを使って自己分析する

フレームワークを使った自己分析も、自身のキャリアアンカーを理解するために有用な手法です。以下の3ステップで、理想とする働き方をイメージしましょう。

ステップ考えるべき内容
①過去の経験を振り返る・学生時代に熱中したことはなにか
・仕事で楽しかったことや苦しかったことはなにか
・仕事以外で熱中できる趣味はあるか
②自分の強味と弱味を分析する・得意な仕事、苦手な仕事はなにか
・周囲の人にどう思われているか
・どのようなスキルを持っているか
・さらに伸ばしたいスキルはなにか
③理想の働き方をイメージする・どんな仕事がしたいか
・どのような役割につきたいか
・どんな企業で働きたいか
・どのような人生を送りたいか
・周囲の人からなにを求められているか

自分自身としっかり向き合うことで、意識していなかった自分の希望や理想が見えてきます。

先述の「コンピテンス」「動機」、「価値観」を意識しつつ、時間をかけて自己の内面を深掘りしましょう。

また、自分が「したいこと」だけではなく、周囲に何を求められているかという視点を持つことも重要です。客観的に自分を見つめることで、自分が「すべきこと」を明らかにでき、より自身の強みを活かした理想像を描きやすくなるためです。

キャリアアンカーの活用シーン

キャリアアンカーを人材育成に活用することで、モチベーションや生産性の向上、離職率の低下などが期待できます。具体的には次のようなシーンで活用しましょう。

  • 社員の自己分析
  • 人材育成や研修
  • チームビルディングの強化
  • 人材配置や異動
  • 採用活動

ここからはシーン別の活用法をご紹介します。

社員の自己分析

キャリアアンカーは個々の社員の自己分析に活用できます。

キャリアアンカーの診断を通して自分が何をしたいのか、どのような強みがあるかを深堀りすることは、キャリアデザインを行ううえで大いに役立ちます。

キャリアや目標を主体的に決めることで、仕事へのモチベーションが高まるでしょう。

人材育成や研修

社員のキャリアアンカーを把握することで、人材育成や研修の最適化を図れます。

社員の価値観や意志をキャリアアンカーで理解できれば、社員の適性を最大限に伸ばせるような育成法を見極められます。

チームビルディングの強化

キャリアアンカーはチームビルディングの強化にも役立ちます。管理職がメンバーのキャリアアンカーを認識することで、社員一人ひとりの強みや価値観を重視したチームビルディングが可能です。

たとえば、新しいプロジェクトに取り組む際、「起業家的創造性」タイプのメンバーに立案を任せ、「奉仕・社会貢献」タイプをサポート役にすえるといった活用法が考えられるでしょう。

キャリアアンカーを意識した役割分担によって、チームとしてのまとまりが生まれます。業務効率の向上や上司と部下の信頼関係構築も期待できます。

人材配置や異動

人材配置や異動の決定においても、キャリアアンカーは重要な役割を果たします。

たとえば「経営管理能力」や「純粋な挑戦」を重視する社員は、別部署への異動を成長の機会として前向きに捉える傾向があります。

逆に「専門・職能別能力」や「保障・安定」タイプの社員は、業務が変わることにストレスを感じる場合があるため、異動命令を出す際には慎重な検討が必要です。

キャリアアンカーにより社員の目的や価値観を理解することで、適切なジョブローテーションを実現でき、離職防止やモチベーションアップにつながります。

採用活動

キャリアアンカーを採用活動に取り入れることも活用法の一つです。候補者のキャリアアンカーを把握すれば、採用後のミスマッチを減らせるでしょう。

また、本人の希望に合致するキャリアプランを提示することで、優秀な人材を確保するといった活用法も可能です。

ただし、新卒の候補者は仕事に対する価値観が定まっておらず、キャリアアンカーが判断基準にならない場合があります。30代以上の中途採用者であれば、キャリアアンカーを採用活動に活用できるでしょう。

キャリアアンカーを活用する際の注意点 

キャリアアンカーは社員の価値観や特性を把握するために有用です。しかし、あくまでツールであり、絶対的な判断基準ではありません。

キャリアアンカーを活用する際には、以下の点に注意する必要があります。

  • キャリアアンカーに優劣をつけない
  • キャリアアンカーにこだわり過ぎない
  • キャリアアンカーは変化することを理解する

それぞれの項目について詳しくご紹介します。

キャリアアンカーに優劣をつけない

キャリアアンカーに優劣はなく、あくまで個々の価値観を可視化したものです。自身と合わないキャリアアンカーを見下したり、価値観を押しつけたりすることはやめましょう。

また、企業や人事担当者がキャリアアンカー自体を評価基準にしてはいけません。キャリアアンカーは社員の価値観を理解し、能力を最大限に活かすためのツールであると捉えましょう。

キャリアアンカーにこだわり過ぎない

キャリアアンカーにすべての判断基準を委ねることは避けましょう。キャリアアンカーは仕事に対する価値観を知るための自己分析法であり、適職診断ではありません。

キャリアアンカーの結果にこだわり過ぎると、社員の可能性の芽を摘んでしまうことがあるため注意が必要です。

たとえば「専門・職能別能力」タイプでありながら「経営管理能力」も重要視する社員が管理職に配属されたとき、高いマネジメント能力と現場の業務への深い知識をあわせ持つ唯一無二の管理職に成長する可能性があります。

キャリア面談や適性審査の結果なども交えて、多面的な評価をすることが重要です。

キャリアアンカーは変化することを理解する

キャリアアンカーは環境や体験、ライフスタイルの変化などに影響を受けて変わることがあります。また、診断時の気分や状態も診断結果に影響します。

キャリアアンカーの変化例
  • 挑戦精神旺盛な社員が、結婚してワークライフバランスを重視するようになる
  • 尊敬できる上司に出会い、チームを束ねる管理職に興味を持つようになる
  • 最初の診断のときは質問の意図がわからず適当に答えてしまったが、キャリアを経てキャリアアンカーの意味が理解できた

このように、キャリアアンカーはさまざまなことがきっかけで変化するため、一度の診断で「この社員はこのタイプ」と決めつけてはいけません。

とくに経験の浅い20代の社員は、キャリアアンカーが定まっていないケースが多いです。定期的にキャリアアンカー診断を行い、価値観の変化を把握しましょう。

社員のキャリアアンカーを把握し人材育成に活かそう

キャリアアンカーは、個々の社員の価値観や欲求といった「ぶれない軸」のようなものです。社員のキャリアアンカーを把握することで、適切な人材育成や配置が可能となり、社員のモチベーションアップやチームビルディングを実現できます。

しかし、キャリアアンカーはあくまで考え方の傾向を示すものであり、絶対的な判断基準にはなりません。社員の心理状態やパフォーマンスをリアルタイムに把握して、社員が前向きに仕事に取り組み、スキルアップできるようサポートすることも重要です。

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