本レポートは、2022年1月12日に開催された、「みんなのHR博覧会 byミキワメ」の基調講演の文字起こしです。各テーマに沿って、「はたらく」を「よく」するを徹底的に語り尽くしていただきました。
- 採用と組織づくりを、AIやデジタル技術で変える
- 採用活動はAIに置き換えられる?
- 教師データはデータ量だけが重要とは限らない
- AIの導入が適切なスクリーニングに貢献
- 集団面接から「AI判定の動画面接」へ
- 工数を減らして本質的な採用活動へシフト
- 面接官トレーニングで学生の信頼度を高める
- 学生の反応や表情を通じて、AIが信頼度を判定
- チャットボットもAIが自動対応
- People Analyticsへのチャレンジ
- 人事データは社員の労働環境を整えるために使う
- 新しい働き方とスマートビル化
- 会社にあふれる最先端テクノロジー
- トライ・アンド・エラーで突き進む
- AI導入前に、当たり前のことを当たり前にこなそう
- AI・デジタルの活用で効率的な働き方へ
- エンゲージメントを正しく測るには?
- エンゲージメントの高さと業績は関係するのか?
- エンゲージメント評価は難しい
- ジョブ型人事の未来
- 社員がキャリアを選べる環境づくり
- AIが最強のチームを作る未来
- パルスサーベイ利用時の注意点やポイントは?
- データの組み合わせが新しい発見を生む
- AI活用のポイントは、さまざまな専門家がチームで取り組むこと
- どのようにデータを取り扱えばいいのか?
- 社員のやる気を引き出すには?
採用と組織づくりを、AIやデジタル技術で変える
飯田:皆さんこんにちは!基調講演のモデレーターを務めている飯田です。この時間は45分間の基調講演で、ソフトバンク様から人事部長の源田さまにお越しいただいています。源田さんよろしくお願いいたします。
源田:よろしくお願いします。
飯田:この時間は、採用と組織づくりに対し、AIそしてデジタル技術をどう活用していけばいいのかを源田さんとディスカッションしていきます。
皆さんのお手元にQ&Aボタンがあるので、こちらで質問を投げていただければ、講演会の後半でみなさんのご質問にもお答えしていきます。
パネルディスカッションに入る前に、まずは源田さんから、ソフトバンクグループにおいてどのようにAIやデジタル技術を活用しているのか教えていただき、それを踏まえてパネルディスカッションに入っていきます。それでは源田さん、よろしくお願いします。
源田:よろしくお願いします。
皆様こんにちは。ソフトバンクの源田と申します。私から最初に少し、ソフトバンクでAIやテクノロジーをどのように使っているのかお伝えしていきます。自己紹介として、私はソフトバンクで人事を担当しています。それ以外に、いくつか関連会社の役員もやっています。
実はさっきプレゼンしていた星君も、孫正義育英財団の財団生なんです。この財団は、厳密にいうとソフトバンクは関係ないのですが、孫正義の個人資産を活用し、若い才能のある人たちを応援していこうということで、下は9歳、上は25歳から財団に入り、財団メンバーとして5年間活動していただいています。
受賞歴に関しては、いくつか人事の賞をいただいていまして、リクルーターアワードや採用に関する賞も過去に受賞したことがあります。
それでは最初に、ソフトバンクでどのようにHRテクノロジーを使っているのかご紹介します。
採用活動はAIに置き換えられる?
採用では、さまざまなところでAIを使っています。もともとは採用時の工数をAIに置き換え、工数削減に繋げる目的でスタートしました。このあと少し説明しますが、「実は人間が担当するよりいいのでは?」という話もあるので、そのあたりもお伝えしていきます。
まずはエントリーシートです。ご存知のとおり作文のようなものですね。志望動機や最新のテクノロジーについてどう思うかなど、会社が用意した設問に対して志望者が答えていきます。
もともとは採用担当が膨大な量を読んで判断していましたが、これは完全にAIへ置き換えました。
ポイントとしては、AIが合格判断を下したのはそのまま合格にし、不合格としたものは人がもう一度見ています。AIを信頼していないというわけではありません。「学生が一生懸命作文したものを、ソフトバンクは社員がちゃんと見てくれないのか?」という話になるのは良くないので、不合格のものについては人の目でチェックしています。
飯田:ちなみに不合格のものをご覧いただいて、やはり不合格になるなというものと、やはり合格だというものはどのような割合ですか?詳細な数字は言えないかもしれませんが。
源田:いや〜かなり少ないですね。たとえば100件ぐらい不合格としたら、2〜3件合格があるかどうかですね。
飯田:かなりAIの信頼性が高いということですね。
源田:そうですね。大事なのは教師データだと思っているので、メンテナンスを徹底しています。
教師データはデータ量だけが重要とは限らない
源田:ソフトバンクでは年間3万人ぐらいの学生がエントリーしてくれます。その3万ぐらいあるエントリーシートを全部利用すれば、「データが多いから良い教師データになるかな?」と思っていたのですが、実際そうではありませんでした。
何人も面接やエントリーシートを見てきた採用課長や、ベテランが合否を判断したデータだけを入れています。そうすると、かなり正解に近いものが出てきます。
もう一点のポイントは、最新のデータでなければならないという点です。最近だとDX(デジタル・トランスフォーメーション)とか当たり前の単語ですけど、5年前はあまり耳にしませんでしたよね。
飯田:なかったですね。
源田:AIやシンギュラリティといったように、旬の言葉というものがありますよね。それを正しくAIに判断してもらわないといけないので、新しいデータで信ぴょう性の高いものを教師データとして入れることが重要です。
AIの導入が適切なスクリーニングに貢献
源田:AIを導入すると、工数減に繋がるのが非常に大きいです。スライドで「適切なスクリーニング」と書いてありますが、先ほど適切な教師データを入れるのが大切と話しましたよね。なぜそれがわかったかというと、大量のデータを入れてうまくいかないのは、正しくない教師データが入っているからなんです。
たとえば、二日酔いや風邪気味で体調が悪いときに、正しい判断ができない可能性があります。AIは1つのAIが担当しますが、採用担当は何人もの人間がやるわけです。つまり、人によって好みで合否が分かれたかもしれません。そうしたものがAIの導入で、より適切なスクリーニングに改善できたのではないかなと思っています。
集団面接から「AI判定の動画面接」へ
源田:動画面接も同じです。これまで集団面接してきたのを動画面接に変更しています。「AIに正しい教師データを入れたらできる」と思っていたら本当にできたので、動画面接もAI判定に変えています。
AIが不合格としたものは、最後に採用担当が動画を観て判断しています。理由は先ほどと同様で、AIを信用していないというわけではありません。
コロナ禍になり動画面接が当たり前になってきましたが、僕らはその前から動画面接OKでした。
「地方の学生が面接のためにわざわざ東京に来る手間を省きたい」「学生にとってよりよい選考状態を作りたい」というのが想いとしてあります。
工数を減らして本質的な採用活動へシフト
源田:AI評価導入が大幅な工数削減になっている状況で、エントリーシートで75%、動画面接で85%の工数削減に成功しています。
採用担当者が本来やるべきことは、学生とちゃんと向き合い、「ソフトバンクはどういう会社か」「働くとはどういうことか」などをしっかり伝えることだと思います。本質的な採用活動へシフトするためにAI評価を導入し、面接動画の判断やエントリーシートを読む時間の削減を図りました。
面接官トレーニングで学生の信頼度を高める
源田:最近では、面接官のトレーニングもやっています。ZENKIGEN社のツールを使って分析しています。
左側のグラフが学生の信頼度の曲線です。学生の信頼度が上がっているほうが本音で話せているというデータです。お互い本音で話し合うためには、信頼度を上げることが重要ですよね。
「会話の中でこんな質問をしたら、がくんと信頼度が下がってしまった」という場合も。たとえば学生が自分のアピールポイントを伝えたいと思って話したことに対して、「あ、そうなんですね。で、私が聞きたいのは…」みたいに面接官が応じると、信頼度が下がってしまいます。
信頼度が下がると本来聞きたいことが聞けない可能性も生じるので、面接官トレーニングでもこうしたツールを使っています。
「つらい、苦しい」「お祈りがメール届いてがっくり」「自己否定ばっかり」といった面接や就活を、学生にとって少しでもいい体験にしてほしいという想いが面接官トレーニングの導入背景です。
学生の反応や表情を通じて、AIが信頼度を判定
飯田:ちなみに学生の信頼度低下は、どのように判定されるのですか?
源田:左側のグラフに出ています。VTRで振り返り、どんな発言・表情をしたときに学生の信頼度が下がっているか、逆にどういう問いかけをしたときに上がっているのかを時系列で確認できます。
飯田:なるほど。
源田:あとで振り返る際に、自分の表情・言葉・相手に対する働きかけの良し悪しが見えるのがいい点ですね。
飯田:学生の反応や表情で「信頼度が下がった」とAIが判定してくれるってことですね。
源田:そうです。お互いの表情や発話をAIが自動で判断し、それを全部フィードバックしてくれます。
飯田:営業現場でこうしたシステムを使っている会社は徐々に増えてきています。面接の世界でも増えていきそうですね。
源田:今はコロナで直接会う機会が減ってきて、1on1(ワンオンワン)の重要性やフィードバックの重要性がより問われていると思います。評価のフィードバックをする際、これで模擬練習をしておけば「あ、こういうことをすると相手にうまく伝わるんじゃないか?」ということがわかってくるんです。
面接官トレーニングとして使っていますが、評価者や管理職、リーダーの1on1ツールとしても有効だと思います。
チャットボットもAIが自動対応
源田:チャットも自動化しています。面接や会社に対する問い合わせというのは、「次の面接はいつですか?」「何分前に会社へ行けばいいですか?」「服装はどうすればいいですか?」などと、大体決まっていますよね。これを全部チャットボットで返すようにしていて、4千件ぐらい自動対応になっています。こうした一次対応の手間を省く試みも現在行なっています。
面接選考の流れはいろいろありますが、AIやテクノロジーを使って効率化できるものはどんどん効率化し、本質的な採用活動へと繋げていっています。
People Analyticsへのチャレンジ
源田:Pymetrics(パイメトリックス)とmitsucari(ミツカリ)を使って特性分析もやっています。今日聞いたら、ミキワメ最高という感じですが(笑)。
飯田:(笑)。Pymetricsさんとmitsucariさんもいいサービスだと思います。
源田:どれか一つを導入して「これで正解」みたいなことがあるとは思っていません。どんどん新しいものを使っていき、どんどんいいものを広げていくスタンスでやっています。
パルスサーベイも使用しています。月に一度、簡単に自分自身のアンケートを入力して、上司が今のメンバーの状態を把握しています。コロナで直接的なコミュニケーションが難しくなってきた中で、より実態を理解する目的で使われています。
人事データは社員の労働環境を整えるために使う
源田:現在、さまざまなHRのデータを使用・分析し、よりよい配置やローテーションに繋げていこうとトライ・アンド・エラーでやっています。一つ大事にしているのが、強制しないということ。社員にとっていいことに使うように心がけています。
「この人辞職するんじゃないか?」「危ないんじゃないのか?」というものにデータは使用せず、社員がより生き生きと働けたり、モチベーション上げて働けたりと、プラスになる利用を徹底しています。
飯田:大事な点ですね。
源田:コソコソやっていませんね。先ほどのPymetrics(パイメトリックス)も、希望者は受けてくださいというスタンスです。「受けてみると、もしかしたらデータを使ってこういうことをやるので、いいことあるかも」とプラスのメッセージを伝えています。
新しい働き方とスマートビル化
源田:これはおまけですが、2021年に竹芝に本社を移転しました。現在本社やオフィスのあり方が問われていると思うのですが、それを実践している状況です。
新たな働き方の実践と、スマートビル化を進めています。次のスライドに事例がいくつか入っています。
あ、これはコミュニケーションのほうですね。人が出会う場所を重視しています。何気ない会話やコミュニケーションが社員同士でできるように、集中して働けて「オフィスに来たら家よりいいよね」という状態を目指しています。
竹芝の本社もありますが、今在宅勤務率が75〜80%、出社が20〜25%ぐらいです。本社やオフィスだけでなく、全国のWeWorkやシェアオフィスを使えるようにしているので、いろいろなところで働ける環境を作っています。
会社にあふれる最先端テクノロジー
源田:テクノロジーをフル活用している話をします。オフィスに入る時セキュリティゲートがあるのですが、顔認証になっています。
飯田:いいですね〜!
源田:顔認証でペコっと開きます。開いたら「Aエレベーターです」とAエレベーターが来て自動で開いてくれます。エレベーターに入ると、私が普段働くフロアのボタンがすでに点灯しています。
他にも、掃除やセキュリティのロボットがいます。社員がこの前Facebookでつぶやいていて、面白かった話があります。
「プロジェクトで忙しく、今日は深夜まで働いていました」とのつぶやき。21〜22時ぐらいだと思いますが、「出るとセキュリティロボットが追いかけてきました」って(笑)。
飯田:(笑)
源田:「私は不審者って思われているんでしょうか?」って、なかなか面白いですよね。
あとはセブンイレブンなどのコンビニが入っているのですが、注文したらロボットが勝手に持ってきてくれるんですよ。
飯田:え!すごい!
源田:エレベーターもロボットが自動で動いています。
あと社食でも、コーヒーなどを頼むとロボットが持ってきてくれます。
オフィスは単なる宣伝ですけど、テクノロジーをいろいろ使って採用などを変えていこうと思っています。そんな状況です。
トライ・アンド・エラーで突き進む
飯田:いや〜、この短時間でエッセンスを詰め込んでいただきありがとうございます。テーマ一つ一つは聞いたことのある内容もあるかもしれませんが、やりきっている会社はほとんど聞いたことがありません。一部分をやりきるだけでも大変なのに、採用や従業員の働き方も含め、エクスペリエンス全体をまったく別のものに変えている点がさすがだなと思いました。
源田:本当ですか?(笑)
飯田:えぇ。我々も千社ぐらいHRの支援でお客様と関わっていますが、ここまでやりきっている事例は聞いたことがないな、と思いながら伺っていました。
源田:いやいや、まだまだですよ。HRテックなど進んできていますが、生産性の向上や効率化、人間じゃできなかったことの実現などを担うのは、テクノロジーしかないですよね。
正解はあまりないので、たくさん作って使ってみて、失敗したらやめて、よければどんどん続けて拡大していこうという感じですね。
飯田:そういうことですよね。ありがとうございます。
AI導入前に、当たり前のことを当たり前にこなそう
飯田:今日お越しいただいている方は、HRの方やHRに興味や関心の強い経営者・人事の方が多いです。いきなりこの状態を作るのは簡単ではないと思うのですが、仮に源田さんがテクノロジーのまったく使えていない会社に転職した場合、まず手を付けるとしたらどこからAI・デジタル活用を進めていきますか?
源田:今日は飛び道具的なAIやキャッチーなものを紹介してきましたが、実は採用を担当してデータの活用をやり始めて、一番耳にしたのはもっと当たり前の話です。
当たり前の話とは何かというと、さきほど年間3万件ほどのエントリーがあると言いましたが、どういう媒体からどういう人がどのように集まってきて、それがどういう選考過程で離脱・合格し、内定を受諾して入社し、そのあと活躍するかといった一連のプロセスを全部見える化して、どこに課題があるのかをチェックしました。
そうすると、会社説明会や出稿の成果がどれくらいあったか全部見える化できます。
選考プロセスでも気づきがありました。言えば当たり前ですが、選考過程が短ければ短いほど内定受諾に繋がります。選考期間をいかに短くするかという発想になるのですが、全部データで見える化して、「選考期間を短くするために何が課題なの?」という点をプロセスごとに取り組みました。
選考期間をグッと短くすると、内定受諾率がぐっと上がるんですよね。
飯田:ほ〜。
源田:シンプルな話ですけど、意外とやっていない会社も多いそうです。AIとかだとお金もかかりますからね。数万人規模の学生を見るのであればお金をかけてもいい判断になりますけど、千人ぐらいならそれほどシステムは必要ないと思います。そのときに大事なのが、見える化し、数字で見て何が採用の課題なのか把握することです。AIを多用しなくてもいろいろできます。
飯田:当たり前のことを当たり前にやれるようにデータを整えていったり、それに基づいて合理的に意思決定していったりというのは、日々の業務で忙しい中、できないことも多いですよね。私もまだまだできていないことがあるな、と思いました。
源田:そんなことはないんじゃないですか?
飯田:いえいえ、まだまだ改善の余地だらけです。AIを活用しようと思っても、データが整ってなく、分析対象や改善対象が無いとどうしようもないので、今おしゃっていたいただいた点は非常に重要だと思いました。
AI・デジタルの活用で効率的な働き方へ
飯田:今のお話は、どちらかというと源田さんが人事に着任した初期の経験が基となっているお話ですが、逆に過去ではなく未来へ目を向けた時に、これからAIやデジタルの活用において取り組んでいきたいテーマやアイデアはありますか?
源田:2つあります。今世の中が大きく変わってきていて、データを使ってどのように産業構造を変えていくかみたいな話があると思います。失われた30年みたいな話もありますけど、生産性を上げていき、より効率的な働き方を改革していくには今がチャンスなんじゃないかと思っています。
一方で個人を見ると、人生100年時代というように、定年も70歳までは努力義務みたいなところや、法改正により60歳で定年退職しながらも、継続雇用の義務化がもっと広がっていく可能性があると思います。その中で個人が会社に依存して働く時代は終わってくると思うんです。
エンゲージメントを正しく測るには?
源田:これからのテクノロジーで注目しているのは、まず1つはありきたりですが、「本当に正しくエンゲージメントを測るものに何があるんだろう?」ということを考えています。
これは、社員にとっても会社にとっても重要なことだと思っています。エンゲージメントは解釈の仕方も人によって違うと思いますが、自分自身が会社と共に成長していったり、コミットしていったりとか、自分の成長が会社の成長に繋がり、会社の成長が自分の成長に繋がるような状態が「エンゲージメントの高い状態」であるなら、個人にとっても会社にとってもまさにWin-Winだと思うんです。
よくHRが人的資源から人的資本へ移行し、人的資本をどれだけ最大化するかみたいな話があります。それもまさに、個人と会社のWin-Winに繋がっていくことだと思います。
本当に「これがあったらほしい!」と思っているのは、エンゲージメントを正しく測れるものです。個人のキャリアなどは数字化しにくいので、そうしたものがAIやテクノロジーで見える化されると、本当の意味で会社と個人がWin-Winの関係になると期待しています。
飯田:なるほど。
源田:今は、「とりあえずエンゲージメントで測りました」「先月よりこれぐらい上がったけど、何がいいんだろう?よくわからない…」といった会社もけっこうあると思います。そこをもう一歩踏み込み、ただ見える化されるだけでなく、それが会社にとって業績や将来に向けてプラスになっているか、個人の成長に繋がっているのか、といったものが検証されるところまでいけるといいんですけどね。
飯田:エンゲージメントは人によって解釈のバラつきがあると思いますが、個人も会社も相思相愛の状態、お互いがいい状態でお互いが高め合っていける状態を「エンゲージメントが高い」という解釈ができると思います。
従業員の方のエンゲージメントの高さが業績に結びついてくるか、その接続を図るのが難しいですよね。
エンゲージメントの高さと業績は関係するのか?
源田:そうなんですよね。半分はポリシーとして信じるしかないという部分はあります。でも一方で、そこが見える化されるとすごくいいと思うんです。
「社員の状態は今どうなの?」と言われて、少し前はESサーベイが中心でしたよね。ただESサーベイだけだと「社員は満足して働いている→原因は福利厚生の充実度」といった内容に。でも、そこなのか?と。やはり、社員がしっかり成長していくことが大事だよなと。
やりがいを持って働いている状態を正しく測ることが重要です。飯田さんがおっしゃるように、次のプロセスとしては、それが本当に正しいのか、人的資本やエンゲージメントの高い状態が中長期の会社の成長へ繋がっていくのか、この検証をどうやっていくかですね。
飯田:一歩一歩ですよね。先ほどデータを整えるのが大事という話もありましたけど、そもそもエンゲージメントが組織としてどうなのかという点ですよね。
組織の状態がなんとなくわかっていても、個人の状態がわからないと、結局あとから振り返られない。足元のデータが整っていない場合は、まずそこを整えていくところからだと思います。
エンゲージメント評価は難しい
飯田:ちなみに、大体どれくらいのスパンや指標によって評価していけばいいと思いますか?まだ答えのあるアジェンダではないかもしれませんが。
源田:難しいですよね。ビジネスだと、たとえば携帯電話業界でも皆さんご存知のように新たな企業が参入してきたり、料金の値下げだったり、いろいろなものがあるじゃないですか。何が言いたいのかというと、外部環境による影響が大きいので、はたして「ある社員の存在がどの程度業績に繋がっているのか」を判断するのが難しい。新規事業などは見やすいですけど。
飯田:あ〜たしかに。それはありますね。
源田:対象の中でどのぐらい新たなビジネスを見いだして、それが事業として成長していっているのかどうか。失敗した数は気にせずに、「こんなにたくさんのビジネスが生まれて成長してきた。もしかしたらエンゲージメントの高い会社に起こりうる状況なのかな?」というのは感覚としてはありますよね。
飯田:ソフトバンクさんは、もともとはPCソフトの卸売というところからスタートし、まさに新しい事業を作っていく連続で今がありますよね。
ジョブ型人事の未来
飯田:AIやデジタルの活用から少し話がそれてしまうかもしれませんが、数日前の日経新聞で、日立製作所さんがジョブ型の雇用制度を全社で導入していく記事が掲載されていました。ジョブ型の専門家を作っていくことと、一方で時代の流れに応じて新しいものをしなやかに作っていくことは、時と場合によって二律背反していそうな場合もあると思います。
新しいものを作っていく人は、いわば未来の専門家であり、今は何者でもない可能性がありますよね。御社も多様な事業をやっていく中で、ジョブ型人事や人事制度の未来について、考えていることはありますか?
源田:ジョブ型って飯田さんがおっしゃるように難しいですよね。日本企業の多くが悩んでいるのが、基本的には右肩上がりに成長する前提での人事制度を設計し、たとえば管理職比率が全体社員の半分を超えてしまっていたり、結局年功序列で給与も部長などにならない限り、年功序列で決まっていたりと。
その状況を変えたい、じゃあどうやって変えるの?というときに登場するのがジョブ型かもしれません。本来的なジョブ型というのは、役割に応じて報酬が決まります。そこまでしっかり本質的なジョブ型に踏み切れるか、実は当社の場合はまだ難しいと思っています。
理由としては、新規事業がどんどん生まれてくるため、「私の役割はこれだ」と定めても、うまくいきません。ジョブ型を否定するわけではなく、そこはしっかり柔軟に、もう少しミッションに近い大きな役割を担ってもらっています。
今僕らの会社の中ではミッショングレード制を導入しているのですが、ジョブ的な役割というよりは、もう少し広めの役割を持ってもらうことで、新たなビジネスや事業環境の変化に対応していくやり方をとっています。
飯田:なるほど。そういうことなんですね。
社員がキャリアを選べる環境づくり
源田:もう一点。本当に大事なのは、ジョブ型がいいとかメンバーシップ型が駄目だという話ではなく、個人がキャリアを選べる環境かどうかのほうが大事だと思っています。
個人の働き方や個人のチャレンジしたい気持ち、やりたい仕事をちゃんとチャレンジできることが重要だと思います。
当社ではジョブポスティングやFAで、年間数百人が異動しています。「営業のノウハウを使って新規事業にチャレンジしたい」「企画をやってみたい」「グローバルに活躍したい」など、自分で手を上げてチャレンジできる環境を大事にしています。
飯田:自分で選べるというのはキーワードですね。
源田:そうですね。どんどんそんな時代になっていくのではないでしょうか。
飯田:複数のことに精通しながら、しなやかにキャリアを進化させられる人を増やしていくということですね。
孫正義さんが事業家というスペシャリティを持っている、ある意味究極のスペシャリストといえると思います。そういう方がこれから御社の中でも増えていくと、ますます楽しみですね。
源田:そうですね。社会人の成長とは経験だと思うので、その経験を、やらされて身につけるのではなく、自らチャンスを掴んでいき、コミットしてやりきる。そのやりきった経験が自分の成長に繋がり、次のチャレンジに繋がる。そうした循環を社内で作っていきたいです。
AIが最強のチームを作る未来
飯田:ちょっと話を戻しますね。AIやデジタルを使って将来やっていきたいこととして、一つはエンゲージメントを測定しながら、業績の向上や個人の成長に繋げていくというテーマがありました。他にもやってみたいテーマはありますか?
源田:究極は適材適所といいますか、いいチームをどう作れるかなという点ですね。ソフトバンクグループ代表の孫正義が事業家のスペシャリストという話もありましたが、実際の仕事の中では、一人の天才が変えていくこともあると思いますが、事業運営でいうと、チームの価値を最大化できる人材が非常に重要です。つまり、どんなチームでどのような事業をやるのかが大事で、勘と経験のように、みんなある程度わかるところが可視化されて、いいチームをAIがサジェストし、それでそのチームで仕事をやってみるとか。
人事という言葉が人と事と書くように、まさに人と事業を繋ぐ作業をある程度AIで見える化していくと、エンゲージメントにもプラスになり、個人の成長と会社の成長にマッチすると思うので、そのようなテクノロジーが出たら最強ですね。
パルスサーベイ利用時の注意点やポイントは?
飯田:ありがとうございます。
ここから先は、視聴者の皆様からの質問に回答していきます。お手元にQ&Aボタンがあるので、そちらから質問を入力してください。
代読させていただきます。
パルスサーベイの結果に会社が反応しすぎると、社員に面倒くさいなと思われたり、必ずしも全員に答えてもらえないことがあったり、打ち手に繋げることが難しいことがあります。加えて別の質問として、いくらいいことに向けて使っていく方向になっても、「ではいいことって何?」と、アジェンダが曖昧になったり、社員から信頼されなかったりすることもあります。
要するに、パルスサーベイを使っていき、社員を巻き込んでいくことってけっこう難しいよねという質問ですけど、そのあたりで何か気をつけている点や有効活用できているポイントはありますか?
源田:ありがとうございます。とても良い質問で、「まさに!」という感じです。質問のように、過剰に反応してしまうと、社員から面倒くさいと思われるのはそのとおりですよね。
パルスサーベイ単体の話ですと、オンラインでのコミュニケーション研修をやっていて、パルスサーベイの活用事例についても取り上げています。
わざとらしいのは駄目なので、オンラインコミュニケーションでの1on1スキルの時に、パルスサーベイをどのように活用しているかを、活用事例として横展開していっています。
一つの使い方が正解というのは、正直あまりないですね。なので、「こういう使い方してよかった」「こういう使い方したら社員やメンバーの反応が良くなった」などといった実例と共に紹介しているのが現状です。
データの組み合わせが新しい発見を生む
源田:もう1つは、パルスサーベイ単体だけではなく、いろいろな人事データと組み合わせて、実験的にどういうものが導き出されるか調査しています。
たとえば、「パルスサーベイの回答率と組織の生産性は関係するのか?」など、他のデータと組み合わせて、何か見いだせるものがあるのか調べています。
飯田:ちなみに弊社でも「ミキワメ」という、社員ひとりひとりの性格を明らかにしながら、どういった性格の方が会社でどう活躍できるのか、また、どのようにメンバーをケアしてあげるとうまくいくのかといった内容を、性格をベースに明らかにしていくサービスをやっています。
源田:完璧じゃないですか。
飯田:いえいえ、まだまだここから進化していきたい状況です。
これとパルスサーベイを組み合わせると、さらにアクションに繋がっていきやすい点もありまして…このあたりは若干宣伝というか、予告チックになってしまいますが(笑)。
源田:(笑)。
飯田:パルスサーベイと性格をクロスで見るのには意味があって、ひとりひとりの状態がわかっても、性格によって打つ手が変わってきます。あるいは、それ以外のデータを含めてクロスで見ていくことは非常に重要になっていくので、いわゆるHRのデータリテラシーが問われる状況になってきていますね。
AI活用のポイントは、さまざまな専門家がチームで取り組むこと
源田:同感です。AIの活用についていろいろ話しましたけど、データとデータを組み合わせたら何が出るのか、その分析をデータサイエンティストとかAI専門家が全部やっても、実はうまくいかないんですよね。
やはり人事の知見みたいなところがあって、「このデータとこのデータを照らし合わせると、もしかしたらこういうことが見いだせるかもしれない」という仮説の置き方が大事だと思います。
さきほどのAIによる動画面接の話で、大量のデータを入れてもうまくいかなったというのも、まさにそういうことかなと。そこから先に進むには、「こういうことをしたらうまくいきそうだ」という、人事の経験が生きると思っています。
データサイエンティスト、AI技術の担当者、HRの専門家などがチームでテクノロジーを使い、どうやって人事業務をもっと良くしようかと考えていけるといいですね。
飯田:そうですよね。AIは魔法のツールではないので、最後は人と人だと思います。データを参考にしながら、あくまで人間中心にやっていくことが必要だと思うので、データと人事のコラボレーションは重要ですね。
どのようにデータを取り扱えばいいのか?
飯田:次の質問です。いろいろなデータを集めている一方で、データの活用をやりすぎると、表面上に出ているデータに引っ張られてしまいます。たとえばパルスサーベイの結果一つとっても、社員が忖度したり、気を使って入力したりする可能性も考えられます。
データの真偽をどうやって見分ければいいのか、どのようにデータを取り扱えばいいのかさじ加減が難しいとのことです。いかが思われますか?
源田:それは本当に難しいですよ(笑)。さきほど「社員にとっていいことに使う」と話しましたが、具体的に誰に対して何が良かったという個人の事例はありますが、それは公にできませんよね。社員にしてみたら、データは取られるものの、それがどういうふうに活用されているのか、厳密には理解できません。
これに関しては、人事のポリシーなどを全面に出していき、信用してもらうしかないと思っています。データをどう使うのかは、HRだけでなく事業全体にも重要な時代になってきているので、協力してもらえる風土醸成を含めて取り組むことが大事です。
飯田:なるほど、ありがとうございます。
社員のやる気を引き出すには?
飯田:最後の質問です。「社員のやりたい気持ちを引き出すのが難しい」とのこと。どうされていますか?
源田:ジョブポストやFAもそうですし、研修も自分が受けたいものをやるスタンスです。副業もOKです。1,000人以上へ許可していて、今430人ぐらい稼働しています。
自分自身が自主性を持ち、好奇心を持ってやりたいなら「いいですよ」という人事設計にしています。そういうところから「社員のやりたい気持ち」を引き出していくしかないのでは?と思っています。
飯田:なるほど。ありがとうございます。
本日は源田さんから、AIやデジタル、それを超えた本質的なお話も含めていろいろお話いただきました。まもなく講演会も終了です。
ミキワメは、候補者が活躍できる人材かどうかを500円で見極める適性検査です。
社員分析もできる30日間無料トライアルを実施中。まずお気軽にお問い合わせください。