システム思考は、複雑な状況や課題について理解し、解決策を見つけるうえで効果的な思考法です。システム思考を持つことで、ビジネスの効率化につながるメリットがあります。しかし、すぐに身につくものではなく、正しい知識と深い理解が必要です。本記事では、システム思考の特徴やメリット・身につける方法などを解説します。
システム思考とは
はじめにシステム思考の概要を紹介します。意味や背景などの基本事項をおさえれば、理解・実施が進みやすくなるでしょう。
課題をシステムと捉え解決を目指す思考方法
システム思考とは、課題をシステムと捉え全体像を把握しつつ、さまざまな要素が与え合う影響や作用をひもといて解決を目指す思考方法です。
システムには複数の細かな要素が存在し、それぞれが相互に作用しながら効果を生み出します。そして、ひとつの要素が少しでも変化すると、全体に影響を与えます。一見関係なさそうなところにも変化が生じるケースが珍しくありません。
システム思考では、現実世界における課題も同様に、何らかの要素が影響して発生していると考えます。そこで一度俯瞰して全体図を把握し、どのような要素が影響しているのかを考え、根本的な解決を目指そうとするものです。
システム思考を用いた例
システム思考を用いて課題を解決した例として、ニューヨーク市の割れ窓理論を紹介します。
1980年代、ニューヨーク市は犯罪が多発している都市で、非常に治安の悪い状態でした。その後1994年に検事出身のルドルフ・ジュリアーニ氏が市長に当選し、治安回復のために「街を綺麗にする」という施策を開始しました。
なぜ治安回復のために街を綺麗にするのか、考え方のプロセスは以下のとおりです。
- 建物の窓が割れているのを放置した状態=「地域に対する人々の関心が低い」状態といえる
- 犯罪が起こりやすい状態となり、ゴミのポイ捨てや違法駐車などの軽犯罪が増える
- 住民のモラルが低下、地域に対する協力姿勢がなくなる
- 住民・観光客の数が減少する
- さらなる環境悪化、凶悪犯罪も含め犯罪が多発しやすい状態になる
治安回復のため、軽犯罪の徹底的な取り締まりを行いました。その結果、市長就任から5年間で、ニューヨーク市の犯罪件数は殺人が約70%、強盗が約50%減少という結果を成し遂げました。
システム思考により課題を根本から解消できた例です。
日本の「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざも、システム思考にもとづいているといえるでしょう。
参考:
システム思考とは?課題やできごとをマクロでみる思考法とその具体例 | Katsuiku Academy
システム思考とは?ビジネスとマネジメントに生かせるシステム思考の入門と実践|HRドクター|株式会社JAIC
システム思考の特徴
システム思考の特徴として、以下の3点があげられます。
- 全体を俯瞰する
- 時間の経過による影響に着目する
- 解決策や活かし方を考える
それぞれ詳しく解説します。
全体を俯瞰する
システム思考は課題の周辺だけではなく、全体を俯瞰して物事を考えるのが特徴です。
課題を発見すると、課題と近い箇所にフォーカスして解決策を考えてしまいがちです。しかし複雑な要素が絡み合っている場合、近くだけを見ていては根本的な原因の発見ができません。結果として対処療法のような処理になり、課題を生み出す要素は残ったままとなってしまいます。
システム思考では、さまざまな要素が影響・作用しあって課題が生まれると考えるため、広い範囲を俯瞰して課題解消を目指します。全体を俯瞰することで、一見無関係にみえる要素による影響に気付けるのです。
システム思考は物事を考えるにあたって、かなり広い範囲の要素を用います。
時間の経過による影響に着目する
システム思考で課題や原因・解決策を考えるにあたって用いるのは、現時点の状態だけではありません。さまざまな要素について、時間の経過による影響にも着目します。すなわち思考にあたって過去から未来まで幅広い時間を扱うのです。
最初の例に出した「割れ窓理論」は、建物の窓が割れたという要素が治安の悪化に影響を与えています。窓が割れてすぐのタイミングでは、治安の悪化は起きていません。しかしその要素が残ったまま時間が経過した結果、さまざまな要素に悪影響をおよぼして治安の悪化を招きました。
システム思考では時間の経過による変化も重視します。現在抱えている課題を解消するために、過去との比較や将来の予測なども行う点が特徴的です。
解決策や活かし方を考える
システム思考では課題の解決策や、発見・発覚した要素の活かし方まで考えます。原因を突き詰めて終わりではありません。
思考の中には、測定や証明を目的としたものがあります。課題や事象について何らかの仮設があり、それらを解明するために特別な思考プロセスを用いる方法です。このような目的の場合、証明・解決がゴールであり、その先にはそれほどの重要性が求められません。
一方でシステム思考では、解決策やその後の活かし方を重視します。発見・発覚も大切にしますが、ゴールがその先にある思考方法です。
思考によって得た結果を、将来につなげることも目的のひとつとしています。
参考;システム思考入門。その難題、もっとシンプルに解決しませんか? | ノマドジャーナル
システム思考を身につけるメリット
システム思考を身につけることで得られる主なメリットは以下の3点です。
- 多角的な見方ができるようになる
- 課題の根本的な解消につながる
- 共通認識を作りやすくなる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
多角的な見方ができるようになる
システム思考を身につけると、多角的な見方ができるようになります。
システム思考は「世の中の事象は要素が影響し合って起こる」という前提のもとで進める思考方法です。すなわちシステム思考を行うためには、幅広い要素を考慮する必要があります。物事を俯瞰して眺めて全体像を把握し、そのうえで分析・検討を行います。
最初のうちはさまざまな面から考えようと意識する必要があるでしょう。しかしシステム思考のプロセスを用いるうちに、自然と多角的な見方ができるようになります。
特定の面から物事を考えようとすると、偏った結果になりがちです。システム思考を身につけることで、偏りなくフラットな目線から考えられるようになるでしょう。
課題の根本的な解消ができる
システム思考が自然にできるようになれば、課題の根本的な解消ができるようになります。
システム思考は、課題を発生させる根本的な原因を追究する思考方法です。割れ窓理論でも、凶悪犯罪の減少のみにフォーカスした施策ではなく、根本的な原因を解消するため街を綺麗にする施策を展開して成功しました。
課題の根本的な解消ができれば、繰り返し同じ課題が起こるという事態を防げます。システム思考による原因の追究ができれば、その場しのぎでの対応が減るため、無駄の解消につながります。結果として、より効率的な対応ができるようになるでしょう。
共通認識を作りやすくなる
システム思考は複数人の間で共通認識を作りやすくなるメリットもあります。
ひとつの事象はさまざまな要素が影響・作用して発生しており、人によってフォーカスするポイントが異なります。そのため同じ事象・課題に対する話し合いでも、見方や考え方の違いが原因で議論が複雑化する事態が珍しくありません。
システム思考は物事を俯瞰して要素ごとに着目するため、偏りや固執が起こりにくいです。誰かがひとつの面に着目した意見を出したとしても、俯瞰した全体図を把握していれば、意見の内容をすぐに理解できるでしょう。そのうえで意見の偏りを上手く指摘できるようになります。
システム思考を身につけコミュニケーションに活かせば、見方・考え方の違いが原因でのトラブルを防ぐ効果が期待できます。
システム思考の身につけ方
システム思考を身につけるには、考え方を変える意識が必要です。以下のポイントをおさえると効果的です。
- ひとつの要素に固執せず全体を見る
- ひとつの要素がどのように影響するかを考える
- 急いで結論を出そうとしない
それぞれ詳しく解説します。
ひとつの要素に固執せず全体を見る
システム思考を身につけるためには、ひとつの要素に固執せず全体を見るような意識が必要です。周囲で起きたさまざまな事象について、発生した理由を広い視野と長い時間で考えていきます。
全体を見るというのは、山の頂上や空の上といった高いところから俯瞰するイメージです。道の途中にいる状態では、全体像は見えません。しかし視点を上に変えるだけで、一気に全体が見えるようになります。システム思考を身につけるには、この感覚が必要です。
最初のうちは見方が偏ってしまうのも無理はありません。全体像が見えていると思っても、気づかないところに違う要素が存在するケースもあります。全体を見るという意識のもとで、少しずつ訓練をしていくのが、システム思考を確実に身につけるための方法です。
ひとつの要素がどのように影響するかを考える
世の中の事象は、さまざまな要素が相互に影響し合って起こります。この事実を実感するためには、ひとつの要素がどのように影響するかを考えるのが効果的です。
いきなり複数の要素について考えようとしても、複雑すぎて上手く思考がまとまりません。どのような訓練でも、最初は少しずつ進めていくことが大切です。システム思考を身につけるためにも、まずはひとつの要素から考えていきます。
将来を予測するのは難しいため、過去の事象を例に使うのが良いでしょう。すでに解決済みの課題について振り返り、原因となる要素がどのように影響していったかを時系列で考えると、イメージしやすくなります。
「要素が影響を与える」という実感が持てるようになったら、少しずつ複雑な考え方にも挑戦すると効率的です。
急いで結論を出そうとしない
システム思考は広い範囲かつ膨大な要素を扱います。そのため急いで結論を出そうとせず、じっくり考えることが大切です。
システム思考のクセが身につけば、即座に全体図や相互作用をイメージできるようになるかもしれません。しかし訓練中の段階でスピードを重視してしまうと、浅い思考になってしまう恐れがあります。最初のうちは時間がかかって当然と考える必要があります。
システム思考の訓練に焦りは禁物です。少しずつ訓練し、着実に能力を伸ばしていきましょう。
参考:システム思考のトレーニングとしての14の習慣 | ゲーム研修なら株式会社HEART QUAKE
まとめ
システム思考は物事の全体像を把握し、課題を根本から解決するために必要な思考方法です。システム思考を身につければ、広い視野で物事を見ることができるようになり、課題解決能力が高まります。複数人でひとつの物事を扱う際にも有用です。
システム思考はすぐに身につくものではありません。日頃から少しずつ意識し、時間をかけて訓練を進めていきます。いつしかビジネスだけでなく、身の回りのあらゆる事象について、広く深い見方ができるようになるでしょう。
参考:
システム思考とは何か【わかりやすく解説】 | 楽水
システム思考入門。その難題、もっとシンプルに解決しませんか? | ノマドジャーナル
「システム思考」とは?ループ図などのシステム思考ツールもご紹介 | BizHint(ビズヒント)- クラウド活用と生産性向上の専門サイト
システム思考とは?課題やできごとをマクロでみる思考法とその具体例 | Katsuiku Academy
システム思考とは?ビジネスとマネジメントに生かせるシステム思考の入門と実践|HRドクター|株式会社JAIC
システム思考のトレーニングとしての14の習慣 | ゲーム研修なら株式会社HEART QUAKE
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