本記事では、持株会の中でも特に「従業員持株会」について、仕組みのほか、企業側と従業員側のメリット・デメリットを解説します。
持株会とは?
持株会とは、自社株式を保有・購入できる制度のことです。
制度は複数あります。
- 従業員持株会:会社と子会社の従業員が、組合を通じて自社株を購入できる
- 拡大従業員持株会:非上場の従業員が親会社などの関係上場企業の株式を購入できる
- 役員持株会:役員が自社株を購入できる
- 取引先持株会:取引先に株式の購入資格を与える。親睦関係の増進が目的
従業員や役員など立場の違いによって加入できる持株会は異なりますが、一般的なのは「従業員持株会」です。本記事では従業員持株会について解説します。
従業員持株会とは?
従業員持株会とは、従業員の資産形成のため、定期的に自社の株式を購入できる制度です。会員の範囲が決められているため、役員の場合は役員持株会に加入します。
従業員持株会への加入は任意です。従業員の自社株購入が容易になるよう、企業は奨励金を支給することや拠出金の給与控除を行うなど、さまざまな便宜を与えています。少額の資金で投資ができ、拠出額に応じて配当金が得られます。
従業員持株会は、ほとんどの上場企業で導入されていますが、非上場の企業でも従業員持株会を組織していることも珍しくありません。
従業員持株会は、自社株購入の窓口です。従業員は給与や賞与から一定額が天引きされ、集められた資金によって自社株を購入する仕組みになっています。購入された自社株は拠出金に応じてそれぞれの従業員に分配されます。
従業員持株会の状況
東京証券取引所が調査した2019年度の「従業員持株会状況調査結果」によると、2020年3月末時点での東京証券取引所上場内国企業は3,708社、うち大手証券会社(大和証券、SMBC 日興証券、野村證券、みずほ証券及び三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券の 5 社のいずれか)と契約して従業員持株制度を有しているのは3,236社です。
従業員持株会を有している企業は前年から30社増加していますが、保有する株式の時価総額や加入者1人当たりの平均保有金額は減少しています。なお従業員持株会を有する3,236社の従業員のうち、加入している従業員割合は38.5%とこちらも前年度と比較して減少傾向にあります。
参考:2019年度従業員持株会状況調査結果の概要について|株式会社 東京証券取引所
企業が従業員持株会を導入するメリット
多くの上場企業が導入している従業員持株会ですが、企業にとってのメリットは以下の点が挙げられます。
- 安定株主を獲得できる
- 福利厚生制度の充実が図れる
- 従業員のモチベーションアップが期待できる
安定株主を獲得できる
企業側は従業員持株会に加入した従業員の自社株取得により、安定株主を獲得できます。安定株主とは、長期的に株式を保有する株主のことで、安定的な株価形成をもたらします。また、安定株主が増えることは、他企業からの敵対的買収の防衛策としても有効です。
福利厚生制度の充実が図れる
従業員持株会は、従業員の中長期的な資産形成を会社が支援する福利厚生制度です。この制度の有無が就職先選びの判断材料になることもあり、導入することで優秀な人材を確保できる可能性も高まります。企業は従業員の資産形成の支援や奨励金の付与などを行い、自社株の購入が容易になるよう整備することが大切です。
従業員のモチベーションアップが期待できる
企業の業績が良いと、保有資産の株価増加などのメリットが得られることから、従業員の業務に対するモチベーション向上が期待できます。また金融リテラシーや経営参画の意識も高まります。
やる気の高い従業員が増えることは企業にとっても大きなメリットです。経営参画の意識をもった従業員の活躍により、さらなる業績アップが期待でき、企業価値を高めることにもつながります。
モチベーションについては、以下の記事で詳しく解説しています。本記事と合わせてご覧ください。
企業が従業員持株会を導入するデメリット
企業が従業員持株会を導入する場合、メリット以外に以下のデメリットも存在します。
- 配当の負担
- 議決権に関する問題
配当の負担
企業は株式を購入している従業員持株会に対して配当を出します。配当は、業績不振になり、経営が悪化した場合でも出し続ける必要があります。仮に配当が出せなくなった場合、従業員の不信感やモチベーション低下に繋がります。
議決権に関する問題
株式の保有者は原則として株主総会での議決権をもっています。議決権保有率によって異なりますが、「帳簿閲覧権」「提案権」「代表訴訟提起権」の行使が可能となり、実際に行使されると経営にも影響が出てくる可能性もあります。
議決権を付与したくない場合、種類株式の「議決権制限株式(議決権を行使することができない株式)」を発行することで解決できます(会社法108条1項3号)。配当のみに興味がある従業員なら議決権制限株式で十分でしょう。
従業員持株会に加入する従業員のメリット
加入する従業員が得られる以下のメリットも確認しておきましょう。
- 資産形成ができる
- 奨励金が付与される
- 難しく考えて投資しなくてもよい
- 自社株を単元未満で購入できる
資産形成ができる
自社株を保有することで資産形成をはじめられます。また、配当金も定期的に入ることから、投資に対するリターンも得られます。企業の業績が上がれば、配当金も増える可能性があることから、働くモチベーションを高められる点もメリットとして挙げられます。
奨励金が付与される
奨励金の付与もメリットの一つです。企業によっては、毎月の拠出金に対して一定の割合で購入金額に上乗せしてくれます。奨励金は10%程度にとどめるのが一般的で、過大すぎると「株主平等の原則」や「利益供与」の規制に抵触する恐れがあります(会社法109条)。
例えば、奨励金10%付与の場合、毎月1万円を拠出すると奨励金が1,000円上乗せされます。
11,000円分購入できることになるので、通常より多く株式を得ることが可能です。
参考:奨励金がお得な「持ち株会」 リスク集中には要注意: 日本経済新聞
気軽に投資できる
投資に詳しくない人も、簡単に自社株が購入できます。
投資タイミングなども難しく考えたりする必要がなく、余計な手間もかからず気軽に資産運用が可能です。ライフスタイル等の変化により、差し引かれる金額を増減したい場合も変更可能なため安心です。
自社株を単元未満で購入できる
株式の購入は単元で売買され、2018年から100株単位(1単元)での取引に統一されました。そのため、投資をしたくても、購入金額によっては手を出せないケースもあります。
しかし従業員持株会で購入する場合は、100株単位(1単元)ではなく1株から購入できます。そのため、1回あたり1,000円単位からと少額で株を保有できるメリットがあります。
従業員持株会に加入する従業員のデメリット
企業の支援によって資産形成ができるなどメリットの多い従業員持株会への加入ですが、以下のデメリットもあります。
- 株主優待を受けられない
- 売りたいタイミングで売却ができない
- 株価が下がる可能性がある
株主優待を受けられない
一般的に、個人名が株主名簿に掲載されると、株主優待を受けられます。しかし従業員持株会で購入する場合、優待券やギフトなどの株主優待を受けることはできません。
証券口座の名義が個人名ではなく、持株会と総務部長などが務める理事長名義だからです。
そのため、株主優待を受けなら、個人名義の証券口座を作り、自社株を移す必要があります。なおこれは100株(1単元)以上の株式を保有している人に限られます。また、出庫すると奨励金がもらえないなど、事前にきちんと留意点を理解しておきましょう。
売りたいタイミングで売却ができない
通常の株式投資のように売りたいタイミングで売却することはできません。引き出すための申請を行った後、株式市場で売却するまでに1週間程度の時間が必要になるといわれています。企業によっては、引き出しの回数が月に1回など制限が設けられている場合もあります。また、1単元株の100株に達していないと売却は不可能なので注意してください。
株価が下がる可能性がある
企業の業績が悪化した場合、保有する自社株の株価が下がり、資産が目減りすることや、投資した元本を割り込む恐れがあります。収入と資産の両方を所属企業のみに依存している場合、株価の下落による資産の目減りとともに給与や賞与の減額が起こる可能性もあります。資産運用が自社株のみに偏らないようリスク分散を考えることも必要です。
従業員持株会を設立する際の検討事項
従業員持株会を設立する際には主に以下の点について検討する必要があります。
- 導入の目的
- 会員の範囲
- 拠出金の限度額
- 奨励金の金額
- 株式の取得方法
- 拠出の休止や再開
- 配当金の扱い
- 株式の取得価格
- 従業員持ち株会役員の選任
- 退会者の持分株式の買取価格
- 退会処理
従業員持株会を設立する目的や株式を購入できる会員の範囲・取得方法など、制度に関する細かな点を規約として事前に決めておくと安心です。
加入する従業員の不安や不信感がうまれないよう配当金の取り扱いなどの項目もはっきりと示しておき、通常業務に支障がでないようにする必要があります。
また、退職などの理由で従業員持株会を退会する際の株式の処理方法についても明記しておくことが大切です。
まとめ
従業員持株会は上場企業の多くが導入している制度で、企業は安定株主の獲得が可能です。従業員にとっては資産形成が手軽に行えるなどのメリットがありますが、デメリットもあるため、加入前に理解しておくことが求められます。設立する際は規約を作成し、加入する従業員とのトラブルを回避することも忘れずに行うことが大切です。
参考:奨励金がお得な「持ち株会」 リスク集中には要注意: 日本経済新聞
参考:従業員持株会とは?制度の仕組みや会社側と従業員側のメリットやデメリットを解説 | DOの事業展開・拡大を検討する経営者向けコラム
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