少子高齢化による人材不足や働き方改革の推進により、限られたリソースのなかで生産性を高めるためには、社員一人ひとりが自分自身を管理し、能力を最大限に発揮するためのセルフマネジメントが重要です。
セルフマネジメントを実現するうえでは自己を正しく知り、行動や感情を律する必要があります。しかし、企業が社員にすべての責任を負わせてしまうと、一人ひとりに負担をかけるだけではなく、方向性を見誤る危険性があります。
したがって、企業は社員がモチベーションを保ち、正しい方向にセルフマネジメントを高められるようサポートしなければなりません。
今回の記事では、セルフマネジメントの重要性や強化方法、企業として行うべきことを紹介します。
セルフマネジメントとは
セルフマネジメントとは、目標達成や自己実現のために自分自身を管理することや、そのスキルです。
自身の体調や健康、精神状態、時間、タスクなど、自己の内面や外的要因すべてを把握し、パフォーマンスを最大限に発揮するための対策をします。
セルフマネジメントを磨くことで生産性が向上するほか、心身の健康維持や社内での信頼関係の構築にもつながります。
セルフマネジメントを構成する4つの要素と高める方法
セルフマネジメントは4つの要素で構成されています。
- メンタルヘルスケア
- レジリエンス
- アンガーマネジメント
- マインドフルネス
各要素の詳細と高める方法を紹介します。
メンタルヘルスケア
メンタルヘルスケアとは、精神上の健康を保つためのケアです。メンタルを整えることで、安定したパフォーマンスの維持や健全な人間関係の構築が望めます。
メンタルヘルスケアのためには、まずは心身の状態を把握し、そのうえで十分な睡眠をとる、気分転換をするなど、自身に合った対処をおこないましょう。
自分一人で解消できないほどのストレスを感じた場合は、周囲に相談することも重要です。人に共感してもらうだけで落ち着くほか、相談をするなかで自分の悩みや状態を言語化し、気持ちを整理できます。
レジリエンス
レジリエンス(resilience)は「回復力」「復元力」という意味を持ちます。トラブルやプレッシャーに直面したり、大きなストレスがかかったりした場合に、すばやく立ち直る能力です。
レジリエンスを身につけるためには、まず自身のネガティブな感情と向き合うことが重要です。自分はどのようなときにストレスを感じるのか、そのストレスは認知のズレ(思い込み)によるものではないか、自身の内面と向き合って分析します。
そのうえで、自身にあったストレス解消法を探しましょう。運動や音楽など、自分の好きなもので構いません。
また、メンタル面をサポートをしてくれる相手が社内にいると、心の回復が早くなります。同じ部署の上司や同僚でもよいですが、部署や立場の異なるメンターであれば、より客観的なアドバイスをしてもらえるでしょう。
アンガーマネジメント
アンガーマネジメントとは、怒りやいらだちの感情と上手に向き合い、衝動をコントロールする自己管理方法やそのスキルを指します。
アンガーマネジメントを実現するうえで重要なのは「怒り」のメカニズムを知ることです。
怒りは第2次感情の一つです。マイナスの感情(辛い、悲しい、不安、寂しい)がたまり、臨界点に達することで怒りが生まれます。自分にとって怒りを引き起こすのはどのような感情なのか、自身の怒りの「癖」をつかみましょう。
次に、怒りをコントロールする術を身につけます。「頭の中で数字を数える」「深呼吸をする」「怒りの気持ちを記録する」といった手法があります。自分自身に合った方法を見つけましょう。
ただし、怒りをネガティブにとらえ過ぎるのは望ましくありません。怒りを悪いものとして無理に抑えると、ストレスにつながるためです。
マインドフルネス
マインドフルネスとは、評価や判断を排除し、いま目の前にあることに意識を集中させる心のあり方を指します。
マインドフルネスを高めるためには、瞑想やトレーニングが有効です。姿勢を楽に保ち、呼吸に意識を傾けることで余計な雑念を払い、集中力アップやストレス軽減を図ります。
セルフマネジメントが重要視される背景
セルフマネジメントの重要性が高まっている背景には、次のような働き方や価値観の変化があります。
- 働き方改革の推進
- リモートワークの普及
- 少子高齢化による人材不足の深刻化
- メンタル不調による生産性の低下や労働災害の影響
具体的な理由を以下に紹介します。
働き方改革の推進
働き方改革の推進により、仕事に対する意識が変化しています。
従来評価されていた、長時間労働により会社に尽くす「モーレツ社員」の働き方から、定時内で仕事を終わらせる効率重視の働き方へとシフトしているのです。
セルフマネジメント能力を磨くことで、現在の業務に向き合い、効率良く処理するビジネススキルが身につきます。プライベートの時間を十分に取れるため、ワークライフバランスの改善にもつながるでしょう。
リモートワークの普及
近年では「新しい生活様式」の導入やIT化により、リモートワークを導入する企業が増えています。
時間や場所に制約されない点はリモートワークの大きなメリットです。その反面、監視がいないことによる集中力の低下や、孤独感によるメンタルの不調を引き起こす危険性があります。
少子高齢化による人材不足の深刻化
日本では少子高齢化により、人材不足の状態が続いています。限られたマンパワーから最大限の利益を上げるためには、社員一人ひとりの生産性を上げることが重要です。
セルフマネジメントは効率的な働き方を実現するだけではなく、社員が自身の働き方を能動的にデザインする能力も培います。
社員一人ひとりが主体的に考え、行動することで新たなアイデアが生まれます。そのアイデアを積極的に採用することで、さらなる生産性向上が望めるでしょう。
メンタル不調による生産性の低下や労働災害の影響
近年、社員のメンタル不調による生産性の低下や労働災害が問題となっています。
厚生労働省が令和4年に実施した「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業した、もしくは退職した労働者がいた事業所の割合は、13.3%※におよんでいます。
こうした問題を受け、厚生労働省は「第14次労働災害防止計画の概要」において、労働者の健康確保対策の推進を重点対策の一つに挙げました。企業に対して、ストレスチェックの実施やハラスメント防止に取り組むよう呼びかけています。
企業にとって、社員の心身の健康保持は重要な義務項目であり、社員のメンタル・ストレスケアを積極的に行うことが求められているのです。
※令和3年11月1日から令和4年10月31日までの期間
社員がセルフマネジメントを身につける方法
セルフマネジメントはトレーニングによって身につけられます。しかし、ただやみくもにトレーニングをしても意味がありません。
具体的には、次の方法でセルフマネジメントを身につけましょう。
- 組織における役割を明確化し目標設定をする
- 目標をもとに行動計画を立てる
- パフォーマンスが落ちる分野・タイミングを把握する
- 集中力を身につける
それぞれ詳しく解説します。
組織における役割を明確化し目標設定をする
セルフマネジメントトレーニングでまず重要なのは目標設定です。企業という組織のなかで自分がどのような役割を担い、なにを期待されているかを理解するところから始めましょう。
自分の役割や期待されていることが明確になれば、目指すべき人物像が見えてきます。セルフマネジメントの目標も自然と定まるでしょう。
目標をもとに行動計画を立てる
目標が決まったら、目標達成のために必要な行動をリストアップして行動計画を立てます。行動計画の策定で重要なポイントは以下の2つです。
ゴールの期日を決める
いつまでに目標を達成するか、ゴールの期日を決めましょう。制限時間を定めることで、限られた時間を有効に使えます。
小さな目標を立てる
最終的な目標を達成するためのマイルストーンとして、小さな目標を複数立てることも重要です。いきなり大きな目標を目指すと、方向性を誤ったり、困難さゆえにモチベーションが低下したりするおそれがあります。
小さな目標を立てて一つひとつクリアすることで、達成感を味わいながら着実に最終的な目標へ向かって進んでいけます。
パフォーマンスが落ちる分野・タイミングを把握する
人は常に高いパフォーマンスを維持できるわけではありません。気分や体調、業務内容によってやる気がなくなったり、仕事に時間がかかったりします。
自身のパフォーマンスが落ちる分野やタイミングを理解し、モチベーション維持や心身の状態を整える方法を見つけましょう。
得意分野や苦手分野を把握すれば、自分が企業においてどのような役割を果たせるのか、どう活躍できるのかを深く理解できます。
集中力を身につける
セルフマネジメントを強化するためには、集中力も必要です。集中力があれば短時間で仕事をこなすことができ、心身の負担も軽減できます。
集中力を身につけるには、以下のような方法が有効です。
デスク周辺を片づける
デスク周辺が散らかっていると視覚的ノイズが多く、気が散ってしまいます。デスク回りを片付けてすっきりとさせることで、必要な情報のみが目に入り、業務に集中できます。
優先順位をつけてスケジュールを組む
複数のタスクをこなす場合、目につくところから手を付けていると、重要なタスクや集中力が必要なタスクが後回しになりかねません。タスクの優先順位をつけてスケジュールを組むことで、集中力を適切に分配でき、効率良く業務を進められます。
進捗状況をこまめに報告する
自分のペースで仕事をしていると、どうしても集中力が途絶えてしまいます。上司にこまめに進捗状況を報告すれば適度な緊張感が生まれ、集中力を保てるでしょう。とくにリモートワークは、上司とのコミュニケーションが少なくなる傾向があるため、自分から積極的に報連相を行う必要があります。
瞑想や運動をする
集中力を高めるためには、適度に休憩を取ることも重要です。瞑想や深呼吸、軽いストレッチなどを行い、体と心を休めることで集中力が回復します。
社員のセルフマネジメント促進のために企業がすべきこと
社員のセルフマネジメントを促進するために企業がすべきことは次のとおりです。
- 自社に合ったセルフマネジメントの方法を選択する
- 研修会や面談を実施する
- 定期的に振り返りやフィードバックを行う
- 社員との信頼関係を構築する
それぞれ具体的に紹介します。
自社に合ったセルフマネジメントの方法を選択する
まずは、自社におけるセルフマネジメントの定義を明確にします。先述のとおり、セルフマネジメントには4つの要素がありますが、すべてを平均的に強化する必要はありません。
セルフマネジメントは目的ではなく、あくまでパフォーマンスを高めるための手段です。4つの要素すべてを高めることを社員に強いるのは非効率的であるばかりではなく、社員にとってもストレスとなってしまいます。
自社の風土や目標を明確にし、理想に近づくためのセルフマネジメント方法を定義することが重要です。定義付けができれば、トレーニングの方向性や最終目標が明確となり、取り組みやすくなるでしょう。
また、求められるスキルは部署や等級、社員ごとに異なります。それぞれの立場や個性に合ったセルフマネジメントの方向性やトレーニングを設定すれば、パフォーマンスのさらなる向上が期待できるでしょう。
研修会や面談を実施する
セルフマネジメントの定義を決めたら、社員へ周知します。全体研修を設け、以下の点を説明しましょう。
- セルフマネジメントの意味
- セルフマネジメントの重要性
- 自社における方向性
- セルフマネジメントトレーニングの具体的な方法
全体的なレクチャーが済んだら、さらに1on1の面談により、社員一人ひとりへの落とし込みを行います。
セルフマネジメントが身についていないうちは、トレーニングの方法を誤ったり、自己管理ができなかったりすることがあります。正しくトレーニングを進められているか、目標に近づけているかをこまめに確認しましょう。
定期的に振り返りやフィードバックを行う
セルフマネジメントトレーニングが軌道に乗ったら、定期的に振り返りをします。企業全体で目標に達しているかを評価し、結果によっては計画の見直しや調整を行いましょう。
社員に対して、目標や行動計画の調整や評価をフィードバックすることも必要です。さらに、セルフマネジメントの評価を給与査定などの人事評価に反映させれば、社員のモチベーション維持や企業へのエンゲージメント向上につながります。
社員との信頼関係を構築する
セルフマネジメントを高めるために忘れてはならないのが、社員との信頼関係の構築です。
質問や相談をしづらい環境では、社員の能力を高めることはできません。社員のモチベーション低下やストレスにつながり、離職してしまうおそれもあります。
上司に対しても率直に意見を言えるような、風通しの良い職場環境を整えることで、ストレスコントロールが容易となります。
社員のセルフマネジメントを促進し信頼関係の構築と生産性向上を目指そう
セルフマネジメントの定義とトレーニング法について解説しました。社員のモチベーションや心身の健康を維持しつつ生産性を上げるためには、セルフマネジメントの強化が必要です。
しかし、社員のみの力でセルフマネジメントを高めるのは限界があります。会社として社員一人ひとりの適性や目標を把握し、セルフマネジメントの重要性や方法の周知、こまめなフィードバックを行うことで、効率的に強化できます。
各社員に必要なセルフマネジメントを定義し、適切にフォローするためには、それぞれの特性を把握することが重要です。
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