近年、テレビやネットニュースでも注目される「リベンジ退職」とは、怒りや不満を抱えた社員が企業に損害を与える形で辞める行為です。
本記事では、リベンジ退職が起こる背景や原因、よくあるパターン、リアルな事例、予防策を詳しく解説します。

リベンジ退職とは?会社に復讐する意味を解説
リベンジ退職とは、社員が退職する際、企業に対して「復讐」や「報復」をする意味で意図的に問題を起こして退職することを指します。
2025年2月、米ノースカロライナ大学シャーロット校の名誉教授であるブライアン・ロビンソン博士が、Forbes JAPANに『2025年は、「リベンジ退職」が職場における一大トレンドになっている』と寄稿したことで注目を集めました(※)。
リベンジ退職をする社員は、企業に対する怒りや失望、恨みといった強い感情を抱えています。「どうせ辞めるなら一矢報いたい」と考えることから、あえて忙しい時期に突然退職を希望したり、引き継ぎに際して重要なデータを無断で削除したりといった問題行動をおこないます。
一般的な退職とは異なり、リベンジ退職の裏側にあるものは組織やマネジメントに対する不満や不信感です。
つまり、リベンジ退職の原因は個人の問題に限定されるものではなく、企業側のマネジメント不足や組織風土に問題があることが少なくありません。
(※)出典:弁護士JPニュース|繁忙期“狙って”、引き継ぎを“わざと”せず「突然退職」…“報復的”な会社の辞め方に法的問題はないのか【弁護士解説】
リベンジ退職のよくあるパターン3つ
リベンジ退職のよくあるパターンは以下の3つです。
- 繁忙期を狙って突然退職する
- 引き継ぎを拒否する、重要なデータを削除する
- 退職後にSNSや口コミサイトに悪評を書き込む
それぞれ詳しく解説します。
繁忙期を狙って突然退職する
リベンジ退職の典型例のひとつが、繁忙期を狙って突然退職するパターンです。
企業に与えるダメージが大きいタイミングを狙って辞めることで、現場に混乱をもたらす目的があります。
繁忙期を狙った突然の退職は、残された社員に大きな負担をかけるため、日常の業務に支障をきたすだけではなく、組織全体の士気の低下にもつながりかねません。
引き継ぎを拒否する、重要なデータを削除する
退職にあたって引き継ぎを拒否したり、重要なデータを無断で削除したりするのもリベンジ退職の典型例です。
たとえば、技術職が社内システムに関する情報を引き継がないまま辞めたり、営業職が顧客データを削除したりと、業務の継続性を意図的に破壊することで企業に復讐します。
退職後にSNSや口コミサイトに悪評を書き込む
退職前後に表立ったトラブルがなかったとしても、あとからSNSや口コミサイトに企業の内情を暴露し、評判を大きく下げるリベンジ退職もあります。
匿名性を利用しての投稿は広がりやすく、企業イメージが低下することでブランディングや採用にまで悪影響を及ぼします。
リベンジ退職が起こる背景や原因
リベンジ退職は、突発的な感情の爆発によって引き起こされるものではなく、積もり積もった不満や怒りの結果として現れる行為です。
リベンジ退職が起こる背景や原因としては、主に以下の5つが挙げられます。
- 期待していた労働条件と現実に乖離がある
- 会社への愛着心・帰属意識が低下している
- ハラスメントを受けている、人間関係に問題がある
- 評価に正当性・公平性がない
- キャリア形成ができない
それぞれ解説します。
期待していた就業条件と現実に乖離がある
採用時の説明や求人票の内容と、実際の就業条件が大きく異なっていた場合、社員は「騙された」と感じ、企業に対して不信感を募らせます。
たとえば、残業代の支払いが曖昧だったり、業務量や職種内容が説明と違っていたりすると、早期離職や報復行動につながるおそれがあります。
会社への愛着心・帰属意識が低下している
雇用の流動化やジョブ型雇用の浸透によって、会社への愛着心や帰属意識が低下していることも、リベンジ退職が起こりやすい理由のひとつです。
とくに、若年層は会社を「取引先」のように捉えているケースがあります。会社と心理的な距離がある状態では、不満が表面化した際に、リベンジ退職のような極端な行動に出る傾向が強まります。
ハラスメントを受けている、人間関係に問題がある
職場でパワハラ・セクハラなどのハラスメントを受けている、または孤立やいじめといった人間関係上の問題を抱えている社員は、心身のダメージを蓄積していきます。
こうしたストレス環境下では、退職を復讐の場として選ぶ心理状態に陥ることがあります。
評価に正当性・公平性がない
努力しても正しく評価されない、他人の成果ばかりが目立つ、特定の人物だけえこひいきされているなど、評価に対する納得感を得られない状況が続くと、社員の不満は確実に蓄積されます。
とくに、評価制度がブラックボックス化している企業では、「報われない怒り」が爆発する形でリベンジ退職に発展するケースも少なくありません。
キャリア形成ができない
目の前の業務に追われ、キャリアアップやスキル形成の機会が一切ない、あるいは上司が部下の将来に関心をもっていない環境だと、社員は自身が「消耗品」として扱われていると感じやすくなります。
その結果、会社への信頼や帰属意識が失われ、「このままでは搾取され続ける」と感じた末に、リベンジ退職を起こす場合もあります。
リベンジ退職が企業に与えるダメージ・影響
リベンジ退職は、企業にさまざまな損害をもたらします。単に社員が辞めるだけではなく、その後に残された影響が長期間にわたって企業活動に影響を及ぼす点が特徴です。
具体的には、以下のようなダメージや影響を与えます。
- 知識やノウハウが流出する恐れがある
- 企業イメージに傷がつく
- 採用や育成のコストが増える
- 連鎖退職につながる
それぞれ見ていきましょう。
知識やノウハウが流出するおそれがある
リベンジ退職をした社員によって、競合他社へ顧客情報や業務の知識・ノウハウなどが持ち出されると、営業利益が損失するだけではなく、以下のような法的リスクを伴います。
- 不正競争防止法違反(営業秘密の持ち出し)
- 刑法234条の2:電子計算機損壊等業務妨害罪(データ削除・改ざん)
- 民事上の債務不履行責任(引き継ぎ義務違反)
場合によっては損害賠償や刑事罰の対象となるため、企業側は就業規則や契約書によって明確なルール整備をおこなう必要があります。
企業イメージに傷がつく
社員が退職後にSNSや口コミサイトなどで会社の悪評を拡散すると、その情報は瞬く間に広がり、企業のブランド価値を大きく損なう危険性があります。
一度ネット上に出回った悪評は完全に削除するのが難しく、将来的な採用活動や営業活動にもマイナスの影響を及ぼしかねません。
採用や育成のコストが増える
リベンジ退職によって突然の人材欠損が発生すると、新たに採用活動をおこない、教育を実施するための時間と費用、労力が必要です。
さらに、SNSでの書き込みや口コミなどの評判が悪化した場合、応募数が減少したり、優秀な人材の確保が困難になったりと、人事戦略全体に影響を及ぼします。
連鎖退職につながる
リベンジ退職は、企業内部にある根本的な不満や不公平感が表出したものである場合が多く、ほかの従業員も同様の問題を抱えている可能性があります。
一人の退職がきっかけとなり「自分も辞めたい」と考える社員が続出し、連鎖的に離職が発生するリスクも見逃せません。
リベンジ退職のリアル実例【国内編】
日本国内においても、リベンジ退職の事例は複数報告されています。
たとえば、以下は社員が退職時に無断でデータを削除したことで裁判に発展した事例です。
2025年1月、LED大手企業の元社員の男性が、退職する際に業務に関するデータを無断で削除したとして、会社が損害賠償を求めた裁判で、徳島地裁は男性に約577万円の支払いを命じました。 |
出典:テレ朝NEWS|「ざまあみろ」会社に仕返し“リベンジ退職”重要データ削除も 変わる日本の退職事情
また、上司からのパワハラに長年苦しんできたAさんのケースでは、退職を決意した際、会社への怒りが収まらず、同僚や社内の実情をSNSに投稿。匿名での書き込みだったものの、内容から企業名が特定されたことで炎上につながり、企業の評判が大きく傷つきました。
出典:テレ朝NEWS|「ざまあみろ」会社に仕返し“リベンジ退職”重要データ削除も 変わる日本の退職事情 1/2
リベンジ退職のリアル実例【アメリカ編】
アメリカでは、昇進見送りや職場不満を抱えたシステム管理者が、高い専門性とアクセス権を使って企業のITシステムを破壊し、巨額の損害を与えるケースも報告されています。
2011年、ニューヨーク郊外の製造メーカーに勤めていたマイケル・メネセス氏は、昇進が取り消された恨みから退職後に社内システムに侵入。約1か月にわたり業務カレンダーを改ざんして約9万ドルの被害を出し、FBIによって逮捕されました。
出典:「会社に復讐」:9万ドルの損害を与えたシステム管理者が逮捕 | WIRED.jp
また最近では「Quit-Tok(クイットトック)」という言葉が登場するなど、SNS上で退職の瞬間や理由を公開する文化が広まりつつあります。
TikTokやInstagramを通じて、会社への不満や職場環境の問題を告発する若者が急増しており、それが企業イメージに深刻な影響を与えるケースも少なくありません。
出典:「クイット・トック」って知ってる?海外のSNSで広がる〝退職トレンド〟の正体|@DIME アットダイム
リベンジ退職を防ぐ方法5選
リベンジ退職は社員個人の問題ではなく、職場環境やマネジメントの質が引き金になっているケースが大半です。
リベンジ退職を防ぐ方法としては、以下が挙げられます。
- 労働環境を改善する
- 公平かつ正当性ある評価制度を設ける
- スキルアップ支援をおこない、キャリアパスを提示する
- 離職のサインを見逃さない
- 退職者が出た場合は丁重に送り出す
それぞれ解説します。
労働環境を改善する
リベンジ退職を防ぐには、まず労働環境を改善する必要があります。
心理的安全性が確保されない環境では、社員は自らの不満や意見を口に出すことができません。内に秘めた不信感が蓄積すると、リベンジ退職につながるリスクが高まります。
定期的な意識調査や1on1ミーティングの実施、勤務制度の見直しなどにより、従業員が安心して働ける環境づくりを目指しましょう。
公平かつ正当性ある評価制度を設ける
評価の不透明さやえこひいきは、不満と不信の温床になります。
評価基準を明示し、360度フィードバックなどの多面的な評価手法を導入すると、公平性と納得感を高められます。
また、評価結果について面談で丁寧にフィードバックすることで、本人の成長意欲や信頼感を維持できるでしょう。
スキルアップ支援をおこない、キャリアパスを提示する
社員は「ここで働き続けた先に、自分はどう成長できるのか」が見えないと、将来への希望を失いがちです。
企業側は、社内公募制度やジョブローテーション制度、資格取得支援などを設け、社員一人ひとりが自己実現できる道筋を提示しなければなりません。
また、管理職との定期的なキャリア面談を実施することも有効です。
離職のサインを見逃さない
「突然の退職」に見えても、そこには必ず何らかの前兆があります。
離職の兆候は、無断欠勤や遅刻の増加、職場での発言内容の変化、モチベーションの低下など、日々の行動に現れることが多いです。
こうしたサインを見逃さず、早期に対話の機会をつくることで、リベンジ退職の防止につながります。
退職者が出た場合は丁重に送り出す
退職が決まった社員を「どうせ辞める人だから」と雑に扱ってしまうと、退職後にSNSやインターネット上に悪評をばらまかれるリスクが高まります。
リベンジ退職を防ぐためには、最後まで誠意をもって接し、感謝を伝えたうえで丁寧に送り出すことが大切です。
また、退職後のアンケートや面談を通じて改善点を収集する姿勢も、企業の信頼回復に役立ちます。
リベンジ退職を防ぐため、社員のメンタルやパフォーマンスの状態を日頃から把握しておこう
リベンジ退職を未然に防ぐには、社員のメンタルやパフォーマンスの状態を定期的に把握し、早期に兆候を察知することが重要です。社員のストレス状態の悪化や、エンゲージメント低下のサインを見逃さない仕組みづくりを目指しましょう。
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人事部門や管理職は、勘や主観に頼らず、データに基づく組織状態の把握によって、リベンジ退職の芽を早期に摘みとりましょう。
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