「確定拠出年金」を導入・利用する企業や個人が増えてきています。
少子高齢化が進む日本において、国民年金や厚生年金といった既存の公的年金だけでは不十分という認識が広まったことが大きい要因とされます。
では、この確定拠出年金とは、一体どのようなものなのでしょうか。
本記事では、確定拠出年金の概要と種類を整理しながら、確定拠出年金のなかでも企業型確定拠出年金のメリットや導入の際に押さえておきたいポイントについて解説します。
確定拠出年金とは
確定拠出年金は、任意で加入できる私的年金の一つです。
日本における年金は「公的年金」と「私的年金」の2種類に分けられ、公的年金である「国民年金」への加入は、20歳以上60歳未満の全国民の義務です。さらに、企業で働いている人は「厚生年金」にも加入することになっています。
しかし現代の日本は少子高齢化が進んでおり、公的年金だけでは老後の資金確保に不安を感じる人が増えています。また雇用年齢も引き上げられ、個人・企業双方にとってメリットのある年金制度が求められています。
そうしたなかで注目され、導入・加入が増えているのが確定拠出年金です。
公的年金など、これまで主流だった年金制度は「確定給付年金」と呼ばれています。確定給付年金は、将来受け取る金額があらかじめ決められている年金です。
それに対して「確定拠出年金」は、加入者本人が、積み立てた資産を運用します。そのため、将来受け取る金額は資産運用の結果によって変わってきます。
参考:企業型確定拠出年金の仕組み – 株式会社日本企業型確定拠出年金センター
参考:確定拠出年金とは(個人型と企業型) : 三井住友銀行
参考:確定拠出年金とは – コトバンク
確定拠出年金は企業型と個人型の2種類
確定拠出年金には、「企業型確定拠出年金」と「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の2種類があります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
企業型確定拠出年金の概要
企業型確定拠出年金は、企業が主体となって実施する年金です。実施企業は、企業型年金規約に基づいた承認を受けている必要があります。
企業型確定拠出年金に加入できるのは、実施企業の従業員です。毎月の掛金は、事業主が積み立てます。
掛金には上限があり、企業がほかに確定給付型の年金を実施していない場合は55,000円です。ほかに確定給付型の年金も実施している場合の上限は27,500円です。
ただし、個人型確定拠出年金への同時加入を認めている場合には、ほかに確定給付型の年金を実施していない場合で35,000円、実施している場合で15,500円が上限となります。
参考:確定拠出年金制度の概要
個人型確定拠出年金(iDeCo)の概要
個人型確定拠出年金はiDeCo(イデコ)とも呼ばれ、国民年金基金連合会によって実施されています。
自営業者や厚生年金保険の被保険者、専業主婦・専業主夫などが加入対象です。毎月の掛金は、加入者本人が積み立てます。
個人型確定拠出年金の掛金にも上限があります。
自営業者の場合は68,000円(国民年金基金に加入している場合には両者合わせて68,000円)、厚生年金保険の被保険者の場合は最大23,000円(確定給付型の年金にも企業型確定拠出年金にも加入していない場合)、専業主婦・専業主婦の場合は23,000円です。
企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金の違い
ここまで紹介してきた、企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金の違いをまとめると、下の表のようになります。
確定拠出年金の種類 | 企業型 | 個人型(iDeCo) |
実施 | 企業 | 国民年金基金連合会 |
加入対象者 | 実施企業に勤務している従業員 | 自営業者など 厚生年金の被保険者 専業主婦・専業主夫など |
掛金の積み立て(拠出) | 企業 | 加入者 ※3 |
積み立て限度額 (月ごと) | ほかに確定給付型の年金なし:55,000円 ※1 ほかに確定給付型の年金を実施:27,500円 ※2 | 自営業者など:68,000円 厚生年金保険の被保険者:最大で23,000円 専業主婦・専業主夫など:23,000円 |
※1 個人型確定拠出年金への同時加入を認めている場合は35,000円
※2 個人型確定拠出年金への同時加入を認めている場合は15,500円
※3 「iDeCo+」(中小事業主掛金納付制度)を利用する場合は事業主も積み立て可能
厚生年金被保険者の場合、個人型確定拠出年金の限度額は以下のとおりです。
被保険者の状況 | 限度額(月ごと) |
確定給付型の年金に非加入 企業型確定拠出年金に非加入 公務員でない | 23,000円 |
企業型確定拠出年金のみに加入 | 20,000円 |
確定給付型の年金のみに加入 | 12,000円 |
確定給付型の年金に加入 | 12,000円 |
企業型確定拠出年金に加入 | 12,000円 |
公務員 | 12,000円 |
参考:確定拠出年金制度の概要
企業型確定拠出年金のメリット
企業型確定拠出年金には、企業および勤務している従業員の双方に以下のようなメリットがあります。
- 老後の資金確保に役立つ(従業員)
- 税制優遇措置がある(従業員)
- コスト削減(企業)
- 退職給付への債務が発生しない(企業)
- 社会保険料の負担が軽減される(企業・従業員)
- 法人税上のメリットがある(企業)
従業員にとっては、公的年金のほかに企業型確定拠出年金を加えることで、老後の資金確保に対してより安心感を得られるでしょう。
また、以下のような税制上のメリットがあります。
- 運用した際の運用益は非課税
- 受け取る際に税制上優遇される(「一時金として」の場合は「退職所得控除」、「年金として」の場合は「公的年金等控除」の対象)
- マッチング拠出で上乗せする掛金は全額、所得控除の対象
企業にとってはコスト削減につながります。
昨今は定年の引き上げにより雇用期間が延長されるケースが増えてきています。その場合、退職給付に関する制度を見直し、備えていかなくてはなりません。従来の確定給付型の年金であれば、運用成果が悪かった場合に追加コストが発生する可能性もあります。
しかし企業型確定拠出年金の場合、運用は従業員本人がおこないます。従業員が受け取る金額は運用をおこなった従業員本人の自己責任となるため、企業側が追加コストを支払う負担が減るのです。
また、毎月の積み立て(拠出)が従来の退職給付に該当するため、退職給付債務を負う必要がありません。社会保険料の負担も企業・従業員本人ともに軽減されます。さらに毎月の積み立ては全額必要経費として計上できるため、法人税上のメリットも生じます。
参考:企業型確定拠出年金の仕組み – 株式会社日本企業型確定拠出年金センター
参考:企業型DC(企業型確定拠出年金)ってなあに?-制度の概要-
企業型確定拠出年金で押さえておきたい5つのポイント
多くのメリットがある企業型確定拠出年金ですが、その性質をよく理解し、納得したうえで導入・加入する必要があります。
企業型確定拠出年金でとくに押さえておきたい、以下の5つのポイントについて見ていきましょう。
- 掛金を拠出するのは企業・運用するのは従業員
- 加入方法は自動もしくは選択
- 掛金の引き出しは原則60歳の定年退職を迎えてから
- 掛金の上限金額が決まっている
- 運用の成果次第では従業員が損をするリスクがある
掛金を拠出するのは企業・運用するのは従業員
個人型確定拠出年金(iDeCo)の場合、毎月の掛金を拠出する(積み立てる)のは加入者本人です。
しかし、企業型確定拠出年金の場合、拠出するのは企業の役割になります。ただし、積み立てられた資産を運用するのは従業員本人です。
そのため従業員が将来受け取る金額は、各従業員の運用の成果次第と言えるでしょう。
加入方法は自動もしくは選択
企業型確定拠出年金への加入の仕方は、企業ごとに異なります。その企業に入社することで自動的に加入になる場合もあれば、加入するかどうかを従業員が選択する場合もあります。
掛金の引き出しは原則60歳の定年退職を迎えてから
掛金の引き出しは、原則60歳の定年退職後です。何らかの理由でお金が必要になったとしても、60歳になっておらず定年を迎えていない場合には、積み立てた資産を引き出すことはできません。
この点については事前に確認し、納得した上で加入するべきです。
掛金の上限金額が決まっている
既述のとおり、掛金には上限があります。あらかじめ設定されている上限を超えて積み立てることはできません。
上限額は企業・従業員の状況によって変わるため、あらかじめ確認しておくようにしましょう。
企業・従業員の状況 | 積み立て上限額(月ごと) |
ほかに確定給付型の年金なし 個人型確定拠出年金への同時加入を認めていない | 55,000円 |
ほかに確定給付型の年金なし 個人型確定拠出年金への同時加入を認めている | 35,000円 |
ほかに確定給付型の年金あり 個人型確定拠出年金への同時加入を認めていない | 27,500円 |
ほかに確定給付型の年金あり 個人型確定拠出年金への同時加入を認めている | 15,500円 |
運用の成果次第では従業員が損をするリスクがある
メリットの多い確定拠出年金ですが、運用の成果次第では、従業員が損をするケースもあります。従業員にとって必ずしもお得な結果になるわけではない点に注意が必要です。
運用の成果が悪かった場合には、従来の退職金よりも受け取る額が減ってしまうこともあります。
「従来の退職金と同じ額を受け取るには、どのくらいの利回りで運用すればよいか」(想定利回り)を事前に計算しておく必要があるでしょう。
参考:確定拠出年金で損をしないための、シンプルな方法 _ 自分だけは損したくない人のための投資心理学 _ ダイヤモンド・オンライン
「マッチング拠出」とは何か
企業型確定拠出年金に関連することばに、「マッチング拠出」があります。ここでは、マッチング拠出とは何かを確認していきます。
企業が積み立てた掛金に従業員が上乗せできる制度
「マッチング拠出」とは、企業が毎月積み立てる掛金に、従業員本人が掛金を上乗せして積み立てられる制度です。
「家計に余裕があるから、老後に備えてもう少し積み立てたい」といった従業員のニーズに応えることができるでしょう。
上乗せする掛金は給与から控除され、全額小規模企業共済等掛金控除の対象となります。
ただし、すべての企業でマッチング拠出が利用できるわけではありません。マッチング拠出の制度を採用しているかどうかは企業によって異なります。
参考:「マッチング拠出」とは?|企業型確定拠出年金|DCのトビラ|第一生命保険株式会社
上乗せできる掛金には上限がある
企業が積み立てる掛金に上乗せできるといっても、好きなだけ上乗せできるわけではありません。
マッチング拠出で従業員が上乗せできる掛金の条件は以下のとおりです。
- 企業が拠出する掛金の額を超えることはできない
- 企業が拠出する掛金と従業員が上乗せする掛金の合計額が、もともとの掛金の上限額を超えてはいけない
参考:企業型DC(企業型確定拠出年金)ってなあに?-制度の概要-
従業員が離職や転職した場合にはどうなる?
では、企業型確定拠出年金に加入していた従業員が離職や転職をした場合、これまで積み立てた掛金はどうなるのでしょうか。
このようなケースでは、年金資産の持ち運び(ポータビリティ)が可能です。
もともと加入していた企業型確定拠出年金から、以下の制度に資産を移すことができます。
- 確定給付型企業年金
- ほかの企業の企業型確定拠出年金
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
このほか、合併などによる離転職の場合には中小企業退職金共済に移すことも認められています。
まとめ
本記事では、確定拠出年金とは何か、また確定拠出年金のなかでも企業型年金について押さえておきたいポイントやメリットなどを紹介しました。
企業型確定拠出年金には、企業・従業員双方にとって複数のメリットがあります。ただし、事前に確認しておくべき注意点もあります。
- 掛金を拠出するのは企業・運用するのは従業員
- 加入方法は自動もしくは選択
- 掛金の引き出しは原則60歳の定年退職を迎えてから
- 掛金の上限金額が決まっている
- 運用の成果次第では従業員が損をする可能性がある
本記事を参考に、ぜひ企業型確定拠出年金の導入・加入を検討してみてください。
ミキワメは、候補者が活躍できる人材かどうかを500円で見極める適性検査です。
社員分析もできる30日間無料トライアルを実施中。まずお気軽にお問い合わせください。