本レポートは、2022年9月28,29日に開催された、「ウェルビーイングリーダーズサミット by ミキワメ」の基調講演の文字起こしです。ウェルビーイングを牽引する様々なリーダーにご登壇いただき、組織に関する様々なテーマとウェルビーイングの結びつきについてお話しいただきました。
飯田:皆さんこんにちは。この時間は楽天で(CWO)チーフ・ウェルビーイング・オフィサーを務めている小林正忠さんにお越しいただき、「今、経営/人事が考えるWell-being的視点」というタイトルでご講演いただきます。
では早速ですが、正忠さんよろしくお願いします。
小林さん自己紹介
小林:よろしくお願いします。本当に貴重な機会をいただきありがとうございます。ウェルビーイング・リーダーズサミットということで、今日私のほうからは「今、経営/人事が考えるWell-being的視点」というテーマで話していきます。
早速ですが、私からまず一点目。
皆さんいかがですか?今朝空を見上げましたか?意外に大事なことだと思っています。「ウェルビーイングをいかに社内の仲間たちに広げていくか」とか「周りにいるみんなを笑顔に変えていこう」といったように、ウェルビーイングをリードしていくお立場だと思うのですが、そんな皆さんが誰よりもウェルビーイングであるべきだと私は思っています。その原点と言いますか、朝起きたあとの最初のアクションとして空を見上げるのが、いいのではないかと思っています。
よくTwitter に、今日の空とか今日の雲を投稿しています。この画像は、会社の会議室から撮った写真です。鳥が飛んでいるようにも見えますよね。勝手に前向きなネタを探して、雲ばかりの空でも「あんなところに一部青空がある!」と見つけられてラッキーみたいな。そういう空を見上げられたら、幸せになれると考えています。これをTipsとして、まず冒頭お伝えしたいと思っていました。
自己紹介します。25歳の時に三木谷と一緒に楽天を立ち上げました。ずっとショッピングモールのところをリードしていたのですが、その後アメリカに渡りシンガポールに渡り、色々と経験したなかで、5年ぐらい前に「コーポレートカルチャーを再強化していこう」ということで、CPO(Chief People Officer)になりました。今日は立場的にウェルビーイングというキーワードでチャンスを頂いていると思います。全然アカデミックなバックグラウンドもHCRのバッググラウンドもありませんが、私が感じる・考えているウェルビーイングについてお話できたらと思っています。
事業戦略実現のためのカルチャー戦略
チーフ・ウェルビーイング・オフィサー、全然聞き慣れないポジションだと思います。何をやっているかというと、「楽天エコシステム」といって様々なサービスを使っていただく、そして楽天ポイントを色々なところで使っていただく経済圏を作っているんです。
ブランドを統一して組織を再編したり、買収などで従業員が増えていくと、色々な要素が入ってきます。そこで、求心力の向上や多様性の促進を図ろうと考えたり、一体感の醸成はどうやっていこうか?と考えたりしたときに、ちゃんとカルチャーを立て直す必要があると思い至りました。こうした取り組みが欠けるとイノベーションが起こせないと信じているので、コーポレートカルチャー部門という部署を作りました。
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楽天市場と呼ばれているのがショッピングモール事業、一番左側のところです。ほかにも、楽天トラベル、楽天カード、楽天証券というものがあります。これらがレベル2の組織です。
それらを束ねているのが「コマースカンパニー」です。ほかにも金融グループカンパニーといったものがあり、これらはレベル1、最上位の組織という位置づけです。右をご覧いただくと、1万人を抱えているようなコマースや、6千億円の収益を上げるような金融グループと同列のところに「コーポレートカルチャー部門」があります。そこにチーフ・ウェルビーイング・オフィサーの私がいます。
コーポレートカルチャー部門の箱のサイズは小さく、20人ちょっとしかいません。この箱に3つの部署を置いてます。ウェルネス部、エンプロイーエンゲージメント部、サステナビリティ部。一見バラバラなように見えますが、社会を見渡した時に、一人ひとりがウェルビーイングになっていくことが最終的に大事になってきます。従業員の身体的・精神的な健康を向上させる目的で、ウェルネス部がカフェテリアの運営やジムの運営をしていたり、オンラインストレッチプログラムを提供しています。そうした取り組みで個人のウェルビーイングを実現しましょう、ということです。
一人ひとりが元気でも、会社として・組織としてもウェルビーイングでなければいけません。そこで、エンプロイーエンゲージメント部と呼ばれる部署が、従業員と従業員、従業員と会社の関係性を強くしていきます。
「楽天主義」と呼ばれるバリューがあります。よくミッション・ビジョン・バリューと言いますが、その「バリュー」をベースにした組織にしていこうという考えです。その関係性を作っていくためにも、組織全体のウェルビーイングを実現させます。
さらには、従業員や会社だけがウェルビーイングであってもサスティナブルではありません。我々を取り巻く環境、社会のウェルビーイングも同時に実現する必要があります。そこで、サステナビリティ部が様々なカンパニーや事業と伴走しながら、サスティナブルな社会がちゃんと作れているかどうか支援していきます。
これらの「個人のウェルビーイング」「組織のウェルビーイング」「社会のウェルビーイング」を実現していくのが、チーフ・ウェルビーイング・オフィサーの仕事です。これは、私が勝手に作った定義です。他社のチーフ・ウェルビーイング・オフィサーの場合、また違う役割があるかもしれません。私はこうした定義で動いています。
26年前に楽天を立ち上げた時、我々がどういう想いで立ち上げたか。当時の日本は大企業がグングン成長し、都市に人が集まっていました。残念ながら地域社会は過疎化し、中小企業がどんどん潰れていく、といった状況でした。いやいやそうじゃない、大都市だけではなくて、地域も元気になるんだ。いやいや、大企業だけではなく、中小企業も元気になっていくんだ。その時に初めて日本という国が、本当の意味で元気になるだろう。そう思っていました。
これが日本のウェルビーイングだったということに、私はチーフ・ウェルビーイング・オフィサーになってから気がつきました。「そうか、自分達は創業の頃からウェルビーイングを体現すべくやってきたんだな」と。楽天が突然ウェルビーイングと言い出したわけではなく、実は創業の頃からウェルビーイングと共に生きてきたということです。
改めまして、昨年「Well-Being First」ということで、大々的にページに掲げました。まだすべてが出来上がっているわけではありませんが、「できてないから発信するのはやめよう」ではなく、まず「やります」と宣言しようと。今はできていないかもしれませんが、ちゃんとその方向へ歩みを進めます、という宣言はまずしようと。そうした考え方、このような専用ページを掲げました。
「Well-Being First」をやる理由は、これから紹介していきます。
楽天が「Well-Being First」をやる理由
たとえばZ世代の仲間たちが、今どんどん会社に入ってきていますよね。彼らは少なくとも、私が新卒だった頃とは違った価値観で人生を送ってきています。彼らが考える「会社がこうなってくれたらいいな」というのを、弊社の仲間に聞いてみたところ、ワークライフバランス、自己成長、心理的安全性、D&I、企業の社会的責任、こういったことをちゃんと考えている会社だったら自分は入りたいし、そういう会社で働きたい。そう思ってくれていることがわかったんですね。
皆さんもご存知だと思いますが、社員たちが幸せだと、その会社はクリエイティブが3倍になるとか、営業成績37%アップ、生産性31%、燃え尽き症候群が41%少ない、欠勤が41%少ない、退職が59%低いといったように、社員が幸せだと、実は生産性も収益も上がっていきます。会社として成長していけるのです。
そうすると、やはり社員はウェルビーイングでなければいけません。会社はウェルビーイングファーストでやっていくのが望ましいと思っています。
Well-doingとWell-being
もう少し違う観点でお話すると、「Well-doing(ウェルドーイング)」と「Well-being(ウェルビーイング)」の関係性の話があります。ウェルドゥーイングは聞き慣れない言葉だと思うのですが、良い状態でいるということは、良いパフォーマンスをするということです。その点について弊社で調査したので、共有します。
創業25周年ということで、定期的に色々なサーベイを取っています。その中で「Well-Being Survey」として、仲間たちに満足度や達成度合いなどをヒアリングしていきました。その中で面白かったことがあります。
達成感とウェルビーイングの相関関係に注目してみると、「楽天で働いていて、達成感を感じていますか?」という問いに対して、非常にポジティブだと回答した人のうち、ウェルビーイングを感じている人は15%でした。両方に満点を付けた人が15%だったということです。
逆に、ウェルビーイングに対して満点を付けた人のうち、達成感に対して「イエス」と答えた人の割合は65%でした。つまり、ウェルビーイングのスコアが高い人は、職務満足度も高い。そして、ウェルビーイングのスコアが満点な人は、職務満足度もかなり高く、達成感や成長感を得られているんです。
営業成績のいい人が褒められてハッピーになっているわけではなく、幸せな人がウェルドゥーイングできている、いいパフォーマンスを上げられているということ。相関関係が逆だった、というのがこの数値でご理解いただけたでしょうか。
従業員と組織の理想の関係
続いて、従業員と組織の理想の関係についても考えていきたいと思います。「どうやったら社員たちはウェルビーイングになれる?」と考えた時、私が考える理想の関係は、「この指とまれ」です。昔は公園とかで「鬼ごっこやる人、この指とまれ」と言うと、みんなが集まってきて鬼ごっこが始まりましたよね。
社長やリーダーが「これをやりたいんだ」「こういう社会を作りたいんだ」「この事業でナンバーワンになりたいんだ」とこの指を出したものに、「私も乗らせてください」「私もそれ一緒にやります」と集まったのが、会社や組織だと思います。要するに、いかに求心力を維持していくのかが大事だということです。
楽天は小さな雑居ビルからスタートしています。机を6〜7個並べたら何も置けないような場所で、誰もスーツを着ないような感じでした。ネットワークも全部自分たちで敷いている状態でしたが、少なくとも「何を目指しているか?」は6人で共有できていたんです。
「なんで俺らはビジネスやるんだっけ?よし、世の中元気にしていこうぜ」とか「どこ目指すんだっけ?よし、日本でナンバーワンのインターネットカンパニーになろうぜ」といったことを色々掲げてきました。
自分たちが定義する「よい」というものを、ちゃんと一人ひとりに伝えていくこと。ウェルビーイングのWellは「よい」ですよね。ということは、ウェルビーイングを考えるなら、その「よい」を定義しないといけません。その次の課題となってくるのが「誰にとってのよいか?」ということです。
誰にとっての「よい」かを考えた時、個人的に世の中が「働きやすさ」に寄りすぎている気がします。働いている人達もtoo muchに会社へ要望を出していきますし、会社側も社員達に気を使いすぎな印象。働きやすさのところばかりアピールしがちだと思います。
もちろん働きやすさは大事です。ただそれ以上に「働きがい」のほうが大事だと思っています。働きやすさより働きがいのほうが、実際ウェルビーイングに近い。働きやすさは瞬間のHappinessに近くて、働きがいのほうがウェルビーイングに近いのでは?と思っています。
働きがいは、一人ひとり違います。みんな違っていいんです。多様性をどれだけ受け入れていくのかが大事になってくると思います。ちなみに楽天の場合、70を超える事業があります。銀行や証券など色々あります。新卒で入ってきた仲間もいれば、中途で入ってきてくれた人もいます。1回辞めたあと、もう一度帰ってきてくれる仲間もいるんです。国籍の数で見ると、100を超える国・地域出身の従業員がいます。このように、国籍もバラバラな状態でやっています。
当然住んでいる場所やオフィスの場所も違います。バラバラな人たちと、共に同じ目標を目指していく。そこで我々は、多様性こそパワーに変えていこうと考え、D&Iを重要視しています。
D&Iではなく、DEIB
楽天ではD&Iを「DEIB」と名付けています。Dは「Diversity」、Eは「Equity」。昨今D&Iに加えて、アメリカのほうでも「DEI」や「EDI」などと呼んでいます。「Equity」、つまり公平性・公正性が大事だということ。その通りですよね。
Iの「Inclusion」もやりましょう。楽天では1チーム1ブランドになったりします。1チームで世の中を元気にしていこう、ということです。人間は1人の力より掛け算していったほうが力が強いので、Bの「Belonging」も必要です。会社に対する帰属意識というよりは、ミッションに対する帰属意識を指します。「世の中を元気にする」という想いに集まってきてもらう。
このような考えから、今までは「DIB」だったのですが、今はEを加えた「DEIB」を意識しています。
要するに「なぜここで働いてるのか?」という求心力と、「みんなで頑張ろう」という多様性・爆発性、この両方が機能していくと、組織が大きく・強くなれると感じています。
Well-Being実現のために取り組んできたこと
次は「ウェルビーイングに関してどんなことを取り組んでいるか?」というお話をしていきます。コロナ禍になってリモートが始まった時に「仲間たちはどんな状況だろう?」ということで調査しました。それを共有します。
楽天らしさを感じるタイミングについて調査した結果、月曜日の朝8時に全員が集まる「朝会」という会議や、カフェテリアで仲間たちといる時、さらには朝会のあとの掃除をしている時などに「楽天らしさ」を感じていた仲間が多く見受けられました。
コロナが発生し、その後どうなったか確認してみると「在宅でも朝会があると、全社の動きがウィークリーベースで見えるので助かる」「PCで参加していると、三木谷さんと1on1をやっている感じがします」といったように、「変化なし」と回答した人だけでなく「ポジティブ」に感じている人が25%いました。つまり、4人に1人はむしろ良くなったと回答した結果です。朝会は問題なさそうですね。
続いて「上司とのコミュニケーションはどうですか?」と聞いてみたところ、「変化なし」が50%で、「ポジティブ」が25%でした。「以前よりも深い話ができる」「画面越しなので、上司の圧を感じにくい」といったコメントがあり、ポジティブに捉えている人も多く見受けられました。
問題が出てきたのが「同僚とのコミュニケーション」です。ご覧の通り、「ネガティブ」が20%、「ポジティブ&ネガティブ」が25%。つまり、45%の人は何かしらのネガティブさを感じている結果でした。
「ランチの時のカジュアルな会話がなくなった」「オンライン会議なので、雑談がない」といったコメントも。同僚とのコミュニケーションがなくなってしまい、これはマズいと感じました。
Covid-19危機による企業文化への影響と対策
企業文化を形成しているものは、6つの要素です。ハーバードビジネスレビューに出ていました。People・Vision・Values・Narrative・Place・Practicesの6つの要素です。People(誰と)・Practices(何を)・Place(どこで)に注目してください。先ほどインパクトが出てしまっていたのは、ここだったんです。
同僚と話せない、みんなで掃除できない、みんなでカフェテリアにいられない、といったように、青い部分のタッチポイントが減っていることに気づきました。この右側部分を強固にしていかないと、左側のVision・Values・Narrativeのほうへもインパクトが出てしまいます。そのため、改めてコーポレートカルチャーを強化する必要があると感じました。
ちなみに楽天では、「楽天主義」と呼ばれているバリューが10個あります。この10個について、もう一度丁寧に説明する必要性があることに気づき、色々な試みを始めました。
たとえば、朝会という全社集会があります。ここで今、何が行われているかというと、三木谷との対話があります。画面に書いているように、日本の月曜朝8時に始まります。これが数時間後のシンガポール時間11時半、インド時間の朝の9時にそのビデオが流れて、何千人もの仲間たちがそれを見ます。そして、その数時間後にはヨーロッパ時間の朝10時にビデオが流れ、数時間後の西海岸時間の朝9時にもそれが流れます。
24時間以内に楽天グループの全3万人ぐらいが、同じCEOのメッセージを聞く場を仕組みとして入れることで、タッチポイントを維持していこうという考えです。
朝会の中で取りあげているコンテンツは『成功の法則』の読み合わせです。『成功の法則92ヶ条』という本を三木谷が書きました。仕事の哲学といったらいいでしょうか。楽天が大事にしていることについて書いた本です。それの英語版として「ビジネス道リーディングセッション」というものがあります。88章あるのですが、この88章を1章ずつ、毎週みんなで数分かけて読み合わせしています。
スライド画面の真ん中に英語が出ていますよね。これは53章目の1/4スライド目です。このぐらいの単位の文章を4ページぐらい見ていきます。うちの社員が読み進めるのを、1万数千人が耳を傾け、読み終わるとMCが「ミッキー、追加コメントある?」と聞きます。
「そうだね、書いた頃はこうした点を大事だと思っていたんだね。今は新規事業を始めて新しい戦略を打ち出したから、ますますこういうことが大事になってくると思うんだ」「この哲学が大事なんだ。みんなにはこの点に期待したいんだ」といったコメントが三木谷からあります。
それが終わると、今度はQ & Aの時間になり、対話が始まります。社員から質問が出て、それに対して三木谷がその場で答えていきます。2人程度の質問にいつも答えており、毎週やっています。『成功の法則』の読み合わせ自体はコロナ以降から始めたものですが、朝会は25年間ずっとやり続けています。
こういう形でタッチポイントを増やしていきます。コーポレートカルチャーに触れる機会を毎週作れるように意識しています。ただし、それで十分とは言えません。これは受け身な部分もあるため、別途「楽天主義ワークショップ」というものを作りました。
楽天主義ワークショップ
先ほど申し上げた10個の価値観を説明したポスターを貼っておきます。そのポスターの所に集まり、社員たち一人ひとりが大切にしている価値観を書いてもらい、ペタペタ貼ってもらいます。「僕はチームワークを大切にしている」「私はコミュニケーションだ」「Honestyです」といったように。
価値観を書いてもらったら、「チームワークというのは、楽天の中で言うと一致団結に近いかな」「Honesty、これは品性高潔というところが近いよね」といったように、ベタベタ貼ってもらいます。私が一言も説明しなくても、この写真に映っている4人は、それぞれ自分の価値観を説明していきます。たとえばAさんが、自分がなぜこの価値観を大事にしていて、なぜ品性高潔という所に貼ったのかを、ほかの3名へ説明するんです。
楽天主義を初めて目にした人がいたとしても、「私がチームワークを大事にしているのは、個人の達成だけじゃなく、みんなで達成できた時が一番の喜びだから。楽天が言っている一致団結はつまりこういうことだろうだから、私はここが近いと思うんだよ」といったようにコメントして、ほかのメンバーに熱く語ります。1人の説明が終わると、今度は別の人が説明していく。私は一言も話していないのに、20〜30分の間に、彼らは30回ぐらい楽天主義について勝手に読み解きしてくれてるんです。そこから私が楽天の歴史の話をしたり、なぜこの価値観を大切にするようになったのかを説明します。
「あなたの価値観は関係ない。会社の価値観に従いなさい」ではなく、「あなたの価値観は会社の価値観に近いよね」といったような気づきを仲間同士で得てほしいと思っています。意外に有効なアプローチだと思うので、皆さんの研修にも使っていただけたら嬉しいです。
カルチャーとして共有されている要素
楽天はカルチャーとして色々なことを共有しているのですが、「エンパワーメントが大事だ」「世の中を元気にしていこう」「やりきろう」「スタートが大事だ」といったように、言葉にはなっているものの、その言葉だけだと定着していかないため、しっかり制度や仕組みに変えていこうと思っています。大切にしているものは「楽天主義」という形でくくり、朝会や経営合宿といったように全部仕組みに変えていくんです。
「年に1回山に登る」「みんなに名札をつける」「みんなをニックネームで呼ぶ」「掃除する」といったように、全部仕組みになっています。誰がマネジメントしても、うまくカルチャーが浸透できるような体制を築いています。
持続可能なチームであるためのコレクティブ・ウェルビーイング
持続可能なチームにしていくためには、「コレクティブ・ウェルビーイング」が大事だと思っています。ここからは、コレクティブ・ウェルビーイングの話をしていきます。
先ほどの3レイヤーで見ると、個人のウェルビーイングと社会のウェルビーイングの間に組織のウェルビーイングがありました。「ある目的のために、ありたい姿を持つ多様な個人が繋がり合った、持続可能なチームの状態」をコレクティブ・ウェルビーイングと定義していて、これを作るために重要なポイントを2年前に紐解きました。
それが「三間(さんま)」です。仲間・空間・時間という、日本の漢字で書くと間・間・間なので、三間と呼んでいます。そして、その真ん中に余白を入れています。これらを意識していくことが、会社としてマネジメントとして大事になるだろうと、今の時代を読み解いています。
ニューノーマル時代の「組織と個人のありたい姿」とは
現代は「ニューノーマル時代」と言われていますが、コロナを経て、我々は新しいフェーズに入ってきています。たとえば「職場課題」がありますよね。だんだん仕事がしやすくなって、リモートワークが効率的になってきた一方で、余白がなくなっている側面も。組織内の偶発的なコミュニケーションが減っているのが、一例です。
「機会」のほうでは、個人が多様性を持った働き方ができるようになったり、場所も選べるようになりました。色々な機会がありつつも、職場課題があるのが現状といえます。
したがって企業としては、企業や個人のありたい姿をもう一度見つめ直すタイミングが来ているように思えます。そういった背景から、コレクティブ・ウェルビーイングのガイドラインを出しました。
実は「楽天コレクティブ・ウェルビーイング」とネットで検索していただくと、無料でダウンロードできるようになっています。三間カレンダーとか三間サイコロというものがあるので、ぜひ使い倒していただけたらと思います。1on1が苦手なマネージャーさんは、最初に三間サイコロを振っていただくとアイスブレイクになるものが出てくるので、ぜひ活用してみてください。
三間について少し説明します。仲間を繋ぐということ。「そもそもどんな目的で自分たちは集まったのだろう?」という、仲間が集まった根幹の価値観の部分をもう一度意識し直す。様々な境遇の中で社員に働いてもらっているので、マネジメント側は気を使い、しっかり仕事の節目を作るべきだと。我々は「リズム&スイッチ」と言っているのですが、そうしたものを入れたほうがいいと思っています。
空間に関しては、今だと様々な空間で働けるようになりました。在宅ワークもいいのですが、実はセキュリティ上、非常に危険な状態になっています。社会的な問題が起きた時に個人を守る意味でも、会社もシステムセキュリティに力を入れ、投資しなければいけません。
そうした意味で、仲間・時間・空間の3つの間を丁寧にデザインすることと、何よりもそれぞれにちゃんと余白を確保するのが大切です。余白がないと、いつか会社や個人との関係性が壊れてしまいます。そのため、余白は改めてデザインできるようにしていくのが望ましいと思います。
先ほどご覧いただいた図です。このPeople・Practices・Placeがしっかりデザインされていないと、左側のコーポレートカルチャーのコアであるVisionやValueにインパクトが出てしまいます。
もう少し紐解いてみましょう。1人とみんな、Doing とBeingに分けてみます。「1人でDoing」というのは、企画や資料を作ったり、読書したりといった行為です。「1人でBeing」だと、お風呂に入ることや瞑想などです。
「みんなでDoing」は、会議や役員合宿。「みんなでBeing」は、雑談やカフェテリア。コロナ禍でも「1人でDoing・Being」は充実しています。「みんなでDoing」も、オンライン会議みたいな便利なものがあるので、機能しています。ただし「みんなでBeing」が実はできていません。そのことに気付きました。
やはりリモートだけでは限界があります。しっかりオフラインの場「みんなでBeing」の場をデザインする必要があると痛感しています。
「みんなでBeing」の場を設けていく
「オンラインでもできることはある」ということで色々やっています。「Huddle Empowerment」といって、色々な部署の会議に入り込み、ストレッチして帰ってくるうチームを作りました。ほかにも、社員向けのウェルネスセミナー。一人ひとりが健康を意識できるようなセミナーを毎月のようにやっていたり、他社さんと一緒に睡眠改善プロジェクトを走らせたりしています。
ちょっと遊びの入った取り組みとしては、ZOOMの背景変更を使った「チームワークよろしくコンテスト」を世界中で開催してみたり。このように、「みんなでBeing」の部分を大事にしていくのも有効なアプローチだと思っています。
成功した人が幸せ、それは本当か?
次は違うお題です。「成功した人が幸せなのか?」というお話です。順番的には、幸せな人が良いパフォーマンスを出せる、ウェルビーイングだからウェルドーイングできるというお話でした。けれども世の中の人達をみると、結構間違えていますよね。「成功したからあの人幸せなんだよね」といったように。そうではありません。幸せな人だったから成功できたんです。
ハーバード大学で、75年間幸せの研究をしているところが、幸せな人達について調べました。共通点はお金があることなのか、地位があることなのか、名声があることなのか、といった点を調べていきました。
たった一つ共通したのは「人間関係が良好だった」という点です。やはり人間関係が大事になってくるのです。社員と会社の繋がり、社員と社員との繋がりといったように、繋がりが非常に大事だと。
子供や若者の居場所が減っている?
今の日本は、子どもと若者の居場所が減っているそうです。つまり、人と繋がれる・一緒にいられる居場所が減っているということです。何が問題かというと、居場所の数が増えると、その人の自己肯定感、チャレンジ精神、充実感が上がるんです。社会貢献意欲も上がります。
居場所が減っているということは、これらが低下するということです。いかに居場所を確保していくのか考える必要があります。おそらく、今この話を聞いている皆さんは、今日この瞬間やらなければならない事務作業以外の部分に、自分の意識と時間を持っていける方々です。つまり、違う居場所を作る力を持ち合わせている方々ということです。
一方、今日この瞬間、同僚たちの中には、目の前の数字に追われている仲間がいるかもしれません。その人は、もしかしたら月曜の朝から金曜の夜まで、ひょっとすると週末まで目標を追っているかもしれません。そうなると、気づいたら会社や部署にしか居場所が無くなってしまう可能性があります。
居場所が無くなってきても、瞬間的な営業成績は上がるかもしれません。ですが、その人の充実感や自己肯定感が減っていくため、マネジメント側はそうならないよう管理しないといけない。営業目標だけを追いかけるのではなくて、しっかり週末にやりたいことができているか、自分が生きている実感を得られる場所があるかどうか、この点にも少し目を向けるといいのではないでしょうか。
経営者は、違う会社の社長に会ったり色々な世界観を作っていたりするので、そこからヒントを得て次の仕事に繋げることが可能です。つまり、色々な居場所を持っているということです。ただし、居場所を今まで能動的に作ってこなかった人たちが、世の中に一定数いることも、経営陣やマネージャーは意識しないといけません。
昨今、企業は人的資本開示を求められる風潮があります。財務情報だけでなく、非財務情報についても積極的に開示していきなさいという話です。退職率やジェンダーバランス、女性の管理職比率といった点に一見泳がされそうになります。しかし、個人的には単なるエンゲージメントよりも「EVP(Employee Value Proposition)」ベースのエンゲージメントの確認をしたほうがいいと思っています。
社員が100人いたら、100通りの価値観が存在し得るわけですよね。もちろん、同じ会社で働いているので、共通した価値観はあると思います。でもその上に、それぞれのユニークネスがある、性格がある、価値観がある。そうした時に、その人にとって「なぜこの会社にいるのか?」という「うちの会社にいたら、こんなバリューが得られる」といったものがあるはずなんです。問題なのは、それ自体がちゃんと今満たされているかどうかです。
楽天の場合「自分はイノベーションに重きを置いている」と言っている社員に対しては「今あなたは新しい挑戦ができていますか?」という問いを立てます。そこが満たされていなければ「自分はこの会社にいてもダメだ」と思われてしまうでしょう。「エンパワーメントや、世の中を元気にすることを大事にしている」という価値観を持っている社員には、「あなたが今やっていることは、人の役に立っていますか?」「社会の役に立っている実感はありますか?」といった問いを立て、それが満たされているかを確認する必要があります。
つまり、一人ひとりに寄り添ったEVPベースのエンゲージメントが大事になるということです。単なるHRテックみたいに、パルスサーベイを取ってエンゲージメントレベルが良い・悪いといった話よりは、社員それぞれの大事なものが満たされているか否かを知ることが重要だと思います。
それが去年からどうなっているか、先日からどう変わっているのか、といった推移を見ていくことがポイントなんだと思います。そのあたりを本来、経営は把握しなければいけません。
人的資本をディスクローズすることが目的ではなく、経営を継続していくためには、そもそも組織が元気な状態であるべきなのです。組織がウェルビーイングな状態になるためには、個人がウェルビーイングでなければいけません。そして、個人のウェルビーイングがしっかり定義できているか、Wellが定義されていて満たされているか、それらを追っていくことが大事なポイントだと思っています。
雑談の重要性
最後に少し余談になります。私、生まれつきおしゃべりでして、会社の中でも雑談ばかりしています。その自己肯定のために、雑談の重要性を少し話していきます。
日本の大きな会社だと、産業医がいますよね。私の仲間が面白いことをやっていて、「産業僧」といって、お坊さんが会社に入り、色々な人達の話を聞いています。欧米だと、子供の頃からカウンセリングを受けるのに慣れているんですよね。小学生の頃からカウンセラーと話す機会があるので、普通に話ができます。
一方、日本人の場合、突然産業医と話そうとすると、同僚から「え、病気?」といったように、勝手に重く受け止められることがあります。気軽に産業医へ相談しにくい環境かと思うのですが、お坊さんだと気軽に話せるのではないかと。お坊さんは聴くの上手ですよね。何の利害関係もないですしね。今後、産業僧というサービスが来るんじゃないかな、というお話でした。
講演のまとめ
まとめです。企業には生産性向上や組織活性化が不可欠です。そこをリードしていくのは、ウェルビーイングだと私は考えています。最後にメッセージとして、幸せな人生とは?という問いを立てて終わりたいと思います。
食事や運動、健康に気をつけている人も増えていますよね。すごくいいことだと思いますし、国としても医療コストを抑えられるので、一人ひとりが健康を意識するのは大事なことだと思います。健康寿命を考えるのはとても良いことです。実際に、十分延びています。昔はなかなか健康でいられなかったため、「健康であるべき」と強く考えられていました。つまり、長く生きられることが幸せと思っていたんですね。
一方、現代は、もはや80年や100年生きる時代と言われています。そのため、次に意識すべきなのは、ただ長く生きることより、日々幸せを感じられるかどうか、という点。これこそがウェルビーイングだと思うんですね。「チョコレート美味しい」「今日も焼肉食べて幸せ」「目標達成した」といったような瞬間な幸せだけではなく、たった一回しかない人生を、自分らしく生きているかどうか、健やかに幸せに生きているかどうか、こうした「健幸寿命」というものを、意識する必要のある時代だと思っています。
まずは皆さんが、自分にとっての幸せとは何か、自分にとってのWellとは何か、といった点を定義するところから始まると思っています。「健幸寿命」のウェルビーイングのポイントは、一人ひとりがWellを理解し、Wellのために何ができるか、そして周囲のWellを知ることによって、周囲のウェルビーイングに寄り添っていく。そのような社会が作り出せたら、私が実現したい、個人のウェルビーイング、組織のウェルビーイング、社会のウェルビーイングそれぞれが、ウェルビーイングになっている世の中になると思っています。
ぜひ皆さんと共に、そのような世の中を作っていきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
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