ランチェスター戦略をご存知でしょうか。
当記事ではランチェスター戦略について、その言葉の意味から由来。理論、具体的な事例について紹介します。
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略とは、企業が販売や営業において勝ち残るための理論・戦略です。
もともとは軍事作戦に用いられる理論でしたが、マーケティング・経営戦略に応用されています。ランチェスター戦略は、国内でも幅広い企業が導入し、後進に多大な影響をもたらしたことから、競争戦略・ 販売戦略のバイブルといわれています。
ランチェスター戦略の由来
ランチェスター戦略は、ランチェスター法則という戦争理論が由来です。
これはF.W.ランチェスターが第一次世界大戦時に提唱した理論で、
「兵隊・戦闘機・戦車などの兵力の数と、武器の性能が戦闘力を決める」というものでした。
それを元に日本の田岡信夫氏が提唱したのがランチェスター戦略です。
ランチェスター法則とは
ランチェスター法則は、「軍隊の戦闘力は武器の性能と兵力の数で決まる」という、戦闘の勝敗を決める軍事理論です。戦い方によって2つの法則に分けられます。
ランチェスター第一法則
ランチェスター第一法則は、一対一の一騎打ち戦、局地戦、接近戦といった原始的な戦いにおける法則です。戦国時代の武士の戦い方をイメージしてください。
戦闘力=武器効率×兵力数
同じ兵力数なら武器効率が高い方が勝ちますし、武器効率が同じなら兵力数が多い方が勝ちます。
つまり、敵に勝つためのポイントは下記の通りです。
- 兵力数が同じ場合:武器の性能を上げる
- 武器の性能が同じ場合:兵力の数を増やす
ランチェスター第二法則
ランチェスター第二法則は、より近代的な戦闘に適用される法則です。
近代的な戦闘とは、近代兵器(集団が同時に複数の敵を攻撃できる確率兵器)を用いる確率戦で、広範囲で敵と離れて戦います。戦車やマシンガンの連射をイメージしてください。
戦闘力=武器効率×兵力数の2乗
第一法則との違いは、兵力数の二乗になっている点(確率戦は相乗効果をあげるため)第二法則では兵力の数ものをいいます。兵力数が少ないと勝利することは極めて難しいのです。
参考:ランチェスターとは
ランチェスター戦略理論
ランチェスター戦略には、弱者と強者の戦略理論が存在します。
弱者・強者の定義
まず、ランチェスター戦略における弱者・強者の定義を説明します。
強者:業界シェア1位の企業のみ
弱者:2位以下の企業すべて
業界1位なら強者の戦略を取るべきですし、そうでないなら弱者の戦略を取る必要があります。
弱者の戦略
大企業レベルの資本があれば、容易に兵力数を用意できますが、中小企業が数で勝負するのは無謀です。例えばビジネスの領域を絞ったり、1社とだけ競争したり、競合他社の裏をかく戦略が有効です。
ランチェスター戦略のメリットは弱者でも戦う方法を見いだせることです。「弱者が強者に勝つための唯一のマーケティング戦略」とも言われています。
これまでさまざまな企業にて使用され、成果が出ているので、信用に値する戦略であることに間違いありません。
下記を意識した戦略を組み立て、少しずつシェアを広げましょう。
- 局面でのトップを狙う
- 差別化
- 局地戦
- 一騎打ち
- 接近戦
- 一点集中
- 陽動作戦(相手の裏をかく)
強者の戦略
強者は、第二法則に則った戦略を取るのが効果的です。
例えば大きな市場を狙ったり、新商品を打ち出したり、総合力で力押ししたり、得意なジャンルに引き寄せる戦略が有効です。
- 広域戦
- 確率戦
- 総合戦
- 誘導作戦(戦いやすい場所に誘導して戦う)
- 遠隔戦(大々的な広告等)
マーケットシェア理論
マーケットシェア理論とは、業界内のシェア(市場占有率・占拠率)がどれだけ占有できているかを示す指標のことです。市場占有率が高いほど業界内での立ち位置が強いことを意味します。具体的なシェア数値は7つ設定されています。
73.9%:上限目標値
まずはシェア73.9%の上限目標値です。独占・占有と呼べる地位に該当します。
シェアが100%にならずとも73.9%を超えていれば、よほどのことがない限り、2位に逆転されることは少ないでしょう。
とはいえ、なんらかの要因で、1位から陥落する可能性はあるため、強者の戦略を取り続けることが重要です。
41.7%:安全目標値
41.7%超えは、2位以下を大きく引き離し安全といえる数値です。複数社の競合があることが多いので、50%ではなく41.7%が基準になっています。戦略策定時の目標数値とされることが多いです。
26.1%:下限目標値
下限目標値は、首位に立てるギリギリのラインです。
26.1%を獲得すれば首位に立てると考えられますが、2位との差は小さく、安全できるとは決して言えません。満足せず、安全目標値まで伸ばす努力をしましょう。
19.3%:上位目標値
19.3%は上位目標値です。これを達成すれば、上位3社の中に入る可能性が高いでしょう。
とはいえ1位ではありませんので、弱者の戦略をとり、1位との差を埋めましょう。
10.9%:影響目標値
10.9%は影響目標値です。マーケティングでは、10%を超えなければ市場に影響を与えることは難しいと言われています。本格競争に参戦するためにまず目指すべきポイントがこの数値です。
6.8%:存在目標値
存在目標値は、競合他社から存在を認識され、「競争を行う価値がある」と認定される数値です。存在の認識のみで、業界に影響を与えるほどではありません。
逆にいうと、存在目標値を達成できない場合は、撤退も視野にいれましょう。
2.8%:拠点目標値
拠点目標値は、業界に参入できたかの判断に用いられる数値です。
拠点目標値を下回る場合は、ランチェスター戦略を適切に行っても勝ち上がることは難しいでしょう。
ランチェスター戦略における3つの結論
ランチェスター戦略の3つの結論を紹介します。
一点集中主義
一点集中主義は「対象を一点に絞り攻撃し続ける」という考え方です。
リソースが少ない弱者は、対象を絞って第一法則で戦う方が効率的です。
まずビジネス領域・市場の細分化などで重点化市場を定め、経営資源を集中投入します。
そうすれば、その局面では優位を築くことができるので、差別化で武器効率も上げれば結果がでます。収益が安定したら、次の重点化市場を新たに定め攻略するという流れです。
これを繰り返して全体での1位を目指します。
「足下(そっか)の敵」攻撃の原則
かつては「弱い者いじめの原則」と言われていました。
足下の敵とは、自社よりランクが低い、シェアが一個下の企業を指します。
上位企業対決するよりも先に、まずは勝ちやすいところに勝負を挑むという考え方です。
自社より下の企業を標的にし、売上を奪うことで、
- 自社が成長しやすい(勝ちやすい)
- 他社との差が広がる
といったメリットがあるのです。
No.1主義
ランチェスター戦略の目標は、他を圧倒的に引き離して1位を獲得することです。
2位以下との差が少ない1位は不安定です。下位企業も逆転を試み、激しい消耗戦が繰り広げられることでしょう。しかし他を引き離すダントツ1位になれば、地位は安定し、収益性も格段に良くなるのです。
<1位の定義>
- 2社間競合、単品の客内シェアであれば1位と2位との間に3倍の差
- 上記以外なら、約1.7倍の差を2位に対して付けた1位
ランチェスター戦略を効果的に用いて、1位を目指しましょう。
四つの実務体系
ランチェスター戦略の実務大系は4つあります。
- 地域戦略論:細分化された特定の営業地域でNo.1をとる戦略で、地方密着型のレストラン等が該当します。
- 流通戦略:流通チャンネルのコントロール戦略で、昨今はインターネットの活用が増えています。
- 営業戦略:チーム全体のマネジメント戦略のことで、ランチェスター戦略が最もよく使われます。
- 市場参入戦略:経営・マーケティング部門向けで、商品開発や市場開発を指します。
ランチェスター戦略のデメリット
ランチェスター戦略のデメリットはほとんどありません。強いて言うなら、弱者と強者の立ち位置を間違えると、誤った方向性の戦略を立案してしまう点です。
基本的にデメリットのないランチェスター戦略ですが、使い方を間違えると、企業に大打撃を与える可能性があります。特に弱者・強者の見極めには注意し、迷ったら弱者の法則を取りましょう。弱者が強者の法則で戦ったら失敗しますが、強者が弱者の法則で戦っても一定の成果は出るからです。
ランチェスター戦略の実例
ランチェスター戦略の企業事例をみていきましょう。
強者:Apple
ジョブズ時代のAppleは強者の法則をとっていました。
どれも他社に製品を出させた上で、それらを上回る製品を発表し、いかに自社の製品が優れているかを訴求して、シェアを獲得していったのです(ミート作戦)。
例えば軽量小型のポータブルオーディオプレイヤーを先に出したのはSONYです。その後Appleがデザインや機能性に優れたiPodを出すと、SONY製品よりも人気になりました。
強者:トヨタ
同じく強者の法則で、自動車業界の有名な事例はトヨタの「プリウス」です。
ホンダの「インサイト」がハイブリッドカーとしての立ち位置を確立すると、
対抗するトヨタは、同じくハイブリッドカーのプリウスをモデルチェンジし、インサイトよりいも低い価格帯で発売しました。その結果、プリウスはインサイトの人気を抑え、新車販売台数国内1位を達成できました。企業の自力、資本力がないとできない戦略なので、まさに強者の戦略と言えるでしょう。
弱者:ソフトバンク
Appleと対照的なのがソフトバンクです。ソフトバンクが携帯キャリア事業に参入したときの強者はNTTドコモでした。そのため、弱者の戦略を踏まえ、低価格を武器に局地戦に徹します。その後、学生向け市場やiPhoneの導入など、差別化をどんどん図っていきました。
とうとう2014年にはNTTドコモを抜き、国内携帯電話市場の首位をとったのです。
弱者:エイチ・アイ・エス
エイチ・アイ・エスも弱者の戦略でシェアを伸ばしました。
その戦略は、
- 1位になるまで目立たない
- エリアごとに各個撃破する
といったものです。
創業当時から、当時メジャーだった国内のパッケージツアーではなく、海外格安航空券の販売で勝負しました。添乗員なしの自由度の高い個人旅行の提供です。
さらに「出る杭は打たれる」のことわざ通り、格安航空券の取り扱いでナンバーワンになるまでは目立つことを避けました。目立つと上位の企業から攻撃を受ける可能性があったからです。
また、エリアごとに撃破していきました。まず「バリ島への送客でナンバーワンになる」、クリアしたら次は「タイへの送客でナンバーワンになる」と、徐々に陣地を拡大しまいた。
まさに局地戦・接近戦というランチェスター第一法則に則った戦略です。
参考:目立たず一番に・唯一の価値追求 勝つ経営の方程式、ランチェスターの法則とは?法則に基づいた戦略、実際に導入した企業事例まで解説
まとめ
ランチェスター戦略は、弱者と強者それぞれが効率的にシェアを広げるための考え方です。
企業がランチェスター戦略を採用する場合は、まず弱者か強者かをしっかり認識しましょう。正しくポジションが認識できたら、今度はランチェスター戦略を利用して、目標のマーケットシェアを獲得しましょう。
目指すはマーケットシェアNo.1です。
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