人はテキストや参考書などから学習するだけでなく、業務を通じた経験から学習が可能です。
多くの人が「実務から学ぶことが多い」と感じているのではないでしょうか。
経験から学ぶ学習モデルのことを、「コルブの経験学習モデル」と呼びます。コルブの経験学習モデルであれば、業務で忙しい会社員も効率的にスキルアップを図ることが可能です。
この記事では、コルブの経験学習モデルを成功させるポイントと、社内で効率的に進めるための具体的手段について解説していきます。
コルブの経験学習モデルとは
コルブの経験学習モデルとは、アメリカの教育理論家のデービット・コルブが提唱した、経験から学習した内容を次の経験に活かす学習モデルです。
社会人が業務に必要な知識を身につける際、本や座学から学ぶ勉強も重要ですが、実務から得た知識が実践的な学びとして重宝されます。
コルブの経験学習モデルのプロセスや実施方法を理解できれば、社員が仕事をしながら業務に必要な知識やスキルを学べることでしょう。
コルブの経験学習モデルの4つのステップ
コルブの経験学習モデルには、次の4つのステップがあります。
- 1)具体的経験
- 2)内省的反省
- 3)概念化・抽象化
- 4)能動的実験
それぞれのステップにおける具体的な学習内容について、詳しくみていきましょう。
ステップ1:具体的経験
「具体的経験」は、初めて取り組む業務に対して社員が自ら考え行動するステップです。
経験学習において重要なことは「自分で考える」という点です。
上司に言われたとおり、またはマニュアルに記載されたとおりに行動してしまうと、経験学習から得られる効果は低くなります。
仮に失敗したとしても「自分で考えて行動する」ということが、経験学習の重要なポイントです。
ステップ2:内省的反省
ステップ2の「内省的反省」では、具体的経験によって得た結果を振り返ります。
失敗に終わったことを振り返るのは、気が引けるものです。しかし、自分にとって振り返りたくない結果だったとしても「なぜ失敗したのか」と内省し、失敗の原因を特定することが次の業務に繋がります。
また、具体的経験が成功したケースでも内省は必要です。失敗に理由があるように、成功にも理由があります。「成功の要因は何か」を内省することで、次の業務でも高いパフォーマンスを実現できるでしょう。
ステップ3:概念化・抽象化
「概念化・抽象化」のステップでは、具体的経験や内省から得られた結果を、その他の業務にも展開できるように教訓としていきます。
会社として経験学習に取り組むのであれば、本人以外にも伝わるよう概念化・抽象化することが重要です。教訓が社内に共有されれば、会社全体の能率アップが期待できるでしょう。
概念化・抽象化のステップにより、少数の社員の経験を多くのメンバーへ共有できるため、より効率的に業務スキルや学習効果の向上を図れます。
ステップ4:能動的実験
概念化・抽象化によって得られた教訓を、実際にほかの業務で試してみるステップが「能動的実験」です。
概念化・抽象化の段階はまだ仮説であるため、仮説を実務で試し、問題点や不足している点を浮き彫りにしていきます。
能動的実験が新たな具体的経験や内省に繋がり、学習を深める好循環を生み出してくれます。
経験学習を導入する2つのメリット
経験学習の導入は、企業にとって主に次の2点のメリットがあります。
- 社員の能力向上や生産性アップが図れる
- 自発的な行動を評価する社内風土が生まれる
それぞれ詳しく解説していきます。
メリット1:社員の能力向上や生産性アップが図れる
個人の具体的経験から得た成功のエッセンスを組織全体へ共有できるので、別の社員が同じ業務を担当しても、効率的な業務遂行が期待できます。
また、社員個人も具体的経験の内省によって、業務遂行に必要なスキルを洗い出すことが可能です。
個人の成長が組織の成長へと繋がり、結果として強い組織づくりが図れるでしょう。
メリット2:自発的な行動を評価する社内風土が生まれる
経験学習の出発点は、具体的な経験にあります。具体的な経験によって学びが得られた社員は、次の学びに向けて新たなアクションを起こせるようになるでしょう。
「先日の商談ではプレゼン資料の事前準備が良かった。次回はプレゼン方法に工夫を加えてみよう」と経験学習を深めていくことで、自然と行動に積極性が生まれます。
「行動から学びを得ていく」という考えが社内に浸透していけば、行動を起こした者が評価されるようになり、主体性の高い人材が増えていくことでしょう。
経験学習を成功させるポイント
経験学習を成功させるには、次の4つのポイントを押さえることが大切です。
- 自由に動ける業務を割り振る
- 周囲の人と対話させる
- 内省をサポートする
- 業務への活かし方をサポートする
それぞれ詳しくみていきましょう。
ポイント1:自由に動ける業務を割り振る
経験学習は、自分で考え行動しなければ意味がありません。そのため、次のような業務は経験学習には不向きです。
- 誰でもできる単純な業務
- 失敗できない業務
- マニュアルありきの業務
表面上は社員に考えさせているようでも、実際にはマニュアルありきであったり、考えるまでもないような業務であったりしては、経験学習の効果は期待できません。
自分で自由に考えて取り組め、失敗しても取り返しのつく業務を経験学習の場として社員へ用意しましょう。
ポイント2:周囲の人と対話させる
経験学習は、自分で考え行動することが重要です。ただし、内省的反省や、概念・抽象化の段階においては、内省や抽象化を他者に共有した方が、幅広い気づきに繋がる可能性があります。
ひとりだけでは視野が狭くなってしまい、原因や解決策を見つけられないケースも多いからです。
そのため、組織としてもできる限り社員同士でコミュニケーションを交わす場を設け、周囲の人間と内省や概念化・抽象化を共有できるように心がけましょう。
ポイント3:内省をサポートする
いきなり「経験について内省せよ」と言われても、内省の方法がわからず戸惑う社員もいるのではないでしょうか。
内省のやり方がわからない社員に対しては、「何が原因でその結果になったのか」「次にどうすべきなのか」といった点をサポートしてあげると、内省による効果を高められます。
サポートする際には頭ごなしに否定するのではなく、本人の考えをまずは受け止めましょう。
そのうえで本人の考えに至らない点があれば、視野を広げるアドバイスを提供してみてください。
ポイント4:業務への活かし方をサポートする
内省や概念化・抽象化のプロセスを通じて学習したことを、どのように業務へ活かしていくのかサポートするのが会社の役目です
至らない点についてはサポートし、うまくいっている点は評価して褒めるよう心がけましょう。
上司が適切なフィードバックを提供できれば、職場内の信頼関係強化にも繋がり、業務がスムーズに進められるようになります。
コルブの経験学習モデルの注意点
コルブの経験学習モデルを実施する場合、次の3点に注意が必要です。
- 他人の意見を否定しない
- 経験を振り返る時間を設ける
- 結果と学習の進捗をチェックする
それぞれ解説していきます。
注意点1:他人の意見を否定しない
頭から意見を否定されると、否定された側は考えることをやめてしまいます。そうすると、自分で考える→内省する→概念化する、という経験学習のステップが踏めません。
たとえ導き出した答えが間違っていたり、具体的経験の結果が失敗であったりしても、否定せずに「なぜその結果になったのか?」と原因を見つけるサポートの提供を心がけましょう。
注意点2:経験を振り返る時間を設ける
忙しい日々の業務のなかで、経験を振り返る時間を確保するのは難しいかもしれません。
しかし、経験の振り返りなしには、経験学習は成り立ちません。
従業員が自主的に内省の時間を設けられない場合は、会社側が配慮して振り返りの時間を設けていきましょう。
注意点3:結果と学習の進捗をチェックする
経験学習の際は、社内で結果と学習の進捗をチェックするよう心がけてください。
経験学習では、自主的に考えて行動することが重要です。ただし、本人に任せきりにすると、内省や概念化を怠ってしまったり、間違った答えのまま進んでしまったりするリスクがあります。
経験学習の効果を最大限に得られるように、会社側で経験学習が正しく進行しているのかチェックしていきましょう。
経験学習を実施する具体的な方法
経験学習を社員に提供する手段として、主に以下の4つの方法が考えられます。
- OJTの実施
- 1対1ミーティングを実施する
- さまざまな部署を経験させる
- 社内共有体制の整備
それぞれの方法を詳しくみていきましょう。
方法1:OJTの実施
OJTとは、On the Job Trainingの略称です。社員に対して担当の先輩を配置し、業務をしながら担当者が社員へ指導していきます。
OJTの実施を通じて、社員の未経験な業務に対する具体的経験を提供し、内省や概念化を促せます。
OJTの注意点は、「指導担当者が忍耐強く社員の自発を促す必要がある」という点です。
「早く業務を進めたい」という思いから先に答えを教えてしまうと、経験学習になりません。
また、「間違った答えだ」と頭から否定するのもNGです。
自発的に答えを見つけるまで忍耐強く待ち、否定するのではなく答えを見つけられるサポートを心がけましょう。
方法2:1対1ミーティングを実施する
1対1で話し合うことで、部下がどのような具体的経験をしたのか、どんな内省をしているのかを上司は把握できるようになります。集団ミーティングでは深堀りしにくい部分であるため、会社側が業務の一環として1対1ミーティングの時間を確保してあげましょう。
1対1ミーティングにおいても、OJTと同様に否定的な発言は避け、部下の自発的な内省を促すことが上司の役割です。
方法3:さまざまな部署を経験させる
経験学習において重要なことは、「未経験な業務について、自分で考え行動させる」という点です。
そのため、さまざまな部署を経験させることが重要になります。
幅広い業務を経験することで、社員は部署共通で活かせるスキルや、ほかの部署で活かせるスキルなどを発見できます。結果、経験学習の効果を深めていけるでしょう。
強制的な人事異動に抵抗がある場合は、社内公募を実施し、期間限定で他部署を経験させるのも有効です。
方法4:社内共有体制の整備
社員が経験学習によって得た教訓は、社内へ共有することで会社全体の教訓となります。
社内データベースに蓄積し、社員が気軽にアクセスできる仕組みを作っておけば、同じような業務やトラブルに直面した時に適切なアクションをとれるでしょう。
経験学習の効果を最大化するためにも、個人から全体への共有までを意識した経験学習の導入を心がけましょう。
経験学習モデルの成功事例
最後に、経験学習モデルの導入に成功した以下の2社の事例を紹介します。
- ヤフー株式会社
成功事例1:Google
Googleは、経験学習による人材育成を重視している企業です。
経験学習を通じた人材育成は、研修や講演会の開催コストを削減できるため、効率的だと捉えています。
Googleでは次のような施策を実施しています。
- 社員同士で教え合うトレーニング
- 上司と部下による1on1ミーティング
Googleが重視しているのは、社員同士でコミュニケーションを交わし、教え合う文化の醸成です。社員同士のコミュニケーションが深まれば、低コストで組織パフォーマンスを向上できるという考えが根底にあります。
実際に、Googleでは会社のトレーニングの8割が、社員同士で教え合うものとなっているそうです。
成功事例2:ヤフー株式会社
ヤフー株式会社は、経験学習モデルを活用して社員教育を実施している企業です。
具体的に、ヤフージャパンでは次のような取り組みをしています。
- 長期的な目標に対し、実践を振り返る評価制度
- 日々の業務レベルで経験を振り返る1on1ミーティング
- 「人財育成カルテ」を各社員に作成
- 部下一人ひとりの育成計画を検討する「人財開発会議」の設置
ヤフー株式会社では、社員それぞれの育成計画を、短期と長期に分けて作成している点が特徴です。
人材を短期サイクルと長期サイクルの両側面から育成することで、経験学習効果の向上を図っています。
まとめ
コルブの経験学習モデルとは、実務を通じて社員が学習するものです。
経験学習モデルを導入することで、社員の実務経験を学習機会へと展開し、社員個人が得た教訓を社内全体に共有できます。
経験学習において重要なことは、社内コミュニケーション環境の構築です。
一方的に教えたり否定したりするのではなく、「社員が自分で考え行動し気づく」ことを促せるかどうかが、経験学習の成功の鍵を握ります。
会社に経験学習モデルをスムーズに導入できれば、研修コストを大幅に削りながら会社のパフォーマンスを向上させることも可能です。
経験学習モデルを社内に導入し、組織全体の力を効率的に高めていきましょう。
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