カッツモデルは、人材育成や人事評価に活用可能な理論です。適切に取り入れることで、効率的な人材開発や社員のモチベーションアップが可能となり、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
今回の記事では、カッツモデルの構成要素や活用法について解説します。人材育成・人事評価を担当する人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
カッツモデルとは
カッツモデルとは、役職に応じて求められるスキルを3つのカテゴリに分類したフレームワークです。1950年代、アメリカの経済学者であるロバート・L・カッツ氏によって提唱されたことから、カッツモデルと名付けられました。
考案から70年が経過しているカッツモデルは「時代遅れ」といわれることがあります。しかし、時代が変わってもビジネスパーソンとして必要なスキルセットは変わりません。
カッツモデルは伝統的なモデルであるからこその普遍性があり、現代でも充分に活用可能な理論です。
カッツモデルを構成する3つのスキルと有効な研修方法
カッツモデルは、以下の3つのスキルで構成されています。
- コンセプチュアルスキル
- ヒューマンスキル
- テクニカルスキル
各スキルの詳細と有効な研修方法について解説します。
コンセプチュアルスキル(概念化能力)
コンセプチュアルスキルとは、戦略的に意思決定をするスキルを指します。ビジネスにおいては組織や市場の全体像を把握、分析し、戦略を決定する能力です。
コンセプチュアルスキルを備えた人材は、当たり前のことを当たり前と捉えず、新しい視点や発想で物事を考えます。その結果、新たな価値の創出やダイナミックな変革が可能となり、企業の持続的成長を実現できます。
具体的には、以下のようなスキルが挙げられます。
- 論理的思考(ロジカルシンキング)
- 批判的思考(クリティカルシンキング)
- 水平思考(ラテラルシンキング)
- 問題解決能力
- 柔軟性
- 好奇心
- 想像力
コンセプチュアルスキルを獲得する研修としては、まず集団研修でスキルの概念を体系立てて学んだあと、具体的なシーンを想定したグループワークやケーススタディを行う手法が有効です。外部講師による研修や、勉強会の参加なども検討しましょう。
ヒューマンスキル(対人関係能力)
ヒューマンスキルは良好な人間関係を築き、維持するための能力です。ヒューマンスキルの獲得により組織内のコミュニケーションが円滑になるのはもちろん、取引先や顧客との信頼関係構築にもつながります。
具体的なスキルは以下のとおりです。
- リーダーシップ
- コミュニケーション能力
- ヒアリング能力
- プレゼンテーション能力
- エンパワーメント
- コーチングスキル
ヒューマンスキル研修としては、座学やeラーニングで理論を学び、ケーススタディやロールプレイングで個々の状況に対処する能力を養う方法が考えられます。
とくに管理職の場合は、リーダーシップやエンパワーメント、コーチングスキルが求められるため、フォローアップ研修でしっかりとカバーすることが重要です。
また、日常の雑談やミーティング、1on1においても、ヒューマンスキルの向上を意識した対話をすることで、自然とスキルアップできるでしょう。
テクニカルスキル(業務遂行能力)
テクニカルスキルは、日常の業務を遂行するために必要な能力や技術、知識です。具体的には以下のようなスキルが挙げられます。
- 営業職:商品知識、プレゼンテーションスキル
- 事務職:パソコン操作、電話対応スキル、経理スキル
- 小売業:流通知識、接遇スキル、トラブル対応スキル
- 技術分野:機械の操作、プログラミング
- 医療関係:メディカルスキル
- 外資系:語学スキル、取引先に関する知識
チームリーダーは専門分野で優れたテクニカルスキルを持ち、部下に指導や教育を行う必要があります。
テクニカルスキルの向上にはOJTが有効です。OJT(On-the-Job Training)とは、上司や先輩などが指導役となり、実務のなかで技術や知識を習得させる教育法です。業務の流れや成果を理解しやすく、実践的なスキルを養えます。
また、マナー研修やプログラミング研修といった特定のスキル研修の実施や、資格取得を支援する仕組みづくりも検討しましょう。
テクニカルスキル獲得の支援は社員のエンゲージメントを向上させ、離職防止につながる点もメリットです。
カッツモデルを構成する3階層
カッツモデルでは、管理者の階層を以下の3つに分類しています。
- トップマネジメント
- ミドルマネジメント
- ロワーマネジメント
各階層の具体例と、重要視されるスキルをご紹介します。
トップマネジメント
トップマネジメントは組織の最上者に立つ階層、すなわち経営陣のことです。
企業全体の方向性を決定し、経営戦略を立てる重要な役割を担います。一方、現場で具体的な指示を与える機会は多くありません。
- 会長
- 社長
- 副社長
- 最高経営責任者(CEO)
- 最高執行責任者(COO)
- 執行役員
ミドルマネジメント
ミドルマネジメントは、トップマネジメントと現場のパイプ役を務めます。トップマネジメントが決定した戦略に基づいて具体的な方針を決定し、ロワーマネジメントに伝え、実務を統括します。
業務が円滑に進むよう、効率性やモチベーション向上のための対策を講じることも重要な業務です。
- 部長
- 課長
- 支店長
- エリアマネージャー
- 工場長
ロワーマネジメント
ロワーマネジメントは、現場のリーダーとしてメンバーに監督、指示する役割を担います。
ミドルマネジメントからの指示を受け、チームメンバーを指揮して業務を遂行します。チームメンバーの人間関係を調整し、チームワークを高めることもロワーマネジメントの重要な役目です。
- 係長
- 主任
- チーフ
- プロジェクトリーダー
- 店長
各階層において求められるスキル
カッツモデルを構成する3つのスキルは、いずれもビジネスパーソンに必要不可欠なものです。
しかし、階層ごとに必要とされるスキルの配分や重要度は異なります。以下の表に、3つの階層における各スキルの重要性をまとめました。
スキル名/階層 | コンセプチュアルスキル | ヒューマンスキル | テクニカルスキル |
---|---|---|---|
トップマネジメント | 高 | 中 | 低 |
ミドルマネジメント | 中 | 高 | 中 |
ロワーマネジメント | 低 | 中 | 高 |
トップマネジメントにもっとも求められる能力は、コンセプチュアルスキルです。組織の課題や経済情勢、市場のニーズを俯瞰し、適切な判断をするための思考力や柔軟性が必要とされるためです。
トップマネジメントと現場の調整役を務めるミドルマネジメントは、ヒューマンスキルが最重要視されます。
現場の業務に従事するロワーマネジメントには、高いテクニカルスキルが求められます。
人材育成や自己のスキルアップの方針を決定する際には、現階層においてどのようなスキルが求められるかを意識することが重要です。
【対象別】カッツモデルを取り入れるメリット
カッツモデルの活用は社員、人事担当者、組織それぞれに良い効果をもたらします。カッツモデルを取り入れるメリットを詳しく見ていきましょう。
社員のメリット
カッツモデルにより、社員自身が自分の立場や階層において求められるスキルを理解しやすくなります。自身で能動的に能力開発ができるようになり、モチベーションの向上につながります。
人事担当者のメリット
人事担当者が社員を評価、育成する際にもカッツモデルは有用です。
人事評価にカッツモデルを取り入れることで、社員が階層ごとに求められるレベルに達しているかを把握できます。同じ基準で評価できるため、正確性、公平性の高い評価が可能となります。
また、伸ばすべきスキルを把握できる点もカッツモデルのメリットです。適切な育成計画や研修内容の決定が可能となるでしょう。
企業のメリット
カッツモデルは企業全体の人事戦略にも活用できます。
企業の性質や課題によって、求められる人材は異なります。単に優秀な人材というだけでは配属先のニーズに合わず、ミスマッチが生じかねません。
カッツモデルにより求める人物像や育成法が明らかになれば、適切な採用や配置が可能となります。
カッツモデルを人材育成に活用する方法と流れ
ここからは、人事担当者によるカッツモデルの活用法に焦点を当てて解説していきます。まずは、人材育成におけるカッツモデルの活用法を見ていきましょう。
人材育成にカッツモデルを取り入れる流れは以下のとおりです。
- スキル評価と目標設定を行う
- 育成計画をカスタマイズする
- フィードバックと評価を行う
1.スキル評価と目標設定を行う
最初に行うべきことは社員のスキル評価と目標設定です。自社において各階層に求められるスキルを、カッツモデルに基づいて可能な限り具体的にリストアップしましょう。
次に、社員ごとに現在のスキルを評価し、不足しているスキルを明らかにして今後の目標を設定します。
個々の社員のスキル評価により、組織全体のスキルバランスも把握可能となり、より精度の高い育成計画を策定できます。
2.育成計画をカスタマイズする
育成目標が定まったら、社員一人ひとりに合った育成プランを作成します。スキルや階層によって有効な育成プランは異なるため、適切な研修や教育法を選ぶことが重要です。
たとえば、テクニカルスキルの育成のためには、経験豊富な指導者によるOJTが有効です。社員の能力や指導者との相性も考慮しつつ、適切な育成ができるようプランを策定しましょう。
また、コンセプチュアルスキルやヒューマンスキルは「プレゼンテーション能力」や「ロジカルシンキング」など、必要とされるスキルを細分化し、ロールプレイングを交えた実践的な研修を行う必要があるでしょう。
3.フィードバックと評価を行う
育成が始まったら定期的に進捗状況を確認し、成果が出ているかを評価します。人事担当者に加え、上司や同僚の評価、また本人の成長の実感に基づいて、多面的な評価を行うことが重要です。
カッツモデルを人事評価に活用する方法と流れ
カッツモデルの活用は、正確かつ公平性の高い人事評価の実現にもつながります。人事評価にカッツモデルを取り入れる流れは以下のとおりです。
- 評価基準を設定する
- 評価を行う
- 評価結果を活用する
1.評価基準を設定する
はじめに、カッツモデルを構成する3つのスキルに基づいて評価基準を設定します。
たとえば、ヒューマンスキルであればリーダーシップやヒアリング能力など、評価すべき能力をピックアップし、能力ごとに評価方法を設定します。同じヒューマンスキルでも、階層によって求められる具体的能力が異なる点を意識しながら設定しましょう。
カッツモデルは評価項目のウエイト調整にも活用できます。トップマネジメントはコンセプチュアルスキル、ロワーマネジメントはテクニカルスキルのウエイトを重くすることで、各階層に求められるスキルセットの正確な評価が可能となります。
2.評価を行う
設定した評価基準を用いて人事評価を行います。評価方法は定量的評価と定性的評価を併用します。
定量的評価とは、成果を数値で評価する評価法です。売上や顧客獲得数などが該当します。
定性的評価とは、社員の行動や成果といった数字にできない点を評価する手法です。たとえば、ヒューマンスキルを評価する際に「部下と良好な信頼関係を保てているか」といった点から評価するのは定性的評価にあたります。
また、スキルによって適切な評価者を定めることも重要です。コンセプチュアルスキルは管理職、ヒューマンスキルは同僚や部下、テクニカルスキルは特定の技術に対する知識を有する同部署の上司による評価が有効です。複数人の視点から多面的に評価を行うと、偏りが少なくなります。
3.評価結果を活用する
得られた評価結果は社員の、スキルアップやインセンティブの決定に活用できます。
社員本人に評価結果をフィードバックし、今後の能力開発やキャリアビジョンについてアドバイスをしましょう。アドバイスを受けた社員は、スキルアップやキャリアアップの道筋が明確となり、自己開発へのモチベーションが高まります。
評価に応じた昇進や昇給といったインセンティブの付与も意欲向上を促すでしょう。
また、組織全体のスキルマップの作成に評価結果を取り入れることで、より精度の高い人事戦略の策定が可能となります。
カッツモデルを活用して適切な人材育成を目指そう
カッツモデルの活用により、個々の社員に必要なスキルを可視化でき、人材育成や人事評価に役立ちます。また、得られた個々の評価を組織全体のスキルマップに落とし込むことで、人事戦略の最適化が期待できます。
カッツモデルを活用して社員のスキルアップを図る際は、能力だけではなく、心理状態や性格も把握して個々の社員に最適なマネジメントを探すことが重要です。
しかし、社員一人ひとりに適切なマネジメントをするのは工数がかかります。さらに、主観的な視点による思い違いが生じてしまう点も問題です。
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