講演レポート

上場ベンチャーの創業CEOに学ぶ「成長を加速させる組織の進化論」ご講演者:株式会社グッドパッチ/土屋 尚史氏、株式会社ユーザベース/稲垣 裕介氏【みんなのHR博覧会 byミキワメ】

本レポートは、2022年7月26日に開催された、「みんなのHR博覧会 byミキワメ」の基調講演の文字起こしです。各テーマに沿って、「はたらく」を「よく」するを徹底的に語り尽くしていただきました。

ユーザベース稲垣さん自己紹介

飯田:皆さんこんにちは。引き続きみんなのHR博覧会byミキワメを運営して参ります。司会進行は代表取締役の飯田が務めます。

この時間は、上場ベンチャーの創業CEOに学ぶ「成長を加速させる組織の進化論」ということで、ベンチャー領域を代表すると言ってもいい2人の創業者にお越しいただきました。

ユーザベース代表取締役、Co-CEO/CTOの稲垣さん。そしてグッドパッチの土屋代表取締役兼CEOにお越しいただいております。よろしくお願いいたします。

先ほどお話をお伺いしたのですが、土屋さんと稲垣さんはお互いがまだ創業初期のタイミングからお付き合いされていらっしゃるそうです。

本日はベンチャー領域を代表する上場企業でもあるお二人、そしてある意味お互いの成長を見ながら共に戦ってきた2名の経営者様へお越しいただいております。

飯田:パネルディスカッションに入る前に、お二人から簡単に会社サービスの紹介と自己紹介をお願いしたいと思います。まずは稲垣さんよろしくお願いします。

稲垣:ユーザベースという会社は2008年の4月に創業した会社でして、9つのサービスを展開しています。代表的なプロダクトがSPEEDAやNewsPicksとなります。一貫して経済領域ですね。ビジネスパーソンの方たちが「経済情報を取得したい」という時に使っていただけるような製品を作っています。

先ほどのSPEEDAというのは、ファンダメンタル分析で企業・業界の情報を取得するものです。NewsPicksに関しては、日々のニュースを情報として取得していただけるものになっています。そういった事業ドメインでの活動をしてきています。

私個人は最初CTOで参画し、ものづくりに注力していました。エンジニアリング領域はわりとチームビルディングが進んでいるので、途中からそれらをベースにしたチームの仕組みだったり評価制度などを作ってきて、名前はCEOだったんですけど基本的にはHRに携わっていました。

2017年からCEOという形で、色々役職を変えながらここまで至っています。その景色差であったり見えていたものを、今回参考にしていただけるかもしれないな、と思っています。よろしくお願いいたします。

グッドパッチ土屋さん自己紹介

土屋:皆さんはじめまして。株式会社グッドパッチの土屋と申します。弊社は2011年創業の会社です。領域でいうとざっくりデザイン会社ではありますが、一般的なデザイン会社と違うところは、いわゆるデジタル領域のUI/UX領域を中心として、企業の新規事業であったり、作っているプロダクトのUXの改善・ユーザー体験の改善というところにフォーカスした事業を展開しています。

会社を作って今11年経ちます。いろんな会社に関わりながらサービスのグロースであったり新事業開発をやってきています。HRの領域でいうと、グッドパッチが少し有名になったこととして、2016年、組織が100人を超えたタイミングで組織崩壊を起こしました(笑)。ぜひまだ知らない方は「グッドパッチ 組織崩壊」でググっていただくと、僕のブログが出てくるのでチェックしてみてください。

このブログを書いたのは、もう3年以上前になります。ですが、いまだに毎年読まれ続けていて、スタートアップや組織に困った人がバイブルかのように僕のブログをリファラルして、定期的にDMやTwitterなどSNS経由でメッセージが来て、「今組織に悩んでます」ということに応じる仕事を個人的にやっています。

HRという領域では結構色々とトライしてきて、今はエンゲージメントスコアも安定して高い状態を維持しております。そこも含めて今日はどのような話を聞けるのか楽しみにしています。

飯田:ありがとうございます。領域を代表する会社の2社ですが、先ほど組織崩壊というキーワードをいただいたように、いろいろな苦労を乗り越えて今があるというところですね。

今日はベンチャー企業やスタートアップの経営者さんや人事の方にもご視聴いただいているので、ひとつ勇気をもらえる話だなというふうにも思います。

マネージャーに求める素養とは?

飯田:ではいくつか質問をしたいと思います。まず「成長を加速させる」というキーワードを設定しています。成長に不可欠なこととして、成長をリードするマネージャーの活躍が挙げられます。

マネージャーにどのような素養を求めていきたいか、また、どういう人であればマネージャーや経営陣に抜擢していくのか。お二人の考えを伺いたいと思います。

まず土屋さんいかがですか?組織崩壊というキーワードがあったように、組織のコアを作るところで苦労された時期もあるのではないでしょうか。

土屋:そうですね。マネージャーという観点でいうと、組織が崩れていくタイミングにおいて最も重要なのが、中間のミドルマネジメント層なんですね。ここが経営と一体になって、経営の意図や意思を下に伝えていかないと、大きく崩れる状況になります。

組織に悩んでいる会社や経営者の方にとって、ミドルマネジメントにどういう人材を送るかは、かなり重要になってくると思います。グッドパッチに関していうと、マネージャー人材と事業を作っていく人材はまた別なんですけれども、マネージャーでいうと、2016年に組織崩壊した際に、当時いたマネージャーがほぼ全員いなくなってしまって(笑)。途中でほぼ入れ替わった時期があります。

前のマネージャーの頃のメンバーというのは、組織が上り調子の時に入ってきて、僕らも入社の時にいいことを伝えてしまっていたんです。いざ状況が悪くなると、マイナスを想像していなかった、マイナス面が伝えきれていなかった、という問題がありました。

そのあとに結局入れ替わるんですけど、入れ替わった時にマネージャーになっていく人達に対して、組織状況が良くないという話をちゃんと面接時に伝えました。「今の状況は全然良くない、はっきり言ってオススメできる状況じゃない。ただ僕らはこういう夢があって、ここを改善したらできると思っている」ということを正直に面接で伝えてみました。

状況が良くないことに対して「なるほど面白そうですね」とポジティブに捉えてくれた人が、のちのマネージャーやV字回復を支えてくれた人たちです。

飯田:なるほど。まずありのままの状況を理解して、逃げずにやりきっていただく人がポイントだと。ちなみにこれは、採用の時の見極めが一番ポイントになってくるんですかね?それとも、課題解決を楽しむような人を、入社後に育てていくことは可能ですか?

土屋:会社のビジョンとミッションへの共感が大前提かなと思います。ここが言語化されてない会社で、いかに中間マネジメントが重要な役割を担おうとしても、会社の目指す方向性や向かっていく方向性が言語化されてない中で採用すると、スキルがある人を採ってしまいがちです。やはり、目指す方向性が合致している、というのが大前提だと思います。

あとは、目指す方向性が合っていることに加え、人とのコミュニケーションであったり、人に向き合うところから逃げない姿勢を持つ人をいかに採用していくか、という点が重要ですね。

飯田:ありがとうございます。稲垣さんはいかがですか?組織の中で核となるマネージャーは、成長をドライブする上で重要な存在だったと思います。まず、どういう人をマネージャーに登用してこられましたか?

稲垣:今の土屋さんの話に共感しかありません。人として逃げない、強度を持ってできるかどうかは、いい時ばかり見ても駄目なんです。一番辛い時に、責任をいかに負えるかだと思います。かつ、それを責任ある立場で経験しているかどうか。

人を採用・育成して、一緒にやっていければ面白いんですけれど、どうしても退職マネジメントが発生するリスクもあります。本当に自分が意思を込めて採用した人が、結果退職せざるをえなかったり、退職勧奨しなければならなかったということは、すごい大きい責任で、ダメージをくらう出来事だと思うんです。

この部分を会社の文化や目指す方向性において、何が自分にとって問題で、何が自分にとって反省だったのか向き合い、その上でチーム一丸となってやっていけるようになると、人はすごく強くなりますし、その中で新しい自分のマネジメントの形だったり価値観の言語化ができると思います。

そこをしっかり経験してもらえるかが大事だと思いますし、先ほどの土屋さんの話にも共通することだと思います。

飯田:ありがとうございます。自分自身のミッションもそうですけれど、自分たちの仲間・部下というところも含めて、ちゃんと責任をとって最後までやり切れるか?というところが重要だということですね。

退職マネジメントをどうしているか?

飯田:退職マネジメントというキーワードが出てきました。会社によって考え方もさまざまですが、稲垣さんのほうでは、そもそも社員さんが退職・卒業されることをどう感じていらっしゃるのか。また、御社における退職マネジメントとは具体的にどういうものなのかお聞かせいただけますか?

稲垣:退職勧奨しなければならないシーンには、大きく2つあると思います。1つは、あまりにも会社と本人のバリューが合っていない状態であったり、本人の中に変化が起きてしまった時に、チームの他の人に対する悪影響があまりにも大きいケースですね。

出来る限り状況を見て、トライできる形が作れないか試行錯誤するんですけれど、他のチームメンバーがもたない時があります。なので、そこはしっかり意思決定しなきゃいけないシーンかと。

もう1つは、その人が本来欲しい給与とその対価が見合わなくて、じりじり降格みたいな形で下がっていくケース。弊社は降格もはっきりさせていて、コンピテンシーで評価しています。そうすると、たとえば前職で1千万円ぐらいもらっていて、自社に700万円ぐらいで入ってくれた人が600万とかに下がると、選択肢を失いますよね。

その人がそれでもいい、ということであれば成り立ちますが、ご家族などの状況も含めて難しいことは当然あります。そのときに「延命してはいけない」という点は、この約15年で本当に痛感しています。

いい人ほど頑張ろうとなってしまうのですが、結果としてすごく苦しめてしまったことが特に創業期にはいくつかありました。当時は退職率ゼロで、そこを誇りに思っていた部分もあったのですが、そうじゃないんだなと痛感した出来事もあります。

今は大体9〜10%ぐらいの退職率です。これぐらいの退職率が健全ですし、いい新陳代謝にもなります。お互い新しい形で挑戦できるということは、応援していいことだと思うのです。

起業するメンバーも多いのですが、そういうメンバーと外の繋がりを形成できることは、1つの幸せな形かなと思っています。

飯田:なるほど。そういうところまで含めてしっかり向き合うのであれば、相当な覚悟とやりきる力、意志を持った人が大切になるという話ですね。

土屋:ちなみに、退職インタビューみたいなのをやってますか?

稲垣:やってます。

土屋:やっている会社とまだやっていない会社もあるかなと思います。僕らも退職が増えた時に、人事がインタビューする仕組みを整えました。本当の退職理由は出ないんですよね、人事であっても。ただ、最後に良い関係で、お互いある程度言える部分まで言いたいことを言って、それを会社側が課題として受け取る。そこまでやる姿勢が求められると思いました。

退職インタビューをして、僕が辞めていくメンバーに「お疲れ様」と伝え、退職を見届ける。その一連のプロセスを重視しています。

飯田:ありがとうございます。辞める・辞めないもそうですけれども、ご本人のキャリアにとってプラスの選択肢になるように、自分たちの会社で過ごしてもらった時間が良かったなと振り返れるように、入口から終わりまでしっかり向き合い続けることが重要だと感じました。

小さいチームから大きなチームへと成長する際のポイント

飯田:ちょっと話題を変えます。お二人とも創業から経験されて、今は上場企業で社員も数百名というような状況になっていますが、創業期の人事制度と今の人事制度は当然違うと思います。

よく、組織30人・50人・100人の壁と言ったりしますよね。少人数だったときと、今の数百人規模の頃を比べて「人事制度で一番ここが変わったな」と思う点は何でしょうか?小さいチームから一定規模のチームに成長する上で、特に重要なこと、何が大事なのかを教えていただければと思います。稲垣さんいかがでしょうか?

稲垣:あまり変わっていないかもしれません(笑)。いわゆるコンピテンシーで評価する点から、それを階段状にして「エッジ」「エグゼキューション」「バリュー」という軸で評価制度を作っています。それは昔から変わっていません。

ひとつあるのは、作り込み過ぎても意味がないということ。その時に必要なことを作り、また必要なタイミングで改定するほうがいいので、あまり先を見据えて作り込み過ぎないほうがいいと考えています。

それを前提にして、ほとんど同じベースを持ちながらこれまでやってきています。たとえば創業当時は提供プロダクトがSPEEDAのみだったので、アナリストや営業、エンジニアやデザイナーという括りでした。その後NewsPicksを始めると、今度は編集部や制作物のクリエイターが増えてきたので、そこのエッジをどういうふうに評価できるか?ということで、初めてそこに関するコンピテンシーを作り始めます。

海外にいくとまた毛色が変わったりもするので、そういった意味での拡張性を持った上で、必要なシーンがきたら作っていく。根幹の思想として、マネジメントが得意な人でもエンジニアのようにずっと作っていたい人であっても、同じ成果を出せば同じように評価され、報酬の対価を得られる。そこの思想はずっと一貫して持ってきているので、それをベースにここまで拡張させてきた感じです。

土屋:ちなみに、人事制度がしっかりできたタイミングは何人ぐらいですか?

稲垣:創業1年目は、360度フィードバックは実施していたんですけれど、3年目に初めて給与の差をつけられるようになってきました。そこから給与テーブルを適用して、あとはテーブルをブラッシュアップし続けてる感じですね。

土屋:早いですね。

飯田:考え方や仕組みの根幹が一貫していらっしゃるということですね。土屋さんはいかがでしょうか?

土屋:僕らは50人まで人事制度がありませんでした(笑)。大失敗の話ではあるんですけども、3〜4年で50人規模になって急成長したのですが、僕自身もともと組織マネジメントをやったことなく起業をした身なんです。過去に働いた会社でも、給与テーブルや人事制度がしっかりしている会社で働いたことがなかった。そのため、仕組みがよくわかってなかったんですよね。

もう本当に中小企業のオーナー的な形で、入社して半年ぐらい経ってちょっと活躍しているメンバーがいたら呼んで「来月から給料3万円アップ」みたいな(笑)。飯田さんもわかると思うのですが。

飯田:そうですね(笑)。私も学生起業なので。

土屋:そこから組織が急拡大していく中で、それではいけない、と気づいたんですが時すでに遅し、みたいな感じで。ビジョンとミッションが言語化されたのが創業2年半、そこからバリューや行動指針の策定ができれば良かったんですけど、これがなかなか作れませんでした。時間が無かったところもあるんですけども、出来上がったタイミングが70人の時だったんです。

そこから人事制度に落とし込む。僕らではできなかったので、70人社員がいるタイミングでコンサルタントを呼びました。行動指針とビジョンに照らし合わせながら、半年〜1年ぐらいかけて評価制度を作っていきました。

これが最終的に出来上がったのが、100人のタイミングです。組織的にかなり鬱憤が溜まっている状態でした。急成長の中でまともにマネジメントされてない状態、マネージャーが全然機能していない状態だったんです。

専門家と一緒に人事制度を作っていることは社内に伝えていて、要所要所で共有やレビューも入れていました。そして、いざ100人になったタイミングで、作り込まれた人事評価制度を社内に出して「これを基に評価していきます」と伝えたら、大炎上しました(笑)。

バリュー評価がありますよね、行動指針に基づいた評価。あれに対してすごい反発が来たんです。やると事前に伝えていたのですが反発され、そこから退職が続いていきました。

これは評価制度の話ではなく、そもそも経営陣に対する信頼みたいなところが損なわれていた中で評価制度を提示した結果、それがトリガーになっちゃったんです。評価が終わったメンバーから「辞めます」「私も辞めます」みたいな。それが100人の時です。

コンサル料だけでも1千万円近くかかるのですが、それがすべて無駄になりまして(笑)。そこから1年間は何もできない。評価もまともに回らない、何もできないという期間を経て、その1年後に複雑な評価制度は一切止めて、OKRを導入しました。Objectives(目標)とKey Results(成果指標)だけ経営側で設定し、それをブレイクダウンしてメンバーラインに落としていきました。

経営者が評価するのではなく、マネージャーとメンバーの信頼関係のもと、期待値通りの働きかどうかを1on1ですり合わせ、目標をローリングしながら半期に一度フィードバックしていくやり方に変えていった感じです。

飯田:そういう意味では、精緻なほうがいいわけではなくて、ミッションとバリューを大切にしながら、そこに接続するような施策や制度を一歩一歩作っていく。そういうことが大事になってくると思います。

1on1の活用方法

飯田:1on1の中で評価をメンバーとマネージャーですり合わせていくお話をいただきました。今まさに視聴者から「1on1をどのように活用していますか?」とご質問いただいています。

1on1をやっているものの有効にワークしていないケースや、「1o1をやっている会社が増えてると聞いたけど、まだやっていない」「どうすればいいのか、わからない」という方も結構多いと思います。お二人は1on1をどのように活用されていますか?

稲垣:弊社はインフラですね。メンタル的なところもあれば、直属のリーダーからのフィードバックも含めて行われています。基本的に1on1ですり合わせるのは、OKRなどの目標に向かって問題なくトレースできているのか、問題があれば何か変えなければいけないのか。そうしたギャップを見極めて対応することだと思うので、基本そこの調整のための時間だと理解しています。

ただし、往々にしてそうではない相談ごとや悩みを聞く場になることも結構あるので、パターンを分けることが多いかもしれません。「今日は相談だよ」となったら相談にします。1on1は基本的に目標を調整する時間なので、相談や悩みに関しては分けて使っているケースが多いかなと思います。

飯田:土屋さんはいかがでしょうか?

土屋:そうですね。どうしても目の前の仕事に対するレビューや相談ごとが多くなってしまいがちですよね。それも大事とは思いますが、いわゆるタームを決めて1か月に1回、メンバーのキャリアをトークテーマにして話したり、会社の方向性に対してメンバーの今やっていることがどう紐付いているのか、という点などを話します。

テーマをちゃんと決めて話ができる仕組みにしないといけない、そう思っています。僕らはまだ完璧にできていない状態ではあるんですけれど、それをやらないといけないなと思っています。

あと評価は半期に1回なんですけれど、「びっくり評価」がないようにしなきゃいけない。

期初に目標を決め、そこから1on1はやっているけど、そこに対してすり合わせることがない状態の場合、半年後にメンバー自身が「期待値よりできているな」と思っている一方で、マネージャーが「全然なんだけど」と思っていたら、大きな乖離が発生します。

そのため、ちゃんと中間レビューを入れたり、「今やっていることは期待値から結構ズレているよ」という点を、お互い認識できる状態に持っていかなきゃいけないと思っています。

飯田:そうですね。退職や社員の不満が爆発する時というのは、何かを溜め込んだりとか、思っていたのと全く違うことが起きちゃうことがトリガーになりやすいと思っています。

びっくりするような評価にならないように、日々しっかりとコミュニケーションしてすり合わせていく。この点は非常に重要なポイントだと感じました。

どのように事業家や経営者を育てているか?

飯田:ユーザベースさんは、さまざまな事業を展開されていて、グッドパッチさんも東京に加えてベルリンにもオフィスを展開されていますが、拠点が増えたり事業が増えたりすると、既存事業を管理・改善していくマネージャーの他に、いわゆる事業家・事業責任者にあたる人を育てていくことも重要になってきますよね。

どのように事業家や経営者を育てているのか、稲垣さんどうですか?結構早いタイミングから複数事業を展開されていると思うんですけれども。

稲垣:そうですね。最初は正直意図したわけではないんですけど、いわゆる今でいう「両利きの経営」の深化と探索をやっていたように思います。ちょうど今NewsPicksで両利きの経営に関する特集をやっているので、よかったら読んでください(笑)。

SPEEDAという事業が最初にできて、そこを深化させていく。広がりもあれば色々なポジションも必要になってくるため、一部抜擢みたいなものが結果として起きます。

あとは、弊社はグローバルのデータを日本の方々へ届けることもそうですし、グローバルのデータを持ってグローバルに進出するチャレンジを2013年からやっていました。香港やシンガポールに拠点を作ると、そこに拠点長が必要になるシーンがあるので、そこでまたポジションができることもあります。

かつ、上場のタイミングでNewsPicksを思いつき、やりたくなって立ち上げちゃったんですけど(笑)。いくつか複数展開をかけた時に、私は最初エンジニアだったのですが、事業責任者としてやらなきゃいけなくなったんです。

ただ、やらざるを得なくなった結果、自分ができることも増えたんですよね。なので、責任とセットのポジションがちゃんと提供されていて、そこで挑戦し、原体験が生まれていくと、「自分はこういうことをやりたい」「ここを変えたい」というエンジンになると思うんです。

責任ある仕事が生まれる→色々なポジションが生まれる→原体験が増える、このサイクルが弊社の強みだと思います。手を広げすぎじゃないか?という問いは常に難しいんですけど、既存事業を深めていく深化の話と、新規事業を探索していく話。この両面で色々と挑戦することでポジションが生まれます。

そこで挑戦したメンバーについては、その事業がうまくいけば、その責任者になっていくと思いますし、仮にコケても、既存事業へ戻った時に全く違う能力の発揮の仕方をします。なので、その連鎖ができていることが強さだと思ってますね。

新しいポジションに抜擢される人物とは?

飯田:立場が人を作るという点はすごく理解できるんですけれど、一方で誰かれかまわず抜擢すればいいわけでもないと思うんです。新しいポジションが出た時に、そのポジションに抜擢される方はどういう人でしょうか?

稲垣:1つは「やりたい」という意志につきますね。その意志に裏打ちされた何らかの原体験があれば、「これを本当に変えたい」という気持ちを持てるので、多少届かなくてもその意志に賭けることがあります。

もう1つ、頼まれるケースでいうと「逃げない人」です。見ていても多いですね。最後はこの人にここを一緒にやってほしいと抜擢されたり。創業時から一緒にやってきている坂本(坂本 大典:NewsPicks 執行役員 CRO/新規事業担当)というメンバーがいます。彼はインターンから始めて、今は役員なんですけれど、彼が一番成長してきた理由は、常に他の創業者から頼られ続けたからです。理由は「逃げない強さ」でした。

大枠だけ設定し、あとは事業責任者に任せる

飯田:ありがとうございます。土屋さんはいかがでしょうか?複数拠点を運営されていらっしゃる中で、事業責任者・事業家をどのように育成されていますか?

土屋:弊社はデザイン会社でありながら、この11年間で新規事業を11個立ち上げています。一応勝率でいうと3割5分ぐらいです。「Anywhere」や「ReDesigner」というデザイナーの人材紹介ビジネスが、今デザインプラットフォーム事業というところで非常に伸びているサービスになっています。

この2つのサービスの事業責任者は、創業期に近いところからいる古株のメンバー、それこそ組織崩壊が起こった中でも辞めなかった二人なんですが、彼らがいろんなポジションで歯を食いしばって耐えてる中で、僕はそこにチャンスをあげたいと思いました。

テーマは僕が渡して、「この領域とこの領域で立ち上げてくれ」と。ほぼ同時に立ち上がっているんですけれど、領域だけ指示して、あとは責任とセットで彼らに任せました。その結果、人材が育っていったところがあります。これは組織にとっても成功体験になっています。

また、今後さらにいろんな事業を立ち上げていくことに加え、クライアントワークのビジネスの中でも、事業責任者や役員と同じ目線に立てるかどうかが大事なんです。

日本のデザイナーは、ビジネスや経営という観点に立てる人がすごい少ないんですね。そうであれば、デザイナーをちゃんと事業家として育てていこうかと。そこで「アントレパッチ」という、デザイナーを事業家に育成するプログラムを立ち上げました。

ほとんどがケーススタディです。成長していった会社の成長の軌跡や、どんな意思決定とどんなアクションによって成長したのかをトレースして、実際の起業家・責任者に質問しに行く、ということを直近1年やりました。SmartHRの宮田さんやココナラの南さんといったように、僕とつながりのある人にお願いし、考えてきたことに対してどういう差分があるのかをフィードバックしてもらいました。

飯田:その成果はいかがですか?事業家や事業家候補だと思える人は着実に増えていらっしゃるんですか?

土屋:まだ1年やったばかりなので、すぐにというわけではありません。ただ、ここに投資しようかなと考えたときに、育成してきた人たちの中から選べる状況です。

飯田:素晴らしいですね。逃げない人材に任せることが大事である一方で、チャレンジしがい、やりがいのある環境を作っていくのは、逆に人事や経営側の責任ですよね。

逃げずにやりきる人材の見極め方

飯田:お二方から共通してキーワードとして上がってきたのが、逃げずにやりきる人材に任せたい、ということでした。この逃げずにやりきれる人材、なかなか見極めることが難しいと思うのです。「彼ら/彼女らなら大丈夫」と思っていたら「辞めます」「やりたくありません」と反応されることもありますよね。

逃げずにやりきる人材をどのように見極め、そして育てていらっしゃいますか?

土屋:質問で「給与未払い2か月でも逃げない人は、強さに結びつくのでしょうか?」と来てますね(笑)。それは違うと思います。

飯田:この場合は私も逃げたほうがいいと思います(笑)。

土屋:だいぶ前にインタビューで応えたこともあるのですが、やはり乗る側としては乗り続けるべき船かそうじゃないかも見極める必要があると思っています。逃げないというのは、大前提として経営陣がそこの課題に向き合っているかが重要です。

組織課題や事業課題があった時に、経営トップもしくは経営ボードがそこの課題をちゃんと明らかにして向き合っている姿勢がある会社は、一時的にしんどかったとしても、ちゃんと浮上していくポテンシャルのある会社だったりするので、逃げないほうがいい。

あとはマーケット。中長期で見て伸びる見込みがあれば、逃げないほうがいいんですよね。経営トップが課題に向き合わないとか、給料を未払いするとかは論外だと思っていて、そういうところには、いる必要はありません。そこの見極めがまずメンバーレイヤーですごく必要だと思います。

飯田:逃げないというより、適切な場所でチャレンジしきれる人材というイメージかもしれませんね。そういう人の見極め方はどうすればいいでしょうか?

稲垣:コメントにも「搾取」みたいなワードがありますね。お互いが一緒にやる意味を見いだせるか、その事業を本当にやりたいとお互いが思っているか、その実現方法としてのバリューがあった時に、どういう思想でやっていくことがお互いハッピーなのかが合致しているか。これらが大前提だと思うんです。

それがちょっとでも違えば、そこにいることって不幸になっちゃうと思うんですよね。しっかり合っていれば、ありのままの自分で頑張ることが素直にできる環境なので、耐える力とはちょっと違う気がするんですよね。

意志を込めて頑張る、ということが大前提。その上で、辛いことがあった時に逃げずに乗り切れるかどうか。そういう順番で見ないといけないので、そこが全てのポイントじゃないかなと思います。

飯田:ありがとうございます。土屋さんいかがでしょうか?

土屋:やはり見極めるのは難しいんですよね。もちろん面接で、過去の経験の中から辛い状況をどうやって乗り越えたか聞くことはあるんですけど、それが本当に再現されるかどうかは、実際一緒に働いてみないとわかりません。

ですので、経営陣としてはちゃんと向かうべき理由の提示だとか、本当に社会的に意義のあることをやっているかとか、あとは情報の透明性とか、そういうのをちゃんと整えておく。要するに、事業責任者が自分に打ち勝てるような環境要因を、なるべく会社側が整える必要があると思っています。

飯田:そういうことですよね、ありがとうございます。実は今日の朝、メルカリの木下CHROにもご講演いただいたのですが、お二方に加えて木下さんの話も、煮詰めていくと共通項があると思いました。

まずはミッションやそれを体現するためのバリューをちゃんと明確化した上で、経営陣がそこに対してコミットしているかどうか。そして、そこに対して「一緒に頑張っていこう」と従業員に船に乗ってもらい、やりきってもらえるようにしっかりサポートしていく。あるいは、志を忘れずに前向きに頑張ってもらう、といった内容だと思います。

色々な事例を交えながらお話を伺ってきましたが、やはりそこの部分が一番重要な部分になってくると感じました。

早いものでまもなくお時間です。本日はユーザベースから稲垣さん、そしてグッドパッチから土屋さんにお越しいただきました。ありがとうございます。

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