本記事では、CSRの意味やメリット・デメリット、CSR活動に取り組む企業の事例などを中心に解説していきます。
CSRの意味や定義とは?具体的なCSR活動を紹介
CSRとは「企業が利益を追求するだけではなく、社会の一員として、環境活動や寄付活動などを通して世の中に貢献すること、またその義務」を意味します。
CSRは、Corporate Social Responsibilityの頭文字を取ったものです。
Corporate:企業の、組織の、団体の
Social:社会の、社会的な、社交的な
Responsibility:責任、責務、負担
それぞれの意味を組み合わせて、「企業の社会的責任」「企業が社会に果たすべき責任」と訳されます。企業の価値を向上させるうえで欠かせない要素です。
CSRの本質
公益社団法人経済同友会は、CSRを「企業と社会の相乗発展を目指すうえで欠かせない概念」とし、以下の3項目をCSRの本質だと主張しています。
【CSRの本質】
- CSRは企業と社会の持続的な相乗発展に資する
- CSRは、社会の持続可能な発展とともに、企業の持続的な価値創造や競争力向上にも結び付く。その意味で、企業活動の経済的側面と社会・人間的側面は「主」と「従」の関係ではなく、両者は一体のものとして考えられている。
- CSRは事業の中核に位置付けるべき「投資」である
- CSRは、事業の中核に位置付けるべき取り組みであり、企業の持続的発展に向けた「投資」である。
- CSRは自主的取り組みである
- CSRは、コンプライアンス(法令・倫理等遵守)以上の自主的な取り組みである。
具体的なCSR活動とは?
具体的なCSR活動は、以下のとおりです。
- 株主還元(配当金、株主優待など)
- 環境問題への取り組み(洋服のリユース、プラスチック削減など)
- ボランティア活動(募金活動、地域活動や被災地支援など)
日本企業で多いのは汚染防止・植林活動・生物の保護などの環境保護です。
ダイキン工業株式会社は「”空気をはぐくむ森”プロジェクト」を実施し、北海道の知床含む世界7ヶ所において、約1,100万haの森林を保全しています。植林だけでなく、地域住民が持続的に生活できるよう支援し、持続可能な開発目標に貢献しています。
参考:「空気をはぐくむ森」プロジェクト | CSR・環境|ダイキン工業株式会社
CSRが広まった社会的背景5つ
CSRが脚光を浴び始めたのは2003年頃です。CSRが広まった要因は、大きく5つあります。
1.企業の不祥事
2001年にアメリカの大手企業エンロンの粉飾決算が発覚しました。この事件が社会に与えた影響は甚大で、それ以降、企業は社会からの疑心暗鬼の目と戦わなければならなくなりました。国内でも三菱自動車の燃費データ不正など、不祥事が相次いで明るみになりました。食品の偽装表示や談合などが繰り返されるなど、不正が多く発覚しました。
企業の利益追求は重要ですが、不当や不正があってはいけません。質の高い商品やサービスを提供し、環境への配慮も忘れず、利益を追求する姿勢が求められています。
参考:企業の不祥事とCSR
2.グローバル化
グローバル化が進み、企業は活動におけるさまざまなプロセスで社会に影響を与えるようになりました。特に多国籍企業は、海外拠点で現地人を雇用しますし、商品は世界中で消費されます。企業の規模が大きいほど、進出先の国において環境や経済など多くの面で影響力を持ちます。グローバル化に伴い、企業が社会に対して持つ責任は大きくなっているのです。
3.企業活動の規制緩和
世界的に企業活動の規制緩和が進み、活動範囲が拡大しました。例えば、電力供給の自由化です。公営企業の民営化により、民間企業が多くのサービスを提供できるようになりました。そのため、企業は自社の理念に基づき、自己責任で公正に行動することが求められるようになっています。
4.環境問題の深刻化
世界の発展に伴い多くの環境問題が深刻化しています。地球温暖化や生態系破壊など、世界規模の課題もあります。世界的に「持続可能な発展」という概念が浸透し、よりクリーンなエネルギーへのシフトが求められています。日本では、脱炭素として2030年前半にはガソリン車販売禁止を政府が発表しました1。企業活動が環境に与える影響をしっかり認識することが必要になっているのです。
参考:東洋経済ONLINE|政府が「2030年ガソリン車禁止」を打ち出した訳
5.社会的責任投資(SRI)の発展
社会的責任投資(SRI:Socially Responsible Investmentの略)とは、投資家が企業の経済性だけでなく社会性も評価する投資手法のことです。つまり、社会的責任を果たしている企業かどうかを基準に投資先を選別することを意味します。
SRIが発展したことで、CSR活動を怠る企業は、自然と振るいにかけられるようになりました。
国別のCSR活動の特徴
CSR活動の特徴は国によって異なります。CSR先進国のイギリスとアメリカについて解説します。
イギリスのCSR活動|政府主導
ヨーロッパ圏のCSR先進国イギリスは、政府が積極的にCSRを支援しています。
例えば、以下の取り組みです。
- 政府は、NPOやNGOなどのCSR関連組織のコンサルティングサービスを積極的に利用するよう推奨しています。NPOのなかには、チャールズ皇太子が総裁を務めるBusiness In The Community(BITC)もあります。
- 貿易産業省(DTI)は、「持続可能な開発」をキーワードに、CSR普及の環境整備、インセンティブ供与(CSRのビジネスケース紹介、企業による達成への表彰など)を実施しています。
イギリス市民は環境問題や労働・雇用に強い関心がもっているため、CSRは企業活動の根幹として位置付けられています。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構|企業の社会的責任(CSR):イギリス政府主導によるCSRの積極的展開
アメリカのCSR活動|SRIと民間主導
アメリカのCSR活動には2点の特徴があります。1つ目は社会的責任投資(SRI)です。アメリカではSRIが盛んで、2009年時点で投資規模が約3兆ドルにまで増大しています2。そのため企業は、投資対象となるべく自発的にCSRに努めます。
2つ目が民間主導である点です。「企業が生み出した利益を、貧困や災害などに苦しむ地域住民へ還元する」という文化が根づいています。そのため、政府が積極的に介入することはありません。
<アメリカのCSR活動事例>
- マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は、2000年に世界最大の慈善団体「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ基金」を設立し、アジアやアフリカの途上国の、感染症対策や貧困対策などに尽力3しています。
- 全米自動車労働組合(UAW)主導のハリケーン(カトリーナ)被災地支援では、まずUAWが寄付金を集め、不足分をジェネラルモーターズ(GM)社が補填しました。さらにGMは、食物や衣類の寄付や、自社の自動車ローンを抱える被害者に対しても援助をしました。
参考:大和証券|拡大が期待される日本のSRI(社会的責任投資)市場
参考:朝日新聞DIGITAL|ビル&メリンダ・ゲイツと考える|未来をつくろう
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構|企業の社会的責任(CSR):アメリカCSR促進をもたらす社会的責任投資(SRI)
CSRのメリット|企業価値の向上
CSR活動で社会的責任を果たすことには多くのメリットがあります。環境、経済などへ配慮した企業活動によって、社会からの信頼はとても高まります。
<CSRがもたらす主なメリット>
- 収益が安定する
- 企業価値や企業イメージの向上
- 不正行為、不当に得た利益、違法行為を排除
- 事業継続のリスクマネジメント
- ステークホルダーとの関係強化
- 従業員の帰属意識向上
- 取引先や顧客からの資材調達の安定化
「CSR 方針が明確な企業の方が収益の変動性(リスク)はより小さく、市場の評価は高い」という調査結果4もあります。継続的・長期的なCSR活動は企業の収益やイメージ向上に大きく貢献するでしょう。
参考:早稲田大学ファイナンス総合研究所|企業の社会的責任(CSR)活動とパフォーマンス:企業収益とリスク
参考:財団法人人権教育啓発推進センター|「CSR」で会社が変わる、社会が変わる
CSRのデメリット
一方で、CSRには以下のデメリットがあります。
- コストの増加
- 人手不足
- 経営方針や事業活動の自由度低下
CSR活動に合わせた組織運営や体制づくりによって、コスト増加や人手不足、経営の自由度低下などの課題が発生してしまうのです。そのため、設立間もない企業や業績が悪い企業は取り組みにくいでしょう。
参考:東京商工会議所|「企業の社会的責任(CSR)」についてのアンケート調査
CSRの企業事例紹介
CSRに積極的に取り組んでいる企業の事例を2つ紹介します。継続的かつ長期的に取り組むことで、幅広い社会的信頼を得ることが可能です。
1.KDDI
国内大手通信事業会社であるKDDIは
以下の6つの重要課題(マテリアリティ)を軸にCSR活動を推進しています。
- 安全で強靭な情報通信社会の構築
- 情報セキュリティの確保とプライバシーの保護
- ICTを通じた心豊かな暮らしの実現
- 多様な人財の育成と働きがいのある労働環境の実現
- 人権尊重と公正な事業活動の推進
- エネルギー効率の向上と資源循環の達成
KDDIはサステナビリティ担当役員を配置するなど、経営陣が率先してCSRにコミットしています。このような積極的な取り組みが評価され、週間東洋経済の「CSR企業」ランキングで2年連続(2020年、2021年)で1位を獲得しました5。
参考:東洋経済ONLINE|信頼される「CSR企業」ランキングTOP500社
2.富士フイルムホールディングス
富士フイルムグループはCSRを「誠実かつ公正な事業活動を通じて企業理念を実践することにより、社会の持続可能な発展に貢献すること」と捉え、環境保全や自然保護を中心に注力しています。具体的には、このCSRの考え方を以下の4項目へ落とし込んでいます。
“【引用】 ・グローバルおよび地域の様々な環境・社会課題を認識し、事業活動を通してその解決に向けた価値を提供していきます。
・私たちの事業プロセスが環境・社会に与える影響を常に評価し、その継続的な改善を進めるとともに、社会にポジティブな影響を広めていきます。
・ステークホルダーとのコミュニケーションを通して、社会の要請や期待に適切に応えているか、私たちの活動を常に見直していきます。
・積極的に情報開示を進め、企業の透明性を高めます。”
【引用】富士フイルムホールディングス株式会社|CSRの考え方と各種方針
このような長期的なCSR活動が評価され、週間東洋経済が発表した「CSR企業」ランキングで2020年に5位、2021年に3位を獲得しています6。
参考:東洋経済ONLINE|信頼される「CSR企業」ランキングTOP500社
CSRとの違いは?サステナビリティやSDGsの違いを解説
CSR、サステナビリティ、SDGsについて解説します。
サステナビリティ
サステナビリティ(Sustainability)は「持続可能性」を意味します。「環境・社会・経済の3つの観点から、世の中を持続可能な状態にしていこう」という考え方です。サステナビリティは個人や国の活動も含みますが、CSRは企業活動に限定されます。
参考:サステナビリティ│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券
SDGs
SDGs(Sustainable Development Goals)は、「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す」国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成されており、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。先進国・発展途上国関係なく、世界全体が取り組むべき「持続可能な開発目標」とされています。
参考:SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
SDGsはビジネスを通して社会問題を解決する取り組みです。一方、CSRは利益を追求しない企業活動で社会貢献をします。
CSR・サステナビリティ・SDGsの違いまとめ
CSR、サステナビリティ、SDGsは「環境・社会・経済に対して貢献する」という方向性は同じですが、以下の表のような違いがあります。
用語 | 意味 | 概要 |
CSR | 企業の社会的責任 | 社会的な影響力を自覚し、企業活動で社会貢献する |
サステナビリティ | 持続可能性 | 企業、個人、国が社会貢献する |
SDGs | 持続可能な開発目標 | ビジネスを通じて社会問題を解決する |
まとめ|CSRを通じて社会と企業が相乗発展しよう
CSRは「社会の一員という自覚を持ち、企業が社会貢献する」という考え方です。また、ボランティア活動や慈善事業ではなく、それらを含めて世の中をより良くするための企業活動全般を意味します。
CSR活動は、環境・社会・経済の持続的な発展と企業の成長、どちらにも欠かせない重要な概念です。今後の企業活動を向上させるためにも、改めてCSRに対する理解を深めておくことが望ましいでしょう。
本記事が今後の参考となれば幸いです。
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