内閣府の試算によると、1人の従業員が休職を経て復職する場合、休職に伴う生産性の低下と業務の代替で平均442万円ものコストが発生するとされています。
しかし、問題はコストだけではありません。休職者の発生は残された従業員の業務負担を増大させ、さらなる休職者や退職者を生み出す危険性があります。休職の連鎖を回避するためには、休職の前兆を早期に発見し、適切な対策を講じることが不可欠です。
本記事では、休職前によく見られる変化と休職の予防策について解説します。
休職の前兆?従業員の見逃せない変化7つ
多くの場合、休職に至る前には何らかの兆候が表れます。企業側が注意すべき、休職につながるリスクのある従業員の変化について見ていきましょう。
勤怠の乱れ
突発的な遅刻や欠勤の増加、長時間・頻繁な離席、残業時間の急激な増加などが見られる場合、従業員の心身の状態が変化している可能性があります。
たとえば「これまで時間を守っていた従業員が予告なしに遅刻や欠勤を繰り返すようになった」「業務中に頻繁に席を離れるようになった」という変化は、心身の不調で「会社に行こうとしたけれどダメだった」「仕事の途中で耐えられなくなり気持ちを落ち着けていた」行動の表れかもしれません。
また、業務量に変化がないにもかかわらず残業時間が突然増加した場合、集中力の低下による業務効率の悪化も考えられるでしょう。
業務パフォーマンスの低下
仕事の質や量が依然と比べて明らかに低下したり、普段はしないようなミスが増加したりすることも休職の前兆です。ほかには、仕事の進捗が遅れて納期や提出期限に間に合わない、落ち着きのない動きや作業中の頻繁な離席が増えるといったケースもあります。
これらの変化が見られたら、従業員の意欲が低下しているか、何らかの問題を抱えていて心ここにあらずの状態となっている可能性があるでしょう。
コミュニケーション行動の減少
「最近一人でいることが多く、すぐ人の輪から離れてしまう」「話しかければ答えてくれるけれど、最近会話が続かない」といった従業員はいないでしょうか。
職場で孤立する行動が増える、休日のプライベートでの趣味や交流活動をやめるといった変化は、従業員の人や社会との関わりを持つ気力の減少を示しています。個人的な状況の変化やメンタル的な問題で、人との関わりが大きな負担となっている可能性があります。
外見の変化
「以前は外見に気を配っていたのに、最近洗濯をしていないような服を着ている」「髪型や髭が整えられていない」といった外見の変化も、休職の前兆といえます。身だしなみの乱れは、自己管理能力の低下やうつ病による無気力の表れかもしれません。
また、短期間での著しい体重の増減は、生活環境の乱れやストレスによる暴食や拒食、あるいは病気が原因として考えられます。従業員の心身の状態に何らかの問題が生じている可能性が高い重要なサインです。
態度の変化
職場での従業員の態度は、内面の変化を映し出す鏡のようなものです。日々の業務のなかで従業員の様子に以下のような態度が見られたら、一時的なものかを観察しておいたほうがよいでしょう。
- 極度の疲労感を表に出すようになった
- 新しいタスクに対して拒絶するような態度を取った
- 表情が乏しくなった
- ふとしたことで泣く、攻撃的になるなどの急激な感情の変化が突然起こった
これらの変化は、単なる一時的な気分の変動ではなく、ストレスの蓄積やバーンアウト、うつ病などの深刻な問題の表れである可能性があり、心理的な負担が限界に近づいているサインかもしれません。
急激な身体的不調
頻繁な体調不良の訴えや勤務時間中の睡眠などは、従業員の健康状態の警告サインです。病気や過労のほかにも、ナルコレプシーに代表される睡眠障害やうつ病のような、深刻な問題が潜んでいる危険性があります。
特に注意が必要なのは、これまで健康だった従業員に突然の変化が見られた場合です。一時的な身体的不調だと軽視していると長期的な健康問題につながり、最終的に休職を余儀なくされるおそれがあります。
環境の変化
人生の転機や職場における立場の変化は、従業員の心身に大きな負担をかけ、休職リスクを高める要因となります。
ストレスが必ずしもネガティブな変化に起因しているとは限りません。降格によるモチベーションの低下はもちろん、昇進によるプレッシャーや部下への指導・責任の発生も従業員の心理状態に大きなストレスを与えます。
同様に、家族の介護や離婚、家族との死別だけではなく、結婚や出産によるポジティブな生活スタイルの変化も無意識のうちにストレスとなり得ます。
このような環境の変化を最近経験した従業員がいた場合、しばらく様子を見ておく必要があるでしょう。
休職につながりやすい6つの要因
前述した休職の兆候は、メンタルヘルス不調に起因するものがほとんどです。一般的に、会社への不満がある場合、多くの従業員は休職ではなく退職を選択するでしょう。そのため、休職では「会社を辞める意志はないが、心身に限界をきたした」というケースが多く見られます。
ここでは、休職につながりやすいメンタルヘルス不調の原因を見ていきましょう。
慢性的な過重労働 | 長時間労働や休日出勤の常態化業務量と人員のアンバランス |
職場環境の悪化 | ハラスメントの存在チーム内のコミュニケーション不足不明確な業務指示や役割分担 |
組織変更による不適応 | 異動や昇進による役割の大幅な変化降格による自己肯定感の低下 |
ワークライフバランスの崩壊 | 仕事と私生活の境界の曖昧さ育児や介護との両立困難 |
キャリア不安 | 職場での評価や成果への不安自己成長の実感の欠如 |
職場での孤立感 | リモートワークによる孤独感チーム内での疎外感上司や同僚の理解不足 |
独立行政法人 労働政策研究・研修機構が行った「職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査」では、過去1年間にメンタルヘルス上の理由により連続1カ月以上休職・退職した労働者がいた事業所は25.8%にものぼります。
原因としては、詳細が多岐にわたると思われる「本人の問題」以外では「職場の人間関係」「仕事量・負荷の増大」「責任の増大」などが挙げられています。
※引用:独立行政法人 労働政策研究・研修機構 職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査
従業員の健康と企業の生産性を守る4つの休職予防策
前述した独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査によると、メンタルヘルス不調者の3年後を見てみると全体の約2割が休職から退職、あるいは休職を繰り返すという結果が出ています。そのため休職に至る前の早期発見・予防が必要です。
ここでは、休職を未然に防ぐ対策を4つ解説します。
早期発見・早期対応システムの構築
従業員全員の休職の前兆を、日常的な関わりのなかで捉えることは現実的に難しいでしょう。従業員のメンタルヘルス不調のシグナルを早期に発見し、スムーズな対応につなげるためには、半自動的なシステムの構築が必要です。
- 勤怠データの分析:勤怠管理システムから遅刻や欠勤の増加、残業時間の急激な変化などの兆候を把握する
- 定期的なウェルビーイングサーベイの実施:従業員の心理的健康状態を継続的・定量的にモニタリングし、潜在的な問題を特定する
- 上司や人事部門による定期的な面談:普段から従業員が自分の状況を気軽に話す環境を整え、悩んでいる兆候を捉える機会を設ける
こうした対策の実施により、深刻化する前にメンタルヘルス不調を発見し、迅速な対応が可能となります。
職場環境の改善
前述の調査結果が示すように「職場の人間関係」や「仕事量・負荷の増大」がメンタルヘルス不調の主要因となっています。これらの原因による休職を避けるためには、職場環境の改善が欠かせません。
- フレックスタイム制や在宅勤務制度の導入、有給休暇取得の促進、長時間労働の是正によるワークライフバランスの推進
- ハラスメント防止方針の策定と周知、定期的な研修の実施、管理職向けの特別研修などのハラスメント防止策の実施
- 業務プロセスの見える化による不要な業務の削減、ITツールやRPAの導入による自動化、管理職の意識改革による業務調整など、業務プロセスの効率化と業務量の定期的な見直し
これらの取り組みを通じて従業員のストレスや業務負荷を減らし、メンタルヘルス不調の発生リスクを低減できます。
健康増進策の推進
定期的な健康診断とフォローアップや運動促進プログラムの導入、健康支援の実施といった従業員の健康増進活動も、体調不良による休職を防ぐ有効な対策です。
全国健康保険組合の事例集では「検診コーナーの設置」「禁煙タイムの設置」「健康的な食事を提供するランチミーティング」「社内運動部・同好会の発足」などが、企業の健康増進策として挙げられています。
メンタルヘルスケアの強化
メンタルヘルスケアの強化には、従業員のストレス耐性を高めるためのアプローチも重要です。
- メンタルヘルス研修の定期的な実施
- ストレスマネジメント技法、レジリエンス強化、部下のメンタルヘルス不調の早期発見などのメンタルヘルス研修の実施
- 電話やオンラインで相談できる外部EAP(従業員支援プログラム)サービスとの契約
これらの取り組みにより、従業員のメンタルヘルスへの意識を高め、休職につながるメンタル不調の深刻化を防げます。
休職は人材の一時的な欠如ではなく、企業全体の生産性にも大きな影響を与える問題です。実際に、経済産業省でも従業員の健康保持・増進の取り組みは、将来的に会社の収益性を高める「健康経営・健康投資」であると位置づけ推進しています。
従業員の健康管理への投資は、単なる福利厚生にとどまらず、生産性や企業価値を向上させるための投資といえるでしょう。
休職の前兆の早期察知と従業員ウェルビーイング実現に向けて
心身の不調が主要因である休職は、退職と比較して短期間に状況が進むケースが多く、兆候がわかりにくい面があります。そのため、休職リスクのある社員を早期に発見し、適切なケアを行うことが重要です。
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