適性検査

性格適性検査データを活用して採用基準を定義する【前編】

本レポートは、ミキワメが開催したセミナーの要約記事です。株式会社リーディングマーク組織心理研究所の佐藤がお話しした性格適性検査の活用方法について、前編・後編の2回に分けてお届けします。前編では、性格適性検査の特徴とパーソナリティの捉え方についてまとめました。

別ページにて後編も掲載していますので、ぜひご覧ください。後編では、性格検査データを採用選考で活用する具体的な方法を紹介します。

こんにちは。株式会社リーディングマーク組織心理研究所の佐藤です。採用選考で使われる性格適性検査や、適性検査の中の「性格」「資質」「パーソナリティ」といった項目について、皆さんはどれぐらい詳しく理解し、有効活用できているでしょうか。

性格の測定結果は解釈や活用の難易度が高く、参考にする程度に終わってしまっている方も少なくありません。

今回は、性格検査データを選考で有効活用するために、性格の捉え方や、採用基準への落とし込み方、解釈の仕方をお話させていただきます。

性格適性検査とは

性格適性検査とは、採用選考で実施される適性検査のうち、性格や資質・パーソナリティといった、個人の考え方や価値観の方向性をアンケート(質問紙)形式の調査によって客観的に測定するものです。

人間が行う面接選考では、どうしても心理的なバイアス(偏り)が生じてしまい、自分と属性や性格の近い人材を高評価したり、特定のスキルのみにフォーカスしたりする傾向があり、客観的な評価が難しいとされています。どんなに熟練の面接官であっても、こうした無意識のバイアスを完全に排除することはできません。そこで、適性検査のような客観的に判断できる指標とあわせて比較検討することで、選考の精度を向上させる効果が期待できます。

性格適性検査の有効性は科学的に示されているものの、短絡的に解釈したり、使い方を誤ったりすれば、人材に対する評価バイアスを助長しかねません。そのため、思い切った分析や評価への活用がしづらいデメリットがあります。

では、どうすれば性格適性検査を有効活用できるのでしょうか。ここからは、心理学的な性格の測定方法について解説します。

性格の捉え方

パーソナリティの類型論と特性論

そもそも性格(パーソナリティ)を数量化する方法は、心理学、とくに心理測定、テスト理論という学術的な背景に基づいて作成されていることがほとんどです。本来パーソナリティの測定は、目に見えない人の考え方や価値観の方向性を、数量的な指標によって可視化することで、人間のさまざまな傾向を研究・分析するためにおこなわれます。

「こういう性格の人は、こういう行動を起こしやすい」「日本人とアメリカ人を比較すると、日本人にはこういう性格の人が多い」といった、一般的な心理傾向や行動特性を比較検討し、研究対象として分析するためのアプローチ方法といえるでしょう。

性格の分析については、昔からさまざまな研究が行われていますが、大きく2つの考え方があります。それが「類型論」と「特性論」です。

性格の類型論は、人間の性格を複数のタイプ(カテゴリ)に分類する方法です。古い理論では、精神病理学的な分類に基づいて性格と体型を結びつけ、「肥満型」「痩せ型」「闘志型」に分類するものがあります。ほかにも、価値観の方向性に基づいて8タイプに分類するユングのタイプ論などがあり、現在ではMBTI(16パーソナリティ)という理論的な枠組みに発展しています。

類型論のメリットは、性格を直感的に捉えやすい点です。「この人は◯◯タイプ」とカテゴリに当てはめることで、特徴がわかりやすくなります。一方で、中途半端で混合的な特徴をもつ人を分類しにくい点がデメリットです。「AタイプとBタイプの中間ぐらい」「どちらかといえばぎりぎりCタイプ」のような表現になってしまい、結果的にその人の個性をうまく読みとれません。また、個人を枠組みに当てはめるため、逆に唯一無二の個性を度外視した分析となるおそれもあります。

そこで登場したのが「特性論」です。特性論では、人間の性格を要素分解し、すべての要素(特性)を全員が持っている前提で、「どの特性をどの程度持っているか」によって性格を把握します。有名なのはBIG FIVE理論で、人の性格はさまざまな文化の違いを超えて5つの特性(外向性、情緒的安定性、協調性、誠実性、開放性)で表現できるとする理論です。

「外向性は高いが、協調性が低い」など、各特性の大小関係によって個性を表現します。特性論のメリットは、個性の詳細な違いを表現できることと、数量的な分析ができるため心理学研究に活用しやすいことです。しかし、直感的な解釈が難しい点はデメリットといえるでしょう。各特性の定義や意味を確実に理解しつつ、どういう組み合わせではどういう人物なのかを解釈できるよう、経験を積む必要があります。

一般的な性格適性検査では、特性論と類型論を組み合わせたアプローチが取られているケースが多いです。複数の特性によって個性を測定しながら、よりわかりやすい解釈をおこなうために、その特性値によって計算された性格タイプに分類します。

初心者のうちは、簡単でシンプルな「タイプ分け」に注目しやすくなるでしょう。しかし重要なのは、測定されている各特性の意味を理解し、個性を豊かに描き出せる解釈技術を身につけることです。これを学ぶことにより、適性検査から個人の人物像が相当レベルまで細かく想定できるようになります。

パーソナリティの解釈

性格適性検査の解釈をおこなう際は、以下のポイントを押さえておくことが重要です。

①強み・弱みを含むフラットな解釈を心がける

性格には良し悪しがありません。主張が強くて主体的に見える人は、別の場面では頑固に見えることがあります。チャレンジ精神がある人は、新しい環境や仕事に挑戦することを好む一方で、飽きっぽく拡散的な思考をもつ傾向があるため、すぐに転職してしまうかもしれません。結果を解釈するときは、その人の尖った特徴を中心に、強みとなる解釈と、リスク(弱み)となる解釈を同時に行うことが重要です。これにより、人物像全体が見えやすくなるほか、解釈のバイアスを抑制できます。

②性格と職能(コンピテンシー)を分けて考える

性格や指向性、能力といった概念は、以下のようなニュアンスで分けて捉えましょう。

  •  指向性:「こういう考え方や行動が好きである」
  •  職能(コンピテンシー):「こういう考え方や行動を実施できる」
  •  性格:「こういう考え方や行動がなじむ、どうしてもそうしてしまう」

性格と指向性、職能(コンピテンシー)は似た方向性を持つ傾向がありますが、イコールではありません。主張が強い人は、主張したいと思っていたり、実際に主張できる能力をもっていたりする可能性が高い、というイメージです。しかし、主張が強い人でも、主張すべきではない場面でコントロールすることや、主張したくないと感じることもあるでしょう。

つまり、性格は指向性や能力(コンピテンシー)の必要条件ではないといえます。この認識を誤ると、特定の性格に対してレッテルを張るようになり、「こういうタイプならこれができるはず」と過度な期待をしてしまうおそれがあります。性格は、あくまで「そう考える・行動することが本人にとって自然である」という意味合いであることを理解し、能力は別の観点で評価・解釈しましょう(後述)。

③全体と部分を往復するような解釈を心がける

検査結果を見るときは、全体のタイプ分けのような傾向と、細部の特徴のどちらか一方に寄るのではなく、往復しながら全体の人物像を解釈しましょう。「Aタイプだから主張が強い」ではなく、「Aタイプで全体的には主張が強いが、問題解決場面ではむしろ協調的に振る舞う特徴がある」のように、全体の傾向を踏まえつつ、細部を見ることで個性が浮かび上がります。

④一見矛盾する傾向にこそ個性が宿る

性格適性検査ではさまざまな特徴を測定するため、関連(相関)し合う要素も多く存在しています。活動性(アクティブさ)が強い人は、フットワークも軽いといった具合です。しかし、これらが一致しないときがあります。「楽観性は高い」ものの、「ポジティブシンキングは低い」のように、本来は同じ方向性になる確率が高い性格同士が逆を向いているときは、そこにその人の葛藤が潜んでおり、個性を掴むチャンスです。

「ベースは前向きだけど、失敗したときの立ち直りは苦手なんだな」といった、より詳細な個人の性格が、この矛盾に宿っています。「検査の精度がおかしいのではないか」と考える前に、実際の人物像と結果を照らし合わせて読み解いてみましょう。

まとめ

前編では、性格適性検査を採用で有効活用するために知っておくべき、パーソナリティ測定の理論や性格の捉え方について紹介しました。

後編では、実際に性格検査データを採用基準に活用する方法や注意点をお伝えしていきます。

また、株式会社リーディングマークでは、採用や社員のマネジメントに役立つさまざまなセミナーを定期開催しています。興味がある方は、ぜひ一度お問い合わせください。

ABOUT ME
佐藤 映
株式会社リーディングマーク プロダクト企画室 組織心理研究所 所長
兼 組織開発事業部 シニアコンサルタント

臨床心理士・公認心理師。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学。修士(教育学)。
京都文教大学で教鞭をとった後、2020年にリーディングマークに入社。
「ミキワメ」の性格検査、ウェルビーイングサーベイの設計責任者を務める。

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