講演レポート

採用力を強化したい経営者・人事が知るべき最先端の「採用学」ご講演者:神戸大学大学院/服部 泰宏氏【みんなのHR博覧会 byミキワメ】

服部様自己紹介

佐藤:皆さんこんにちは。この時間は「採用力を強化したい経営者・人事が知るべき最先端の採用学」というテーマで、神戸大学大学院の服部先生にお話を伺います。

服部先生、どうぞよろしくお願いいたします。

服部:よろしくお願いいたします。

佐藤:では早速、スライドのほうに移っていただければと思います。

服部:あらためまして、神戸大学の服部と申します、よろしくお願いいたします。今日は「採用力を強化したい経営者・人事が知るべき最先端の採用学」とちょっと大きなタイトルのお話です。

ここ数年ぐらいの間に色々なものが変わりました。コロナがあったり、あるいは人々の変化があったりと。今回はそういうものも踏まえ、可能な限り新しい考え方などを皆さんにお届けできればと思います。

学生(求職者)たちのモヤモヤ

服部:それではスライドに移ります。学生や求職者、必ずしも今日は新卒だけに限定するつもりはないのですが、私が目の前で見ているのが学生、あるいはその学生たちが2〜4年と経って転職していくフェーズに会うことが多いので、その人たちの声が私の耳によく届いてきます。 いろんなモヤモヤがあるわけですね。採用活動の根本的な大事さというのは、求職者が抱えるモヤモヤに対して、採用活動がどういうふうにモヤモヤを解消していくかという点に、新しい採用の鍵があると思っています。

では直近のモヤモヤが何かというと、私の関わっている学生たちだとこういう(スライドに書かれている)ものが上がってきます。すべてやると時間が無くなってしまうのですが、たとえば「いい会社だとわかった」。説明会だったり面接だったりで。配属のことも色々聞いたものの、自分がどのような仕事や業務をするのか、どのようなキャリアなのか、こうした話になるとクリアな回答が返ってこなくて少しモヤモヤしてしまう。これがよくあるモヤモヤです。

それから、これはオンライン化された時によく起こる話で、オンラインの時に面談や面接を丁寧にやる会社さんは増えています。ですが、オンラインだからでしょうか、オンライン相手の人とはわかり合えた状態でも、それ以外の会社の人たちがどんな人なのかよくわからなくなる、みたいなことだったり。

あとは大きな構造的な問題ですけれど、そもそも一人ひとりがエントリーする数が減ってきています。内定を1つもらうに至るまでに、どれだけ受けるかという分母の数が非常に少なくなっています。売り手市場など色々な理由があると思いますが。 そうなってくると何が起こるかというと、内定までの満足は得られるものの、その満足が確信を持った満足じゃないという、非常に微妙な感じになります。満足なんだけど確信が持てないという、そういう心理状態を多くの学生や求職者が経験している状況です。 要するに志望度が高く、第一志望にもかかわらず確信が持てない。こういう相談が私のところに結構きます。他大学の学生からもあるくらいで、戸惑ってしまうこともあるんですけれども。 まあいろんなモヤモヤがありますよね、というのがまず冒頭の話です。

採用の基本的な考え方

服部:そのうえで、先ほど申し上げたように、求職者のモヤモヤを解いていくためにどうソリューションを提供するのか。そのように採用を位置付けるのであれば、それは一体どんな採用の考え方に立脚するべきなのか、というのがここからの話になります。

まず1つは、そもそも企業はなぜ採用するのか、採用で何を目指すのかに関する言語化が必要だろうと思います。これは教科書的な採用目的の定義なので、皆さんの企業における答えであるとは限りません。1つの叩き台にしていただきたいのですが、私は少なくとも2つあると思っています。

1つが、目標や戦略を達成しなければいけないから、そのために不足している人材を採ること。当たり前ですけど、これが採用の一丁目一番地なはずです。であれば当然ながら、その目標を達成するために、「今日採るこの人に何を求めなきゃいけないか?」という人材像の具体化が重要になってきます。非常に当たり前ですけども、実際やれてるようでやれていない企業さんも多い。これが1つ目です。

それからもう1つが、新しい人が入ってくることで組織が活性化する側面があるという点です。新しい人たちが来たことによって、組織はいろんな意味で刺激を受けます。同質とは違う異質が入り込んでくることで、さまざまなことを考えさせられる。こういうことにも、採用の大事な機能があると思います。

次のスライドです。今申し上げたように新しい人が入ってくることは、組織を活性化することになりうる。「なりうる」という言い方をしましたが、言い方を変えると「ならないこともある」。 なぜかというと、組織は基本的に「慣性」、同じものを継続する慣性を持ってしまうんです。3つメカニズムがあると学術的に言われています。ベンジャミン・シュナイダーのASA理論という有名なフレームワークを説明します。

まず1つはアトラクション。皆さんの会社に人々が惹きつけられてエントリーしてくる時点で、そもそも世の中の人からランダムに来ているわけではありません。なんらかの人々が惹きつけられ、なんらかの人々がそこを無視しているか、あるいは意識的にエントリーしていないということが起こるわけです。そもそも目に触れないこともあるでしょう。つまり、エントリーした時点で、ある種の偏りが発生しうるということです。

その次に「選抜」というフェーズが来ます。ではその中から誰を選ぶか、採用側でより会社に馴染みそうな人や合いそうな人、あるいはより直接的に言うならば、会社の中で既に活躍している人に似ている人を採ろうとする場合、そこでまた同質というメカニズムが作動します。組織は変わらない、という慣性がここでも働くというわけです。

最後が自然減、淘汰といいますかね。合わない人は会社に馴染んでいくし、合わない人は会社を辞めていきます。つまり、せっかく入ったとしても、結局は同質的な人々が組織に残るメカニズムが働く。これが、良くも悪くも組織らしさを持ち続ける説明になってくるわけです。 ただ、裏を返せば、特に「(1)惹きつけ」と「選抜(2)」の部分の採用が変わっていけば、組織の流れ、組織の構成メンバーの分布、カルチャーといった色々なものが変わりうるんです。 そういう意味で、採用は非常に魅力的な仕事だと個人的に思っています。ここについて、もう少し深堀りしてみたいというのが、ここからのスライドになります。

採用で最初に会社と出会うというフェーズを、先ほど「アトラクション(惹きつけ)」と呼びました。このフェーズと、惹きつけたあとでその求職者たちをどのようにスクリーニングしていくか、選んでいくかという「選抜」の2つのフェーズが重要になると思います。 どちらもどちらで、それだけで一週間ぐらい話せるネタがたくさんあるのですが、今回は直近で知識のアップデートが進んでいる選抜部分を紹介していきます。

まずは基本的なものの考え方を紹介します。採用に限らず大事な考え方だと思います。覚えやすいのでそのまま暗記してもらいたいのですが、「Behavior=f(Person, Environment)」。これはすごく重要な社会心理学の考え方で、採用の考え方に非常に大きな影響を与えているものです。 なにかというと、私たち人間の今の行動、たとえばセールスパーソンとしてどのように動くか、対人関係の中でどういうふうに振る舞うかというような、要は私たちが採用において予測したいことですね。

この行動が何を見ることで予測できるかというと、2つのファクターの組み合わせであると。そういう考え方です。 「F」はFunction、関数ですね。「P」が個人特性。私たちが安定的に持ち、比較的変動しない、ある程度個人の中に固まりつつあるようなものを指します。たとえばパーソナリティや知能指数など。それぞれが大事かどうかは会社によって異なりますが、ある程度固定的なものがあります。

もう1つはEnvironmentといって、要するに特定の環境です。たとえば、パーソナリティにおいてある程度外向性が高い、社交的な人の場合。基本的にはそうかもしれないけれど、特定の環境のもと、たとえば今日のお客さんの前でも本当に外交的かというと、また別の反応が現れる、という考え方です。 反応が現れうる、という考え方ですね。たとえば外向性の高い人が、すごく怖いお客さんの前では全然しゃべらなくなること、容易に起こりえます。あるいは、昼間は仕事場で何もしゃべらないのに、アフター5になると急に騒ぎ出す人がいる、みたいな話。これもそうですね。要するに、そもそも「その人はどういう人か」ということと、「特定の環境でどう振る舞うか」ということは、必ずしもイコールではないんです。採用の際は、この安定的な「P」と変動的な「E」の両方を考える必要があります。

この考え方で、じゃあそのうちのどちらを見なければいけないか。結論はどちらもなんですけど、それだったら答えにならないので、もう少し考え方の補助線を入れます。

日常的かつ安定的な行動においては、「P」がすごく大事になるわけです。たとえばオフィスで普通に仕事している状況だったり、あるいは仕事とは関係ありませんが、土日とか祝日のプライベートな時間だったりとか。心理学ではこれを「弱い環境」と言います。環境からどう振る舞うべきか、といった圧力がない緩い状況です。 弱い環境下だと、外交的な人は外交的に振る舞い、内向的な人は家で本を読んだりゲームしたりする。総じてそうなるわけです。だからオフィスでどのような人間性を持つか、緩い状況だと人間関係がどういう人なのかを知るために、やっぱりパーソンを知っておかなきゃいけない。適性検査に意味があるのはそうした理由からです。

ただし、さっきも申し上げたとおり、特定の環境下においては人の行動がガラリと変わる可能性があります。外交的な人たちが、ある環境では全く引っ込み思案になることもありうる。そうなると何を見なきゃいけないかというと、実際に環境を与えてみないとわからないわけです。

そこで今海外で結構注目されているのが、「Environment(環境)」を採用場面でどう作り込むかという考え方です。 たとえばインターンシップというものは、どちらかというと借り物の部屋、借り物の雰囲気で進めていくことが多々あります。

しかし、アメリカの一部企業の一部では、インターンシップの人間関係や仕事のタスクをリアルに作り込んで、そのもとでどう行動するかを見ようという動きが広がっています。 そうすることで、適性検査や面接などの特殊な状況での、あるいは一般的な意味のパーソンではないものを見ていくんです。そう考えていくと実は、今面接を「特殊な状況」という言い方をしましたけど、面接も実は特殊な環境でしかないということにも気付くわけですね。 面接はどういう環境か、ちょっと皆さんにも考えてもらいたいのですが、面接は要するに人々が採る側・採られる側に分かれるものです。ネクタイ締めていようがクールビズであろうが、とにかくフォーマルな場所で、フォーマルなやり取りをする非常に特殊な環境だということに気づくと思います。 もちろん、ある種の営業の業務で面接的な環境もありえますよね。逆にそういう環境の営業シーンやコミュニケーションが皆さんの会社によくあるようなら、面接で有効なEnvironment(環境)のチェックツールになりうるわけです。

ただ多くの場合、私の理解では実際に働く場面はEnvironmentがだいぶ違う環境でありうる。ということは、その人がどんなふうに振る舞うか見るために、面接の状況そのものを少し変えたり、面接の質問の仕方を変えたり工夫しないと、間違ったイメージを目の前の人に対して持ってしまう可能性があるんじゃないだろうか。そんなことが言いたいわけです。

面接官の「実践知」プロジェクト

服部:今私たちが企業さんと一緒にやっているのが、面接場面における実践知ということをやっています。実践知とは、日常的な活動だったり、仕事の中でエキスパートたちが持っているエキスパートなりの知識・ノウハウ、こういうものをどうやって取り出してくるかということです。 面接でうまく採用している採用担当者は、何が違うのかを明らかにしていく。そのようなプロジェクトを進行中です。今2年目に突入しました。その一部を紹介します。

ちょっと見にくいかもしれませんが、エキスパートというものが世の中に存在します。たとえばバイオリンやピアノといった音楽の世界のように、いわゆる技術者・プロと呼ばれる世界。 実はここから研究がスタートしています。そ

の中では、物事に対しておよそ10年1万時間の経験量を超えたあたりで、物事に習熟し、エキスパートになると言われています。諸説あり、ものによって10年もいらない、もっといるものもあったりしますが、このスライドの曲線に、ものによって習熟にどのくらいのスピードがあるのかが書かれています。 こういうものが心理学などでは昔から注目されてきました。

私達がやりたいのは、面接において10年間1万時間は難しいけれども、エキスパートは確実にあるはずということ。私もエビデンスをいくつか持っています。 ある会社の面接官において、すごく正確に求職者のパフォーマンスや離職の可能性を見極める現象が、非常にレアではありますけど見られ始めています。そういうふうに一部の人々が、面接のエキスパートでありそうだという前提に立ち、じゃあその人たちは一体何をやっているのか、何を見ているのか、ということを明らかにするプロジェクトを今走らせています。

必ずしも面接だけではなく、エキスパートが何をしているか知るために有望な方法なので、ぜひ参考にしてみてください。今回私たちは、それを面接の場面に使いました。 どういうものかというと、まずエキスパートを何らかの形で特定します。私たちの場合には定量的に特定しました。

たとえば、すごく正確に予測しているとか、明らかに面接テクニックが高い人を、ある程度第3者的に抽出します。 次に、その人たちに対して、ある面接シーン映像を観てもらいます、他社の映像を。本人のでもいいのですが、共通の刺激動画がいいため、誰かのシーンを観てもらいます。それに対してシーンの問題点や優れている部分をできるだけ列挙してもらいます。 これで何を見るかというと、エキスパートは面接の間に、何に注目してどんな情報を参考にしているか、それを抽出するんです。

ただ、それだけだと、それがいい指摘なのか凡庸な指摘なのかわからないので、一般的な面接官にも全く同じことをやってもらいました。 そして上がってくる項目の突き合わせをするんです。そうすると、差分が出てきます。

つまり、エキスパートしか注目しなかったものと、みんなが注目するものが出てくる。みんなが注目するものが駄目というわけではありません。みんなが大事だと思っているから重要という解釈もできるわけです。 ただ重要なのは、その点に加え、エキスパートしか気づけないものを特定する。これが今取り組んでいるプロジェクトです。

(スライドを表示して)これが現時点で私たちが手にしているものです。このトライアルを、ある会社の採用担当者にお願いしています。今年も2社でやるのですが、現場の採用担当者に協力してもらい、エキスパートと非エキスパートを抽出する試みを人事と共同してやります。 実際の動画を見せて、全部そこにコメントしてもらいます。リアルタイムで、今ここに問題ありだったらそこで動画を止めてもらって指摘してもらう、といったことをやります。 それによって出てきたものが、このリストです。長いリストなので、一つずつ読み上げてるとすごく時間がかかります。ですので、まず上と下を見てください。上はアベレージレベル、もしくはあまりうまくない採用担当者と、エキスパートの両方に共通して見られた点です。 下が、エキスパートだけが言ったことです。

たとえば、一般の人とエキスパートの両方が言ったものとしては、面接中のやり取りを見て、「今の面接はすごい表層的で意味がないから、もっと深掘りしたほうがいいよね」、みたいなことです。これはみんな言うんですよ。あとは、面接官の目線がちょっとカメラに対して下から上から見ているので、ちょっと高圧的で圧迫感を与えているよね、みたいなことが共通した発言でした。

あとは、「もっと惹きつけ・アトラクトするような発言をしたほうがいいよね」「不用意に相手の話を遮断しないほうがいいよね」といったこと。全部大事だと思いますけど、こういうことは多くの人が言っています。 逆に優秀な面接官だけが言っていたものが何だったかというと、たとえば欠点などネガティブな内容について質問する時に、エキスパートはその人なりの便利なツール、やり方、常套句を持っているんです。

つまり、言いにくいことや向こうが隠したいことにズバッと切り込めるツールを持っている。具体的に何かということは、ちょっと今特定しているところです。 また、エキスパートの人たちはイエス・ノーの質問をしないんです。「今日は電車で来ましたか?」だとイエスかノーでしか答えられません。イエスと答えたとして、そこに何の意味があるのか。 一方「どんなふうにここまでいらっしゃったんですか?」と聞けば、電車とバスですと向こうからオープンな答えが返ってくるんです。イエス・ノーだったら会話がそこで終わるところが「乗り換え結構大変ですよね」「今暑いですしね」というふうに会話が広がっていきます。 要はオープン・クエスチョンをすることで、向こうから色々なものを引き出し、そこから突っ込んでいく余地を与えることです。それは非常に重要な叡智なのかなと思います。

それから(スライド上の)12番、先ほどの表層的なやりとりともリンクしますが、より踏み込んで、学生・求職者が用意してきた定型的なパターンを転換する術を持っている点がエキスパートの特徴です。 私も面接をよくするのですが、紋切り型の用意してきた答えや表層的なやり取りになった時に、どうそこを突破するかがポイントです。「今のは用意してきた答えでつまらないね」と言ったら、そこで空気が非常に悪くなる。そうではなく、うまく転換して話をズバッと返す、空気を変えていくテクニックをエキスパートは数多く持っています。

それからこれも大事なところで、話って色々な形でコントロールできるんです。たとえば内容、質問を良くすることももちろんですけど、テンポや間といったものをうまくコントロールする。相手に大事なことを伝えたいときは、テンポを緩め、間を空けて、声を大きくするなど。 逆にどうでもいいことであれば、テンポを早くし、間を縮め、声のトーンを低くする。そうした色々な変数を組み合わせることで、わかりやすい話や伝えたいことをしっかりと伝える。こういうことをエキスパートはコントロールしているんです。 この(スライド上の)16までが、面接内容の中身でのノウハウです。17、18、19はエキスパートに共通するものの見方についてです。16までとは少し質が違う、より高等なのかもしれません。

なにかというと、まず1つは、面接のプロセス全体を通じて、エキスパートは仮説検証的な考え方をします。最初に答えを出し、その答えを合わせていくのは、一般的な人の考え方です。私たちは人を見る時、無意識にすぐ判断を下します。良い印象悪い印象、あるいは容姿とかで総合的な判断をしてしまうわけです。手元の書類の学歴だったりとかで。 ただしそれは、検証ではなくただの確認作業でしかなくなっているんです。エキスパート面接官は、仮説を持ちながら、それが本当に正しいかどうか、間違ってる可能性がないか質問の角度を変えながら確認する。そして、間違っていればちゃんと自分の仮説を修正して、違う評価を再形成するんです。初期の考えや印象を持たないわけではありませんが、それを柔軟に取り下げる体制ができている。確かめるための質問をちゃんと用意しているということですね。

それからもう1つは、質問している時に、「これは全体の質問のどういう位置づけになっているか」という、メタな質問です。俯瞰的な目線と今この質問に集中するミクロな視点、個別視点、これをちゃんと両方とも持っています。 私もこういう仕事をしだして、ある時期でやっとできるようになりました。今しゃべっていることに集中することと同時に、全体の中のどこにいて、それは今の話とどう繋がっているのかを考えています。そういうことを、面接官が面接の中で高度にできるようになってくる。

それから最後は、これも非常に多いケースです。面接官に見せる面接動画は、どちらかというと突っ込みどころが多い動画にしています。そんなに良くないというか、いまいちなところがたくさんある内容です。ところが、エキスパート面接官だと、その動画の中にも良い面をちゃんと発見できます。逆にすごく良い模範動画を観たときは、マイナス面をちゃんと発見できる。 要は、良い悪いの最終的な判断はするものの、必ず良いものを見いだせる、そういう思考を持っているということです。これも非常に重要なところだと思います。

大事なのは、選考の前段階であれば怪しきは罰せずじゃないですけど、いいところがあれば上げていく視点が大事ですし、後半の面接になれば、怪しいものに対して立ち止まって慎重に考えないと、次のフェーズに行ってしまう。ということを考えなきゃいけない。 このコントロールが、エキスパートならできるんです。どのフェーズにアサインされても、ちゃんと面接官が務まるということですね。

たとえば自分の中で「ネガティブチェックは得意だけど」と限定してしまうと、そういう思考しかできなくなり、あるフェーズしか担当できなくなってしまいます。そういう意味で、エキスパートは高度なやり方を実践しているんです。 ただこれは、すごい人の神業というわけではありません。エキスパートの実践知というのは、ちゃんとトレーニングをしたり、面接動画で自分ができているかリストを見て学習したり、あるいは自分の動画を観て、自分の問題を自覚して突っ込んだりと、そうした取り組みで自分でも伸ばしていける能力なんです。この(スライド上の)8から19は、けっして特別なものではありません。

採用力とは

一部しかお話ができていませんけれども、採用の特に能力の見極めや評価の比較的新しい知識について話してきました。最後に、もう少し大きなお話をして終わりにしたいと思っています。 企業の採用力に関しては、大きく3つに分けて考えています。

1つは業界の魅力。これが一番クラッシック、昔から言われてきたものですね。ある業界にいる時点で、「収入が高い」「成長性が高い」「社会的イメージがいい」みたいなことがあります。 ただこの要素は、あるとはいえ、徐々に少なくなっています。

残りの2つは何かというと、まずは企業の魅力。業界と企業は違いますよね、業界は魅力だけどその企業は、といったように。逆も然りです。企業の魅力度は、仕事がどう魅力か、会社の組織や人間がどう魅力かに分かれると思っています。 前者については、仕事の面白さ、成長の可能性などが挙げられます。後者はいわゆる福利厚生や、よく言われる「ラク」かどうか、みたいなことが問われてきます。後者のほうは、どちらかというと守りの人事みたいに言われてきました。

しかし、近年ますますここの部分に対して、求職者は意識的になっています。 それから最後が、採用担当の皆さんにとって打ち手となり得るところです。それは、採用の魅力度を上げることで全体の魅力とカバーすること。これ(スライド上の図)が掛け算で結ばれているのは、そういう意味です。

他の2つが難しくても、採用の魅力度が上がってくれば全体をカバーできるというお話なのですが、これが何かというと、大きく2つに分かれます。1つは人の魅力。採用担当者そのものの魅力度。これは強いわけです。優秀な人は優秀な人に惹かれるというのは、黄金律だと思います。あるいはフィードバックをちゃんとしてあげることも、魅力のひとつです。 それからもう1つは、採用の戦略やフローの設計のところで勝負ができること。ここが重要になっていると思います。このあとのスライドにも関係しますが、フロー……エクスペリエンスという言葉を海外の人が使っていますけど、ここをどう作っていくかが大事になってきています。

それから、コロナ禍になって急に出てきた視点としてあるのが、フローの納得性です。たとえば、なぜ3回面接をして、そのうちの1回は現地面接なのか。こうしたものは、昔は問われてこなかった点です。求職者は疑問に思わず従っていました。 ただ、コロナ禍になってオンライン化されてきた、あるいは売り手市場になって求職者の方が比較的強気になってきた中で、「なぜそうなんですか?」というような眼差し、「何でそういうふうになっているか説明してください」という疑問といったように、今までになかった視点が出てきています。 これに対して答えられる会社は、評価は得ていきます。あ~ちゃんと考えてますね、となるけれども、そこに納得のいく答えがない場合、たとえば「コロナがこんなに増えてきているのに、なんで2次面接で現地なんですか?」という質問に対して、納得できる答えがあるかどうかですね。なぜ会社に来てもらっているのかに対して、明確な答えがあるかどうかが大事になってきてるということです。

ということで、この3つのファクターを皆さん改めてチェックしていただけるといいんじゃないのかな、と思っています。 残りは、この設計のところのフロー、エクスペリエンスの魅力について触れていきます。

ますます注目されるエクスペリエンス(経験)のデザイン

服部:採用にかかわらず、エクスペリエンス自体に私は今注目しています。大きく分けると、まず1つはエントリー。これは採用のところですね。いい求職者を惹きつけ、良い経験をしてもらえるかというエクスペリエンスです。 2つ目は、狭い意味でのマネジメント。古典的にはここがいわゆるマネジメント部分に該当します。オンボーディングし、人材育成して活躍してもらう、エンゲージを高めるなど、これがいわゆるど真ん中のマネジメントですね。 最後にアルムナイ・マネジメント。別れた後にも良い関係を保つことが、求職者を戦力として考えるときに重要になってきます。 たとえば別れ方、別れたあとのタッチの仕方、交渉の仕方、こういったものも非常に大事になってくるという話です。このように、エクスペリエンスは非常に多方面で注目されているものです。

これ(スライド)は私自身が調査している中で、非常にボトムアップ的に浮かび上がっている事実です。大事なのはこの(スライド)赤のボックスのところです。採用シーンにおいてどんな経験をすることが「いい経験だ」と実感してもらえるかというと、私は少なくとも5つに整理できると思っています。

1つはシンプルですけど、大事にされている経験です。特別扱いされたことも含めて。自分はこの会社から大事にされて、気にかけてもらっているな、という。こういうことをちゃんと演出できるか、本当にそう思ってもらえるか、あるいは本当にそう思っているかどうかです。

2つ目は、求職者が持っている期待にちゃんと応えていく、あるいは期待を凌駕できるかどうか、という点です。先ほど「面接で本社になんで行く必要があるの?」という話がありましたが、実はちゃんと説明して、かつ本社に面接に行った結果、色々な良い思いをしたり、さまざまなことを教えてもらって良い経験ができれば、実はこれ、期待を上回るということですよね。 期待せずに行ったけど、すごく行ってよかったと。いろんなことがわかったと思えれば、実はそれは良い経験となるわけです。ということで、サプライズを含めて、期待に応える、上回ることが重要です。

3つ目は、先ほどの担当者のところと関係しますけど、担当者の魅力です。人間は同じ経験をしても、良い人とすると良い経験、悪い人とだと悪い経験になるということですね。 人の魅力づけ、これは言い換えると、採用担当者にちゃんと能力の高い人をアサインできるかということですね。あるいは能力というよりも、ちゃんと人を大事にできる人をつけられるかという。この選抜の部分で、企業の中で採用を大事にしているかどうかが問われてきていると思うんです。

4つ目は、これは近年学生たちが言っている点で、「成長を実感できる」「伸びる気がする」、あるいはそういうことを感じさせる会社であるかってことです。フィードバックがあるとかもそうですね。

最後に見落としがちなのが、メリットがあるかどうかです。選考フローに参加してくれた学生たちに、何かしらのメリットを提供するということです。企業の中には、自社の採用だけではなく、他社の採用も含めてキャリア相談に乗る企業も出始めています。これはまさにこのポイントを意図しているんだと思います。もちろん優しさでやっているケースもあるとは思いますが、選考に留まってくれれば、自社以外のことも相談に乗るよと提案してもらえると、求職者にとって大きなメリットになるわけです。 これを「お土産」と私は呼んでいます(笑)。何かお土産・メリットを提供できることも、良い経験の条件だと思います。良い経験を演出していく、あるいは伝えていくときの考え方が色々出てきているということです。

採用活動の新旧パラダイム

服部:次は新旧パラダイムの話に入ります。採用は今申し上げたように、この1〜2年だけでも非常に大きな変化を経てきました。その中でより大きなトレンドとして、採用がどう変わっていくかを考える時に、個人的にこんなビフォー・アフターの図をよく出します。

まず1つは、採用が1年で終わるルーチン業務であるということ。たとえば新卒だったらそうですよね。中途採用でも、この求職に対して人を埋める、はい終わり。というように、人手が不足したとき、あるいは年次行事的なルーチンになっている。こういうものから、常にダイナミックに動いていくような活動へシフトしつつあるということです。 2つ目にも関係しますけど、何らかの形で採用的な活動、たとえば求職者っていきなり知らない会社に出会って、「うちの会社いいです」と言われても、いい会社と思えないわけです。ですが、それまでに多様なタッチポイント、複数回その会社を耳にしたり目にしたり触れていったりすると、「どこかで聞いたことのある会社が募集している」「どこかで聞いたことのある会社が、私に来てほしいと言っている」といったように、タッチポイントが増えていけばいくほどを印象に残っていく意味では、採用活動はスポットの活動ではなくなっているんです。点ではなく、線でどう勝負するかにシフトしていっているわけです。

そうなってくると、ますます労働市場のほうは、ネガティブチェックが求められます。会社がどんなふうに良い側面があるかだけではなく、ネガティブな要素を最小化できるか。リスクや心配をどれだけ消せるかも重要なポイントで、そういう不安みたいなもの、これが私が冒頭話したモヤモヤに相当するものの1つです。そこをどう解消してあげるかを、ちゃんと考えておく必要がある。 これは裏を返せば、どんなモヤモヤを彼らが持っているか洞察しておかなければならないということです。

最後に全社的なイベント。採用・人事マターではなく、全社マターです。Googleさんもよくおっしゃってます、採用は最優先マターだと。経営者が言い切っています。非常に優れた考え方ですし、現実的な考え方だと思っています。 ということで、私の話は以上で終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

優秀な面接官にはバイアスがない?

佐藤:服部先生どうもありがとうございました。私も臨床心理士をやっておりましたので、特に熟練の面接官がどういうスキルも持っているのか、何を考えているのかといった話題に関して、非常に興味深く話を伺っていました。 視聴者からご質問いただいています。

「優秀な面接官がバイアスにかかっていないことというのは、どのように説明されていますか?」というご質問です。優秀な面接官における実践知の研究の文脈かなと思うのですけれど、バイアスにかかっていないかどうかに関しては、いかがお考えでしょうか?というご質問ですね。

服部:そうですね、絶対にバイアスにかかっていないことを確証するのはなかなか難しいわけですけど、何をやっているかというと、いくつかのバイアスがすでに報告されている、たとえばジャッジのタイミングに関して、一般的には大体7分ぐらいです。意識するしないにかかわらず判定を下してしまっているのが基本的なエビデンスなんですね。 日本のある会社の場合だと、4分でした。彼ら/彼女らがどうしているかというと、最初にある程度の仮説は立てます。「この人は優秀な人かもしれない」と。

ただ、そのかもしれないの確証が非常に暫定的なものなんです。 彼ら/彼女らから話を聞いたり、バイアスについてどういうふうに考えてるか確認する中で、完全にバイアスフリーではないと思いますけど、少なくともちゃんとそこに対して何らかの対応ができているな、ということを確認している感じです。

佐藤:ありがとうございます。どちらかというと、決めつけすぎない状態で常に仮説を検証していくアプローチ方法で、より解像度を上げていく形でバイアスをイメージしている。そのようなところがあると理解しました。

海外と日本それぞれの採用について

次のご質問です。「日本の新卒採用は、国際的には珍しい形態であると感じます。最大の問題はファーストキャリアを形成できる社会環境ではないでしょうか?」というご質問です。 国際的に考えて、新卒採用をやっていく日本の特徴みたいなところに関してどのようにお考えか、というご質問かと思います。

服部:いろんな答え方ができると思うんですけど、まず大前提として、新卒採用はアメリカでもあります。世界中にあります。ただ、一括採用という形で同時にズドンと出ていく、しかも企業が新卒というカテゴリーを別個で設けているのがレアだってことですね。

あともう1つは、いわゆるジョブ型やメンバーシップ型という雇用環境に由来する違いもあるだろうと思っています。それが何に違いとして現れるかというと、1つはその要件の定義みたいなところです。そこの解像度がどうしても低くなっていく。 海外の場合には、形としての新卒はあるんですけれども、それは中途採用と新卒に分けて枠を決めずに、最も優れていたのが新卒だったら新卒を採るし、中途採用が優れていたらそっちを採ります。どのみちかなりの解像度で人材要件などの具体化が行われていくわけです。その辺の違いが大きいと思います。

採用力の要素で、最も重要なものは?

佐藤:ありがとうございます。次のご質問に移ります。 「3つあった採用力の要素のうち、昨今の学生からはどれが特に影響力が大きく、重要だと認識されているのでしょうか?」という内容です。いかがでしょうか?

服部:ありがとうございます。すごく大事な質問なんですけど、答えるのが少し難しいですね。もちろん個人によってだいぶウェイトの差があります。業界で絞る人もいますし、企業の労務管理、ブラックじゃないかどうかが一番、人間こそが大事だという人もいます。

ただ、大きく言うならば、多くの学生さん達が業界そのものというよりは、むしろこの会社がどのような働き方をさせるのか、どの会社がどうなったかというようなもの、さらには担当者の能力や人格が魅力的であることが大事になってきます。

まとめると、まず大きく企業と採用の魅力の2つ。その中で、企業の中でも仕事の面白さや労務管理、働き方といった部分と、採用担当者の魅力のように人的な部分。そういうところが、非常に多くの人の目につくところになってきている気がします。誤解を恐れず言うと、そうなりますね。

優秀な面接官の定義は?

佐藤:ありがとうございます。次の質問は「優秀な面接官をどのように定義していますか?」という問いです。 これは先ほどの熟練の面接官の話でいくと、私の理解では10年1万時間以上の経験がある方というふうに、スペシャリストに関して定義されていたと思います。特に優秀な面接官あるいは熟達の面接官というと、どういう人を指しているのか?というご質問だと思います。

服部:今回の私の調査では、まず1つはある程度の経験を経ていること、10万時間を正確に計測できませんが、ある程度の時間を経験しているということですね。もう1つは、時間を経験すると逆にステレオタイプができる危険性もあるので、もう1個だけ条件があります。

それは、ある程度その人の性格予測が正確であることです。人事データを遡っていくことで、たとえば、○○さんが高い評価をつけた人が、ちゃんと残って頑張っているのかなど。そこもちゃんとデータまで遡る。要は面接官のパフォーマンスですね。そこもある程度は見ています。その2つのセットで見ている感じです。なかなかハードルの高い基準ではありますけど。

佐藤:そういうことなんですね。ありがとうございます。実際の面接官が評価した人が、入社後にどう活躍しているかをデータとして活用するということですね。

応募者の表面的な回答を回避する方法は?

佐藤:残り1分になっています。最後にもう1点ご質問です。「応募者の表面的な回答、テンプレ回答みたいなものを回避する例を知りたいです」と、面接の実践的なお話と思うのですが、いかがでしょうか?

服部: いくつかやり方があります。月並みですけど、具体的なシーンにこだわっていくことだと思います。この「具体的」というのは、かなり具体的なんです、エキスパートの人は。 たとえばある面接で、その人がストレスに強そうかどうかを見るシーンだった時に、多くのケースでは「負荷がかかった活動で頑張ったことは何ですか」とエピソードを聞き、説明してもらって2〜3回やりとりして終わります。

一方、ある面接官の場合は、その問題が起こってから誰に連絡をしたのか、その連絡した時にはメールで相談したのか、話したのか、LINE を使ったのか、とめちゃくちゃ具体的に聞くんです。 そうすると、嘘を言っているとボロや矛盾が出てきます。たとえば「意外と放置するな」「責任感が強く、一週間は自分で頑張ったと言っているけど、案件的に一週間放置したら営業的にマズイのでは?」みたいな。それだったら2時間で相談すべきでしょう、といった感じです。 本当にディテールをこれでもかってくらい聞くんですね。

そしてこれは難しいんですけど、これでもかって感じがしないんですよね。身を乗り出して相手が話したくなるような乗せ方をしていて、詰めている感じではないけど、よく聞くと結構詰められている感じなんです。一言で言うと、ディテールにこだわっている。

佐藤:ありがとうございます。ちょうどお時間になりました。面接官の熟達化の重要なスキルの話や、採用・パーソン・エンバイロメントという関数の話もありました。大変勉強になる話をたくさん伺えて、私としても大変ありがたかったなと思っております。 本日は服部先生にお話いただきました。どうもありがとうございました。

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