エンゲージメントサーベイは、社員のエンゲージメントを可視化するのに有効な手段です。さらに、調査結果を人的資本の情報開示に活用することで、ステークホルダーからの信頼獲得にもつながります。
本記事では、エンゲージメントサーベイを人的資本開示に活かすメリットや注意点を詳しく解説します。また、実際にエンゲージメントスコアを開示している企業の事例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

エンゲージメントサーベイとは
エンゲージメントサーベイとは、社員のエンゲージメント(企業との結びつきや信頼関係)を可視化するための調査です。
エンゲージメントの高い社員は、自身のやりたいことと組織における役割や期待が一致しており、企業への愛着や高い意欲を持って働けます。
サーベイツールを活用してエンゲージメントを測定することで、自社の課題を明らかにし、社員の定着率や生産性の向上につなげられます。
エンゲージメントサーベイの種類
エンゲージメントサーベイには、大きく分けて「パルスサーベイ」と「センサスサーベイ」の2種類があります。
パルスサーベイは短期間で繰り返し実施し、社員のコンディションを定点観測するのに適しています。一方、センサスサーベイは年に数回実施し、組織全体の課題を網羅的に把握する目的で用いられるものです。
以下に、それぞれの特徴をまとめます。
| 目的 | 頻度 | 問題数 | |
|---|---|---|---|
| パルスサーベイ | 社員の状態変化を定期的に記録・分析する | 2週間~1ヶ月に1回 | 5~10問程度 |
| センサスサーベイ | 組織的な課題の把握や改善計画の設定に用いる | 年に1~2回 | 30~50問程度 |
エンゲージメントサーベイの目的
エンゲージメントサーベイを活用することで、社員の心理状態を可視化し、課題を把握できます。そのうえで適切な施策を講じれば、離職防止や生産性の向上が期待できます。
また、サーベイによって得られたエンゲージメントスコアは、人的資本開示の指標としても活用可能です。次項では、人的資本開示とエンゲージメントスコアの関係性について詳しく解説します。
人的資本開示とエンゲージメントの関係
近年、企業経営において「人的資本」の重要性が高まるなかで、社員のエンゲージメントが注目されています。ここでは、人的資本開示の概要と、エンゲージメントスコアが果たす役割を解説します。
人的資本開示とは
人的資本開示とは、企業が自社の人的資本に関する情報を整理・分析し、外部のステークホルダーに向けて公表する取り組みです。
具体的には、従業員のスキルやエンゲージメント、ダイバーシティの状況など、人材に関する非財務情報を明示します。
人的資本開示の重要性
人的資本開示は、単なる法的義務にとどまらず、企業の持続的な成長に欠かせない重要な取り組みです。
企業が人材をどのように重視し、育成・活用しているかを可視化することで、外部のステークホルダーに対して自社の方針や価値観を明確に伝えられます。こうした取り組みは、投資家や取引先、求職者などからの信頼を高め、企業ブランドの向上にも寄与します。
たとえ自社が開示義務の対象でなくても、人的資本への取り組みを発信することには十分な価値があり、戦略的な企業活動の一環として積極的に進めるべきでしょう。
人的資本開示におけるエンゲージメントスコアの位置づけ
人的資本開示において、エンゲージメントスコアはとくに重要な役割を担っています。その背景の一つとして「伊藤レポート」における言及が挙げられます。
伊藤レポートとは、経済産業省の有識者によってまとめられた、企業価値創造に関する提言書であり、なかでも人的資本経営の重要性を強調している点が特徴です。
その中で示された「これからの人材戦略に欠かせない5つの共通要素」に、従業員エンゲージメントが含まれており、企業にとって注目すべきテーマとして位置づけられています。
また、エンゲージメントスコアは、社員が企業や仕事に対してどのような意識や感情を抱いているかを直接的に把握できる、数少ない定量指標です。
離職率や男女比などのほかの開示項目では、働き方の実態はわかっても、社員の「納得感」や「やりがい」までは読み取れません。
そのため、エンゲージメントスコアは、人的資本開示において社員の内面的な状態を把握できる、非常に意義深い指標として活用されています。
人的資本開示が義務づけられた背景や重要性については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
エンゲージメントスコアの開示による効果
エンゲージメントスコアを人的資本の開示項目に用いることで、企業にとって以下のような効果が期待できます。
- 投資家からの信頼を得られる
- 企業ブランディングの構築につながる
- 採用活動におけるアピール材料になる
それぞれの効果について詳しく解説します。
投資家からの信頼を得られる
エンゲージメントスコアを開示することで、投資家からの信頼を得られる可能性が高まります。
近年では、環境・社会・ガバナンスの観点から持続可能な経営を評価する「ESG投資」に注目が集まっており、企業の人的資本に対する考え方も重視されています。
エンゲージメントスコアの開示は、人的資本経営に積極的に取り組んでいることを示す材料となり、投資家から「成長性のある企業」として評価されるきっかけになりうるのです。
企業ブランディングの構築につながる
エンゲージメントスコアの開示は、企業ブランディングの強化にもつながります。
SDGsへの関心が高まるなかで、社員の多様性を尊重し、その適性や能力を最大限に活かす人的資本経営は、企業の責任の一つと捉えられつつあります。企業には、利益の追求にとどまらず、社会の一部としての役割を果たしていくことが求められているのです。
エンゲージメントスコアを通じて、社員を大切にし、成長を支援する姿勢を社会に示すことは、企業イメージの向上に直結します。
これにより、顧客や取引先などからの信頼を高め、企業ブランディングの確立とともに、持続的な成長にも貢献できるでしょう。
採用活動におけるアピール材料になる
採用候補者に対するアピールになる点も、エンゲージメントスコアを開示する重要な効果の一つです。
とくに現在では、働きやすさや成長機会を重視して企業を選ぶ求職者が増えており、社員の就業環境や育成への取り組みが可視化されることは、企業にとって大きな強みとなります。
エンゲージメントスコアを人的資本開示に活用する際の注意点
エンゲージメントスコアは、それ自体では単なる数値に過ぎません。投資家や顧客などのステークホルダーから信頼を得るためには、このスコアをどのように活用し、どのような意味づけを行うかが重要です。
とくに意識すべきポイントは、以下の3つです。
- スコアに「文脈」を持たせる
- スコアが低い場合の向き合い方を考える
- 改善と継続的な開示で信頼性を高める
それぞれ詳しく解説します。
スコアに「文脈」を持たせる
エンゲージメントスコアは、その数値の裏付けを経営戦略や施策と連動させて解説する必要があります。なぜなら、単に数値が高いだけでは、企業としてどのような取り組みをしているのかが伝わらないためです。
たとえば「新しい仕事に挑戦できる」という設問で高いスコアが出ている場合、「挑戦を後押しする風土づくり」を掲げた企業ビジョンや、「ジョブローテーション制度の導入」などの具体的な施策とあわせて紹介することで、数値がぐっと立体的に見えてきます。
このように、スコアに文脈を持たせると、自社の人材戦略や組織文化をステークホルダーに明確にイメージしてもらうことが可能となります。
スコアが低い場合の向き合い方を考える
エンゲージメントサーベイの結果、期待していたような良いスコアが得られないケースも想定しておく必要があります。
もちろん、そのようなスコアを開示しないという選択肢もありますが、あえて開示することでプラスに転じる可能性もあります。
たとえば「自己成長」に関するスコアが低かった場合、キャリアデザインの支援制度を整備したり、外部講師を招いた研修会を実施したりするなど、具体的な課題と改善策をセットで開示する施策が有効です。
改善と継続的な開示で信頼性を高める
エンゲージメントスコアは、一度開示すれば終わりというものではありません。継続的に数値を開示し、その推移を示すことが、より信頼性の高い人的資本開示につながります。
たとえスコアが一時的に下がったとしても、その背景や要因を丁寧に説明し、改善に向けた具体的な施策を併せて公表することで、エンゲージメント向上に対する誠実な姿勢をステークホルダーに伝えられます。
また、スコア改善に向けた取り組みを継続的に発信すれば、社員のエンゲージメント向上に真剣に向き合っている企業としてのイメージを高めることが可能です。
エンゲージメントスコアを開示している企業の事例
最後に、エンゲージメントスコアを実際に開示している企業の事例をご紹介します。自社で人的資本開示を検討・実施する際の参考として、ぜひご活用ください。
株式会社三井住友フィナンシャルグループ
株式会社三井住友フィナンシャルグループでは、独自の「人財ポリシースコア」を人的資本開示に活用しています。
このスコアは、人材に関する基本方針を「人財ポリシー」と位置づけ、その観点からエンゲージメントサーベイの複数の項目を組み合わせて算出されたものです。
2025年の報告書では良好なスコアが示されていますが、同社はその結果に満足することなく、今後も継続的にスコアのモニタリングを行い、施策へ反映させることを明確に主張しています。
すでに成熟した大企業でありながら、社員一人ひとりの意識や感覚を丁寧にすくい取り、さらなる成長を目指す姿は、人的資本開示のロールモデルといえるでしょう。
参考:株式会社三井住友フィナンシャルグループ 統合報告書 2025
不二製油グループ本社株式会社
不二製油グループ本社株式会社では「働きがい」を「職務」や「企業理念」などの複数の観点から数値化し、その結果を人的資本開示の項目として活用しています。
2024年の調査では「組織風土」や「人間関係」に関するスコアは高い一方で、「理念戦略」の項目が低いという結果が示されました。
同社はこの結果を、ビジョンや経営戦略に対する共感・理解が不足していることの表れと分析し、対話形式の説明会の開催や社内向けコミュニケーション動画の制作など、具体的な改善施策を実施しています。
ナブテスコ株式会社
主に精密機器の製造を手がけるナブテスコ株式会社では、エンゲージメントスコアと組織診断を定期的に実施し、個人の状態と組織風土の両面から現状の把握と課題の抽出を行っています。
たとえば、2022年の報告書では、イノベーション推進に向けたキードライバーとして、個人面では「達成度や評価への納得感」、組織面では「挑戦できる風土や環境」が重要であるという結果が示されました。
こうした課題を可視化することで、実態に即した施策の立案が可能となります。
また、2024年にはエンゲージメント関連指標を導入し、エンゲージメント向上の取り組み成果を処遇と連動させる仕組みを構築したことを報告しました。
このように、エンゲージメントを単なる数値としてではなく、ほかの調査結果や人事施策と有機的に結びつけて活用する方針を示すことで、課題と真摯に向き合っている姿勢をステークホルダーに伝えられます。
エンゲージメントサーベイは人的資本開示にも有効。適切に開示して企業の持続的成長を狙おう
エンゲージメントサーベイは、社員と企業の「心の結びつき」を定量的に測定・可視化できる仕組みです。
スコアを通じて社員の心理的な状態を把握できるため、離職防止や生産性向上を目指す施策の判断材料として活用できます。
また、エンゲージメントスコアを人的資本開示に取り入れることで、投資家や顧客、採用候補者に対して企業の魅力を効果的に伝えられます。その結果、企業イメージの向上や人材獲得にもつながり、持続的な成長が期待できるでしょう。
ただし、スコアを単に数値として開示するだけでは不十分です。「なぜその数値となったのか」「今後どのように改善を図るのか」といった背景や意図をあわせて示すことで、初めて意味のある情報となります。
企業が社員のエンゲージメント向上にどれだけ真摯に取り組んでいるかを示すことが、社内外の信頼につながるのです。
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