ハラスメントとは、嫌がらせやいじめによる人権侵害を意味する言葉です。そのなかでも、職場で発生しやすいハラスメントは主に3種類あります。
総務部や人事部などの管理部署から目の届かないところで発生することも多く、ある日突然従業員に訴えられ、大きなトラブルに発展する可能性もゼロではありません。
そこで本記事では、ハラスメントの定義や種類を解説するとともに、ハラスメントへの対応策について紹介していきます。
ハラスメントとは?
ハラスメントとは、広義的には人間の尊厳や権利を侵害する行為を意味します。
地位や権力を背景にして実行されるものや、性的な言動によるハラスメントが代表的です。
日本では、ジェンダーの観点から1990年代に提起され、2000年代以降に職場や教育の観点へと拡大していきました。
職場でのハラスメントの種類
職場でのハラスメントは、主に3種類あります。
- パワーハラスメント
- セクシャルハラスメント
- マタニティハラスメント
それぞれの特徴を説明していきます。
パワーハラスメント
職場で起こるパワーハラスメントは、以下の3点にすべて該当するものを指します。
- 職場での優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
客観的にみて業務上必要と思われる業務指示などは、ハラスメントとはみなされません。
雇用環境・均等局が作成した資料「パワーハラスメントの定義について」によると、パワーハラスメントの概念は次の表のとおりです。
言動の種類 | 内容 |
職場での上下関係を背景とした言動 | 行為者に対し、拒絶できない関係性を背景として行われる言動 |
業務上必要と考えられる範囲を超えた言動 | 社会通念と照らし、業務上必要がない行為 |
労働者の就業環境を害するもの | 労働者に身体的・精神的苦痛を与え、就業に支障が発生する行為 |
言動の回数も考慮されるものの、一度であったとしても強い苦痛を与えた場合、パワーハラスメントとみなされる可能性もあります。
また、パワーハラスメントの類型には、「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の6タイプが存在します。
セクシャルハラスメント
職場でのセクシャルハラスメントとは、労働者の意志に沿わない「性的な言動」が原因で、労働条件について不利益を及ぼしたり、就業環境が害されたりすることです。
セクシャルハラスメントには、主に性的な発言と行動の2タイプが存在します。以下の表をご覧ください。
言動の種類 | 内容 |
性的な発言 | 性的な質問、性的なからかい、しつこく食事やデートに誘うなど |
性的な行動 | 性的な関係の強要、強制わいせつ行為、盗撮など |
セクシャルハラスメントの行為者は、職場内だけとは限らず、取引先や顧客の場合もあります。また、異性に対するものだけではなく、同性による言動もセクシャルハラスメントに該当することを覚えておきましょう。
セクシャルハラスメントの類型には、性的な言動に抵抗したことで不利益を受ける「対価型セクシュアルハラスメント」や、性的な言動により就業環境が悪化する「環境型セクシュアルハラスメント」があります。
マタニティハラスメント
妊娠や出産をした女性労働者、または育児休業などを利用する労働者に対する嫌がらせや誹謗中傷といった行為を、マタニティハラスメントと呼びます。
パタニティハラスメント、ケアハラスメントと呼ばれることもあります。
なお、妊娠・出産・育児・介護の制度利用を理由に解雇や減給、降格などを行うことは、「ハラスメント」ではなく「不利益取扱い」です。男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に違反する可能性があるため、ご注意ください。
ただし、業務上の必要性がある場合においては、業務量を調整したり、担当業務内容を変更したりしてもハラスメントには該当しません。例えば、労働者である妊婦の体調を考慮し、上司が業務量の削減を提案することは、強要しない限り問題ありません。
なお、一方的な通告はハラスメントになるため、注意が必要です。
マタニティハラスメントの類型としては、「制度等の利用への嫌がらせ型」や、就労状況が変化したことによる「状態への嫌がらせ型」があります。
その他のハラスメント
主な3種類のハラスメント以外にも、職場で発生しうるハラスメントは以下のようにさまざまです。
- 飲酒による強要や嫌がらせをするアルコールハラスメント
- 非喫煙者に対して受動喫煙させるスモークハラスメント
- テクノロジーに関する知識のある人が、知識不足の人をいじめるテクノロジーハラスメント
- 顧客や取引先が悪質なクレームで嫌がらせをしてくるカスタマーハラスメント
- 性的指向、性自認に関する差別や嫌がらせをするSOGIハラスメント
性別、年齢、居住地の異なる人たちが集まる職場では、多岐にわたるハラスメントが発生しうることを理解しておきましょう。
参考:
ハラスメントの定義|厚生労働省 明るい職場応援団
ハラスメントの定義とは?全39種類のハラスメント一覧|社会人の教科書
SOGIハラって何?|NHKハートネット
「職場」と「労働者」の定義
ハラスメントが起きる「職場」は、就業している主な場所のことですが、出張先も含まれます。「労働者」については、正規・非正規を問わず、雇用されているすべての労働者を指します。
それぞれの定義を詳しくみていきましょう。
「職場」の定義
「職場」とは、労働者が業務に取り組む場所のことです。普段就業している場所以外であっても、業務する場所であれば「職場」とみなされます。
出張先、勤務時間外の懇親会、通勤電車の中なども、職務の関係により留まっている場所であるため、「職場」といえるでしょう。ただし、業務との関連性や参加形態(任意か強制か)などによって個別判断される可能性もあります。
「労働者」の定義
「労働者」とは、事業主が雇用しているすべての労働者を指します。正規雇用や派遣契約といった雇用形態は関係ありません。
なお、派遣労働者に関しては、派遣元の事業主だけではなく、派遣先の事業主にとっても「労働者」に該当します。
事業主によるハラスメント予防策の実施
パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントへの対策は、事業主の義務です。厚生労働大臣の指針により、事業者が実施する予防措置が定められています。
なお、パワーハラスメント防止策の義務化については、大企業は2020年4月、中小企業は2022年4月から適用される予定です。
ここからは、ハラスメント防止に関連した法律について解説していきます。
事業主の方針の明確や、周知・啓発
厚生労働大臣の指針によると、事業主の方針の明確化や周知・啓発は以下のように定められています。
- 各ハラスメントの内容やハラスメントがあってはならない旨の方針を明確にし、管理者を含む労働者へ周知すること
- ハラスメント行為者への厳正な対処方針や対処内容を、就業規則等の文書で周知・啓発すること
なお、マタニティハラスメントに関しては、追加の指針が存在します。企業は妊娠・出産・育児に対する否定的な言動がハラスメントを引き起こすと認識したうえで、育児休暇などの諸制度の活用権利について周知するよう言及されています。
相談や苦情に応じるための体制整備
ハラスメントに関する相談や苦情に応じるための体制づくりについては、以下のように定められています。
- 相談窓口をあらかじめ定めること
- 相談窓口担当が広く相談に応じ、適切に対処すること
まずは企業の中で、相談窓口を設置する必要があります。面談形式以外にも、メールや電話といった複数の相談手段を設けてあげると、相談しやすい環境になるでしょう。
ハラスメント発生後の素早く適切な対応
ハラスメント発生後の対応については、以下のように定められています。
- 事実関係を素早く的確に確認すること
- 事実確認後、速やかに被害者への配慮措置をとること。または、ハラスメント行為者に対する措置の実施
- 再発防止に向けた対策を立てること
事実関係の確認では、相談者と行為者の両者から聞き取りを実施し、不一致がある場合は、第三者への事実確認を試みましょう。
その他の対策
その他の対策については、以下のように定められています。
- 相談者や行為者のプライバシーを保護できるように、必要な対策を実施し、それを周知すること
- 相談行為、または事実関係の情報提供行為に対して不利益な取扱いをしてはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
相談者と行為者のプライバシー保護については、あらかじめマニュアルに定めておくと、緊急事態でもスムーズに対応できるでしょう。
マタニティハラスメントの原因や、発生要因を解消する措置
マタニティハラスメントについては、ハラスメントが発生しないよう、業務体制の整備などを通じた職場づくりが求められています。
取り組みの一例としては、妊娠や育休中の同僚や上司に業務が集中しないよう、各社員の業務量を調整することや、ITツールを通じた業務効率化が挙げられます。
関連法律
パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントについては、以下の法律でハラスメント防止が定められています。
- 男女雇用機会均等法
- 労働基準法
- 育児・介護休業法
- 改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)
パワーハラスメント防止策の実施に企業が応じなかった場合、政府から改善要求が来ます。改善要求を無視し続けると、企業名が公表される可能性もあるため、ご注意ください。
参考:
ハラスメントの予防・解決について|岡山県庁
事業主が雇用管理上講ずべき措置とは|厚生労働省
ハラスメントに関する法律とハラスメント防止のために講ずべき措置
企業にパワハラ防止を義務化へ、違反なら社名公表も|朝日新聞
ハラスメントが企業に与える影響
ハラスメントが企業に与える影響としては、「生産性の低下」「企業イメージの低下」「離職率の上昇」などが考えられます。
それぞれ解説していきます。
生産性の低下
ハラスメントの発生現場では、当事者に悪影響があるのはもちろんのこと、職場の雰囲気も悪化するため、社内全体の生産性が低下します。業務以外に気を使う場面が増えることから、成果につながる業務に集中できません。
職場全体のモラル低下にもつながるため、社内秩序が乱れる原因となります。
企業イメージの低下
報道やSNSによって自社のハラスメントが広く知れ渡った場合、企業イメージの低下は避けられません。取引先や顧客から信頼を失うため、業績にも影響が及ぶでしょう。
企業イメージが悪いことから、採用時に優秀な人材が集まらない可能性も出てきます。
悪質なハラスメントに対しては刑事責任や民事責任を問われる場合も多く、企業イメージの回復が困難です。
人材の流出
ハラスメントが発生している職場では、雰囲気が悪く、社員間のコミュニケーションも少なくなるため、人材の流出を引き起こします。人材の流出は離職率へと反映し、企業イメージの悪化にもつながるでしょう。
ハラスメント行為が常習化する職場では、人材も定着しません。優秀な人材が社内に留まらない環境下では、企業の成長も停滞してしまうでしょう。
参考:
令和2年度雇用平等ガイドブック職場におけるハラスメント防止ハンドブック|東京都
転職の悲劇を生む「人が辞める会社」8つの共通点|NIKKEI STYLE
まとめ
本記事では、会社で発生するハラスメントについて解説してきました。
会社で発生する主なハラスメントは、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントの3つです。ハラスメントを放置しておくことは、企業イメージの低下や社内秩序の乱れを招く原因となるため、迅速かつ適切な対策が企業には求められています。
ハラスメントの発生原因や適切な対処法を理解し、ハラスメントのない組織づくりを目指していきましょう。
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