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「スループット」とは|スループット会計に基づき利益を上げる3つの手段を紹介

「スループット」ということばをご存知でしょうか。

スループットは「一定時間内に処理される量」を意味します。ITやネットワークの分野でよく用いられ、データの転送速度や処理能力を表すことばです。しかし、ビジネスシーンでは異なった意味で使われることもあります。

本記事では、とくに企業の原価管理のために用いられるスループットについて取り上げ、スループット会計に基づいて利益を上げる手段をご紹介します。

スループットの意味

最初に、「スループット」ということばの意味を整理しましょう。

スループットには、「インプット(入力)とアウトプット(出力)の間を通り抜ける」というニュアンスがあります。入出力の間に処理される量、つまり一定時間内における処理能力を意味します。

具体的には、主に以下の2つの意味合いでスループットが使われます。

  • 単位時間あたりに処理・転送できるデータ量(主にIT分野)
  • 製品の売上から製造に必要なコストを引いたもの(経営、とくに製造業)

1つずつ見ていきましょう。

参考:Goo辞書 スループットの意味コトバンク「スループット」

単位時間あたりに処理できるデータ量

IT分野では、スループットはコンピュータやネットワーク機器などが単位時間あたりに処理するデータ量を示す用語です。また、1秒間に転送できるデータ量(単位はbps)を表す場合もあります。

データ処理能力やデータ転送能力を評価する際の指標として使われるのが一般的です。

参考:スループットとは – 意味の解説|ITトレンドのIT用語集

製品の売上から製造に必要なコストを引いたもの

ビジネスの分野では、データの流れではなく、お金の流れを意味する用語として用いられます。

実際に支払った費用(入力)を踏まえ、実際に生み出される利益(出力)を計るための指標です。

具体的には、売上から「真の変動費」と呼ばれる製造コストを引いたものを示し、とくに製造業において、企業の原価管理に利用されます。

今回は、こちらの意味でのスループットについて、詳しく解説していきます。

スループットの計算方法

既述のとおり、スループットは売上から製造に必要なコストを引いたものです。製造に必要なコストは、「真の変動費(TVC:Truly Variable Costs)」と呼ばれます。スループットは以下のように計算できます。

スループット=収益(売上) – 真の変動費

「真の変動費」には、以下の製造コストが含まれます。

  • 材料費
  • 外注費
  • 輸送費

ただし「真の変動費」には、通常の原価計算の変動費に含まれる以下の費用は含まれません。

  • 光熱費
  • 減価償却費
  • 労務費

参考:スループット会計の変遷

スループットに基づく「スループット会計」とは

上述のスループットを用いて利益を算出する手法が「スループット会計」です。

スループット会計による利益の算出は、以下の手順でおこないます。

スループットの算出:収益(売上) – 真の変動費(材料費 + 輸送費 + 外注費)
利益の算出:スループット – 業務費用

業務費用は、製品を販売するためにかかるコストです。算出したスループットから業務費用を引いたものが利益となります。

従来の原価計算のみによる会計との違い

スループット会計による利益の計算と、従来の原価計算による利益の計算ではどのような違いがあるのでしょうか。

利益の計算方法を、それぞれ比較してみます。

【スループット会計の場合】
利益=スループット{収益(売上) – 真の変動費(材料費 + 輸送費 + 外注費)} – 業務費用
【従来の原価計算の場合】
利益=貢献利益{収益(生産) – (直接材料費 + 直接労務費 + 変動製造間接費)} – 固定費

従来の原価計算と比べたとき、スループット会計が異なるのは以下の3点です。

  • 収益の基準が売上
  • 在庫が「真の変動費」に含まれる
  • 業務費用を「直接労務費」と「間接労務費」に分けない

スループット会計では、収益の基準は生産ではなく売上に置かれます。なぜなら、生産した製品が必ず買われ、利益をもたらす保障はないからです。また従来の原価計算では在庫が貸借対照表(BS)の「資産の部」に計上されるのに対して、スループット会計では在庫は「真の変動費」に含まれ、利益から見てマイナスになります。

従来の原価計算の場合、在庫を含むトータルの生産数が多ければ多いほど、製品1つあたりのコストが下がります。大量に売れ残った在庫も収益として計上されてしまうため、損失に気づかずに、経営面で間違った判断をしやすいことが欠点でした。スループット会計では、売れた製品のみカウントされるため、過大に利益が計上されてしまうことはありません。

さらに、従来の原価計算の場合は業務費用を「間接労務費」と「直接労務費」に分け、直接労務費(その製品の生産に直接かかわる労務費)のみをひいて利益を算出します。スループット会計ではこれらを区別せず、すべてまとめて業務費用としてマイナスします。これにより、生産にかかった支出が明確となり、業務費用の削減につながります。

参考:原価管理におけるスループット会計とは?利益を高める方法も解説!

スループット会計に基づいて利益を上げる3つの手段

スループット会計は、実際の経営に役立つものとして登場しました。つまり、利益を上げるために活用されてこそ意味があるのです。

スループット会計に基づいて利益を上げる手段は、以下の3つです。

  • スループットを増大させる
  • 在庫を削減する
  • 業務費用を削減する

1つずつ見ていきましょう。

スループットを増大させる

スループットを増やすためには、以下の2つが必要です。

売上を増やす
製造コスト(「真の変動費」)を削減する

つまり、適切に価格設定したうえで製品をなるべく多く販売することと、材料費・輸送費・外注費といった製造コスト(「真の変動費」)を削減することが求められます。

売上を上げるには、営業方法の見直しや社員の増員・研修などを図り、より強い営業組織を構築することが重要です。製造コストは、できるだけ費用のかからない仕入れ先を見つけたり、内製化により外注費を削ったりすることで削減できるでしょう。

売上高の向上と製造コストの削減がうまく両立できれば、スループットが増大し、結果的に利益が増えることになります。

在庫を削減する

スループットを増大させて利益を上げるには、在庫の削減も重要です。既述のとおり、スループット会計では在庫は製造コスト(「真の変動費」)に含まれます。

そのため在庫が多ければ多いほど収益(売上)からマイナスされる額は大きくなり、スループットが減少してしまいます。

逆に、抱えている在庫が売れれば、それらは売上として計算されます。在庫を削減するには、以下の2点に気をつけるべきです。

  • 在庫を多く抱えないように生産数を調整する
  • 抱えてしまった在庫は少しでも早く・多く販売する

業務費用を削減する

せっかく努力してスループットを増大できたとしても、業務費用が膨らめば逆に利益が減ってしまいます。

スループットを増やすと同時に、業務費用が増えていかないようにコントロールすることも大切です。

業務費用の削減にあたり、ぜひやっておきたいのが、自社の資産や能力の見直しです。費用を払って外部に依頼している業務のなかに、自社がすでに持っている資産や能力の範囲内で実現できるものがないかチェックしてみましょう。

スループット会計が導入され始めた背景

スループット会計が導入され始めた背景として、従来の原価計算では実際の利益が把握できない状況になったことが挙げられます。

従来の原価計算が有効だったのは、製品を大量生産してもどんどん売れていった「売り手市場」の時代です。生産すれば生産するほど売れるため、生産量がそのまま利益拡大に直結しました。

しかし現在は、製品を大量生産しても消費者に買われる保障がない「買い手市場」の時代です。このような時代に生産量を増やすことは、利益をもたらさない在庫・売れ残りを多く抱えてしまうリスクがあります。

既述のとおり、従来の原価計算では、在庫は貸借対照表(BS)上で資産とみなされます。しかも在庫が多いほど、1製品あたりのコストは低く計算されます。

つまり、実際には大量の在庫によって損失を与えているとしても、利益が過大に評価されてしまう可能性があるということです。

そこで、このような買い手市場でより現実的に利益を算出し、実際の経営に役立てるための手法として登場したのがスループット会計です。

スループット会計のベースにあるTOCとは

スループット会計のベースには、TOC(Theory of Constraints / 制約理論)という理論体系があります。1970〜80年代に、イスラエルの物理学者エリヤ・ゴールドラット博士によって示されました。

生産管理・改善のための理論体系であり、以下の3点の条件を満たすことを必要としています。

  • より多くのキャッシュフロー(実際に入ってくる現金)を得るためにスループットを増大させる
  • 運転資本を削減する
  • 経費を削減する

製品の生産工程におけるボトルネックを見つけ、重点的に改善することでスループットの最大化を目指すという考え方がTOCです。

参考:制約理論(TOC)
参考:「TOC理論」とは

スループット会計で重要なほかの要素

スループット会計でスループット以外に重要な要素である「在庫」と「業務費用」についても、詳しく見ていきましょう。

在庫

スループット会計における在庫は、「真の変動費」に含まれます。そしてこれらの在庫は、実際に買われた時点で「売上(収益)」に変わります。

既述のとおり、従来の原価計算では、在庫は貸借対照表(BS)の「資産の部」に計上されるため、在庫が多ければ多いほど利益が過大に評価されてしまいます。

スループット会計では、実際の利益をより正確に把握できるでしょう。また、在庫は実際に買われるまではコストになるため、「早く販売して収益にしよう」というモチベーションも生まれやすくなります。

参考:TOCスループット会計とは【計算式・意味・活用方法】

業務費用

スループット会計の業務費用は、製品を売るためにかかった費用すべてを指します。

製品をつくるために支払われた費用以外のあらゆる支出がここに含まれます。従来の原価計算のように「直接労務費」や「間接労務費」に分けられることはありません。

また、業務費用を製品1つ1つに割賦して計算しない点もスループット会計の特徴です。材料費と違い、販売にかかった費用を1製品ごとの費用とみなすのは現実的ではないためです。

まとめ

本記事では、「スループット」の意味を整理し、とくに企業で原価管理のために用いられる「スループット会計」について紹介してきました。

ビジネスにおけるスループットとは、収益(売上)から製品の製造にかかったコストを引いたものです。

スループットを用いた「スループット会計」は、買い手市場と言われる現在、経営に役立つ原価管理の手法として活用されています。

スループット会計に基づいて利益を上げる手段は以下の3つです。

  • スループットを増大させる
  • 在庫を削減する
  • 業務費用を削減する

経営効率と利益を上げるために、スループット会計の視点をぜひ取り入れてみてください。

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