規模の拡大によってもたらされる、経営効率化やコスト削減などの効果を「スケールメリット」といいます。スケールアップすることで得られるメリット、と捉えると理解しやすいでしょう。
本記事では、スケールメリットの意味や具体例、混同されやすいシナジー効果との違いを解説していきます。スケールメリットは、ビジネスシーンで耳にする機会が多い用語であるため、意味や使い方を正しく理解しておきましょう。
スケールメリットの意味とは?
スケールメリットとは「規模を大きくすることによって得られる効果や利益」のことです。
ビジネスシーンで用いられる場合は、事業や生産・販売の規模を拡大することによって得られる、経営効率化や生産性向上・コスト削減などのメリットを意味します。
スケールメリットを言い換えると「規模の経済」「規模効果」
スケールメリットは「economy of scale」を訳した和製英語です。一般的には、「規模の経済」や「規模効果」などと言い換えられます。
また日本語の研究機関として設置された国立国語研究所は、スケールメリットの言い換え表現として、「規模の利益」や「規模利益」「規模拡大効果」などを挙げています。
スケールメリットがもたらす効果
スケールメリットが企業活動にもたらす効果は主に次の4つです。
- 経営の効率化
- コストの削減
- 生産量の拡大
- 競争優位性の獲得
一つずつ解説していきます。
効果1.経営の効率化
重複する事業内容を持つグループ会社が経営統合し、同じ事業を一つに集約したり、業務システムを共同化したりすることで、経営の効率化が図れます。
経営効率化の代表例が、フランチャイズシステムです。フランチャイズは、知名度が低い普通の店舗であっても、大手企業の看板やブランド力を活かして企業活動を行えるため、短期間で新規顧客の獲得や知名度の向上が見込めます。
またフランチャイズのほか、同業種の企業間で物流プラットフォームを整備し、企業連携することで生産性を向上させた事例もあります。
効果2.コストの削減
同種商品の大量生産によって、コストの削減につながります。
企業活動において、工場の設備費や人件費などの固定費は、生産量に関係なく発生します。固定費が一定の場合、多く生産するほど設備の稼働率が上がるため、固定費の割合を削減できます。
また、商品の販売価格を低く設定できるため、最終的な利益も大きくなるのです。
どのような違いが出るか、2つのケースで考えてみましょう。導入費用100万円の設備で原価50円の商品を生産するとき、生産個数が10個(※1)と10万個(※2)では平均コストの差は歴然です。
※1:(50円×10個+1,000,000円)÷10個=100,050円
※2:(50円×100,000個+1,000,000円)÷100,000個=60円
そして、販売価格(※1)のときは100,050円より高く設定しなければ利益は出ませんが、(※2)のときは60円より高い価格であれば利益が出ます。
そのほか、以下のコスト削減効果も期待できます。
- 商品をまとめて仕入れることで、仕入コストを削減
- 配送先の同じ商品をまとめて送ることで、運送・物流コストを削減
同種商品を大量生産することで諸コストを削減し、利益率の向上が狙える点は、スケールメリットの大きな特徴です。
効果3.生産量の拡大
販売ルートを確立することで、商品の生産量を拡大できる点もスケールメリットといえます。
たとえば、販売ルートが限定されていると、生産体制が整っていても生産量を制限しなければなりません。販売先がなければ在庫を抱えるリスクがあるため、生産量を思うように拡大できないためです。
また、生産量に関係なく固定費が発生する点からも、生産量の制限は得策ではありません。
一方、全国にチェーン展開するコンビニやスーパーは、グループ全体を販売ルートに組み込めるため、生産量を増やしても超過在庫を抱えるリスクが低いです。
設備の稼働率も上がるため、平均コストが下がり販売価格をリーズナブルに設定できます。
効果4.競争優位性の獲得
事業規模の拡大に伴い、企業や商品の知名度やブランド力が向上して、競争優位性を獲得できる点もスケールメリットです。
代表例は、コンビニや飲食店などのチェーン店です。店舗数の増加で消費者の目に触れる機会が増えるため、知名度やブランド力が向上します。
知名度やブランドイメージが定着すれば、宣伝広告にお金をかけることなく集客率アップを狙えます。
知名度やブランド力が向上すれば競合他社に対して大きな優位性が生まれ、新規参入の障壁を設けられるため、結果として市場シェア拡大につながるのです。
スケールメリットが抱えるデメリット
規模の拡大はスケールメリットを期待できる一方、かえって経営が非効率になったり、コストが増加したりするケースもあります。
企業や事業の規模拡大によって生じるデメリットを「スケールデメリット」と呼び、主に次の2つが挙げられます。
- 在庫を抱えるリスクがある
- コミュニケーションコストがかかる
一つずつ見ていきましょう。
在庫を抱えるリスクがある
生産した商品が売れることを前提として大量生産しているため、需要予測を見誤れば過剰在庫を抱えるリスクがあります。
同種商品を大量生産して平均コストを下げたとしても、思うように販売できなければ、売上が立たず利益も伸びません。
事業規模や販路を拡大する場合は、在庫を抱えないように販売計画を綿密に立てたり、生産調整したりすることが重要です。
コミュニケーションコストがかかる
事業規模の拡大に伴い、コミュニケーションコストが膨らんでいくというデメリットもあります。
少人数なら簡単な伝言でも情報を共有できます。ところが、事業規模の拡大に伴い事業やプロジェクトに関わる人が増えれば、意図を伝えることは困難となります。また、人数が増えるほど意思疎通が図りづらくなり、承認や意思決定などのスピードは鈍化します。
規模の拡大によって社内会議や業務連絡・進捗報告などに多大なコストをかけないで済むように、効率的なコミュニケーション方法を確立させる対策が必要です。
スケールメリットとシナジー効果の違い
スケールメリットと混同されやすい用語が「シナジー効果」です。両者の違いを見ていきましょう。
シナジー効果とは「異なる複数の事業や活動を同時に行うことで得られる大きな相乗効果」のことです。経済学では「範囲の経済」とも呼ばれます。
たとえば、銀行がショッピングモールなどに支店を出す場合、銀行は出店に伴う経費を抑えつつ、顧客サービスの向上や新規顧客の開拓を実現できます。ショッピングモールは、来客数の増加や支店スペース提供によるテナント収入が期待できるでしょう。
このように異なる業種で双方が相乗効果を得られることをシナジー効果と呼びます。
一方、スケールメリットは「同一事業の事業規模、同一商品の生産規模の拡大によって生まれる効果や利益」であるため、シナジー効果とは意味合いが異なります。
スケールメリットの具体例【業種別】
スケールメリットをどのように活かしているのか、具体例を業種別にご紹介します。
紹介する業種は以下のとおりです。
- 製造業
- 運輸業
- 教育業
- 人材業
- 小売・飲食業
それぞれ見ていきましょう。
製造業
工場の建設や機械設備の導入に巨額の投資が必要な製造業では、固定費削減の面で大きな効果をもたらします。製造業はスケールメリットをもっとも享受しやすい業種です。
工場設備の稼働率が上がり生産量が増加すれば、コスト全体に占める固定費割合が下がります。さらに、工場施設の土地代や家賃、機械設備のメンテナンスなどに費用が発生しているほど、生産量増加によって固定費割合を圧縮できます。
近年の製造業では、製造から出荷までの工程を自動化(FA化)する企業も増えていますが、より多くの工程を自動化すればさらなる人件費削減も可能です。
運輸業
運輸業では、一度に輸送する人や荷物を増やすほどスケールメリットを享受できます。なぜなら、運輸業の固定費の大半を占める人件費やガソリン代・車両維持費などのコストを分散できるからです。
たとえば、貨物輸送なら一度に多くの荷物を混載し、顧客輸送なら一気に多くの乗客を運べば、輸送1回あたりのコストを下げられます。
ただし、乗客を詰め込み過ぎたり、荷物の輸送がない路線を削減したりすると、顧客満足度が下がるため、注意が必要です。
運輸業においては、顧客満足度とスケールメリットを両立させることが業績アップの鍵を握っています。
教育業
営利目的の学習塾や通信教育事業などの教育業は、実績や知名度(ネームバリュー)・学習プログラムが重要です。そして、これら3つの要素は規模の拡大によって得られます。
学習塾を例に見ていきましょう。
学習塾は教室数が増加するほど多くの生徒を抱えられ、知名度(ネームバリュー)も向上します。知名度が向上すると入塾希望者が増え、実績がさらに上がるという好循環が生まれます。
そして、生徒が増えれば講師の経験値や熟練度も上がり、成績を向上させるための良質な学習プログラムを作成できる環境が手に入るのです。
そのほか、大学の統合や再編もスケールメリットを享受できます。複数の大学が組織や業務を集約すると、より効率的な運営体制を構築でき大学経営を効率化できます。
さらに、学生数が増えれば、大学内の施設や設備投資に必要な資金を学費から回収できるため、より良質な学習環境を整備できるでしょう。直近では、大阪府立大と大阪市立大の統合が話題となりました。
人材業
求職者(人材)と企業をマッチングする人材業や職業紹介業においては、ブランドイメージや信頼度が重要です。
人材業の企業は、ブランドイメージが営業収益に直結するため、広告宣伝費をかけて登録者数の増加を目指します。登録者数が増えれば実績が増え、実績が増えればさらなるブランドイメージの向上を図れます。
一方で、求職者が満足できないサポートやマッチングを行えば、ブランドイメージは低下し登録者が減るため、紹介先の企業から得られる報酬額は減っていくでしょう。
人材業では、スケールメリットの報酬額増加とのバランスを見ながら、企業規模を拡大させています。
小売・飲食業
小売・飲食業は多店舗展開が比較的容易なため、スケールメリットを享受しやすい業種の一つです。主に、仕入れコストの削減効果が期待できます。
たとえば、全店舗の仕入れを一括すると価格交渉力が高まるため、仕入れコストを下げられます(通称バイイング・パワー)。
また、店舗における販売価格を限界まで引き下げられるため、競合他社の新規参入を防ぎつつ、市場シェア拡大が可能です。
そのほか、全国展開を積極的に進めれば知名度が上がり集客力を高められます。
販売エリアを一部地域に限定すれば、地域住民向けの商品展開や地産地消を推進する企業としてのブランディングも可能です。
まとめ
スケールメリットは、経営効率化やコスト削減に直結するため、企業が成長するために必要不可欠な考え方です。
ただし、無戦略に規模を拡大するだけでは、かえってコストが増加したり、在庫を抱えたりするため注意が必要です。
スケールメリットを最大化するためにも、規模の拡大は戦略的に進めていきましょう。
参考:
日経クロストレンド|スケールメリット
コトバンク|スケールメリット
国立国語研究所|スケールメリット
経済産業省|企業間連携による生産性向上等について(p.5)
コトバンク|シナジー効果
日経クロスメディア|シナジー効果
日本経済新聞|大阪公立大が発足 府大・市大統合「研究でシナジーを」
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