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いよいよ始まる?給与デジタル払い、そのメリット・デメリット

給与デジタル払いとは、キャッシュレス決済サービスを用いて電子マネーで支払われるようになる仕組みです。
しかし、現行の法律では給与デジタル払いは行えず、取り組みを進めるために、政府が法改正を急いでいます。

この記事では、2021年度中に開始される予定の給与デジタル払いについて、概要や企業・労働者にとってのメリット・デメリットを詳しくご紹介します。

給与デジタル払いとは

まず、給与デジタル払いの概要と仕組みについて解説します。

給与デジタル払いの概要

給与デジタル払いとは、銀行口座を介さずに、資金移動業者のアカウントに給与を振り込む支払い形態を言います。

資金移動業者とは、資金移動サービスを行う銀行以外の登録事業者のことです。
登録事業者になるためには、内閣総理大臣の認証を受ける必要があり、現在80以上の事業者が登録されています。資金決済法に基づいて登録された「PayPay」「メルペイ」「LINEペイ」などの決済サービスが該当します。

現在、労働者の給与は、企業から直接銀行口座に振り込まれることが一般的です。しかし、給与デジタル払いが解禁されると、その流れは大きく変化します。
具体的には、給与が交通系ICカード、QRコード決済などのキャッシュレス決済サービスのアカウントに入金されるようになります。

参考:
金融庁 資金移動業者登録一覧
内閣官房 成長戦略会議事務局 成長戦略フォローアップ

実現に向かう給与デジタル払い

現行の労働基準法では、第24条にある給与の支払い方法によって「通貨で労働者に直接その全額を支払わなければならない」ことが定められています。

つまり、給与を電子マネーで支払うことはできないため、給与デジタル払い実現のために例外として資金移動業者への支払いを追加できるよう法改正が必要です。
しかし改正には課題も多く、現時点でも検討が重ねられています。

給与デジタル払いの仕組み

給与デジタル払いの具体的な方法として、現在「ペイロールカード」の導入について審議が行われています。

ペイロールカードとは、給与を振り込むための専用のカードで、銀行口座のような役割を果たすものです。
資金移動業者が発行したペイロールカードに、企業が給与を振り込むと、労働者はペイロールカードと連携した決済サービスを介して給与を受け取ることができ、アメリカではすでに導入されています。

給与デジタル払い解禁の背景

給与デジタル払いは、2021年9月新設のデジタル庁が推進する取り組みの一つです。
日本は少子高齢化に伴い、働き手の減少が続く時代を迎えています。そのため店舗の無人化や支払いデータの利活用は、必須の検討課題と言えるでしょう。

そこで、現金を取り扱わず、ビッグデータの集積も可能なキャッシュレス決済サービスの活用によって、それらの課題が一部解決に向かうことが期待されています。
内閣府の「成長戦略実行計画」においても、キャッシュレス決済サービスを浸透させるための環境整備や、法律の見直しについて触れられています。

キャッシュレス決済の浸透

日本では、治安の良さや現金への信頼が根強く、キャッシュレス決済がなかなか浸透しない背景がありました。
一方で、アメリカではすでに給与デジタル払いが普及しており、諸外国と比較しても日本はキャッシュレス化に後れを取っていたのです。
しかし、近年の新型コロナウィルスの影響により、感染を避けるため非接触での支払い方法としてキャッシュレス決済サービスが注目を浴び、一気に導入が進みました。

また、日本は超高齢化社会と言われ、労働人口は今後ますます減少していくことが確実です。
そのため、実店舗における省力化、無人化を推進するにあたり、キャッシュレス化は大きな効果を発揮すると期待されています。

外国人労働者のメリット向上

日本語は世界でも習得が難しい言語と言われており、外国人労働者にとっては高い壁となっています。

アルバイトをする場合にも、必ず給与を振り込むための銀行口座の開設が必要ですが、多くの外国人労働者にとって銀行での手続きは容易ではありません。

しかし、給与デジタル払いになれば、日本で銀行口座を作れない段階でも給与の支払いが可能となります。負担を感じながら銀行口座を開設する手間もかかりません。
企業でペイロールカードの発行手続きをするだけになるため、外国人労働者に選ばれやすい企業となるでしょう。

給与デジタル払いのメリット

給与デジタル払いは、企業にも労働者にもそれぞれメリットがあります。

労働者の利便性アップ

日頃からキャッシュレス決済サービスを利用している労働者は、給与が銀行口座に振り込まれると、決済サービスへの資金移動が必要です。
しかし、給与が直接デジタルマネーで支払われることで、資金の移動の手間が省けます。

週払い・日払いにも対応可能

これまで企業は、銀行口座に給与を振り込む場合、振込手数料を支払っていました。
そのため振込回数が増えるほど、多くの手数料を負担しなければなりません。
しかしキャッシュレス決済サービスに振り込む場合は、手数料は無料、もしくは銀行よりも少ない手数料で振込が可能となります。
労働条件の多様化によって、週払いや日払いなど小刻みに振り込みが必要な場合でも、企業の負担が少ないため、対応可能な企業が増えてくると考えられます。労働者にも選ばれやすい企業となるでしょう。

労働者の確保がしやすい

キャッシュレス決済サービスをメインに使っている人材には、給与デジタル払いは魅力的な支払方法であるため、企業は人材を集めやすくなると考えられます。
銀行口座を開くことが困難であるケースが多い外国人労働者にとっても、ペイロールカード導入でそのハードルが下がることになるのです。
人材確保が急がれる企業にとっても、また求職中の外国人労働者にとっても、求められているサービスと言えるでしょう。

ATMを利用しなくて済む

給与が直接キャッシュレス決済サービスに振り込まれれば、ATMを使う手間がなくなります。引き出しや振り込みに必要なキャッシュカードや通帳も不要となるため、紛失や盗難のリスクを抱えることもありません。
また、キャッシュレス決済サービスでは、自分がお金をいつどこで使ったかなどの履歴が残ることも、出金管理上非常に便利な点と言えるでしょう。

給与デジタル払いのデメリット

このように、企業側・労働者側双方にとって、給与デジタル払いは多くのメリットがあります。しかし、実際には以下のようなデメリットも想定できるため、導入時には十分な検討が必要です。

周知に時間を要する

企業で給与デジタル払いを導入する場合、まずは労働者に内容の詳細を周知し、支払い方法についての理解を得なければ進めることはできません。
キャッシュレス決済サービスの利用に慣れていない人は、制度の導入に抵抗を感じる場合もあります。給与デジタル払いが始まっても、銀行振り込み希望者はそのまま残って行く公算が大きいのです。
そのため、当面の間は、希望者のみがキャッシュレス決済サービスへの振り込みも選択できるような導入を検討する必要があるでしょう。

また、一か月の間に同じ労働者に複数回の支払いを行う場合は、給与の管理について新たなシステムの構築が必要となります。
加えて、給与の全額をキャッシュレス決済サービスに振り込まれることには抵抗がある労働者も多いかもしれません。
その場合は、銀行とキャッシュレス決済サービスの両方に、指定額を振り込むなどの「二重運用」が発生するため、コストや給与担当者の負担が大きくなってしまう可能性もあります。

セキュリティへの不安

キャッシュレス決済サービスでは、セキュリティ面での不備や保証のガイドラインがはっきりと定められておらず、銀行振り込みと比較して、安全面で不安が残ります。
なりすましや不正引き出しなどのリスクがあり、その対策やリスクの低減、補償については議論が続いている状態です。
給与デジタル払いの導入までに、何らかの対策が必要となっていくでしょう。
全国銀行協会では、2020年11月に不正出金対策として「資金移動業者等との口座連携に関するガイドライン」を定めました。
今後、資金移動業者との連携を図り、顧客への注意喚起に合わせ、認証の強化などに取り組んでいく動きがあります。

参考:令和2年11月30日制定「全国銀行協会 資金移動業者等との口座連携に関するガイドライン

資金移動業者破綻の際の資産の保全

銀行にお金を預けている場合、銀行が破綻した場合でも、預金保全制度で1,000万円までは保証されます。
しかし資金移動業者は、そこまでの補償はなく、安全性や補償性で銀行と同等ではありません。
また、労働を管轄する行政が、資金移動業者に対してどこまで監督や指導を行うのかが課題とされています。

キャッシュレス決済サービスに対応していない場合は使い勝手が悪い

キャッシュレス決済サービスでは、公共料金や家賃などの引き落としには対応していないケースもあります。
そのため、デジタル払いで受け取った給与を再度銀行に振り込みなおす必要が出てくることも考えられるでしょう。
この場合は、労働者の手間となってしまいます。

給与デジタル払い実現のために必要な取り組み

給与デジタル払いを実現するためには、取り組みに先立ち、社内でも準備を進めておかなければなりません。

決済サービスの熟知

給与デジタル払いを導入するためには、まずは給与担当者がキャッシュレス決済の仕組みや種類について、詳細まで熟知する必要があります。
また、自社に適したキャッシュレス決済サービスを選択しなければなりません。
労働者から、個人に合った複数のサービスの導入を求められたとしても、初期の段階では絞り込んで選択した方が良いでしょう。

給与デジタル払いはまだ検討中

給与デジタル払いは、未だ政策として検討段階で、決定までは進んでいません。
今後どのタイミングで実施可能となるかも不透明な状態です。
厚生労働省のホームページには、労働政策審議会の議題や議事録が掲載されています。
これらを参考に、行政の議論の進捗を随時確認するようにしましょう。

参考:労働政策審議会(労働条件分科会)|厚生労働省

まとめ

給与デジタル払いは、すでにキャッシュレスに慣れている人にとっては、利便性の向上面でも朗報と言えます。

現金を持ち慣れてきた「現金派」にとっては、大いに違和感がある支払方法ですが、実際に給与デジタル払いが浸透すれば、社会的にも現金のやり取りが減ることでさまざまなコストが削減される可能性があります。

しかし、セキュリティの面では、まだ定まらない点も多いため、しっかりと見守りながら導入に向けて準備を進めていきましょう。

参考:
給与のデジタル払いとは?解禁の経緯やメリットやデメリットを解説 | 特集記事 | P-Tips | ピー・シー・エー株式会社
給与のデジタル払い解禁を目指す政府 導入報道の中、給与担当者が検討すべきこととは? | NECソリューションイノベータ
給与のデジタル払いのメリットは?企業へ与える影響を解説します | 勤怠管理コラム(総務・人事のお役立ちコラム) | クラウド勤怠管理システム「AKASHI」
ペイロールカードとは?口座が要らない新しい給与支払い方法 | ブログ | CYURICA(キュリカ)

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