人間の脳は、外から加わる様々なストレスに対して防御反応を示します。その一種が「正常性バイアス」です。震災時に正常性バイアスが話題になることが多いですが、実は正常性バイアスは日常生活や仕事でも生じます。本記事ではこの正常性バイアスについて、詳細を解説していきます。正常性バイアスについて知りたい方は、ぜひ一読してみてください。
正常性バイアスとは何か
正常性バイアスとは、社会心理学・災害心理学などで用いられる用語で、「予期しない事態に対して、正常であると認識してしまう心のメカニズム」のことです。
人間の脳は精神的なストレスを回避するために、ストレスを抑える機能が備わっています。嫌な思い出が自然と頭の中から消えていくのは、まさに脳の防御反応の一種です。
この防御反応によって、日常生活の出来事に対する過剰反応を防ぐことが可能になり、精神的疲弊から逃れることができます。
このストレス回避の機能が、正常性バイアスなのです。
ただし、正常性バイアスが過剰に機能しすぎると、本来危険であるはずの状態でさえも「正常である」と認識してしまうのです。
正常性バイアスの具体例
正常性バイアスが過剰に生じてしまう例として、「災害」が挙げられます。
たとえば、2011年に発生した東日本大震災では、「大きな津波がくるとは思わなかった」と考えた人が多くいたことが報道されています。
津波警報を聞いたにも関わらず、すぐに逃げなかったために、結果的に多くの被害者が出ました。
実際、あれほどまでに巨大な津波を体験した人が少なく、「津波といっても、たいしたことないだろう」と考えてしまう正常性バイアスが働いたと予想されます。
ニュースなどで客観的に津波の報道を見ている人にとっては「早く避難するべき」と正しく判断することは容易かもしれません。
ただし、実際に現場にいる人は、正常性バイアスが著しく作用し、危機認識の能力が落ちてしまうのです。
避難訓練は正常性バイアスを弱める
災害に備えて実施される避難訓練は、まさに正常性バイアスを弱めるための訓練ともいえます。
不測の事態に対して「大丈夫だろう」と思い込まず、万が一のことを想定して動く訓練を行えば、実際に災害が発生した際も冷静に行動が可能です。
企業活動・仕事における正常性バイアス
正常性バイアスは災害のみならず、企業活動や仕事においても生じます。むしろ、企業・仕事における正常性バイアスの方が、日常的かつ頻繁に起こっているといえるでしょう。
企業活動・仕事に応じて生じる正常性バイアスの例として、下記の4つが挙げられます。
- 自社への過度な信頼
- 自分のキャリアやスキルを見つめ直さない
- 自分のルールを他人に押し付ける
- 自分のルールを他人に押し付ける
それぞれ詳細を確認していきましょう。
自社への過度な信頼
自分の所属している会社に対して、正常性バイアスが生じてしまうケースが多く見られます。
たとえば、業界全体が不調の状態でも「自分の会社は倒産しない」と根拠なく思い込むことです。
数字的な根拠があればよいのですが、正常性バイアスがかかっている場合は主観的な思い込みで倒産しないと考えてしまうことが多いです。
また、ブラック企業での理不尽な働き方に関しても、その会社に所属している際は「普通」と考えてしまいます。この状態も正常性バイアスの影響によるものです。自分がおかれている環境を客観的に認識できなくなります。
自分のキャリアやスキルを見つめ直さない
自分のキャリアやスキルなどの現状を見つめ直さないことも、正常性バイアスがかかっているといえます。
「今のままでも大丈夫」という正常性バイアスが生じて、現状維持に走ってしまうのです。
たとえば、「将来、人間の仕事がAIに奪われる」と聞いても、「自分には関係ない」と根拠なく考えしまいます。
キャリア・スキルの見つめ直しは、自分の将来的な成長に直結してきます。意識的に行えている人は問題ありませんが、行えていない場合は危機感をもって意識を変えていかねばなりません。
自分のルールを他人に押し付ける
自分の仕事のルールや進め方を他人に押し付けるのも、正常性バイアスが要因となっていることがあります。
「自分の方法は、他の人にとっても有益である」と思い込んでいる状態です。
通常であれば相手のことを考えて判断できますが、精神的に不安定であったり、社員同士の関係が良くないと、正常性バイアスが強まってしまいます。
度が過ぎてしまうと、相手からパワハラで訴えられてしまうケースもあります。自分の常識・ルールは、必ずしも相手にとって合うものとは限らない点を認識しておくことが大切です。
都合の悪い状況を無視する
正常性バイアスによって、仕事の失敗や業績不振など、都合の悪い状況を無視してしまうこともあります。
同じ失敗、業績不振を繰り返さないためにも、反省や振り返りは必須です。
しかし、正常性バイアスが生じてしまうと、精神的なダメージを脳が回避するために、失敗・不信を楽観視してしまいます。
ポジティブといえば聞こえが良いですが、反省・振り返りを行わずに「大丈夫」と思い込んでしまうと、本質的な問題解決には至れません。
正常性バイアスへの対処法
正常性バイアスは意識的に対処していかないと、弱めることは難しいです。
日ごろから行える有効な対処法として、下記の3つが挙げられます。
- 不測の事態を常に考慮する
- 思考する習慣をつける
- 行動ルールを決めておく
不測の事態を常に考慮する
不測の事態を常に考慮して行動することが、正常性バイアスを抑える上で重要です。
正常性バイアスは、不測の事態に直面した際の精神的ショックによって生じることが多いです。常に最悪の事態を考えて行動すれば、そのような場面に直面しても冷静に対処できます。
「自分には関係ないから、不測の事態は考えない」という思考そのものが、正常性バイアスを引き起こします。安易な思い込み・主観は厳禁です。
思考する習慣をつける
思考する習慣をつけることも、正常性バイアスを弱める際に有効です。
たとえば、自分のキャリアや将来について具体的に考えるようにすれば、根拠のない安心感、楽観的な思考は減っていきます。
前向きに考えることは大切ですが、現状を考えず自分の都合によって解釈するのは「思考」とは呼べません。
正常性バイアスは思考が停止している状態です。
常に「自分ならこうする」など、先を見通して考える習慣をつけて、思考をとめないようにしましょう。
行動ルールを決めておく
自分の行動ルールを決めておくと、正常バイアスに左右されにくいです。
たとえば、「仕事でミスを犯したらすぐに上司に報告する」というルールを徹底すれば、正常バイアスによってミスを隠すといった行動が少なくなります。
「ミスを報告するのは、社会人として当然」と考える方が多いと思いますが、実際に重大なミスを犯した場合に「報告しなくても、自分で解決できる」というバイアスが生じてしまうことは少なくありません。
このような正常バイアスに左右されないためにも、一定のルールに沿って行動することも重要になります。
ただし、ルールで行動を縛りすぎると、柔軟な対応ができなくなるので注意してください。あくまでも「不測の事態に備える」上でのルール設定を行いましょう。
採用活動においても正常性バイアスの考慮が大切
企業の採用活動においても、正常性バイアスを考慮することが大切です。
新卒向けの就職説明会で、知らず知らずのうちに正常性バイアスがかかった会社説明をしてしまう可能性があります。
たとえば、「自社は不祥事とは無縁のクリーンな会社です」という説明には、会社側の主観が強く反映されています。
不祥事が起こるか否かは、明確に判断することはできません。日本を代表する大企業であっても、粉飾決算や人事などで不祥事が起こる可能性はあります。
会社側が、会社の現状を都合よく解釈して、主観的な発信や発言をしていないか、今一度確認するようにしてください。
まとめ
正常性バイアスによって、対応すべき不測の事態に対して根拠なく安心感を抱いてしまいます。
これは人間の心における防御反応であるため、完全になくすことはできません。
正常性バイアスが生じてしまうことを踏まえて、日ごろから不測の事態に対応できるように思考することが肝要になります。
災害時以外にも、企業の採用活動や仕事でも正常性バイアスは発生します。自分の思い込みが発言や行動に反映されていないか、今一度確認してみましょう。
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