用語集

ムーンショットの意味や由来は?シリコンバレーや日本の事例、目指すメリットを解説

ムーンショットとはアメリカの「アポロ計画」から生まれた言葉です。簡単には達成できない困難な目標や課題に対する挑戦を意味し、実現によって世の中に大きなインパクトを与え、イノベーションをもたらします。

本記事では、ムーンショットの由来や事例、取り入れるメリットや注意点について解説します。

ムーンショットの意味とは?

「ムーンショット(Moonshot)」とは、簡単には達成できない困難な目標を実現するための計画や挑戦を意味します。困難な目標を達成できれば、大きなインパクトとともにイノベーションをもたらす要因となります。

ムーンショットは、アメリカのシリコンバレーに本社を構えるIT企業で頻繁に行われており、Googleの親会社「Alphabet」も実施している企業の一つです。

ムーンショットの由来

「ムーンショット」という言葉は、アメリカ合衆国の第35代大統領ジョン・F・ケネディ氏が月にロケットを打ち上げる「アポロ計画」のスピーチのなかで言ったフレーズに由来します。

これまでにどの国も成し遂げられなかった月面に人間を着陸させ帰還させる「アポロ計画」は見事成功し、世の中に強烈なインパクトを与えるとともに、その後の宇宙開発にも大きな影響を与えました。

前人未到の簡単には達成できない目標を実現するための計画や挑戦を意味するムーンショットの考え方は、ビジネスのシーンにおいても注目を集めています。

参考:ムーンショット目標とは?:大きな夢や目標をもつことの大切さ | Katsuiku Academy

Googleの親会社「Alphabet」が行うムーンショットの事例

アポロ計画が成功し、半世紀を経た現代において、再び「ムーンショット」は脚光を集めています。アメリカのシリコンバレーに本社を構えるIT企業で使われ、実際にムーンショットを実現させる活動を行っています。

ムーンショットを実現しようとする代表的な企業の一つがGoogleの親会社「Alphabet」です。どのような目標で進んでいるのか、事例とともに確認しましょう。

ムーンショットプロジェクトを担うAlphabet社の研究機関「X」

ムーンショットプロジェクトを担うAlphabet社の研究機関が「X」です。もともとは「Google X」という名称で活動していました。Xが目指すムーンショットの定義は「Huge Problem」「Radical Solution」「Breakthrough Technology」の3つです。

解決すれば多くの人の生活などが改善される大規模な問題に対し、現代の技術を進展させて抜本的な解決を可能にする研究を目指しています。

Alphabet社が推進するムーンショットプロジェクトとは?

Alphabet社が推進するムーンショットプロジェクトは、本業とは関係のない事業がほとんどで、その内容や分野は多岐にわたります。

それぞれのプロジェクトは未来(目標)から逆算してゴールを目指します。不確定要素が多く、想定通りに進まない可能性もあるため、プロジェクトは中止になる恐れもあります。

実験や検証などを重ね、ビジネスとしてある程度の効果が実証され、実用化できるような状態になったら研究機関Xから卒業し、Alphabet社の子会社または独立して事業を継続します。Xから卒業を果たした代表的なプロジェクトは以下のとおりです。

  • Waymo(自動運転の自動車の開発)
  • Wing(無人ドローンによる配送)
  • Veriy(ライフサイエンスの研究)

Waymo(自動運転の自動車の開発)

「Waymo(ウェイモ)」は、自動運転車を開発する企業で、Googleの「自動運転車開発部門」が分社化(2016年12月)して誕生しました。AI(人工知能)をいかしてドライバーを必要としない完全な自動運転車の開発と実用化を目指しており、現在ではアリゾナ州フェニックスとカリフォルニア州サンフランシスコで、一般市民が利用できる自動運転タクシーを展開しています。

また同社は、自動運転車の配車サービス「Waymo One」や、自動運転のトラックで運送サービスを行う「Waymo via」も運用がはじまり、社会に大きなインパクトとイノベーションをもたらしています。

Wing(無人ドローンによる配送)

「Wing」は、無人ドローンによる配送を行うAlphabet社の子会社です。オーストラリアやフィンランド・アメリカで運用されています。ドローンの時速は97kmほどで、運搬可能な重量は1.4kgほどと、小さな荷物を運ぶ設定で、薬や日用品などの配送が可能です。

運用する地域が広まれば、小さな商品を買うためにわざわざ車を使って出向かなくてもよくなり、交通渋滞に巻き込まれるリスクや不安もありません。環境に配慮した新しい配送方法として注目を浴びています。

Veriy(ライフサイエンスの研究)

「Veriy」は生命科学に特化したAlphabet社の子会社です。2018年に打ち切りとなりましたが、糖尿病患者の涙液で血糖値を測定するコンタクトレンズを2014年に立ち上げ話題となりました。

そのほか、老眼や白内障を患う人のためのスマートレンズ開発や、コンタクトレンズ以外で血糖値を測定するツールの開発など、ライフサイエンスのさまざまな分野でイノベーションをもたらす準備が進められています。

内閣府が行う「ムーンショット型研究開発制度」

ムーンショットはアメリカのシリコンバレー以外でも注目を集めており、日本では内閣府が疾患や環境、食と農など9つの分野で「ムーンショット型研究開発制度」の取り組みを開始しました。

人々の幸せを実現するうえで解決すべき社会的な課題を以下の3つの領域にまとめています。

①社会:急進的イノベーションで少子高齢化時代を切り拓く。[課題:少子高齢化、労働人口減少 等]
②環境:地球環境を回復させながら都市文明を発展させる。[課題:地球温暖化、海洋プラスチック、資源の枯渇、環境保全と食料生産の両立 等]
③経済:サイエンスとテクノロジーでフロンティアを開拓する。[課題:Society5.0実現のための計算需要増大、人類の活動領域拡大 等]

引用元:ムーンショット目標-科学技術政策|内閣府

また、3つの領域をより具体的にした以下の9つの目標も掲げています。

目標1.2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
目標2.2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
目標3.2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
目標4.2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
目標5.2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
目標6.2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現
目標7.2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
目標8.2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現 目標9.2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現

引用元:ムーンショット目標-科学技術政策|内閣府

内閣府の「ムーンショット型研究開発制度」の取り組みは2040〜2050年までを期限として目標が定められ、アメリカや欧州・中国などに比べて遅れをとっている破壊的イノベーションの創出を目指しています。

ムーンショットで得られるメリット

ムーンショットを起こすような困難な目標に挑戦するなかで、従業員や企業は以下のメリットが得られます。

  • 新たなアイデアが生まれる
  • チャレンジ精神が身につく
  • 強固な組織やチームを構築できる

新たなアイデアが生まれる

世の中にインパクトを与え、イノベーションをもたらすムーンショットを実現するには、従来どおりの考え方や活動では達成できません。

これまでとは180度異なる考え方やアプローチの仕方など、既存の枠におさまらない思考で物事を考えれば、新たなアイデアが次々と生まれる可能性があります。

ムーンショットを目指す人々の考え方が身につけば、新たなアイデアを生み出す思考が養われ、個人だけではなく企業にとっても大きなメリットをもたらすでしょう。

チャレンジ精神が身につく

ムーンショットのようなインパクトのある結果を得るには、失敗と成功を繰り返さなければなりません。

人類史上初の偉業を成し遂げた「アポロ計画」においても、月面着陸を成し遂げたのはアポロ1号ではなく11号でした。アポロ1号は地上でのテスト中の爆発により、3名の宇宙飛行士が犠牲になる死亡事故を起こしています。
この悲劇をきっかけに、NASA(アメリカ航空宇宙局)はこれまで以上に安全性を優先するようになったといわれています。

また、Alphabet社が推進する研究のなかでも、中止になったプロジェクトや研究はいくつもあります。
しかし、失敗をするからこそ新たな発見や学びがあり、世の中にインパクトを与える革新的な結果を生むことが可能といえます。Google は「Fail fast.(さっさと失敗しろ)」が合言葉といわれるほど、失敗からの学びが大事であるとの文化が浸透しています。

目標実現のためには、困難と思える課題に対しても果敢に立ち向かうチャレンジ精神が必要です。チャレンジによってこれまでの常識や経験にとらわれない思考や発想・新たな気づきが生まれ、イノベーションをもたらす計画や発明も実現可能となるのです

ムーンショットほどの大きな目標に対するチャレンジ精神が身につけば、どんな課題や困難も解決できるようになるでしょう。

強固な組織やチームを構築できる

ムーンショットのような世の中にインパクトを残し、イノベーションをもたらす成果をあげるには、組織やチームが一枚岩でなければなりません。

一人ひとりのメンバーが困難な目標に挑戦する気概や情熱をもち続けることでチームワークが向上し、より強固な組織を構築できるのです。

高い目標への挑戦を通して一人ひとりが成長できる点も、ムーンショットを目指すなかで得られるメリットの一つといえるでしょう。

ムーンショットで起こりうるデメリット

ムーンショットはゴールへ向かうための道筋を未来から逆算して考えますが、途中で想定外の事態が起こる可能性が高く、事業が成功するかの見通しがつきにくいです。

これまでに前例のない目標を掲げ挑戦するムーンショットは、失敗する確率が高いデメリットがあることも理解しておく必要があります。

なおAlphabet社では、目標に到達しない場合でもプロセスを通してさまざまな気づきが得られるため、失敗ではないとの考え方が基本となっています。

ムーンショットの目標設定における3つのポイント

「目標設定」は、ムーンショットを目指し実現するための重要な要素です。目標の設定は、以下の3つがポイントになります。

  • Inspire
  • Credible
  • Imaginative

それぞれ確認しましょう。

Inspire

1つ目のポイントである「Inspire」は、設定する目標によって人を奮い立たせ、魅了させるものでなければなりません。簡単には実現できない困難な目標であっても、「達成できたら世界中の人々の生活が一変する」など、ワクワクとして新たな未来を思い描ける壮大な目標設定が大切です。

ジョン・F・ケネディ大統領は、アポロ計画でのスピーチのなかで、1960年代が終わるまでに月面着陸と宇宙飛行士を無事に帰還させるとの構想を発表し希望を抱かせ、ソビエト連邦との宇宙開発競争で遅れをとっていた困難な状況を切り開いたのです。

Credible

「Credible」とは、設定した目標の根拠や信ぴょう度の高さをあらわします。目標を設定しても実現できないような困難な内容の場合、達成できない可能性が高いです。壮大な目標であったとしても達成が不可能で非現実的であれば、人を奮い立たせたり魅了したりはできません。

困難であるものの、組織やチームがまとまって力を発揮すれば実現可能となる目標を掲げることが、ムーンショットを成功させるポイントの一つといえます。

Imaginative

目標設定する際には、これまでの概念にとらわれない斬新さが必要です。これが「Imaginative」にあたります。

従来と変わらない視点で物事を見ていても、イノベーションは生み出せません。物事の見方を変えてみたり、従来までの常識を覆したりする斬新さも必要です。

Alphabet社の研究機関Xでは、成功の確率は低くても、これまでの歴史のなかで前例のない事柄に対する研究を行っています。「Imaginative」の精神も取り入れることではじめて革新的なアイデアを形にでき、世の中に大きなインパクトを与えるような事業の創出が可能となるのです。

参考:ムーンショットとは?設定する3つのポイント |banto(バントウ)

ムーンショットを目指す際の注意点

ムーンショットを目指すような困難な目標を掲げる場合、コストがどれくらいかかるのか、どれくらいの確率で成功できるのかを、事前にある程度把握しておく必要があります。

成功率が極端に低い状態でチャレンジすれば、初期費用となるコストがムダになってしまうリスクがあります。仮に成功の見込みが低い状態でチャレンジする場合でも、どんなメリットが得られるのかを明確にしておかなければなりません。

まとめ

ムーンショットは、簡単には達成できない困難な目標を実現するための計画や挑戦を指します。成功すれば世の中に大きなインパクトを与え、イノベーションをもたらすでしょう。

シリコンバレーの企業によって再び注目を集めているムーンショットですが、日本でも社会的な課題を解決すべく、内閣府が「ムーンショット型研究開発制度」の取り組みを行っています。社会にインパクトを与え、イノベーションを起こすには、ムーンショットで重要となる目標設定から開始しましょう。

参考:
【人事向け】ムーンショットとは。設定するメリットやポイントを紹介 – Resily株式会社(リシリー)
ムーンショット目標とは?:大きな夢や目標をもつことの大切さ | Katsuiku Academy
ムーンショットとは?設定する3つのポイント |banto(バントウ)
ムーンショット型研究開発制度とは – 科学技術政策 – 内閣府
ムーンショット目標 – 科学技術政策 – 内閣府
ムーンショットはなぜ重要なのか?目標管理の考え方 | OKRのタバネル
ムーンショットとは?ムーンショット経営でイノベーションを生み出す|経営・戦略|経営ハッカー
乗客「素晴らしい!」と感激!Waymo Taxi、サンフランシスコ上陸 自動運転で走行 | 自動運転ラボ
無人配達ドローンの試験運用をGoogleの姉妹企業「Wing」が開始、ネット注文だけでなく薬局などからも配達可能 – GIGAZINE
Google系列のVerily、血糖値測定コンタクトレンズの開発を中止 正確な測定は困難 – ITmedia NEWS
Googleがフェイル・ベルを鳴らし「さっさと失敗しろ」というワケ | Google 式10Xリモート仕事術 | ダイヤモンド・オンライン
アポロ1号の悲劇がNASAを変えた | ギズモード・ジャパン
Google Xで生まれた数々のプロジェクト、成功と失敗に企業が生き延びるヒントがある | 日経クロステック(xTECH)
Googleの謎の秘密研究機関「Google X」の真実、その裏側に迫る – GIGAZINE

ABOUT ME
ミキワメラボ編集部
ミキワメラボでは、適性検査、人事、採用、評価、労務などに関する情報を発信しています。

活躍する人材をひと目でミキワメ

ミキワメは、候補者が活躍できる人材かどうかを500円で見極める適性検査です。

社員分析もできる30日間無料トライアルを実施中。まずお気軽にお問い合わせください。